別紙2
<基調講演@> [3/17(月) 10:00〜10:45]
Molecular Catalysis: Today and Tomorrow
(分子触媒の現状と展望)
名古屋大学 野依良治 教授
化学とは美しくエキサイティングで人類に有益なものである。
その観点から省資源、省エネルギーさらに環境調和型の洗練された化学変換プロセスの確立が焦眉の急である。エコケミストリーの視点に基づく産業技術なくして化学産業ひいては人類の生存はありえない。あらゆる分子化合物は有機化学で合成可能であるが、100%収率、100%選択性の完全化学反応の実現が必要である。
毒性のないCO2を溶媒と反応物質の両方に使用できるCO2を超臨界流体として利用したギ酸誘導体の製法や有害物質や無駄な廃棄物を生成しない過酸化水素を酸素源としたアジピン酸の合成法は人類の未来を担う製造法といえる。不必要なものをつくらないという観点から医薬分野ではラセミ化合物から単一エナンチオマーの医薬品開発への変換“ラセミ・スイッチ”が求められている。BINAP触媒による不斉水添がこの分野で多大な貢献をなしてきた。
<招待講演@> [3/17(月) 10:50〜11:30]
Metallocene and Late Transition Metal Catalysts for Ethylene/Cyclolefins Copolymerization
(メタロセン及び後周期遷移金属触媒によるエチレン/シクロオレフィン共重合)
ハンブルグ大学 W.カミンスキー 教授 (ドイツ)
従来、工業的にポリオレフィンを製造する触媒として用いられているチーグラー・ナッタ触媒やフィリップス触媒は、触媒の中に多くの活性点構造を含む、いわゆるマルチサイト触媒である。一方、カミンスキー教授らにより開発された“メタロセン触媒”に端を発したシングルサイト触媒は、その活性点構造が均一であるという特徴から、狙った構造のポリマーを作ることができる発展性の高い重合触媒として注目を集め、世界中で検討されている。近年では、立体規則性、分子量、分子量分布等のポリマー構造の制御が可能になり、高立体規則性ポリプロピレン、線状低密度ポリエチレン、ポリオレフィン・エラストマー等、強度、剛性、透明度等の優れた物性を有するポリオレフィンを合成できるようになってきている。
カミンスキー教授らはメタロセン触媒技術を用い、ノルボルネンのような歪みのある環状オレフィンの重合にも発展させ、開環しない共重合体を得ることができ、従来にない構造のシクロオレフィン共重合体(COC)を創出した。このポリマーは、エンジニアリング・プラスチックの分野に適用が期待できるものである。メタロセン触媒技術に加え、パラジウムジイミン触媒によるエチレン/ノルボルネンの共重合評価も行った。リガンド構造をスクリーニングすることによって、活性、分子量、Tgを改良することができた。この触媒系のユニークな点は、完全な交互共重合を行うという点である。しかし活性が充分でないので今後の改良課題である。
<招待講演A> [3/17(月) 11:30〜12:10]
Ethylene Copolymerization by Half-Sandwich Metallocene Catalysts
(ハーフサンドイッチ型メタロセン触媒を用いたエチレン共重合)
旭化成 白井博史 博士
メタロセン触媒によるエチレン系共重合の研究が広く行われている。このような状況の中、白井氏らは、従来型のメタロセン(シクロペンタジエン(Cp)型配位子2つで中心金属を両側からサンドイッチした構造)の代わりに、片側のCp型配位子を酸素や硫黄等のヘテロ原子に変換した、ハーフサンドイッチ型メタロセンと呼ばれる触媒系を用いて、エチレン系共重合の研究を行った。その結果、硫黄を配位点とするジチオカルバメート型配位子や酸素を配位点とするフェノキシ型配位子を有するハーフサンドイッチ型ジルコニウムまたはチタン錯体が、非常に高いエチレン/ノルボルネン共重合活性を示すことを見出した。さらに、得られたポリマーの微細構造についても興味深い結果が得られている。
<招待講演B> [3/17(月) 13:30〜14:10]
Art of ATRP
(アトムトランスファー型ラジカル重合)
カーネギーメロン大学 K. マティャシェフスキー 教授(U.S.A.)
