SOSO 素材の素材まで考える。

「バイオマスプラスチック」の環境への貢献

作成者: 三井化学|Jul 26, 2022 12:00:00 AM

バイオプラスチックとは

「環境にやさしいプラスチック」と聞くと、みなさんはどんなものを思い浮かべるでしょうか?

バイオプラスチック、生分解性プラスチック、バイオマスプラスチックといった言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか。これらはカーボンニュートラルや循環型社会を実現するために重要なキーマテリアルのひとつです。言葉が似通っているため分かりにくいので、まずはそこから解説していきます。

まず、バイオプラスチックとは、「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」の総称です。

分かりにくい違いですが、下図の通り「バイオマス」プラスチックは「バイオ」プラスチックですが、「バイオ」プラスチックは必ずしも「バイオマス」プラスチックではありません。

つまり、生分解性プラスチックには植物由来のものだけでなく、石油など化石資源由来のものも存在するからです。同様に、バイオマスプラスチックには、生分解性を持たないものが存在します。

図1 バイオプラスチックの分類*1

バイオマスプラスチックは正確には「再生可能資源由来」のプラスチックですが、そのほとんどが植物由来であるため、ここでは「植物由来」と表現します。

生分解性プラスチックとは

微生物の働きで分子量が小さく分解されるプラスチックのことをいいます。すべての環境下で分解するわけではありませんが、土の中など最適な微生物がいる環境下で分解が促進され、最終的には水とCO2に分解されます。

最近では、海洋プラの低減を目指して海水中の微生物でも分解が促進されるプラスチックの開発に取り組む動きもあります。

バイオマスプラスチックとは

植物由来(再生可能資源)から生まれたプラスチックのことをいいます。植物由来であるため、バイオマスプラスチックに含まれる炭素分(C)がもとは植物の光合成により大気中から吸収・固定化された由来のものであることから、最終的にプラスチックを焼却したり、分解しても、そこから発生するCO2はもともと大気中にあったもので、CO2の総量を増やすわけではないとみなすことができます。

大気中から吸収したCO2と焼却・分解時に発生するCO2の総量が同じ、まさしくカーボンニュートラルな素材といえます。さらに、石油などの枯渇性資源の使用削減にもなります。

現在大量に生産・消費されているプラスチックは、ほとんどが石油などの化石資源を原料として製造されていますが、2021年3月に環境省・経済企画省・農林水産省・文部科学省が合同で「バイオプラスチック導入ロードマップ」を策定し、そのマイルストーンとして2030年までに「バイオマスプラスチック」を最大限(約200万トン)導入する目標を掲げています*2。国としてもバイオマスプラスチックの拡大を後押ししているのです。

バイオプラが普及してこなかったのはなぜ?

今注目を集めるバイオプラスチックですが、以前から存在していたプラスチックです。それではなぜ、これまで普及してこなかったのでしょうか?
それには大きく次の3つの理由があると考えられます。

① 機能の課題
既存のプラスチックとは別の構造体の素材になるため、代替素材とするには機能が変わってしまうことです。素材とはそもそもある目的を持った機能で選定されるため、代替という目的では製品の機能を満たさなくなってしまいます。

② 供給の課題
供給量が少ないため、一部の製品にしか使用できない、あるいは少量をブレンドして使用するしかないことです。しかも少量でもブレンドすれば機能・品質の問題に突き当たります。もちろん需要があれば供給量は増えていきますのでニワトリとタマゴの話ではあります。

2021年の世界のバイオプラ供給量は240万トン程度といわれています*3
これは世界のプラスチック需要3.7億トンを満たすことはできないばかりか、日本のプラスチック生産量約1,000万トン(プラ工連:https://www.jpif.gr.jp/statistics/)にも届かない難しいものです*4。そのため、日本での使用量も4.7万トン程度(2018年)*9にとどまっているのが現状です。
日本でも世界でもまだまだ1%未満の普及率と言えます。

