2007/3/16

各 位

三井化学 第3回 触媒科学国際シンポジウム(MICS2007)」
開催について

三井化学株式会社

 

 当社(社長:藤吉建二)は、3月14−15日、千葉県木更津市のかずさアカデミアホールにて、「重合触媒 −現在そして未来−」をテーマに「三井化学 第3回 触媒科学国際シンポジウム(MICS2007)」を開催し、国内外の産・官・学の各種機関から、前回を大幅に上回る延べ1,600人の参加をいただきました。「三井化学 触媒科学国際シンポジウム(MICS)」は当社が2003年より「夢のあるものづくり」を支える触媒科学の発展を目的として開催しており、今回が3回目となります。

 本シンポジウムでは、ノーベル化学賞受賞者であるLehn 教授(ルイ・パスツール大学、仏)、Grubbs 教授(カリフォルニア工科大学、米)、Schrock 教授(マサチューセッツ工科大学、米)をはじめ、世界の触媒科学の先導者11名から、新しい機能性材料を創出する重合触媒の現状と可能性についてご講演をいただき、活発な討議と研究交流が行われました。

 あわせて、触媒科学の分野で優れた業績をあげた研究者を表彰する2007 年『三井化学 触媒科学賞』および『三井化学 触媒科学奨励賞』の授賞式および記念講演もとり行いました。

1.シンポジウム名称:

三井化学 第3回 触媒科学国際シンポジウム
 重合触媒−現在そして未来-

(The Third Mitsui Chemicals International Symposium on Catalysis Science
Polymerization Catalysis-Current Status and Future Prospects-)

2.開催期日・会場:

期日: 2007年3月14日(水)〜15日(木)
会場: かずさアカデミアホール(千葉県木更津市)

3.講 演 者

 

基調講演(2件)

J.-M. Lehn 教授 (ルイ・パスツール大学、仏)
R. H. Grubbs 教授 (カリフォルニア工科大学、米)

 

特別講演(1件)

R. R. Schrock 教授 (マサチューセッツ工科大学、米)

 

招待講演(8件)

R. F. Jordan 教授 (シカゴ大学、米)
H. R. Kricheldorf 教授 (ハンブルグ大学、独)
L. Cavallo 教授 (サレルノ大学、伊)
J. C. Stevens 博士 (ダウ・ケミカル社、米)
野崎京子教授 (東京大学)
増田俊夫教授 (京都大学)
田中栄司氏 (三菱化学株式会社、執行役員)
藤田照典博士 (三井化学株式会社、研究主幹/触媒科学研究所長)

 

記念講演(4件)

2007 年『三井化学 触媒科学賞』受賞者

 

侯召民(Zhaomin Hou)博士 (理化学研究所、主任研究員)
Gregory C. Fu 教授 (マサチューセッツ工科大学、米)

2007 年『三井化学 触媒科学奨励賞』受賞者

 

寺尾潤助手 (大阪大学)
陳志宏(Michael C. W. Chan)助教授 (香港市立大学、香)

4.参 加 者

約1,600名

5.開催団体

主催:

三井化学株式会社

後援:

(自治体)

千葉県、袖ケ浦市、市原市、木更津市、茂原市

 

(学 会)

日本化学会、高分子学会、触媒学会、石油学会、
有機合成化学協会、化学工学会

別紙1:当社藤吉社長による開会挨拶
別紙2:講演内容の要旨

本件に関するお問合せ先

 

