カガクのギモン

ハスが水を弾くのはなぜ?日常に応用されるロータス効果を解説

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「ハスは泥より出でて泥に染まらず」といわれるように、泥のなかでも美しい花を咲かすハス。それは泥水さえも弾いてしまう葉っぱがあってこそ。そんなハスの葉が持つ撥水性の秘密「ロータス効果」を紹介。今回も素朴なギモンに対して、カガクに詳しい「モルおじさん」が解説します。

※ 本記事は、2021年冬号として発刊された三井化学の社内報『MCIねっと』内の記事を、ウェブ向けに再編集して掲載しています。

イラスト:ヘロシナキャメラ 編集:生駒奨(CINRA)

ハスの花は初夏の風物詩。美しさの秘密は葉にあり

梅雨明けも間近に迫り、夏の気配が感じられる今日このごろ。そろそろ、ハスの花が見ごろを迎えます。大きな花を咲かせることから人気を集めるハスですが、生息する沼地の水は泥を多く含んでいます。泥は、植物が生きるうえで欠かせない大切な役割を持つ「気孔」をふさいでしまう恐れがあります。

ハスはなぜ、そんな環境でも花を咲かせることができるのでしょうか? 今回も、カガクに詳しい「モルおじさん」が詳しく解説します。

ハスの花の秘密を探るモルおじさん

白や黄色、ピンクといった美しい花を咲かせるハス。水中の泥のなかに埋まっている茎が日々の食卓にも並ぶレンコンなのです。

さて、そんなハスですが、丸いかたちをした葉にはほかの植物と同様、気孔と呼ばれる空気や水分の出入り口を持っています。先述したとおり、ハスの生息地は沼地。水に含まれた泥が、葉の気孔をふさいでしまう恐れがあります。そんな泥水のなかでも生息できるのはなぜでしょう? それは、ハスの葉が高い撥水性を備えているからなのです。葉に隠された秘密を見ていきましょう。

ハスの葉が水滴を弾いていることを発見したモルおじさん

秘密は表面の凹凸……ハスが持つ驚きの撥水効果

ハスの葉に水がかかると、水は葉の上で丸い水滴となりコロコロと流れていきますよね? これはハスの葉の表面に超微細な突起物があるから。そのサイズは数マイクロメートル程度。1マイクロメートルは、およそ0.001ミリメートルです。日本人の髪の毛の太さは0.08ミリメートルなので、とても小さいことが分かるかと思います。この突起物がクッションとなって水滴を支え、撥水効果を生んでいます。

さらに、ハスの突起物の先端には水に溶けにくいワックスがついています。突起物の凹凸とワックス、この2つの相乗効果で、泥水が気孔に侵入するのを防ぎ、高い撥水性を実現しているのです。こうした撥水効果を、ハスの英語名称(Lotus)から「ロータス効果」と呼びます。

ハスの葉の拡大図

アメンボが水面を歩けるのも、じつはハスと同じ撥水効果が?

撥水効果で重要なのは、葉と水が接触する「接触角」という角度です。この角度が0度に近いほど、撥水性は悪くなり(親水性)、反対に180度に近いほど、撥水性は強くなるのです。

接触角の図。一般的に、接触角が90度以上あれば十分な撥水効果があるといわれているが、ハスの葉の接触角は150度以上

ハスの葉のように水滴をコロコロとした球体のまま弾く性質を「超撥水」と呼びます。じつは、水面をスイスイと歩くことができるアメンボも、足の毛が凹凸のような構造になっており、ハスと同じ「超撥水」に分類されるのです。

私たちの身近にロータス効果がたくさん?活用された意外なアイテムとは

私たちの生活では、ロータス効果から生まれた技術がさまざまな場面で実用化されているのです。たとえば、しゃもじは表面にお米がつかないよう加工が施されていますが、この加工もロータス効果の凹凸と同じ原理です。さらに、ヨーグルトがふたの内側につかない理由も「ロータス効果」を応用したものなのです。

お米がつかないしゃもじに感動するモルおじさん

最近では、さらなる撥水性を目指して、ハリセンボンのトゲと柔軟性のある表皮から着想を得た新素材が開発されました。表面に凹凸を付与した素材は、こすったり、ひねったりすると簡単に壊れてしまうという欠点がありました。しかし、柔軟なハリセンボンの表皮と硬いトゲという組み合わせを参考に開発された素材は、切ったり折り曲げたりしても凸凹構造が壊れず、変わらぬ撥水性を保つほど頑丈なのです。

( 出典:NIMS2019年プレスリリース https://www.nims.go.jp/news/press/2019/09/201909100.html

こうしたように、葉っぱや魚からも最新の素材が開発されています。私たちが何気なく触れ合っている自然のなかに、まだ見ぬカガクが潜んでいるのかもしれません。

新しいカガクを求めてジャングルに分け入るモルおじさん

モルおじさんのひとこと

今回は蓮の葉のロータス効果と撥水性のご紹介でした。ロータス効果は表面の凸凹形状で撥水性を出しているのが特徴ですが、似たような概念で離型性というものもあります。こちらは物体の表面に粘着物質を着けない性質を表面張力によって表しますが、素材そのものによっても特性が大きく変わります。たとえば、TPX®︎という素材は、表面張力が24ミリN/m*と非常に小さい素材のため、離型性にとても優れる素材です。ペットボトルや食品トレーなどで使われているPET樹脂が43ミリN/m*なので、離型性の特徴は2倍良いことになります。

TPX®︎の離型性の特徴にロータス効果をプラスしたしゃもじは、ご飯がほとんどつかないのと表面加工によって機能をプラスしたものではないため、離型性の特徴がいつまでも続きます。モルおじさんもいつも使っている愛用しゃもじです。

マーナ極しゃもじプレミアム:https://marna.jp/product/k674/

* 参考:N(ニュートン)は力の単位です。分かりやすく重量に変換すると、1N=約100gとなります。1ミリNだと、約0.1gということになります。