2005/3/23
各 位

三井化学 第2回 触媒科学国際シンポジウム開催について

三井化学株式会社
 当社(社長:中西宏幸)は、3月22日、23日の両日、千葉県木更津市のかずさアカデミアホールにて、前回を上回る多数のご参加を得て、「第2回触媒科学国際シンポジウム」を下記のとおり開催致しました。2回目となる今回は「精密合成を目指したグリーン触媒最前線」をテーマに、ノーベル賞受賞者であるSharpless教授(米、スクリプス研究所)を始め、国内外の産官学における触媒開発の先導者8名をお招きし、講演をいただきました。
 また、化学および化学産業の持続的発展に寄与する目的で昨年当社が制定した、触媒科学の分野で優れた業績をあげた研究者を表彰する『三井化学 触媒科学賞』の受賞者(Jacobsen教授:米、ハーバード大学、小林教授:東京大学)の表彰式および記念講演も併せてとり行いました。
 当社は、オレフィン重合触媒を中心に、触媒科学の分野で主導的な役割を担っております。今回のシンポジウムは、高機能材料・物質の創出を通して豊かな社会の発展に寄与する触媒科学について、世界中の研究者の交流の場と、新たな知の創造の場となることを期待して開催したものです。
 

1.シンポジウム名称: 三井化学第2回触媒科学国際シンポジウム
−精密合成を目指したグリーン触媒最前線-
(The Second Mitsui Chemicals International Symposium on Catalysis Science
-Green Catalysts for Specialty Chemicals-)
   
2.開催期日・会場: 期日:2005年3月22日(火)〜23日(水)
会場:かずさアカデミアホール(千葉県木更津市)
   
3.講 演 者:
基調講演: K. Barry Sharpless 教授(米、スクリプス研究所)
招待講演: 香月 勗 教授(九州大学)
Eric N. Jacobsen 教授(米、ハーバード大学)
Richard R. Schrock 教授(米、マサチュ−セッツ工科大学)
昇 忠仁 研究主幹(三井化学株式会社)
藤嶋 昭 理事長(神奈川科学技術アカデミー)
Patrick R. Gruber 博士(米、ネイチャーワークス社)
Roger A. Sheldon 教授(蘭、デルフト工科大学)
記念講演: (『三井化学 触媒科学賞』受賞者)
Eric N. Jacobsen 教授(米、ハーバード大学)
小林 修 教授(東京大学)
   
4.参加者: 国内外の大学、企業を中心に約1,200名
   
5.開 催 団 体:
主催: 三井化学株式会社
後援: (自治体)千葉県、袖ケ浦市、市原市、木更津市、茂原市
(学 会)日本化学会、高分子学会、触媒学会、石油学会、
有機合成化学協会、化学工学会
別紙1:当社中西社長による開会挨拶
別紙2:講演内容の要旨
本件に関するお問合せ先: 三井化学株式会社 IR・広報室長  古賀義徳
電話:03-6253-2100

別紙1
<開会挨拶>[3/22(火)10:00〜10:10]
三井化学株式会社
社長 中西 宏幸
皆さんおはようございます。ご列席の皆様、本日はここに第2回触媒科学国際シンポジウムを開催することができましたことを大変光栄に思っております。これもひとえに、本シンポジウムの主旨に賛同され、本会場にお集まりいただきました講演者の方々、触媒科学の発展に寄与されている産官学から多数ご参加いただいた皆様のおかげと感謝致します。組織委員会と三井化学を代表致しまして一言ご挨拶を申し上げます。
 
 21世紀において、科学技術は人類の生活、経済社会の発展に一層貢献することにより、世界の持続的発展に寄与することが期待されています。地球規模での資源の有効利用や、生産−使用−廃棄−リサイクルを視野に入れた高機能材料・物質の創出において触媒科学の進展はまさにその原動力となっています。そして、真に豊かな社会を作り上げるためには、科学技術を駆使するさまざまな産業・業種が、領域・分野を越えて、新たな知の創造に向け挑戦することが不可欠です。
 