別紙-1

【開会挨拶】〔3月14日(水)10:00〜10:10〕

三井化学株式会社
社長 藤吉 建二

 本日は第3回触媒科学国際シンポジウム、MICS2007にようこそお越しくださいました。本日ここにMICS2007を開催できましたことは、ひとえに本シンポジウムの主旨に賛同され、国内外、産学官より本会場にお集まりいただきました皆様のおかげです。MICS2007組織委員会を代表致しまして深くお礼申し上げます。 「三井化学 触媒科学国際シンポジウム(MICS)」は、「夢のあるものづくり」を支える触媒科学の発展を目的として、2003年より開催されております。第1回は「重合触媒最前線」、第2回は「精密合成を目指したグリーン触媒最前線」をテーマとして、触媒科学における世界の著名な研究者にご講演を頂くとともに、多くの皆様と活発な討議を行いました。 第3回となる今回は、「重合触媒 −現在そして未来−」と題して、新しい機能性材料を創出する重合触媒の現状と将来の可能性について討論いたします。
 今回のシンポジウムでは、産学における11名の世界的に著名な触媒研究者にご講演いただけることになりました。まず本日は、基調講演として、1987年にノーベル化学賞を受賞されたルイ・パスツール大学のレーン教授、続いて特別講演として2005年にノーベル化学賞を受賞されたマサチューセッツ工科大学のシュロック教授にお願いしました。招待講演として、クリへルドルフ教授、増田教授、藤田博士にご講演いただきます。 明日は、基調講演として、2005年にノーベル化学賞を受賞されたカリフォルニア工科大学のグラブス教授にお願いしました。続きまして招待講演として、野崎教授、田中氏、カバーロ教授、スティーブンス博士、ジョーダン教授にご講演いただきます。また、本日は、2007年『三井化学 触媒科学賞』の授賞式および受賞者の記念講演を行います。
 今回、シンポジウムを開催するにあたり、6学会、5自治体など各方面からご支援をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。
 最後に、本シンポジウムが、世界中の触媒科学研究者が交流し新たな知を創造する場となることを期待しております。

 

別紙-2

【基調講演・特別講演】
<基調講演(1)>[3/14(水)10:10〜10:55]
From Supramolecular Chemistry to Constitutional Dynamic Chemistry
(超分子化学からダイナミックケミストリーへ)

J.-M. Lehn 教授 (ルイ・パスツール大学、仏)

 Lehn 教授は、“超分子化学”の創始者であり、高選択的に構造特異的な相互作用をする分子の開発と応用により1987 年度ノーベル化学賞を受賞した。共有結合に基礎を置き、ある決まった形状の分子構築を目的とするこれまでの分子化学に対し、超分子化学は分子間の可逆的な相互作用と自発的な集合(自己組織化)により形成される分子を対象としている。さらにLehn 教授は自身の超分子化学の概念を展開し、可逆的な共有結合を有する分子に適用したダイナミックケミストリー(CDC)を提唱する。CDC とは種々の反応物を可逆的に反応させながら様々な組み合わせを自動的に発生させ、最終的には互いの分子認識で最も目的に合った化合物を構築する手法である。本講演では、CDC による生体系や材料科学へのアプローチを中心に紹介した。

<特別講演>[3/14(水)10:55〜11:40]
The Development and Use of Modern Olefin Metathesis Catalysts for Organic and Polymer Chemistry
(有機及び高分子化学のための現代オレフィンメタセシス触媒の開発と利用)

R. R. Schrock 教授 (マサチューセッツ工科大学、米)

<基調講演(2)>[3/15(木)10:00〜10:45]
Olefin Metathesis for the Synthesis of Large and Small Molecules
(オレフィンメタセシスによる大型分子・小型分子の合成)

R. H. Grubbs 教授 (カリフォルニア工科大学、米)

 メタセシス(methathesis)とはギリシャ語のmetha(変化)とthesis(位置)の合成語であり、オレフィンメタセシスとは、オレフィン化合物の二重結合部分の組替えより別のオレフィン化合物が生成する反応である。Schrock 教授、Grubbs 教授はオレフィンメタセシス反応触媒研究の先駆者であり、メタセシス機構を明らかにしたフランス石油研究所名誉研究部長のChauvin 博士らと共に2005 年度ノーベル化学賞を受賞した。

 Schrock 教授の開発したモリブデンおよびタングステン錯体触媒は非常に高い反応性を示し、かつ、その中心金属に結合した基の電子的特性や立体構造の変換により、反応性や生成物の構造の広範かつ精密な制御が可能である。本講演では、高度に設計されたモリブデンおよびタングステン錯体触媒による最新のメタセシス反応の展開(閉環メタセシス重合での立体構造制御や高活性触媒のより実用的な調製法など)について紹介した。

 Grubbs 教授の開発したルテニウムをベースとする新規なメタセシス触媒は、高い反応性と安定性、また従来触媒の弱点であった極性官能基に対する耐性を兼ね備える優れた触媒であり、その性質を生かして、適用可能な反応系を飛躍的に拡大することが可能となった。その優れた反応性と汎用性は、それまでの錯体触媒の概念を大きく超えるものであり、有機合成化学や高分子合成化学など広範囲の分野で高く評価されている。本講演では、その触媒系の設計および開発、さらにその特長を利用した新しい医薬品の合成や、精密に構造制御された機能性ポリマーの創出に至る様々な応用について紹介した。

