そざいんたびゅー

日常の「なぜ?」が生活を面白くする。
くられ先生×ツナっちが気になる素材

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日々の生活や仕事のなかで「素材」と向き合う人たちの考え方に触れる、連載「そざいんたびゅー」。今回お話をうかがうのは、『週刊少年ジャンプ』で2017〜2022年に連載された漫画『Dr.STONE』の科学監修を担当する、くられ先生。日本テレビ『世界一受けたい授業』、累計15万部超えの書籍『アリエナクナイ科学ノ教科書』シリーズの執筆など、科学の魅力発信でおなじみの通称「ヘルドクター」です。

取材にはくられ先生が配信するYouTubeチャンネル『科学はすべてを解決する! [くられ with 薬理凶室]』のメンバー、ツナっちも参加。二人が科学に興味を持つようになった原体験や、科学監修の裏話、これからの時代に必要な科学教育や気になる素材について聞いてきました。

取材・執筆:宇治田エリ 写真:小坂奎介 編集:川谷恭平(CINRA)

「なぜ?」は多ければ多いほど良い。くられ先生の科学の原体験

MOLpチーム(以下、MOLp):テレビやYouTubeへの出演をはじめ、執筆活動や学校での教鞭など、幅広いフィールドで科学の面白さを伝えているくられ先生。まず、くられ先生自身が、科学の世界に魅了されたのは、いつのことだったのでしょうか?

くられ先生:ぼくが化学の面白さを実感したのは小学生の頃で、地域の博物館で定期的に開催されていたハイキングに参加するようになってからです。

月に1度、いろいろな場所へ行き、自然のなかを散策するのですが、そこでは学芸員さんはもちろん、鳥類学者、植物学者、鉱物学者など、いろんな専門家が来て解説してくれるんです。そうすると、ただ山を歩きながら自然観察をしているだけなのに、数メートル進むだけで30分ぐらいかかるんですよ。

くられ先生(左)とツナっち(右)

MOLp:どういうことですか……?

くられ先生:専門家が自然から読み取る情報量って莫大で、解像度も段違いなんです。たとえば「これは〇〇という木で、冬になると落葉し、地面にこういうふうな土壌層ができるから、ここにしかできないキノコが生えるんです」とか、「この雑草は毒があるから触っちゃダメ、こっちの雑草は特定の虫以外は食べないんだよ」とか。

いままで考えたこともなかった視点にたくさん触れることができました。

MOLp:自然のなかでの実体験から、自然科学へと興味を広げていったんですね。

ツナっち:ぼくは学校で科学の勉強をしていくにつれて好きになったタイプでしたね。くられ先生のようなエピソードがなくてすみません(笑)。

ただ、くられ先生の言うとおり、自然から得られる体験って大きいですよね。くられ先生は薬品などの知識も豊富ですけど、小学生のころから興味があったんですか?

くられ先生:そうだね。博物館では捕まえた昆虫の標本をつくる講座も開かれていて、薬品を使うこともあって。学芸員さんが、「虫を標本にするときは、殺虫剤ではなく『酢酸エチル』という液体を使う」と教えてくれるんだけど、そこでもやはり「なぜ?」という疑問が生まれるんですよ。

理由を聞くと「殺虫剤を使うと虫の足は硬直して曲がってしまう」「足を伸ばした状態で固定するためには虫の筋肉を弛緩させる毒が必要」とか答えてくれるんです。

「なぜ?」を追求し、物事の仕組みや作用を高解像度で取り入れていくことで、身のまわりのあらゆるものが面白く見えていったんですよ。

ミステリー界の定説を覆して話題になった記事とは?

MOLp:テレビなどメディアへの出演に至るまでは、どのようなキャリアを歩んできたのでしょうか?

くられ先生:メディアに出る前、もともとは「不良科学者」としてサイエンスライターとして活動していたんです。ターニングポイントになったのは、2004年に出版した『アリエナイ理科ノ教科書』で、「青酸カリは毒殺に向いていない」という記事を書いたときでした。

「毒殺」といえば「青酸カリ」というミステリーの定説がありましたから、それを覆したことによって、作家や漫画家に注目されたんです。

2018年に出版した『アリエナイ理科ノ大事典』。『アリエナイ理科ノ教科書』は改訂版として出版、シリーズ化も

くられ先生:あるとき、出版社のパーティーで作家さんから、「青酸カリ以外にトリックで使える薬物ってなにかありますか?」と聞かれて。

ストーリーの設定や時代背景を聞いたうえで、「こんな毒物はどうでしょう?」と提案してみると、それがすごく評判になったんです。そこから小説や漫画の科学監修やミステリーの仕掛けづくりを徐々にやっていくようになりました。

ツナっち:あと、くられ先生の存在が一気に知れ渡たるきっかになったのは、2017年から『週刊少年ジャンプ』で連載が始まった科学漫画『Dr.STONE』の科学監修も大きいですよね。

謎の光線で全人類が石化してしまった地球を舞台に、科学オタクな高校生・石神千空(いしがみせんくう)が科学を武器に奮闘する物語。画像はアニメ『Dr.STONE』のウェブサイトより

MOLp:科学監修とは具体的にどんな仕事をするのでしょうか?

くられ先生:作品によっていろんなパターンがありますが、基本的には作家さんから「化学を使ってこういうシーンにできないか」「こういう設定にしたい」と要望がくるので、それに対応する感じです。

『Dr.STONE』の場合、物語の舞台が「原始世界」という、機械や電気など便利なものが存在しない世界で。そこにある素材を使い、酒や火薬をつくり、科学文明の復活を目指す設定なのです。ですから、いつも「どうしたら原始世界で科学的にありえる設定になるのか」を考え、作家からの要望に対して可能な限り寄り添うよう心がけていますね。そのほうが作品も広がりますから。

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