 三井化学は「地球環境との調和のなかで、材料・物質の革新と創出を通して、高品質の製品とサービスを顧客に提供し、もって広く社会に貢献する」ことを企業理念として掲げています。優れた触媒の開発は化学産業における生産性を飛躍的に向上させ、また環境負荷を著しく低減します。触媒科学が21世紀の新産業創造を導くと言っても過言ではなく、三井化学は、最先端の触媒開発を、長年に亘り培ってきた科学のネットワークを活用しながら取組んでいます。
 
 このネットワークを基に、世界の第一線の触媒研究者にお集まり頂き、2003年3月に「重合触媒最前線」をテーマとして、三井化学第1回触媒科学国際シンポジウムを開催いたしました。このシンポジウムでは、高機能材料・物質を創出するポリマーの触媒について、組織の壁を越えた研究交流が行われ、有意義なシンポジウムであったと高い評価を頂きました。
 
 そして今回は、ファインケミカルズ、医薬、農薬などの分野において、様々な機能を有する新しい物質や合成法の創出をもたらし、社会の持続的発展を目指した機能性材料創出に利用される触媒科学の研究に焦点を当て、「精密合成を目指したグリーン触媒最前線」をテーマとして、三井化学第2回触媒科学シンポジウムを開催することと致しました。
 
 このシンポジウムには国内外の産学における8名の触媒開発の先導者にお集まりいただくことができました。まず、2001年にノーベル化学賞を受賞されたスクリプス研究所のシャープレス教授に基調講演をしていただきます。そして、本日は香月教授、ジェイコブセン教授、シュロック教授そして昇博士にご講演いただきます。そして明日は、藤嶋教授、グルーバー博士、そしてシェルドン教授にご講演いただきます。このように触媒科学について世界をリードする研究をされている方々にご講演いただき、触媒科学の最先端の研究成果を共有することができると共に、先生方の日頃の研究に対する考え方についてもお聞きすることができ、非常に有意義なシンポジウムになると期待しております。
 
 そして、三井化学は今年度、触媒科学の分野で優れた研究業績を挙げた研究者を称え、化学および化学産業の持続的発展に寄与することを目的に、新たに「三井化学 触媒科学賞」を制定いたしました。受賞者につきましては、既に三井化学ホームページ、学会誌などに掲載させていただいておりますが、本シンポジウムにおいて、授賞式および受賞者の記念講演を行います。
 
 また、本シンポジウムを開催するにあたり、6学会、5自治体など各方面からご支援、ご援助をいただいております。この場を借りて御礼申し上げます。
 
 最後に、高機能材料・物質の創出を通して豊かな社会の発展に寄与する触媒科学について、本シンポジウムが、世界中の研究者の交流の場と、新たな知の創造の場となることを希求いたします。

別紙2
<基調講演>[3/22(火)10:10〜11:10]
An Asymmetric Odyssey Leading Back to Its Port of Origin
(不斉触媒探求の旅: 原点に立ち返って)
スクリプス研究所 K. B. シャープレス教授 (米国)

 化学合成の最も基本的かつ恒久的な目的は、新しい機能の創出である。シャープレス教授は、クリックケミストリーと呼ばれる、機能性物質を創出するための新しい合成戦略を紹介した。
 自然界では、核酸、アミノ酸、糖などの限られた構成単位から、ヘテロ元素(N,O)を介する架橋により、無数の生体機能物質を構築している。シャープレス教授は、炭素−ヘテロ元素結合築のための「選りすぐりの」クリック反応を利用して、多様な分子が構築可能になることを明らかにした。クリック反応とは、分子のヘテロ架橋を構築するための優れた反応の総称である。クリック反応の基質は、反応点に高エネルギー状態の官能基を有しており、特定の環境下で高い反応性と選択性を伴って結合が形成される。この要件を満たす反応の中でも、アジドと末端アセチレン類の1,3-双極子反応によるトリアゾール生成は最も優れたクリック反応といえる。シャープレス教授は、クリック反応を利用した分子構築が、医薬品や高分子材料などの機能分子創出の強力な方法論となることを実証している。
 例えば、標的酵素に対し親和性を示す2種の分子中に、アセチレンおよびアジドを予め組み込んでおき、酵素存在下に両者を混合すると、酵素ポケットに最もフィットした状態で反応点が近接する基質のみが反応促進を受ける。この方法はin situ クリックケミストリーと呼ばれ、世界最高の活性を有するAChE 阻害剤を創出している。一方、上記の1,3-双極子反応は、銅の存在下に著しく加速され、高収率でトリアゾールが生成する。この反応はデンドリマーなどの高分子合成に有効であり、高分子接着剤などの創出に応
用されている。
 