【招待講演】
<招待講演(1)>[3/14(水)13:15〜14:00]
Syntheses of (Biodegradable) Polymers by Means of Bismuth Catalysts and Initiators
(ビスマス触媒系による生分解性ポリマーの合成)

H. R. Kricheldorf 教授 (ハンブルグ大学、独.)

 Kricheldorf 教授は環状ポリエステルの開環/環拡大重合による生分解性ポリマー合成の第一人者であり、触媒や重合開始剤の開発、反応機構の解明、機能性材料への応用といった幅広い領域でこの分野をリードしている。
 ポリ乳酸などに代表される生分解性ポリマーは、生体適合性が高く環境にやさしい材料として注目を集めている。これまでの開環重合には、主にスズ系の触媒が一般に用いられていたが、Kricheldorf 教授は、より安全性に優れた高性能のビスマス系触媒を開発した。この触媒を用いることで、既存の触媒では困難であったポリエステル系ブロックポリマーの合成が可能となり、生成するポリマーは従来と異なる有用な物性を示すことを明らかにした。本講演では重縮合による高分子合成への応用を紹介した。
 ブロックポリマー:異なる性質のポリマーが複数個結合したブロック状の構造を持つポリマー

<招待講演(2)>[3/14(水)14:00〜14:45]
Design of Polymerization Catalysts and Synthesis of Substituted Polyacetylenes
(重合触媒の設計、および新規触媒を用いた置換ポリアセチレンの合成)

増田 俊夫 教授 (京都大学)

 増田教授は遷移金属触媒を用いる置換アセチレン重合の分野において、触媒の設計をはじめ、生成する置換ポリアセチレンの物理的・化学的機能の解明、機能性材料への応用、高次構造の構築など、幅広い研究を展開している。
 本講演では、分子量や立体規則性が高度に制御された置換ポリアセチレンの合成と触媒開発について発表する。また、これらのポリマーの優れた選択的気体透過性を活かした酸素や二酸化炭素の分離膜への応用をはじめ、電子・光特性の解析、特異ならせん構造の構築などについても紹介した。

<招待講演(3)>[3/14(水)14:45〜15:30]
Discovery and Development of FI Catalysts for Olefin Polymerization: Unique Catalysis and Distinctive Polymer Formation
(FI 触媒の開発と差別化ポリマーへの展開)

藤田 照典 博士 (三井化学株式会社、触媒科学研究所)

 藤田博士はFI 触媒に代表されるオレフィン重合用イミン系4族金属錯体触媒の開発者であり、新規錯体触媒によりオレフィン系機能性材料の創出に挑んでいる。
 藤田博士により独自に見出されたFI触媒は、極めて高いオレフィン重合活性を有するだけでなく、種々のユニークな触媒作用を示す。その特徴を活かして、超高分子量及び極低分子量ポリマーや超狭分子量分布ポリマー、オレフィン系マルチブロックポリマーなど、従来触媒では合成困難な種々のポリオレフィンが製造可能である。この高性能かつ独創的なFI触媒の発見は、オレフィン重合触媒研究の分野に大きなインパクトを与え、さらに現在では様々な機能性を有するオレフィン系ポリマーの創製へと発展している。本講演では、FI触媒の発見と開発および機能性ポリオレフィン合成への展開について解説した。

<招待講演(4)>[3/15(木)10:45〜11:30]
Controlled Coordination Polymerization Catalyzed by Group 10 Metal Complexes
(10族金属触媒を用いる精密配位重合)

野崎 京子 教授 (東京大学)

 野崎教授は遷移金属錯体触媒を用いた不斉合成反応の第一人者であり、有用な有機化合物の触媒的不斉合成法の開発にとどまらず、その反応を重合に展開し、立体構造が高度に制御された様々な機能性合成高分子を創出している。
 野崎教授は新しい金属錯体触媒の開発に取り組み、パラジウムを中心とした独自の10族金属錯体触媒の開発に成功した。本触媒は、従来困難であったオレフィンと極性モノマー(例:エチレンとアクリル酸メチルやアクリロニトリルなど)の共重合において特異な重合制御能力を示し、従来の分岐型とは異なる直鎖状のポリマーの合成が可能となった。また、これまで報告例の無かった配位重合による酢酸ビニルと一酸化炭素との交互共重合体の合成にも成功している。本講演では、上記の触媒系とそれを用いた様々な重合に関して紹介した。
 不斉合成反応:生成する複数の立体構造のうち、目的の構造のみを作り分ける合成手法