③ コストの課題
既存の石油由来プラスチックと比較し、コストが高くなるというのも大きな課題です。これは、植物を化学素材の原料に転換するためのコストに加え、バイオマスプラスチック製造のための新しい工場も作らなければならないため、莫大な投資が必要になります。

つまり社会全体として大きなコストアップになってしまうという課題です。ただ、この点については規制や社会システムの整備によって環境は変わっていくものと考えられます。モノのコストだけで比較していた時代から、使用後の処理、バリューチェーン全体でのGHG排出量までを考慮したコストで評価されていくことになるでしょう。

上記3点からもバイオプラスチックの普及には、製品・事業作りの重要なポイントであるFQCD(ファンクション:機能、クオリティ:品質、コスト:価格、デリバリー:供給)のすべてにおいて課題がありました。

実際に、三井化学では1994年、世界で初めてPLA(ポリ乳酸、バイオマス生分解性プラ)の直接重合法を発明し、2007年まで市場開発に注力してきましたが、今ではPLAの開発から撤退しています。

その理由は、先ほどの3つの課題に加えて、すでに構築されているリサイクルシステムに入り込んだときに既存マテリアルリサイクル素材の物性や品質が損なわれること、つまりそれぞれの環境貢献の技術・ソリューションが衝突してしまったという経験でした。また、最適な環境下での限定的な生分解性のためコンポスト施設での処理が最適であったのですが、期待されたコンポスト施設が増えなかったことです。
近年では、生分解という言葉が独り歩きすることによるモラルハザード=ポイ捨ての助長という課題も、指摘されています。

バイオマスナフサによるバイオマスプラが切り開く新しい可能性

世界のCO2総排出量は、2018年で335億トンに達しています(日本エネルギー経済研究所:http://www.ene100.jp/www/wp-content/uploads/zumen/2-1-4.pdf)*5。1971年の141億トンと比べると、50年弱で2.4倍に増加しています。日本は11億トン(2018年)のCO2を排出しており、全体の3.3%を占めています。

また、世界の化学産業のCO2排出は、全体の5.8%を占めています。
化学産業は、自動車などの運輸業や農業、その他製造業など他産業の効率化やCO2排出量の削減に大きく貢献しているとはいえ、大きな排出源となっています*6

(OurWorldinData.org:https://ourworldindata.org/emissions-by-sector)より

だからこそ化学産業は、自らが排出しているCO2を削減していくと同時に、あらゆる産業に関わっているという強みを活かして、社会全体の低炭素化に広く貢献していかなければならないのです。

三井化学が2021年12月から日本で初めて開始したバイオマスナフサからのバイオマスプラスチックの生産は、これまでのバイオプラのアプローチと異なり、物性面での品質は石油由来の物と同一であり、供給面でも世界のバイオ燃料の普及と共に増加していくことが見込まれます。

現在の石油化学の原料であるナフサは、日本語では粗製ガソリンというように、ガソリンを目的生産物としたときの副産物でしたが、同様にバイオ燃料の副産物として出てくるバイオマスナフサもバイオ燃料の普及と共に供給は増えてくるものと考えられます。

先ほどのFQCDのうち、機能・品質・供給について、これまでのバイオプラの課題を乗り越えられる可能性を秘めています。

バイオマスナフサからのバイオマスプラスチック製造という施策は、環境省・経済産業省の『サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン』に基づくGHG排出量算定基準*7に照らすとScope3に当たるため、三井化学のGHG排出量削減には貢献しません。

ただ、社会の意思とともに、社会全体のバイオマス度を大きく高めることができる画期的な方策です。つまり、社会のカーボンニュートラルへの道を大きく切り開くことになるのです。

日本における石油化学産業向けナフサの消費量は、原油総消費量に対して12.4%(1826万kL;2019年)を占めています*8。石油由来ナフサを原料に多くのプラスチックが製造されているため、バイオマスプラスチックはGHG排出量削減に向けて大きな役割が期待されています。