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プラスチックのリサイクル

作成者: 三井化学|Nov 30, 2022 12:00:00 AM

3つのリサイクル手法

日本のプラスチックリサイクル状況

出典:プラスチック循環利用協会「2020年プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況(マテリアルフロー図)

プラスチックのリサイクルには、①廃プラスチックを溶かして新たな製品の原料として使うマテリアルリサイクル(メカニカルリサイクル)、②油化、高炉還元化、コークス炉化学原料化、ガス化などの方法で分解して化学原料として使うケミカルリサイクル、③固形燃料(RPF)化や他のごみとともに焼却する際に発生する熱エネルギーを有効利用するエネルギー回収(サーマルリサイクル)の3つの手法があります。2020年の廃プラスチック処理における比率は、マテリアルリサイクルが21%、ケミカルリサイクルが3%、エネルギー回収が63%となっています(*1)。3つのリサイクル手法には、それぞれ課題があります。

マテリアルリサイクルが難しい「混合プラ」

廃プラスチックの内訳

出典:プラスチック循環利用協会「2020年プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況(マテリアルフロー図)

マテリアルリサイクルには、廃プラスチックの種類によって「向き不向き」があります。汚れや混合物が少ない方が向いており、混合物が多いものは分離や洗浄に余計なコストがかかってしまいます。
工場から排出される端材やロスなどの廃プラは、汚れがなく単一素材が多いことから、マテリアルリサイクルが進んでいます。プランターやコンテナ類などホームセンターで多く見かける製品のほか、標識杭のような産業資材にも加工されて、広く利用されています。

一方、家庭から出るPETボトル以外のプラスチック容器包装は、レジ袋や食品包装などに使われるポリエチレン、食品トレーや緩衝材に使われるポリスチレン、色々な容器包装に使われるポリプロピレンなど、多種のプラスチックが混合しており分別や洗浄に手間とコストがかかること、また食品包装などはそもそも多種の素材を組み合わせて作られていることから、マテリアルリサイクルが難しいケースが多いのが現状です。このため複合プラは、紙などと混ぜて燃焼カロリーを調整した固形燃料(RPF)に加工することが主流となっていますが、カーボンニュートラルの観点からは、RPFを燃料として使う際にCO2が排出されることが課題と言えます。

技術的蓄積は十分も原料不足に悩むケミカルリサイクル

PETボトルではケミカルリサイクル(解重合)による「ボトルtoボトル」が実現しており、汚れや異物を除去して衛生面の課題をクリアし、バージン樹脂(新規に製造された樹脂)と変わらない品質で再生されています。国際的なPETボトルのリサイクル率を比較すると、2019年では欧州39.6%、米国19.7%に対して日本は85.9%と、世界的に傑出したリサイクル率を誇っています(*2)。日本の丁寧に分別された使用済みPETボトルは再生原料としての品質に優れ、中国など海外のリサイクル事業者からも高い需要があるため、供給不足が慢性的な課題となっています。

ケミカルリサイクルにはこのほかに、油化、高炉還元化、コークス炉化学原料化、ガス化などの方法があり、マテリアルリサイクルが苦手とする汚れや混合物の多い廃プラでも処理することが可能な技術が開発されています。しかし歴史を振り返ると、大きな課題もあります。ケミカルリサイクルは化学プラントの原料として廃プラスチックの資源化の役割を担いますが、化学プラントというものは規模を大きくしなければ採算が合いません。しかしプラントが大規模になればなるほど原料となる廃プラの調達が難しくなるという問題です。

日本では2000年頃に混合廃プラを熱処理して分解油を作り、燃料とする技術である油化プラントが北海道札幌市や新潟県新潟市で実用化されましたが、マテリアルリサイクル事業者の進出により原料となる廃プラの調達が困難となり、数年で操業停止を余儀なくされてしまいました。また2001年に山口県宇部市で商業運転を開始した3万トンの処理能力を持つ廃プラガス化プラントも同様に原料調達が困難となり、2008年には操業停止に至りました。2003年から宇部のプラントと同じ技術を使った6万4,000トン能力の廃プラガス化プラントが神奈川県川崎市で操業を開始しましたが、こちらは周辺に大都市圏を有する地の利もあり、原料となる廃プラの調達を続け、現在も操業しています。

日本における廃プラ(容器包装リサイクルプラ)の発生量は人口100万人あたり年間1万トン(10kg/人・年)程度と言われ、人口が集中する大都市周辺に偏在しますが、基本的には分散型の資源といえます(*3)。
近年では石油精製のプロセスに混合廃プラを直接投入して精製する技術や、廃プラをガス化して微生物のエサとし、アルコール類を生産する技術などの開発が盛んにおこなわれていますが、いずれも原料確保と経済性の確立が課題です。

エネルギー回収は経済的だがGHG排出削減が課題

1960年代の高度成長期から廃棄物が急増し、埋め立て処分地の不足に直面した日本では、埋め立て処分地を節約するため、プラスチックに限らず可燃性の廃棄物は焼却して灰にし、容量を減らしてから埋め立てる焼却・減容処理を行ってきました。省エネが国家的課題となった1990年代からは、焼却炉から出る排熱を利用したごみ焼却発電が普及し、2019年度には全国384設備、総発電能力2,078MW、総発電電力量100億kWh(約336万世帯分の消費電力)に達しています(*4)。ごみ焼却発電によるエネルギー回収は、売電による収益も見込め、排ガス処理に関しても市街地で操業可能な高いレベルの環境性を有しています。プラスチックは石油から作られており、重油などと同等の発熱量を持ち、燃料として優秀であるため、重油を買ってごみ焼却するよりも廃プラを燃料とした方が経済的なのです。しかしカーボンニュートラルの観点からは、焼却時のGHG排出が課題となっています。

この解決策のひとつとして、家庭ごみとして排出されるようなプラスチックをバイオマスプラスチックに変えていくことで、ごみ焼却発電時のCO2排出削減を進めるという方法があります。また、ごみ焼却発電にCCUS(CO2回収・貯留技術)を組み合わせた場合、回収・貯蔵されたCO2がカーボンネガティブ(吸収するCO2の方が多い状態)の施策となっていく可能性もあるため、この考え方はプラスチックのバイオマス化を推進する政府の2050年カーボンニュートラル戦略にも組み込まれています。

リサイクルの持続性は「経済性」がカギ

2000年頃のケミカルリサイクルにおける挫折から得られる教訓は、リサイクルを持続的に回していくカギが「経済性」にあることを示しています。高額な投資を必要とする技術、処理時のエネルギー消費が大きな技術、原材料が十分集められないような過剰設備は、持続させていくことが難しいのです。

サーマルリサイクルにおいても、バイオマスプラスチックは、ごみ焼却発電時のCO2排出削減が実現できるため、社会全体でみたときの「経済性」が大きなメリットでもあります。