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再生可能エネルギーとCO2排出量削減

作成者: 三井化学|Aug 28, 2024 8:26:37 AM

 

さらなる実用化の進展に期待ふくらむ再生可能エネルギー:水素

水素燃料電池
日本の自動車メーカーの水素燃料電池車(FCV=Fuel Cell Vehicle)に関するニュースを耳にする機会が増えています。ガソリン内燃機関に対して、燃料電池とモーターで車を動かす仕組みの自動車です。

           燃料電池自動車(FCV)の基本構造

      

        引用:JHFC水素・燃料電池実証プロジェクト「燃料電池自動車(FCV)のしくみ

FCVの心臓部が水素燃料電池です。水素燃料電池とは、水素と酸素の化学反応によって発電します。FCVはこの電気エネルギーを使って、モーターを回して走ります。ガソリン内燃機関自動車がガソリンスタンドで燃料を補給するように、燃料電池自動車は水素ステーションで燃料となる水素を補給します。

水素燃料電池には多くのメリットがあります。その1つが走行時に排出するのは水蒸気のみという点です。温室効果ガスである二酸化炭素や窒素酸化物、炭化水素などガソリン内燃機関車が排出するガスはまったく排出されません。このほか、エネルギー効率が高い、騒音が少ないなどの利点があります。

資源の少ない日本では水素を使った燃料電池の開発が様々なレベルで進められており、ミレニアムプロジェクトや大規模実証など多くの国家プロジェクトが進められ、2009年にはエネファームが世界で初めて実用化されています。また2014年にはトヨタMIRAIが発売されるなど技術開発面でリーディングポジションにあります。

一方、水素燃料電池を使ったFCVは車両価格がまだ高く、水素を補給できる水素ステーションの整備も進んでいないことが普及の問題点となっています。また低コスト化に向けた触媒使用量の低減や代替材料の開発、発電効率の向上、材料の高耐久化、機器の高信頼化、発電の大容量化などの課題があります。

水素の製造技術
水素はFCVや家庭用電池などにとどまらず、極めて広い用途を持っています。石油精製では原油から硫黄を取り除く工程で、石油化学ではプラスチックなどの生成に水素が使われます。また半導体ウエハをはじめエレクトロニクス分野には高純度の水素が不可欠です。燃料としては宇宙ロケットも水素を使います。

日本政府では「水素戦略」のなかで、2030年に300万トン、2050年に2,000万トンの導入目標を掲げています。

水素の製造には複数のプロセスがありますが、再生可能エネルギーとして水素を貯蔵するPower-to-Gas技術が国内外で注目され、日本でも本格的技術実証に向けて、福島県の浪江町において世界最大級の水電解装置を備えた「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)が稼働を続けています。

このほか、水素は天然ガスなど化石燃料から生産する、森林資源や廃材などのバイオマスから作り出す、製鉄所、食塩電解(苛性ソーダ製造)などの工場で発生するガスから副産物として生じる水素を分離する、④水の電気分解などがありますが、製造コスト、GHGの排出など一長一短があります。

Power-to Gasについてはシステムの最適化、水電解装置のコスト低減、効率・耐久性の向上などが課題となっています。

水素の技術的課題
水素は非常に軽いガスで製造後に常温で1気圧の状態で保管するには非常に大きなスペースが必要で効率的ではないという問題点があります。また、金属に水素の原子が吸蔵されることで金属素材の靭性が低下し、もろくなってしまう水素脆性(水素ぜいせい)も技術的な課題です。いずれも貯留に関連する課題ですが、貯蔵では高圧で圧縮、低温液化、金属などに吸着・吸蔵させる、他の物質に変換して貯蔵するなどの方法があります。一方、水素脆性に対しては、ベーキング処理をともなっためっき処理などの技術が提唱されています。


実用されている再生可能エネルギー:バイオマス

多様なバイオマス原料
水素同様、実用化され、今後拡大が期待されているのがバイオマスです。バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を表す言葉であり、「再生可能な、生物由来の有機性資源(化石燃料は除く)」のことを呼びます。そのなかで、木材からなるバイオマスのことを「木質バイオマス」と呼びます。木質バイオマスには、主に、樹木の伐採や造材のときに発生した枝、葉などの林地残材、製材工場などから発生する樹皮やのこ屑などのほか、住宅の解体材や街路樹の剪定枝などの種類があります。

バイオマスにはこのほか、農業で野菜を収穫した後に残った茎や葉、食品の生ごみ、牛など動物のフンなどがあります。これらはいずれも廃棄物としてこれまでは処理の対象でしたが、バイオマス発電などで有効活用することで、廃棄物の再利用や減少につながり、循環型社会に向けた大きな力となることが期待されています。

                 バイオマスの分類
      
                                                    引用:経済産業省エネルギー庁バイオマス発電

航空燃料の脱炭素化の展望
国際航空運送協会(IATA)は、2021年に開催した年次総会で「2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にする」という新しい目標を発表しました。航空機は交通機関のなかでも、輸送単位当たりの二酸化炭素の排出量が多い乗り物です。

そのため、カーボンニュートラルの実現に向けては、航空機から排出される二酸化炭素の削減が喫緊の課題となっています。航空機は自動車と違い、EV化ができないという問題もあります。こうしたなかで、二酸化炭素排出量削減の切り札として注目を集めているのが次世代航空燃料「SAF(持続可能な航空燃料)です。