<招待講演(5)>[3/15(木)13:15〜14:00]
Clay Mineral Supported Metallocene and Post-metallocene Catalysts for Olefin Polymerization
(粘土鉱物担持メタロセン及びポストメタロセンオレフィン重合触媒)

田中 栄司 氏 (三菱化学株式会社、執行役員)

 三菱化学の執行役員で科学技術戦略室長である田中氏は、長期的視点に基づいた、革新的な技術、製品の創出を目指す同社の推進力である。
 三菱化学が独自に開発したアズレン型メタロセン触媒は、プロピレン重合における特徴的かつ高度な立体制御性能を有し、ユニークなポリオレフィン材料の製造を可能にした。更に、触媒担体に活性化剤としての機能を持たせた“Support Activator (担体助触媒)”を用いるという斬新な発想を採り入れ、その担体として粘土鉱物を使用することで、更なる高活性化を実現した。この技術により、世界に先駆けてメタロセン触媒によるポリプロピレン工業化が可能となった。本講演では、このアズレン型メタロセン触媒と粘土鉱物担体の開発に関して解説した。

<招待講演(6)>[3/15(木)14:00〜14:45]
Mechanisms of Stereoselective Polymerizations
(立体規則性重合のメカニズム)

L. Cavallo 教授 (サレルノ大学、伊)

 Cavallo 教授は、触媒科学における計算化学分野の第一人者であり、革新的な計算手法(QM/MM 法)を開発し、従来は単純なモデルでしか実現できなかったオレフィン重合触媒の反応機構解析において、より実際に近い系での精度の高い計算を可能とした。
 プロピレンなどのαオレフィンをモノマーとして合成されるポリマーは、その側鎖の配列の仕方により種々の立体構造をとる。この場合、生成するポリマーの立体規則性は、触媒の中心金属及び配位子と反応するモノマーとの相互作用により決定される。本講演では、この立体規則性の発現要因について、古典的なオレフィン重合触媒であるチーグラー・ナッタ触媒から始まって、メタロセン触媒、最近のポストメタロセン触媒までを計算科学的な手法を用いて論理的に説明した。

<招待講演(7)>[3/15(木)15:05〜15:50]
Teaching Old Polyolefins New Tricks with Modern Catalysts
(最新触媒を用いた古典的ポリオレフィン分野への新たな仕掛け)

J. C. Stevens 博士 (ダウ・ケミカル社、米)

 Stevens 博士はダウ・ケミカル社のリサーチ・フェローとして機能性ポリオレフィン開発を主導し、拘束幾何形状金属触媒(CGC)と呼ばれるハーフメタロセン触媒およびそれを用いた”INSITE”重合技術の発見と商業化に貢献した。
 本講演では、ダウ・ケミカル社がここ数年来、精力的に取り組んでいる高速スクリーニング手法を用いた新規オレフィン重合触媒開発、およびその代表的な開発成功例であるアイソタクチックポリプロピレン用高性能重合触媒について紹介した。また、同手法を用いた最新の成果として、“Chain Shuttling (可逆的連鎖移動反応)”と呼ばれる画期的な方法を導入した触媒系の発見や、それによって初めて工業的に製造可能となったエチレン系のブロックポリマー(高耐熱性と柔軟性の相反する物性を併せ持つポリマー)への展開についても紹介した。

<招待講演(8)>[3/15(木)15:50〜16:35]
Reactions of Single-Site Catalysts with Polar Vinyl Monomers
(シングルサイト触媒と極性ビニルモノマーの反応)

R. F. Jordan 教授 (シカゴ大学、米)

 Jordan 教授はメタロセン触媒によるオレフィン重合における反応活性種の解析において、その構造を明らかにし、均一系オレフィン重合触媒の発展に寄与する先駆的役割を果たした。
 最近では官能基含有ポリオレフィンの合成を目的として、種々の遷移金属(ジルコニウム、コバルト、ニッケル、パラジウム等)の錯体触媒と極性ビニルモノマー(塩化ビニル、アクリロニトリル、エチルビニルエーテル等)の反応の検討を行っている。重合における各段階の活性種の構造を詳細に解析した結果、この共重合を進行させるための要因が明らかとなり、その知見を生かして設計したパラジウム錯体触媒が、官能基含有ポリオレフィンである末端シアノ基含有ポリエチレン、エーテル基含有ポリオレフィンの合成触媒として有用である事を見出した。本講演では、その重合活性種の解析と官能基含有ポリオレフィンの合成について紹介した。