 
<招待講演(1)>[3/22(火)11:15〜12:00]
A study aiming for environmentally benign reactions
(環境に負荷をかけない合成化学を目指して)
九州大学 香月 勗 教授

 香月教授は、常温条件下で、過酸化水素、アジド化合物や空気を反応させ、選択的にC-O 結合やC-N 結合の形成を行い、光学活性化合物を合成する種々の手法を見出している。
 今回は、最新の情報も含め、酸化反応触媒に関して2 つのトピックスが報告された。
 
1)サレンチタニウム錯体触媒による不斉酸化反応
過酸化水素を酸化剤とした、硫黄原子の不斉酸化反応と、オレフィンの不斉エポキシ化反応が報告された。常温条件下に、原子効率のよい30%過酸化水素水を酸化剤とした、新しいサレンチタニウム錯体触媒による不斉エポキシ化反応では、これまでにない高い光学純度、収率や触媒活性が達成されている。
 
2)サレンルテニウム錯体触媒による空気酸化反応
ニトロシル基を持つサレンルテニウム錯体が光照射により活性化され、常温条件下、空気を酸化剤として、種々のアルコールを選択的に酸化できることが報告された。例えば、1 級水酸基のみを選択的にアルデヒドに酸化することや、対称なジオールを選択的に酸化して光学活性なラクトール体を合成することができる。
 
これらの触媒は、高い選択性を示すばかりでなく、常温条件下に過酸化水素や空気を酸化剤として利用できることで、環境への負荷が低い反応を実現している。
 
 
<招待講演(2)>[3/22(火)13:30〜14:15]
Synthetic and Mechanistic Studies in Asymmetric Catalysis
(不斉触媒における合成化学的および反応機構的研究)
ハーバード大学 E. N. ジェイコブセン教授 (U. S. A.)

 ジェイコブセン教授らは、幅広い基質に対して高いエナンチオ選択性を示す新規な3種の金属錯体触媒および1種の非金属触媒を創出した。新規な3種の金属錯体触媒とは、サレンコバルト錯体触媒、サレンアルミニウム錯体触媒およびキラルなシッフ塩基−クロム錯体触媒である。
 本日はこれらの新規不斉触媒の中で、非金属触媒であるキラルなウレアおよびチオウレア触媒を中心にご講演された。本触媒は、金属元素を含まないキラルなウレアまたはチオウレアであることに構造上の特色がある。触媒の創出には、コンビナトリアルケミストリーの手法が利用された。
 この触媒は、まずイミンに対する不斉ストレッカー反応に用いられ、基質構造に依存しない高いエナンチオ選択性を実現した。加えて、イミンに対する不斉マンニッヒ反応、ケトンに対する不斉シアンヒドリン反応等に適用され、さらには、光学活性なβ−カルボリン化合物の合成を実現した。この触媒技術は、(+)-Yohimbin などの複雑な天然物の合成に応用された。
 反応機構的な考察としては、反応基質であるイミンおよびケトン等に対する2重の水素結合様式による活性化(Dual hydrogen-bond mode)が触媒作用の鍵となっている。この触媒技術を応用することで、天然から得ることが難しいアミノ酸誘導体を始めとする様々なキラルビルディングブロックの合成が可能となった。また、今回紹介したキラルなウレアおよびチオウレア触媒は、万能な不斉触媒の新たな1グループとなるものと期待している。
 
 
<招待講演(3)>[3/22(火)14:15〜15:00]
Chemistry of High Oxidation State Molybdenum and Tungsten Complexes that Contain a Multiple Metal-Carbon Bond.
(遷移金属-炭素間に多重結合を持つ高酸化状態モリブデン及びタングステン錯体の化学)
マサチューセッツ工科大学 R.R.シュロック 教授 (U. S. A.)