制御ラジカル重合は、高分子科学において最も急速に発展してきている分野の一つである。中でもアトムトランスファー型ラジカル重合(ATRP)は、1995年に最初の論文が発表されて以来、世界中で研究が精力的に行われ、爆発的な発展を遂げている。その主な理由は、ATRPがテーラーメイドの機能性高分子を作ることができるシンプルなプロセスだからといえる。ATRP技術の応用により、年間200億ドルに及ぶとも言われている産業への波及効果が期待される。
マティャシェフスキー教授らは、@反応メカニズム、分子構造と反応性の関係把握、Aプロセスの最適化、B構造、組成、末端官能基が制御された高分子の設計、合成、及び物性把握、の3つの方向からこの技術の研究を進めている。ATRP技術により、直径20nmのカーボンナノチューブ、400本の枝をもつ長さ200nmの分子ブラシ、1000本の枝がついた粒径20nmのシリカコロイド等、ナノサイズで制御されたマテリアル合成に成功している。ATRPは他の重合様式との組み合わせも容易なため、例えばポリオレフィンとのブロック共重合体の合成も可能であり、汎用樹脂のブレンド相溶化剤として使用することにより、その性質や機能を向上させることが期待できる。
<招待講演C> [3/17(月) 14:10〜14:50]
New Catalysts and Catalytic Processes for Single nad Multi-Site Olefin Polymerization
(単一および複数の活性種によるオレフィン重合用新触媒および触媒プロセス)
ノースウエスタン大学 T.J.マークス 教授 (U.S.A.)
シングルサイト-オレフィン重合触媒により、これまで不可能であった触媒の重合活性や選択性の制御が可能になり、意のままに高分子の構造を作り分けることができるようになってきた。しかしながら、我々の触媒の作用機構に対する理解と、それを新しい高分子材料の合成に展開する能力はまだ初期の段階である。マークス教授らは、シングルサイト触媒の作用機構の解明につながる、次の3つの相互に関連した事柄について精力的に研究を行っている。
@触媒イオン対の構造とその熱力学的安定性
A触媒イオン対の分子動力学と重合における立体選択性
B上記の情報を応用した多核触媒と多核共触媒による協奏的な重合反応系の構築
このような研究により解明された複数の触媒活性種間の協奏的な効果により、重合活性、立体選択性、共重合性等の大幅な向上が達成できることを明らかにしている。
<招待講演D> [3/17(月) 15:10〜15:50]
Recent Advanced in DuPont’s Versipol Polymerization Technologies
(デュポン社VersipolR重合技術における最近の進歩)
デュポン社 T.M.コネリーJr. 博士(U.S.A.)
ノースカロライナ大学、ブルックハート教授らのa-ジイミン配位子を有するパラジウム触媒及びニッケル触媒の発見を端緒に、デュポン社はブルックハート教授と共同で、エチレン重合および、エチレンと種々の極性モノマーの共重合技術を開発している。これらの触媒を用いることにより、チェーンウォーキングというメカニズムにより、エチレンから様々なポリマーを作りわけることができる。例えばHDPE、LLDPE、VLDPEオイルなどである。また、エチレン/アクリレート共重合体を作ることも可能である。
一方、触媒を発展させた、3つの窒素系配位点を有するピリジルビスイミン配位子を持つ鉄系の触媒は、高活性で、高密度ポリエチレンを生成する。得られた高密度ポリエチレンは直鎖状かつ内部オレフィンの含量が少なく高品質であるという、商業上魅力的な特性を備えている。
さらに広範な触媒スクリーニングの結果、酸素、窒素、リン等を配位点とするニッケル錯体群が極性モノマー共重合用の触媒として効果があることがわかった。これらの新しい錯体の開発は、特に高付加価値を持ったポリマーの製造を目的とした特殊な重合プロセス設計に新たな道を切り開くものである。
<招待講演E> [3/17(月) 15:50〜16:30]
Olefin Polymerizations Using Late Transition Metal Catalysts
(後周期遷移金属を用いるオレフィン重合)
ノースカロライナ大 M.S.ブルックハート 教授(U.S.A.)
