そざいんたびゅー

京都・新工芸舎が拓く樹脂の可能性。
3Dプリンターで変わる新時代のものづくり

  • Social

取材・執筆:宇治田エリ 写真:原祥子 編集:川谷恭平(CINRA)

フラワーベースから時計、アートまで。樹脂と自然物の意外な組み合わせも

MOLp:新工芸舎の拠点には、たくさんの機材が揃えられていますね。それぞれどのような機能を持っているのでしょうか?

三田地:tildeシリーズをつくるFDMはもちろん、液状のレジン(光硬化性樹脂)にUVライトやレーザーを照射し、硬化させたものを少しずつ積層させて出力する、光造形方式の3Dプリンターも使用しています。

基本的にその2種類の機材がメインですが、ほかにも材料にカットや彫刻の加工ができるレーザーカッター、FDM用のフィラメント製造機、3Dスキャナーなど、デジタルファブリケーションに必要な機材はひととおりそろっています。

光造形方式の3Dプリンター
フィラメント材料を製作する機械

MOLp:ここでは実際にどのような作品がつくられているのでしょうか?

三田地:いくつか紹介しますね。こちらの光造形方式でつくった「nosemono」シリーズは、これまでのように機能に合わせて自然物のかたちを変えるのではなく、自然物に合わせて機能を最適化させるという発想で生まれました。自然物を3Dスキャンしてデータ化し、そのかたちにピッタリ合うように形づくって造形物を乗せ、テープカッターやランプに仕上げています。

同シリーズの「Vase On Chert」という作品は、一見花瓶が石を貫いているように見えますが、じつはこの花瓶は上下バラバラに分かれていて、あいだに石を置いて挟んでいるだけ。花を活けたとき、石を貫通しているように見せるため、内部の構造にも工夫を凝らしています。

「nosemono」シリーズの「Vase On Chert」

MOLp:自然物との意外な組み合わせが面白いですし、石そのものを見つけるという行為からも、感性が引き出されそうな気がします。

三田地:実際にnosemonoシリーズはワークショップもやっていて、みなさんけっこう楽しんでくれていますね。この「頁岩(けつがん)」という岩を使った作品の場合は、石の風合いから「雲っぽい流れを感じるな」と発想して、靄がかかっているなかに立ち枯れの木が刺さっているような景色をつくりたいと思って制作しました。

このように、光造形方式の3Dプリンティングは複雑なテクスチャーで表現できるので、自然物に寄せた表現が可能なんです。

MOLp:こちらにあるCGのように見える不思議な色と形状をしたフラワーベースも、現実離れした存在感があっておもしろいですね。

三田地:これは「三色混平編重パンデミック型花生」という作品で、まさにパンデミックの最中に生まれました。「混ぜ」という技法を使っていて、フィラメントが押し出されるときに生じるねじれを応用し、3色のフィラメントを1本にまとめて出力することで、角度によって見える色が変わるようになっています。

ウイルスをイメージした色合いの「三色混平編重パンデミック型花生」

MOLp:上から下へ、色がグラデーションになっているものもありますね。

三田地:これは「染め」の技法を使った「MariBowl」という作品です。「いい感じの色のフィラメントがないなら、自分で着色しよう」という発想から生まれ、手染めをすることで絶妙な色合いに仕上げています。

鉢の底から縁にかけてグラデーションが施された「MariBowl」

MOLp:まさに工芸ですね。三田地さんのお気に入りはありますか?

三田地:「BaobabLamp」です。これは光が透ける繊細な「透かし編み」の技法を用いながら、フィラメントを太めに出すことでキャラクター感を出したもの。照明部分と土台部分で色が分かれていますが、接着しているのではなく、異なる色のフィラメントを計算して継いで、一発で出力しています。

バオバブのような太い幹をイメージした「BaobabLamp」

新工芸家のアイデアの源泉は?技術と素材の真価も

MOLp:FDMと光造形、それぞれの特徴を上手にとらえながら発想を膨らませているのですね。

三田地:技術と素材に導かれながら、生み出しているような感覚が近いですね。FDMの場合は、細やかに表現できない「よちよち感」があって、その完成度の低さを逆手に取ることで楽しめる世界。一方の光造形はすごく優秀で高精細だからこそ、その本質的な良さにはまだたどり着けていない実感があります。

MOLp:アイデアを実現するために樹脂を使い分けることも多いのでしょうか?

三田地:光造形機は光硬化性の樹脂しか使えないため、樹脂自体はその範囲で使います。ただ、本来の色は黄色みがかっているので、透明感のあるものにしたい場合は、少し青色を混ぜて黄色味をキャンセルするといった工夫をしています。こうした素材のサポートが光造形の本質を理解するキーになると思っています。

一方でFDMに関しては、主にPLA樹脂(ポリ乳酸)を使いますが、たまにG-PET(グリコール変性ポリエチレンテレフタレート)も使いますし、ほかの素材にも挑戦したこともあります。最近はリサイクルした樹脂をフィラメントにしてつくったりもしていて、いろんな樹脂を試しています。

左から「DeskClock」、「Pen」、「HyotanStand」、「DangoTray」

MOLp:リサイクルという観点では、tildeシリーズの「Pen」も、回収してリサイクルしたプラスチックをペンにして、企業のイベントなどでお客さんに配ったら喜ばれるでしょうし、インパクトを与えられそうな気がしました。

三田地:面白いですね。われわれも将来的には販売したら終わりではなく、よりサステナブルにするにはどうすればいいか、その仕組みを考えているところです。

NEXT

「つくること」は「生きること」。
新工芸家のものづくりに対するこだわりは?