 高酸化状態のアルキリデン錯体はオレフィンメタセシス反応の触媒になることが広く知られている。この発見は、1974 年、高酸化状態のタンタルカルベン錯体の合成に成功したことに端を発する。それ以降、アルキリデン錯体は環状オレフィンの開環メタセシス重合(ROMP)、アセチレン化合物の重合、及び閉環メタセシス重合等の重合触媒としてだけではなく、不斉メタセシス反応触媒として有機合成に利用されている。
 触媒反応では、嵩高い配位子の選択が重要であり、その選択により反応が制御される。アルコキシ配位子とイミド配位子は最も優れた制御性を発現する配位子の1 例であり、これらを有するモリブデン錯体及びタングステン錯体は反応制御性に優れた触媒となる。教授らは30 年間、3 つの問題に関心を持ってきた。どの化合物からアルキリデンを発生させるか、アルキリデン錯体がどの反応の触媒になるか、そしてアルキリデン錯体がどのように分解するかである。講演では、最近の研究成果に併せて、@高酸化状態アルキリデン錯体の合成と発展、Aアルキリデン錯体触媒を用いた種々のメタセシス反応例Bアルキリデン錯体の分解(再生)機構について紹介された。
 
 
<招待講演(4)>[3/22(火)15:30〜16:15]
Development of New Phosphazene Catalysts and the Industrial Applications.
(新規ホスファゼン触媒の開発とその工業化)
三井化学(株) マテリアルサイエンス研究所 昇 忠仁 研究主幹

 三井化学は、高効率化学反応による「プロダクトイノベーション」と「プロセスイノベーション」を通して環境への負荷の少ない化学物質製造プロセスの実現を目指している。その高効率化学反応を達成するための重要な方法の一つとして、高い反応性と高い選択性をもつ高効率触媒に着目し、独自の触媒設計概念に基づいて金属を含まない”ホスファゼン触媒”を開発した。
 ホスファゼン触媒を用いることにより、多くの高効率化学反応やこれまで困難とされた化学反応や化学の常識を覆す反応を達成した。例えば、@従来製造が困難な高純度・高分子量ポリオールの製造を可能にし、このポリオールが高性能シートクッション用ウレタン樹脂の原料となることを見出した。2004年度、年産1万トン規模のポリオール生産を開始している。A従来困難とされたフェニルエステルとエポキシ化合物の熱硬化反応を進行させることに成功し、新しいタイプの低吸湿性IC 封止材を創出した。BMMA等ニルモノマーの重合反応において、分子量の揃ったポリマーを触媒的に合成できることを見出し、高Tg及び高耐熱PMMAの創出に成功した。Cこれまで不可能とされた芳香族塩素化合物の核置換反応(例えばクロロベンゼンからアニソールの合成)を、極めて温和な条件下かつ高収率で進行させることに成功した。このように@からCのような、工業薬品から医薬品中間体まで多岐に渡る分野において、「プロダクトイノベーション」と「プロセスイノベーション」を実現した。
 
 
<「三井化学 触媒科学賞」受賞記念講演(1)>[3/22(火)16:50〜17:05]
A Search for Selective yet General Catalysts
(選択性と一般性の両立をめざして)
ハーバード大学 E. N. ジェイコブセン教授 (U. S. A.)

