SOSO 素材の素材まで考える。

【ホワイトペーパー公開】ストローのLCA比較でみたプラスチックとその代替

作成者: 三井化学|Apr 10, 2024 7:46:43 AM

今回のホワイトペーパーは、以下からダウンロードいただけます。
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/whitepaper/

はじめに

私たちの生活に欠かせないプラスチック。しかし、地球温暖化やごみ問題といった環境問題の深刻化に伴い「プラスチック問題」が注視されるようになりました。

プラスチックをめぐる問題は大きく2つに分類されます。1つは二酸化炭素に代表される「温室効果ガス(GHG)」排出の問題。プラスチック製造には大量のエネルギーが投入されるため、製造時に二酸化炭素などのGHGを排出します。また、多くのプラスチックは石油由来の「炭素」を原料に製造されるため、分解あるいは焼却廃棄時に二酸化炭素が排出され、地球温暖化への影響が課題となっています。

そして、もう1つが「プラスチックごみ問題」。便利だからこそ、私たちの日常生活で使い捨てのプラスチックが多く利用されていますが、毎日ごみとなって排出されています。一部は不当に投棄されたりすることで「海洋プラスチックごみ」となったり、紫外線などで分解し小さな「マイクロプラスチック」となったり、ごみ問題から派生する問題も表出し複雑化しています。

こうした問題をうけ、世界では「脱プラ」が叫ばれるようになりました。「使い捨て」を減らしていくことは重要なアプローチですが、プラスチックから紙など異素材への転換も進みはじめています。しかし、原材料から製品の廃棄までのライフサイクル全体を通して環境負荷を考慮すると、必ずしも紙やそのほかの素材への置き換えが環境にプラスになるとは限りません。真に「環境にとって良い方向」へと進むためには、私たちは科学的なデータに基づき、「環境に良い選択」をすることが重要となるのです。

そこで今回は、「使い捨てストロー」を題材に、環境負荷のライフサイクル評価を行った米国のレポートを参照しながら、石油由来のプラスチックストロー、紙製のストロー、それに加えバイオマスプラスチックのストローを追加し、それぞれの環境負荷(ライフサイクル全体でのGHG排出量)を比較することで、「本当に地球温暖化に影響が小さい素材はなにか?」を紐解くホワイトペーパーを作成しました。この記事では、ホワイトペーパーよりポイントを一部抜粋しお伝えします。

比較するストローについて

今回は、米国レポートで提示されていた「石油由来のポリプロピレン(PP)」と「紙」に加え、「バイオマスポリプロピレン(バイオマスPP)」の3つの素材別のストローを比較しました。



比較のためのLCA算定条件

米国レポートで用いられたPPストロー、紙ストローのLCA算出条件を基本としながら、バイオマスPPと紙については焼却・分解時に排出されるCO₂は、原料が生物由来であることから植物の成長過程で大気中の炭素を固定化したもの(カーボンニュートラル)と考え、差し引くことで算出しました。なお、バイオマスPPストローについては、PPストローと製造過程や投入質量などの諸条件は同じとしています。



   

 

素材別でみたストローのCO₂排出量は?

原料調達・素材の生産、ストローの生産、流通・利用、廃棄(埋立処分/焼却処分)の各ライフサイクルステージにおけるCO₂排出量を算出すると、以下のようなグラフになりました。紙およびバイオマスPPは素材が生物由来であることから、大気中の炭素を吸収し固定化した分を米国レポートの数値をもとに算出し、オフセットした状態から計算しています。(※必要投入量など各条件は本編の表1をご参照ください。)


        【各ライフサイクルステージにおけるCO₂排出量(t-CO2e)】

紙ストローは、製造するにあたり必要投入質量が多くなることもあり、原料生産・製品生産において、PPストローと比べ多くのCO₂が排出され、ライフサイクル全体でみると数値が大きくなっているのがわかります。一方で、PPストローは原料生産・製品生産段階では紙と比べてCO₂排出量は少ないものの、石油由来のため、紙のようにバイオマス由来であることから、原料が成長段階で大気中の炭素を吸収し固定化した分をオフセットすることができていません。その点、バイオマスPPはバイオマス由来であることからのオフセットすることが可能でありつつも、原料生産や製造過程でのCO₂排出量が紙よりも少なく済んでいます。このように、環境負荷低減には素材の選定が重要な要素であることが分かります。(*埋立の場合の数字は低く算出されているが、LCA算出条件である1年では全量分解しないことが考慮されていると思われる。しかし、長い時間をかければ分解するため、結局はCO₂増加となる)

リサイクルも欠かせない?リサイクルとCO₂排出量の関係性

プラスチックの廃棄方法については米国と日本で割合に違いはあるものの、リサイクル・焼却・埋立処分のいずれかに回るのが一般的です。

国レポートによると、使い終わったPPストローを原料に戻すリサイクル(マテリアルリサイクル)を実施した場合に、どの程度GHG排出量が変化するかを調べるために感度分析*をした結果、リサイクル率が上がるにつれてGHG排出量は直線的に減少することが示されました。つまり、リサイクルによりGHG排出量は大幅に削減できるということです。このことから、素材のバイオマス化ともにリサイクルできる素材を選択しリサイクルすることが、環境負荷低減には大きな貢献を果たすことがわかります。

*感度分析
 :
    ある事象の予測する際に、それに関係する一つの変数が変動したときに結果がどれだけ 変化するかを分析する手法

                     
                                    【 PPストローのリサイクル率とGHG排出量の関係性】

まとめ

これらの結果から、原料調達から廃棄までライフサイクル全体でCO₂排出量をとらえると、廃棄方法によってCO₂排出量は変化するものの、埋立処分・焼却処分のどちらでもバイオマスPPのCO₂排出量が最も少なく、環境負荷の低減にはライフサイクル全体で考慮した素材の選定が重要であることがわかりました。また、リサイクルはGHG排出量を大幅に減少させることが可能であり、バイオマス化と共にリサイクルしやすい素材を選択することがGHG排出量削減にむけて欠かせないともいえるでしょう。

無駄なプラスチックの消費を控えるなど、プラスチックの利用を見直すことはもちろん、なくすことが難しいものについては、ライフサイクル全体を考慮してバイオマス素材などの環境負荷の低減に考慮する代替素材に切り替えること、そして、リサイクルを通じ使用したプラスチックを循環させていくことも環境負荷を小さくすることが必要です。

世界では、使い捨てのプラスチックを制限・禁止する動きが始まっています。日本でも2022年4月に施行されたプラスチック資源循環促進法のもと、使い捨てプラスチック削減に向けた施策が始まっています。また、同時にバイオマスプラスチック拡大に向けたロードマップが示され、プラスチック問題解決に向けた官民の取り組みが進んでいます。

私たちは、生活や考え方を見直すことで全体量を減らすこと、そして不可欠なプラスチック製品についても、より良い素材選択を行うことが求められています。

今回のホワイトペーパーは、以下からダウンロードいただけます。
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/whitepaper/