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カーボンニュートラルと脱炭素

作成者: 三井化学|Apr 11, 2024 7:50:00 AM

カーボンニュートラルと脱炭素

1997年12月、京都で国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3、京都会議)が開催されました。世界各国から多くの関係者が参加し、二酸化炭素、メタン、一酸化窒素(亜酸化窒素)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)、六フッ化硫黄(SF6)の6種類の温室効果ガスについて先進国の排出削減について法的拘束力のある数値目標などを定めた文書が、京都の名を冠した「京都議定書*¹*²」として採択されました。
 当時の基本的な目標は化石燃料への依存を減らし、温室効果ガスの排出を減らしていこうというものです。こうした動きを受け、1997年以降、「低炭素社会、脱炭素社会」という言葉を見聞きすることが増えていきます。
 
さらに、2015年にフランス・パリで開催されたCOP21では、気候変動対策の国際枠組みである「パリ協定」が採択され、世界共通の長期目標として「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに(2℃目標)、1.5℃に抑える努力を追求すること(1.5℃目標)」、「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること」等に合意。その実現に向け、世界120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げています。

これを受け、2015年以降は、「カーボンニュートラル」と同意の言葉として「脱炭素社会」が頻繁に使用されるようになり、「低炭素社会」という言葉はあまり使われなくなりました。また、日本政府では、2020年10月26日に開催された第203回臨時国会において、当時の菅総理より「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」との宣言が行われ、ここでも「脱炭素社会」という言葉が使われました。

こうした背景を踏まえると、「脱炭素」という言葉は、気候変動問題への国際社会の対応と連動して「カーボンニュートラル」と同意の言葉として使用されるようになったと言えます。

温室効果ガスにも複数の種類がある

温室効果ガスには二酸化炭素やメタンなど主に6種類のガスがありますが、温室効果の寄与度(「温室効果」と「濃度増加」を掛け算した影響の大きさ)では二酸化炭素が最も大きいため、その他の温室効果ガスによる温室効果の寄与度は、二酸化炭素発生量に換算して比較することが一般的となっています。

温室効果ガスの一覧表と温室効果寄与度

引用:日本原子力文化財団「温室効果ガスの地球温暖化への寄与度」

 

温室効果ガスの種別・部門別の排出量

引用:経済産業省「温室効果ガス排出の現状等」

CO2排出量については関連記事「CO2排出量を知る -Scope1・2・3- #01 GHGプロトコルとScopeの基礎知識」もご覧ください。

温室効果ガスの排出削減にはそれぞれ異なる対応が必要

温室効果ガスはガスの種類によってその特性や発生源が違うため、排出量の削減に向けそれぞれに異なる対応が必要になります。特にフロン類の発生抑制では、オゾンホール(地球を覆うオゾン量が極端に少なくなる現象)問題への対策と温暖化対策の2段階で規制が進められています。

フロン類の発生抑制

オゾンホール問題では、1989年に発効された「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」によりオゾン層破壊物質の製造・消費・貿易を規制しています。モントリオール議定書は2016年まで5回の改正*⁵を経て、規制強化が進められています。日本ではすでにフロンガスの生産・使用は完全に禁止されており、代替フロンに関しても2019年から規制を開始。改正されたモントリオール議定書に基づき、2011~2013年の平均を基準として2036年までに代替フロンの消費量を段階的に85%削減する目標を打ち出しています。

メタンの発生抑制

メタンは単位質量あたり二酸化炭素に比べて温室効果が28倍あり、「温室効果」と「濃度増加」を掛け算した温室効果寄与度も二酸化炭素に次ぐ高さになっています。また、日本におけるメタンの排出源は、農業分野が8割を占めています。

メタン(CH4)排出量の排出源別内訳(2021年度)

引用:環境省「2021年度(令和3年度)温室効果ガス排出量(確報値)について」

こうした中で、農業部門ではメタンの排出を抑制する取り組みを推進しています。例えば、稲わら、麦わら等の有機物を堆肥として利用する水田では、中干し*⁶期間の延長を推奨して、メタンの発生抑制に取り組んでいます。