【受賞記念講演】
<2007 年『三井化学 触媒科学賞』 受賞記念講演(1)>[3/14(水)16:20〜16:40]
Development of Polymerization Reactions Based on New Organo Rare Earth Metal Catalysts
(新しい希土類金属錯体触媒による重合反応の開発)

侯 召民 (Zhaomin Hou) 博士 (理化学研究所、主任研究員)

 侯博士は、希土類錯体の基礎化学から応用までの系統的な研究を通じて、新触媒によるオレフィンおよびジエンなどの広範な重合を実現し、新規高分子材料開発の道を拓いた。これまで合成の困難さから検討例の限られていた希土類金属錯体の合成手法を確立し、さらにオレフィン重合触媒としての可能性に着目して様々なオレフィン化合物の重合反応の研究を推進している。
 本講演では、環状オレフィン、スチレン、ブタジエン/イソプレン等いずれのモノマーに対してもこれまでの触媒系にない特異な重合反応性を示す一連の希土類錯体触媒、およびそれによって構造の制御された多数の新規重合体の合成について紹介した。

<2007 年『三井化学 触媒科学賞』 受賞記念講演(2)>[3/14(水)16:40〜17:00]
Metal-Catalyzed Coupling Reactions
(金属触媒によるカップリング反応)

Gregory. C. Fu 教授 (マサチューセッツ工科大学、米)

 Fu 教授は、有機合成触媒の開発において、新しい立体構造制御の概念である面性不斉などを提案し、新規な種々の有機合成手法を開発した。
 本講演では、天然物や医薬品合成、材料科学などの分野で汎用性が極めて高いカップリング反応について報告した。また、新規に開発されたニッケルやパラジウム金属触媒を用いることで反応を阻害する副反応を効果的に抑制し、従来では進行しなかった活性の低い化合物での反応や非常に温和な条件での反応が可能となっており、この新しい触媒を用いた反応メカニズムの解明についても紹介した。
 カップリング反応:二種の化合物から特定の位置で炭素-炭素結合を生成させる合成手法

<2007 年『三井化学 触媒科学奨励賞』 受賞記念講演(3)>[3/14(水)17:00〜17:10]
Carbon Bond Formation Reactions Using Anionic Transition Metal Complexes as the Key Catalytic Intermediates
(陰イオン性遷移金属錯体を鍵触媒中間体とする炭素結合生成反応)

寺尾 潤 助手 (大阪大学)

 寺尾博士は、これまで知られていなかった陰イオン性オレフィン遷移金属錯体の反応性を明らかにし、カップリング反応や付加反応などの炭素-炭素結合形成反応の新触媒となることを示すことで、有機合成に新しい分野を切り拓いた。
 本講演では、陰イオン性遷移金属錯体を用いることによる炭素-炭素結合や炭素-ケイ素結合生成反応の新しい方法論の開発、オレフィンやジエンに対するアルキル化やシリル化反応、あるいはクロスカップリング反応など多様な触媒反応への展開について紹介した。

<2007 年『三井化学 触媒科学奨励賞』 受賞記念講演(4)>[3/14(水)17:10〜17:20]
Modeling Weak Attractive Polymer-igand Interactions in Olefin Polymerization Catalysts
(オレフィン重合触媒におけるポリマー・リガンド間の弱い吸引性相互作用のモデル化)

陳 志宏 (Michael. C. W. Chan) 助教授 (香港市立大学、香.)

 陳教授はオレフィン重合制御のための、ポリマーと触媒配位子間の弱い相互作用の重要性を中性子回折などの手法で証明し、触媒設計への新しい指針を提供した。一般に、フッ素を含有するポストメタロセン触媒系では、リビング重合性など特異な重合挙動を示すことが報告されている。その理由としてポリマー鎖の水素原子と配位子のフッ素との間の弱い相互作用の存在が提案されていたが、陳教授はこの相互作用を中性子線回折と多核のNMR により初めて直接的に証明し、密度汎関数法の計算によってオレフィン重合反応に重要な役割を果たすことを示した。
 本講演ではフッ素置換された配位子を有するオレフィン重合触媒の解析に関して紹介した。