近年のオレフィン重合触媒研究においては、新規なシングルサイト触媒の開発が主となっている。その多くが前周期遷移金属を用いているのに対して、ブルックハート教授らは後周期遷移金属、特にニッケル、パラジウムを用いることに主眼を置いている。従来の後周期遷移金属錯体触媒ではもっぱら低分子量重合体が得られていたのに対し、1995年にブルックハート教授らは、α−ジイミン配位子を用いたニッケル、及びパラジウム錯体触媒によってエチレンやα−オレフィンの高分子量重合体が得られることを初めて報告した。この歴史的な発見は、ジイミン配位子の芳香環に嵩高い置換基を導入したことが成功の鍵となっている。
これらの触媒でエチレン、α−オレフィン、そして1,2−ジ置換オレフィンを重合させて得られるポリマーは、従来の前周期遷移金属を用いた触媒では得ることのできない分岐構造を有している。この分岐構造は、重合反応中にポリマー鎖上の触媒が移動していくことや,α−オレフィンの2,1挿入が主となることなど、従来触媒とは異なる特異な反応機構に因るものであることを明らかにしている。
<招待講演F> [3/17(月) 16:30〜17:10]
Phenoxytitanium-based Olefin Polymerization Catalysts
(フェノキシチタン系オレフィン重合触媒)
住友化学工業 宮竹達也 博士
カミンスキー教授らによるメタロセン触媒系の発見以来、世界中で、触媒の活性、共重合性、および立体規則性の向上を目指して、新たなメタロセン触媒系の開発が行われてきた。一方、住友化学では、メタルアルコキサイドなどのCp配位子を用いない非メタロセン触媒系に焦点を置いて研究を行ってきた。
1989年、宮竹氏らは酸素と硫黄を配位点とするチオビスフェノキシ配位子を有する新規なチタン錯体触媒系を開発した。この触媒系は、オレフィン重合においてメタロセン触媒を置き換えるだけでなく、新たなポリマー材料の創出に関しても有望な触媒系であると考えられている。しかしながら、チオビスフェノキシ−チタン触媒は、種々のモノマーに対して良好な重合性能を示すものの、エチレンやプロピレンの重合における触媒活性は、改良型メタロセン触媒に比べて低い。そこで、触媒活性向上のためにCp配位子を嵩高いフェノキシ配位子と組み合わせることで、1998年に新規な高性能触媒(PHENICS触媒)を開発した。PHENICS触媒は他のメタロセン触媒と同等の高いエチレン活性を示すだけでなく、エチレンとブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンとの共重合や、エチレンとスチレン、あるいはノルボルネンとの共重合体、またさらにはプロピレンと1−ブテンの共重合を進行させることができる等、次世代のオレフィン重合触媒として期待されている。
<基調講演A> [3/18(火)9:30〜10:15]
From Supramolecular Self-Organization to Dynamic Combinatrial Chemistry
(超分子自己組織化から動力学的コンビナトリアル・ケミストリーへ)
ルイパスツール大学 J-M.レーン 教授 (フランス)
超分子化学は、分子そのものが認識しあいながら超分子構造を組み上げる“自己組織化”を原理としている。また、超分子の各構築要素をつなげている結合(相互作用)の外れ易さを考えた場合に、超分子化学は本質的に動力学的な化学であると言える。さらに、超分子はその構築要素を入れ替えていくことができるために、多様化とコンビナトリアル的な考え方の導入が可能である。
無機化合物が分子認識、鋳型効果、そして相互変換の原理によって自己組織化を行っていく過程を解析することによって、動力学的コンビナトリアル・ケミストリー(dynamic combinatorial chemistry:DCC)という概念を作り出した。
従来のコンビナトリアル・ケミストリーが,単にライブラリー分子の組み合わせを行っていくものであるのに対してDCCではライブラリー分子自身に可逆的な組み合わせを行わせながらあらゆる可能性を自動的に探索させ、最終的には分子認識でもっとも相性のよい目的物を構築させる、ヴァーチャル・コンビナトリアル・ライブラリー(virtual combinatorial library:VCL)の実現が可能となる。このDCC/VCLの概念は有機化学のみならず、生体認識、触媒、材料等に応用することが可能である。このコンセプトをポリマーに応用し、新素材としての“ダイナマー”を提唱された。
(超分子化学:1978年Lehn教授らによって提唱された分野。分子に代表されるような基本単位が多数集合することによって、個々の分子では出し得なかった化学的、物理的機能を生み出す集合系の化学)