SAFは、植物などバイオマス由来の原料や、飲食店などから排出される廃食油などに含まれる炭素と水素を原料に製造されます。これらの主な原料となる植物は、光合成を行う際に大気中の二酸化炭素を吸収します。そのため燃焼により二酸化炭素を排出しても、再度植物が光合成を行うことで、炭素を循環させながら航空燃料を利用できます。

こうした自然の循環を利用して航空燃料を製造・活用することで、大気中の二酸化炭素をほとんど増やすことなく、航空機を利用することが可能になります。

カーボンニュートラルな航空燃料であるSAFは今後、需要、供給ともに拡大する見通しです。米国では2030年までに米国内の航空燃料消費量の10%SAFに転換することを打ち出しています。EUでは2035年に20%に引き上げる目標を掲げています。

日本では2030年に国内のジェット燃料使用量の10%171kl)がSAFに転換する見通しとなっているのに加え、供給も2025年の30klから、2030年には192klに拡大するとみられています。

SAFの原料は多様です。スーパーやお店で使った後の食用油や植物油などと水素を使って製造する方法やコーンやさとうきびを発酵させてつくったアルコールから製造するものもあります。また藻や古紙などから油分を取りだし、水素を作ったり、発酵させてアルコールから製造したりする方法もあります。

廃プラスチックなどのごみを原料にガス化し、液体燃料を製造する技術もあります。こうしたなかで、今注目されているのが、「合成燃料(e-fuel)」です。二酸化炭素と水素を原材料として製造する石油代替燃料です。エネルギー密度が高く、石油と同じ炭化水素化合物の集合体で、ガソリンや灯油など、用途に合わせて自由に利用できます。


バイオマスナフサの素材産業への応用
廃食油などを原料にSAFを製造する過程で副生される留分がバイオマスナフサです。SAFの需要拡大に伴って、精製副生物であるバイオマスナフサは、新しいプラスチック原料として期待されています。現在、バイオマスナフサを使いバイオマスプラスチックや化学品を生産する取り組みは日本でも始まっています。

原料に直接バイオマスを使う製造法では、現在化石資源で作られているプラスチックを全て代替することはできません。これに対して、バイオマスナフサを使えば、プラスチックや化学品の出発留分(オレフィンや芳香族とよばれる一次製品)からバイオマス化できるため、ナフサを原料として作られるプラスチックは全てバイオマス化できます。一例をあげると熱硬化性樹脂*のエポキシ樹脂やフェノール樹脂のバイオマス化も可能です。これは原料であるフェノールをバイオマス化することで実現します。

*加熱すると硬化する性質を持つ樹脂。これまでバイオマスで作ることは難しいとされていた樹脂でもある。

バイオマス化については「脱プラ」から「改プラ」へ。バイオマスナフサが拓く未来への一歩」、「三井化学と拓くバイオマスな暮らし」でも詳しく解説しています。併せてご覧ください。                

今後ますます注目されていく再生可能エネルギー

再生エネルギーの特長は「枯渇しない」「どこにでも存在する」「CO₂を排出しない」の3点があります。

2015年に国連で採択された、持続可能な社会を目指す世界共通の目標であるSDGsでは「目標7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」と「目標13.気候変動に具体的な対策を」の2つの目標として、大きく取り上げられています。この中で、資源が枯渇せずにくりかえし使え、二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーは、持続可能な社会と開発の実現に役立つ、クリーンなエネルギーとして大きな期待が寄せられています。すでに世界各国で化石燃料に替わるエネルギーとして、再生可能エネルギーの開発が進められています。

国際エネルギー機関(IEA)は2050年までのエネルギー転換経路を示すシナリオを分析し、現行政策に基づいたシナリオ、政府の公約に基づいたシナリオ、排出量ネットゼロ達成を目標としたシナリオを作成しています。ネットゼロシナリオでは排出量は2030年に23Gtまで減少し、2050年にはネットゼロになる。2100年に気温上昇は1.4℃となるとしています。このシナリオでは2050年のエネルギー供給の70%、電源構成の88%を再生可能エネルギーが占めると予測しています。

三井化学の「BePLAYER®」は地球の環境問題に向き合っています

三井化学では、再生可能エネルギーへの取り組みとして、愛知県田原市での風力と太陽光発電のハイブリッド大型発電所の運営を行っています。またソーラーパネルに使用される素材の提供を初期から行ってきたことを活かして、その性能を分析、生涯発電量を算出する独自の仕組みを構築し、発電診断サービスなども提供し、再生可能エネルギーの普及に貢献しています。

また、エネルギーの転換だけではなく、カーボンニュートラルに向けて社会のバイオマス度を高める取り組みとして、素材そのものをバイオマス由来に変えていく取り組み「BePLAYER®」を進めています。

社会のバイオマス化を進めるため、たとえば使用済みの食用油などから生成されたバイオマスナフサを原料に、プラスチック素材を生み出していきます。これまでは難しかった素材のバイオマス化、マスバランス方式・セグリゲーション方式によるバイオマス製品、その他カーボンニュートラルに貢献する製品・技術の展開を進め、社会の温室効果ガス排出量削減に大きく貢献していきます。

脱プラスチックには必ず限界が来ます。その時に向けた新しい考え方が必要です。そのためには素材の素材から考える「改プラ」で、リジェネラティブ(再生的)なライフスタイルの実現に向けて一歩踏み出すことが大切です。

カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。持続可能な社会に向けて行動する「RePLAYER®」「BePLAYER®」はこちら