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海外のカーボンニュートラルへの取り組み

作成者: 三井化学|Aug 8, 2022 2:00:00 AM

化石エネルギー企業から再エネ企業へ生まれ変わったオーステッド

1970年代にデンマークのエネルギー企業として誕生したオーステッドは、気候変動問題への世界的な議論の高まりを受け、化石燃料による発電からグリーン・エネルギーへの事業転換を決意、1991年に世界最初の洋上風力発電所をデンマークで建設して以来、欧米を中心に洋上・陸上の風力発電をはじめとする再生可能エネルギーの開発・運営を行い、2019年には発電電力の80%を再生可能エネルギーが占めるまでになり、洋上風力発電容量の4分の1以上を手掛ける世界最大手となりました。同社では現在、ドイツ沖で2025年の稼働をめざし、出力900MWのBorkumRiffgrund3洋上風力発電所を建設しているほか、アジアでは台湾で複数のプロジェクトを手掛け、TSMCとの920MWのCPPA(Corporate Power Purchase Agreement:企業が独立系発電事業者との間で直接締結される長期間にわたる電力購入契約のこと)を締結しています。2019年に日本法人を設立し、日本国内の洋上風力発電事業へも本格参入を目指しています。

洋上風力開発ブームに沸く北海沿岸

欧州では2000年代から洋上風力を再生可能エネルギーの主力として位置づけ、陸上風力とも差別化して育成してきた戦略が実を結びつつあります。特に洋上風力に好適な条件を備えた北海沿岸では、2017年頃から既に補助金ゼロのレベルまで設置・運営コストの低減が加速しており、売電入札価格も日本円で6~9円/kWhという、太陽光発電の固定買い取り価格よりも低価格での入札が現出しています。
こうした低価格入札が可能なのは、入札価格で一般向けに売電する収益だけでなく、大企業との長期の電力購入契約(CPPA)を組み合わせたビジネスモデルを想定しているためです。
経営の脱炭素化を急ぐグローバル企業では、先を争って洋上風力事業者と大規模かつ長期のCPPAを締結しており、売電入札価格より高い価格でCPPAを締結しても、価格変動の激しい化石燃料発電と比べて洋上風力の長期契約による価格安定性、経済性が上回るという判断があると考えられます。

進むグローバル企業の再エネ化

2025年に再エネ使用率100%という目標を掲げるアマゾンは、2020年に同社が全世界で消費する2,400万MWhの電力のうち65%の再エネ化を達成*1しており、米国、英国、欧州、オーストラリア、南アフリカで、300件以上、合計出力3,400MWの風力・太陽光発電プロジェクトへの投資を発表しています。このほかオーステッドが建設しているBorkumRiffgrund3洋上風力発電所からの、10年間、250MWのCPPAを締結しました。
世界最大の化学メーカーである独BASFもオーステッドとBorkumRiffgrund3からの25年間、186MWのCPPAを締結し、2050年カーボンニュートラルに向けて再エネ化を進めています。ポリウレタン原料やポリカーボネートの製造を手掛ける独コベストロもオーステッドとCPPAを締結し、2025年以降ドイツの生産拠点で必要とされる電力の10%を洋上風力発電でまかなう予定であると公表しています。アマゾンなどと比べ化石資源の使用や化学反応でCO2などのGHG排出を伴う化学メーカーのカーボンニュートラルは困難を伴いますが、先進的な取り組みが進みだしています。

欧州グリーンディール政策

欧州に展開しているグローバル企業が再エネ化を急ぐのは、温室効果ガス(GHG)排出の削減を目指す「欧州グリーンディール政策」において、一層強力な規制が予定されていることとも関係すると考えられます。
欧州委員会は、2019年12月に2050年までの温室効果ガス(GHG)排出の実質ゼロ(気候中立 climate neutral)の達成や経済成長と資源利用のデカップリング(切り離し)などを主要目標として掲げる成長戦略「欧州グリーンディール」を発表し、2021年6月には「2030年までにGHG排出を1990年比で55%削減」まで目標を引き上げた「欧州気候法」を成立させました。続く同年7月には「カーボン・リーケージ(排出規制が緩やかな国・地域への産業流出)対策の導入」などを内容とする政策パッケージ「Fit for 55」を発表し、内外の工業製品に対して炭素税を課税することで強力な規制を進める意思を示しました。
カーボン・リーケージ対策として導入される対外炭素税、炭素国境調整メカニズム(CBAM)では、鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、電力を当初の規制対象分野としており、さらにプラスチック・化学品など対象分野拡大の可能性もあることから、将来的に鉄鋼、アルミ、化学品を大量に使用する自動車産業はじめ、多くの産業への影響が考えられます。CBAMを巡って各国がEUと今後どのように交渉・調整していくのか、実際に徴収が開始される2026年へ向けて推移を注視していく必要があります。