また畜産部門では牛のげっぷ由来のメタン発生抑制のための研究*⁷も進められており、メタン抑制資材としてカシューナッツ殻液の飼料化や、抗生物質、各種油脂などの分野での研究が進められています。

このように、カーボンニュートラル社会を実現するには、二酸化炭素の排出量削減だけでなく、メタンやフロン類など他の温室効果ガスについても、それぞれの特性に合わせた対応が着実に進められています。

カーボンニュートラル社会の実現には、産業部門での温室効果ガス排出量の削減も大きなテーマ

2021年度の日本の温室効果ガスの排出量(二酸化炭素換算)は約11億7,000万トンで前年度比2.0%増加しています。この排出量の増加については、新型コロナウイルス感染症の拡大により、産業の生産活動が2020年に停滞したことが主要因で、2019年との比較では3.3%減となっています。*⁸

また、2021年度の日本の二酸化炭素排出量(電気・熱分配後)を部門別で見ると、産業部門が最も多く全体の35%を占めています。こうした側面から見ても、産業部門における二酸化炭素排出量削減の取り組みは日本全体のカーボンニュートラルの実現への重要課題です。産業部門のうち、最も二酸化炭素排出量が多いのが鉄鋼業で産業全体の38.7%を占め、次いで化学工業が同15.4%、機械製造業12.6%と続きます。*⁹

「脱炭素」とは炭素を再生可能資源として上手く使うこと

ここまで「カーボンニュートラル」と「脱炭素」に関して解説してきました。現在、「脱炭素」という言葉は、「カーボンニュートラル」と同様に「温室効果ガスの大気への排出量を実質ゼロにすること」という意味を持っています。

「脱炭素」という文字を見ると、炭素を使用しない、もしくは炭素を無くすようなイメージもありますが、決してそうではありません。全ての生物は生きるため、成長するために炭素が必要です。なぜなら、人間の体を含めた自然界のほとんどのものに炭素は含まれ、日々の生活や文明の進化、そして地球の生命そのものに必要不可欠な元素だからです。

ただ、これまでの人間の炭素の使い方により、地球温暖化という問題が生じていることも事実です。そのため、私たちは持続可能かつ再生的な炭素の新しい使い方を習得していく必要があります。それが「カーボンニュートラル」に向けた取り組みでもあります。「〝脱〟炭素」からさらに一歩進み、「〝改〟炭素」と呼ばれる社会づくりが、今、私たちに求められていることかもしれません。

三井化学はリジェネラティブ(再生的)な社会に向け、「素材の素材まで考える」アプローチを進めています

三井化学グループでは、サステナブル(持続可能性)を超えたリジェネラティブ(再生的)な社会の実現に向け、「素材の素材まで考える」をキーワードに掲げた取り組みを進めています。これは、原子の由来を見直し、プラスチックの素(原料)である炭化水素そのものを、従来の石油由来からバイオマスやリサイクル由来の炭化水素に変えていくことで、そこから造られるプラスチックをバイオ&サーキュラーにしていくアプローチです。そういった意味では、先ほどの「炭素の新しい使い方」(=炭素の由来を変えて再生可能にする使い方)とも言えます。

その中で、現在、バイオマスナフサを原料にバイオマスプラスチックの製造を開始し、マスバランス方式によるお客様がより使いやすいバイオマスプラスチックの提案・普及に取り組んでいます。

※:バイオマスナフサ:再生可能なバイオマス(植物など生物由来の有機性資源)から生成された炭化水素混合物のことで、バイオディーゼルやSAF(バイオジェット燃料)を作るときの副産物として得られる。そこから作られるバイオマスプラスチックの物性は石油ナフサ由来のプラスチックと同等。

さらに、リサイクル手法の一つであるケミカルリサイクルにより、廃プラスチックを熱分解油というリサイクル由来の炭化水素にまで戻し、バイオマスナフサと同様に様々な化学素材の原料として再利用する取り組みも進めています。


リジェネラティブな世界に向け、今後、製品のバイオマス化や、リサイクルソリューションを検討される際は、ぜひお気軽にご相談ください。

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