 触媒は、幅広い基質に対応可能であるという一般性を持つ一方で、反応性をコントロールすることによって高い選択性を兼ね備えることができる、という概念はとても重要である。ある特定の構造をした不斉配位子は反応機構の異なる反応に対して非常に広範に有効である。この種の“privileged ligands (万能な配位子)”は様々に活用され、新たなエナンチオ選択的反応発見のための起点ともなる。
 ジェイコブセン教授は、反応基質に対して一般性があり、高いエナンチオ選択性を有する特別な触媒反応系の発見とその反応機構の解明に大きく貢献した。これらの万能な配位子を用いて、エポキシドの不斉開環反応やα,β−不飽和カルボニル化合物に対する不斉共役付加反応に有効なサレン金属錯体触媒を創出した。また、不斉環化付加反応に有用なシッフ塩基−クロム錯体触媒および不斉ストレッカー反応に有効なチオウレア触媒を見出した。特に、サレンコバルト錯体触媒を用いることで、ラセミのエポキシド化合物に対する加水分解反応を用いた非常に効率的な速度論的光学分割が可能となった。本触媒技術を応用することで、光学活性なエピクロロヒドリンが年産250トンスケールで商業生産されている。
 “privileged ligands(catalysts)” ・・・直訳すると「特権的な配位子(触媒)」となりますが、さまざまな反応や幅広い基質に対して有効な「非常に優れた(万能の)配位子(触媒)」といった意味合いと考えられます。
 
 
<「三井化学 触媒科学賞」受賞記念講演(2)>[3/22(火)17:05〜17:35]
Development of Novel Catalysts Directed toward Environmetally Benign Organic Synthesis.
(環境低負荷型有機合成反応を志向した新規触媒の開発)
東京大学大学院薬学系研究科 小林 修 教授

 有機合成において、触媒の果たす役割は極めて大きい。これまで触媒には、高い化学収率、選択収率を穏やかな条件下で実現することが要求されてきた。小林教授の研究グループはこれらに加えて、地球環境に負荷を加えない、いわゆる環境にやさしいプロセスの実現においても、触媒が鍵を握っていると考え、新しい概念のルイス酸触媒技術を開拓し、独創的で環境低負荷型の有機合成分野を展開している。
 特に、水中でも安定かつ高い触媒活性を示す新しいルイス酸触媒の開発は、ルイス触媒のこれまでの常識を覆し、環境に優しい水の中での反応を可能にするなどグリーンケミストリーに大きく道を開いた。このことが高く評価され、小林教授は三井化学触媒科学賞を受賞した。本日はその受賞記念講演として、最近の研究例である「水を溶媒として用いる合成反応の開発」について紹介された。具体的には希土類金属トリフラート等の「水溶液中で安定なルイス酸触媒」を、炭素-炭素結合生成反応を中心に種々の有機合成用の触媒として展開している。さらに、触媒に界面活性作用を持たせることによりコロイド状態を形成することで触媒を反応基質に取り込んだ反応場を構築し、水に不溶または不安定な化合物でも触媒反応が可能であることを示した。(不斉アルドール/マニッヒ反応、基質選択的エステル化等) これらの反応は学術的な見地のみならず、産業の面から見ても、環境低負荷型の新しい製造プロセス構築が期待できる研究成果であると考えられる。
 
 
<招待講演(5)>[3/23(水)10:00〜10:45]
TiO2 Photocatalysis: Present Situation and Future Direction
(TiO2 光触媒:現状と将来動向)
神奈川科学技術アカデミー 藤嶋 昭 理事長

 1972 年に見出されたTiO2 による水の光電気分解が、本多−藤嶋効果として世界の注目を集め、現在のTiO2光触媒の研究発展へ結びついている。また、約10 年前には、TiO2が光によって超親水性となる現象を報告し、新しいセルフクリーニングの概念へ発展された。
 今回は、抗菌、脱臭、防曇、防汚などの効果を利用し、環境浄化、自動車、住宅、電気、農業、医療などの幅広い分野で、非常に多くの製品開発が急速に進んでいる事が紹介された。特に、ビル外壁への利用や、新型新幹線の喫煙車輌の空気清浄器への利用が進んでいること、また、窒素を添加したTiO2 が、紫外線だけではなく、可視光でも光触媒作用を示すことが報告された。
 平成14 年には光触媒標準化委員会が発足され、その委員長に就任されている。信頼される製品を開発するためには、同じ基準で性能を評価することが必要であり、4つの分科会で国際標準化に取り組んでいる。
 また、平成16 年7 月には、神奈川科学技術アカデミー内に光触媒ミュージアムを開設し、光触媒をわかり易く解説するとともに、応用製品の展示を行ない、大きく拡大すると予想されている光触媒産業の発展に貢献している。
 
 
<招待講演(6)>[3/23(水)10:45〜11:30]
Chemicals from Renewable Resources
(再生可能資源由来の材料)
ネイチャーワークスLLC パトリック R. グルーバー 博士 (U. S. A.)

