そざいんたびゅー

「新素材」が特殊メイクを変える。
Amazing JIROが語る現場のリアル

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日々の生活や仕事のなかで「素材」と向き合う人たちの考え方に触れる、連載「そざいんたびゅー」。今回MOLpメンバーがお話をうかがうのは、特殊メイクや造形、衣装などの制作を通して、映画やバラエティ、イベントなどのエンターテインメントや広告、アート、ファッション、そしてスクールと、多様なフィールドで活躍している、自由廊の代表Amazing JIROさん(以下、JIROさん)です。

リアリティを追求し、なおかつ独創的な技法で表現するJIROさんにとって、技術の進化と素材の進化・発見との関係性は、切っても切れないものだといいます。これまで制作してきた作品とともに、素材の特徴や制作のポイントなどを教えていただきながら、これからの表現に必要な素材とは何かを一緒に考えました。

取材・執筆:宇治田エリ 写真:沼田学 編集:川谷恭平(CINRA)

きっかけは「なんでもつくれる人になりたい」。特殊メイクの道に進んだ背景

MOLpチーム(以下、MOLp):JIROさんは芸術系大学に通っていたころは、ガラスや金属を用いた制作を行なっていたそうですね。そこからなぜ、特殊メイクの道に進んだのでしょうか?

Amazing JIRO(以下、JIRO):ガラス作品をつくっていたときも、金属を用いて彫金の作品をつくっていたときも、素材に縛られて物をつくっていることにどこか息苦しさを感じていて。「同じ素材を扱い続けるよりもいろんな素材を用いながら、なんでもつくれる人になりたい」と考えるようになったんです。

そんなときたまたまテレビで、本物に似せた人間の顔をつくる特殊メイクの番組が放映されているのを見て、「これをマスターすれば、なんでもつくれるようになれそう」と思ったのが、この道に進んだきっかけでした。そこから特殊メイクの技術をマスターして、さらにいろんな素材を用いながら、制作の幅を広げていったという感じです。

特殊メイクアーティストのAmazing JIROさん。フェイス・ボディペイント、特殊メイク、造形のデザインやクリエイティブ制作、ディレクションを担当し、映像、広告、イベント、ファッションなど幅広い分野で活躍。最近はシンガーソングライターの優里さんが特殊メイクでおじいちゃんに変装するサプライズ企画や、渋谷のハチ公前に設置された巨大なサンタクロースのオブジェ、Björkのヘッドピースなども手がけた

MOLp:特殊メイクでは制作する際に型を使いますよね。

JIRO:そうです。型さえつくることができれば、さまざまな素材を流し込むことができ、あらゆる造形作品をつくり出すことが可能です。特殊メイクをやっていたら、逆になんでもつくれるようになるんですよ。

でも、その際に僕が大切にしているのは「リアルを追求すること」です。リアルを追求してきたからこそ、デフォルメされたキャラクターの造形にも応用が利き、完成度の高いものをつくることができます。さらに、人体の構造を知ったうえで生地素材を扱うので、特殊な衣装なども制作できます。

Björkのヘッドピースの制作も担当。短い制作時間で、本人の顔周りの寸法も測定できない状態で制作する必要があったため、サイズをアジャストできる工夫が凝らされている(Amazing JIROのInstagramより)

MOLp:特殊メイクというと映画のイメージが強いですが、JIROさんはバラエティ番組やファッションなど幅広いジャンルで制作活動を行なっていますよね。

JIRO:素材はもちろん、ジャンルにも縛られずにものづくりをしたいという思いが強かったんです。僕が特殊メイクアーティストになった20年ほど前は、特殊メイクが使われる現場はまさに映画が中心でしたが、ほかのメイクアーティストが「これはできない」という難しいお題にも果敢に挑戦してきたことで、ジャンルの垣根を越えられるほどの応用力が身についたのだと思います。

また、求められるスキルや使用する素材のバリエーションが増えたことで、仕事の幅も広がっていきましたね。じつは同じメイク業界でも、特殊メイクとビューティーメイクでは大きな隔たりがあるんです。たとえば、ボディ・フェイスペイントのベース塗料であるドーランは何年も仕様が変わらないのに、ビューティーで使われる化粧品は日々進化しています。

両方理解しているからこそ、それぞれのメイク素材をミックスさせると面白いんじゃないかと考え、独自に使い分けながらユニークなメイク作品に挑戦し、SNSで発信していきました。それがきっかけでファッションブランドから「コレクションのメイクをディレクションしてほしい」というオファーをいただくようになり、ファッションの分野にも広がっていったんです。

カルフォルニアで開催された国際メイクアップショー『IMATS LA』でフェイスペイントのデモンストレーションでは、オイルベースとウォーターベースの素材をミックスした作品を発表。グラデーションやぼかし表現ができるオイルの特性と発色よく繊細な線が描けるウォーター、それぞれの特性を活かした表現はメイク業界で大きな話題となった(Amazing JIROのInstagramより)

約15年前、ハリウッドに登場した「シリコーン」が特殊メイク界に革命を起こす

MOLp:ここからは具体的に扱っている素材についてうかがっていきたいのですが、たとえば「顔」をつくるときは、どのような素材を使っているのでしょうか?

JIRO:20年ほど前まで「フォームラテックス」という発泡したゴムの素材が主流でした。特殊メイクのスクールでも、最初はこの素材を扱うことから始めます。特徴は、やわらかくも弾力がある質感。一方で透明感や伸縮性がないため、人に装着して動くと変なシワが入ってしまったり、立体感が出なかったりするため、違和感を感じやすいというデメリットもあります。

また、5mほど距離をとらなければ、フォームラテックスの作品はリアルに見えませんでした。

フォームラテックスを使ってつくった顔

JIRO:そんななかで特殊メイク業界に革命をもたらしたのが、表面を薄いプラスチックの膜でコーティングしたシリコーン素材です。これはいまから15年ほど前、ハリウッドに登場しました。

伸縮性に優れ、塗装と肌への装着が可能なこの素材がハリウッドで登場したことにより、第2の皮膚のように顔のかたちを変えながら動きに沿ってリアルな表情が出せるようになり、明るい照明で1、2mの距離で見てもバレないクオリティで仕上げることができるようになりました。

シリコーンを伸ばすJIROさん
シリコーンでつくった顔のお面

MOLp:それは革命的ですね。

JIRO:一方で、シリコーンのデメリットは重さです。素材自体が少し重いので、顔のかたちを大きく変える場合、そのぶん厚みも増してより重くなってしまうため、演者にとって負担が大きい。そうした場合はフォームラテックスに変えることもあります。アウトプットとして演者の方の表現が最も大事なことですので。

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