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海洋プラごみ問題を考える

作成者: 三井化学|Dec 26, 2022 1:00:00 AM

プラごみの海洋流出は国際貿易の副産物だった

1990年代以降、ASEAN諸国やインド、中国などでは、経済発展によってプラスチックの利用が急激に増加する一方で、日本や欧米先進国のような廃棄物の公共回収システムが整備されていないため、生活ごみの河川への投棄や、野積みされた廃棄物の河川流出が大量に発生していました。加えて先進国から中国や東南アジアへ大量の廃プラがリサイクル原料として輸出されていました。

(左)野積みされたプラスチックごみ (右)リサイクル工場からの未処理排水

出典:環境省 バーゼル法該非判断基準資料より
https://www.env.go.jp/recycle/yugai/pdf/r021130.pdf

先進国から廃棄物輸出が盛んにおこなわれていた背景には、新興国から先進国への輸出の際に使われたコンテナを空のまま返送すると、運賃が船主負担になってしまうという海運業の慣習もありました。使い終わったコンテナを空荷で返送するよりは、格安の運賃でも廃プラスチックを詰め込んで輸送する方が船主にとってありがたい、というわけです。

ところがそうした廃プラの中には、リサイクルに適さない、洗浄や分別が不十分で生ごみなども混入した「汚染された」廃プラも輸出されており、野積みにした廃プラの散乱や、リサイクル残渣の投棄、洗浄過程から出る未処理排水など、管理の不適切さから河川や海洋に流出して環境汚染を引き起こしました。海洋プラスチックごみ問題といわれる環境問題は、現地での廃棄物処理システム整備の遅れと、先進国からの廃棄物輸出の増加が複合して発生したといえます。

国際問題化した海洋プラスチックごみ問題

この問題は国際社会においても大きな課題として取り組みが進められるようになりました。2017年8月に中国が廃プラ輸入の全面禁止に踏み切り、2019年3月には約160か国の代表、市民団体やNGO等のステークホルダーが出席したUNEP(国連環境計画)の第4回国連環境総会(UNEA4)で「海洋プラスチックごみ及びマイクロプラスチック」に関する決議が採択されました。さらに2019年5月にバーゼル条約附属書改正が行われた結果、汚染された廃プラの輸出は国際的に厳しく規制されることになりました。先進国から空コンテナに詰め込まれて輸出されていた大量の廃プラスチックを、今後は発生国で処理しなければならなくなったのです。

2019年6月のG20大阪サミットでは、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が承認されました。海洋流出を削減するには、① 適正な廃棄物管理、② 海洋プラスチックごみ回収、③ 革新的な解決策(イノベーション)の展開、④ 各国の能力強化のための国際協力などが重要とされ、日本が事務局として中心的な役割を果たしていくことが合意されました。

こうした流れを受けて、日本のプラスチック関連企業による海洋プラスチック問題対策団体JaIME(海洋プラスチック問題対応協議会)では、2020年にはインドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ミャンマー、ベトナムの廃棄物管理人材を対象とした研修を行うなど、廃棄物管理の教育・人材育成の支援を進め、啓発活動を行っています。

海洋プラスチックごみ問題は廃棄物管理の問題

これまでみてきたように、廃棄物処理システムが未整備な国々における廃棄物の河川・海洋への投棄や、野積みされた廃棄物の流出が海洋プラスチック問題の主原因であり、これらを改善することなく海洋流出を止めることはできません。国際的な廃棄物管理システムのレベルアップをはかるためには、先進国からの廃棄物処理に関する技術協力や、人材育成支援など、地に足の着いた国際協力が問題解決への早道となるでしょう。

また、適切な回収システムによる環境への流出抑制に加え、流出してしまったごみを回収する地道な清掃活動も不可欠です。日本では様々なNPO・NGOが各地で街路、河川、海岸のごみを回収する清掃ボランティア活動に取り組んでいますので、機会があれば家族や友人と参加してみてはいかがでしょうか。