 ポリ乳酸(PLA)は食品トレーや紙ラミなど、その使用が拡大している。持続可能な材料のコンセプトは機能、価格、環境負荷等の面で優れ、さらに、安全なものだけで構成されていることなどである。ポリ乳酸は乳酸(HLA)から環状二量体であるラクチドを合成してそれを環開重合することで得られる。カーギルプロセスでは無溶媒で有害物を排出しない経済的なプロセスとなっており、汎用のPET樹脂と比較して、単位生産量あたりエネルギー換算で35%、炭酸ガス排出量で52%少ない。価格競争力においてもPETが視野に入る段階にある。
 ポリ乳酸の中間原料である乳酸は主にトウモロコシを原料にした発酵・酸調整・分離3工程からなる。
 将来の目標の内、耐酸性菌体や原料の多様化を解決するとプロセスが大幅に簡素化でき、炭酸ガスと硫酸カルシウムなどをさらに低減できる。
 バイオ由来の原料は炭素が保存される点で重要である。乳酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、コハク酸は化学触媒を組み合わせることでそれらをキー原料として多くの重要な化学品群が石油を原料とせずに製造可能となる。このようなバイオリファイナリーシステムが今後、進歩していくであろう。
 原油価格の高騰にもかかわらずトウモロコシ価格はより安いまま安定しており、また、地域リスクが少ない。化石原料は20―75年にピークを迎え、再生可能資源であるバイオ材料が魅力あるものとなると考えられる。
 
 
<招待講演(7)>[3/23(水)11:30〜12:12]
Green Chemistry and Catalysis for the Sustainable Production of Specialty Chemicals
(高付加価値化学品の持続的生産のためのグリーンケミストリーと触媒)
デルフト工科大学 R. A. シェルドン教授 (オランダ)

 今日の化学産業においては、製品収率を主眼とするプロセス効率の概念から、環境負荷の低減に経済価値を与える新概念へのパラダイムシフトが必然である。グリーンケミストリーは、現在世代と次世代のニーズに共に応えつづけるための手段であり、資源・エネルギーの効率的利用あるいは再生利用を通じて廃棄物を削減し、有害あるいは危険な物質の使用を回避する技術である。
 シェルドン教授の定義したEファクター(製品1kg あたりの廃棄物量)の考察によると、精密化学品・医薬品製造における環境負荷が極めて高いことが明らかになる。この問題は、化学量論的な反応剤の使用に起因しており、その解決策が触媒反応への転換であることは明らかである。触媒技術によるプロセスのグリーン化事例として、カプロラクタム製造(触媒的ベックマン転位)、アスパルテーム製造(酵素法ペプチド化)などが紹介された。
 酵素はその優れた反応特性と環境負荷の低さから魅力ある触媒であり、遺伝子工学や蛋白工学を活用した性能向上によってプロセスの経済性を高められる可能性も有している。酵素を活用してプロセスのグリーン化と合理化を両立させた例として、セファレキシン(抗生物質)や、リピトール(高脂血症治療薬)の製造プロセスを合理化した事例が紹介された。
 究極的にクリーンな触媒技術は、細胞工場の再現(=連続する工程のワンポット触媒プロセス化)である。この課題に対するアプローチとして、@酵素と化学触媒の組み合わせによるワンポットプロセス、A効果的な酵素固定化法である架橋化酵素縮合体(CLEA)を更に応用し、連続する多段階反応を触媒する複数の酵素を固定化したコンビCLEA、が紹介された。
 
 最後にシェルドン教授は、プロセスのグリーン化の鍵は触媒技術であり、その流れは化学触媒と生体触媒の統合的活用に向かっており、そのためには触媒固定化が有効な技術になると結論付けた。