<招待講演G> [3/18(火)10:20〜11:00]
Stereocontrol in Radical Polymerization Using Lewis Acids
(ルイス酸を用いたラジカル重合における立体規制)
名古屋大学 岡本佳男 教授
高分子科学および高分子産業において、高分子合成反応における立体規制は非常に重要である。高分子の性質がその立体構造によって大きく変化するのが理由である。ラジカル重合法は、工業上広く用いられている高分子合成法であるが、立体規制が可能なラジカル重合法はこれまで殆ど報告されていなかった。
岡本教授らは、近年フルオロアルコール類あるいはトリフルオロメタンスルホン酸イッテルビウム等の希土類金属系ルイス酸存在下のラジカル重合が、ビニルエステルやメタクリル酸エステル類、アクリル酸エステル類の重合体の合成において、顕著な立体規制能を有することを発見した。 また、この触媒系を用いて反応条件を最適化することで、アクリルアミドやメタクリルアミドの高立体規制ラジカル重合を実現し、さらには、高度の分子量コントロールが可能なリビング重合の可能性を見出している。
<招待講演H> [3/18(火)11:00〜11:40]
Molecular Archtecture Using New Generation Catalysts
(新世代触媒を用いた分子構築)
ダウ社 K.W.スウォガー 副社長 (U.S.A.)
Dow社は、独自のCGC触媒を用いたMolecular Architecture(分子建築)と呼ばれるコンセプトに基づき、新規なポリオレフィン製品を開発、製造してきた(INSITE技術)。これらの触媒はシングルサイト触媒であることから触媒作用をモデル化して設計通りに製品品質をコントロールすることができる。この技術は従来にないビジネスモデルを生み出した。すなわち、触媒科学、製造プロセス設計、マテリアルサイエンス、顧客や市場のニーズの全てを一つのアプローチに統合し、一体化して進めるというものである。この新しいアプローチ方法であるDow社の“Six Dayモデル”は顧客のニーズをポリマー設計や経済的な生産方法にすぐに反映させることができる。このモデルによって安価な原料から付加価値の高い製品を生み出すようにINSITE技術を活用し、顧客ニーズと連動させて研究開発をスピードアップさせることで、1993年のスタート以来8製品ラインを立ち上げ、2000年にはポリオレフィン総生産量45万トンという大きな業績をあげている。さらに最近では、製品開発をスピードアップするために人材資源を効率的に活用していくシステムの開発を積極的に進めている。
<講演I> [3/18(火)11:40〜12:20]
Catalyst Innovations in Polyolefin Industry at Mitsui Chemicals
(ポリオレフィン産業における触媒革新:三井化学を例に)
三井化学 柏 典夫 博士
ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィンは現代社会にとって不可欠な材料であり世界総生産量は年間8,000万トンを超えている。PEの51%、PPの95%は、塩化マグネシウム担持型チタン触媒(Ti/Mg触媒)で生産されている。このTi/Mg触媒は三井化学が世界で初めて特許出願したもので、分布の狭いPEを従来のチーグラー触媒の100倍以上の活性で生産可能である。また、電子供与体を導入した触媒はPPの活性・立体規則性を飛躍的に向上させ、製造プロセスと製品品質を革新し、今日のポリオレフィン産業の隆盛をもたらした。さらに三井化学では、メタロセン触媒が実用化の段階にあり、長鎖分岐型ポリマーを創出、年産20万トンのメタロセン専用PEプラントを新設・稼動する等、最近話題の“シングルサイト触媒の実用化”の分野でも、世界初のトピックスを提供している。
将来研究として三井化学は、ポストメタロセン触媒による高温リビング重合やメタロセン触媒によるポリオレフィンへの官能基導入といった先進的研究実績に基づいてユニークなポリマーの創出に取り組んでいる。特に、結晶/非晶、極性/非極性といった全く性質の異なるポリマー同士を化学的に結合してナノレベルでポリマー相構造を制御することを重視している。現在、ポリオレフィン分子鎖上でラジカル重合や開環重合を進行させることに成功しており、ポリオレフィンと極性ポリマーのハイブリッドのナノ構造制御が実現しつつある。
以上
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