そざいんたびゅー

プラスチックは人の心に響くか?
作家・青田真也が企画展『Material, or 』で語る

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日々の生活や仕事のなかで「素材」と向き合う人たちの考え方に触れる、連載「そざいんたびゅー」。今回は、プラスチックボトルなどの既製品や大量生産品を研磨し、原型にはない表情から見る者の感性を引き出す、アーティストの青田真也さんです。

現在、東京・六本木にある21_21 DESIGN SIGHTで開催中の企画展『Material, or 』(2023年11月5日まで)に、青田さんとMOLpの作品が出展されており、会場でお話をうかがいました。

本企画展のテーマにも通じますが、この世に存在するあらゆる「マテリアル」は特定の意味を持たないはずなのに、「もの」がつくられる過程で、それが「素材」という意味づけに変換されていきます。青田さんはプラスチックの研磨を通じて、「素材の面白さ」をどのようにとらえているのでしょうか。

※ 撮影のため作品に手を触れていますが、企画展では、一部の作品を除き、展示に触れることはできません

取材・執筆:宇治田エリ 写真:小坂奎介 編集:川谷恭平(CINRA)

アーティストの青田真也さん。身近な既製品や大量生産品、空間の表面やカタチをヤスリで削り落とし、見慣れた表層や情報を奪い去ることで、それらの本質や価値を問い直す作品を制作している。主な展示に、2014年『日常/オフレコ』(神奈川芸術劇場)、『MOTアニュアル2014』(東京都現代美術館))『個展』(青山|目黒)、2018 年『青田真也|よりそうかたち』(Breaker Project)、2019年『アイチアートクロニクル1919-2019』(愛知県美術館)、 などがある。また名古屋港エリアのアートプログラムの共同ディレクターも務める。

さまざまなフィールドで素材と向き合う人たちが集う『Material, or 』展の魅力

MOLpチーム(以下、MOLp):「もの」がつくられる際に、あらゆる「マテリアル」が「素材」として意味づけられていきますが、そのプロセスに着眼したのがこの企画展『Material, or 』です。一度、マテリアルそのものに立ち返り、原初的な感覚のやりとりから、その背後にある自然環境や社会環境の持続可能性までを含めた対話を試みるという企画展になります。青田さんは、本展にどんな印象をお持ちですか?

青田真也(以下、青田):僕自身、21_21 DESIGN SIGHTでは2016年開催の『雑貨展』に続き、2度目の展示となるのですが、今回はマテリアルという異なる切り口での企画ということもあり、さまざまなフィールドで素材やそれらに向き合う人たちが集まっていて面白さを感じます。

新しい発見もありますし、コロナ禍を経験して考えていることや、ものとのこれからの向き合い方など、いろいろと考えさせられる展示です。

21_21 DESIGN SIGHTで11月5日まで開催中の企画展『Material, or 』。詳細はこちら
デザインリサーチコレクティブACTANT FORESTによる『Comoris BLOCK』。生態系を豊かにするためのブロックと小さな森を展示
秋田県の「原油」。会場内にはこのほかにも、身の回りにあるよく知っているはずのマテリアルとあらためて向き合うことのできる展示が数点設置されている

MOLp:今回、青田さんはどのような作品を展示されているのでしょうか?

青田:今回の展覧会では、『《 》(無題)』と、『よりそうかたち(西成)』『re: よりそうかたち(西成)』を展示しています。

MOLp:『《 》(無題)』は、青田さんを代表するシリーズですよね。見覚えのあるプラスチック製品の表面が削ぎとられた作品が、通路の下という絶妙な場所に展示されていて、身体性をもってその質感と対話できるような構成だと思いました。

青田:そう言っていただき、ありがたいです。

青田真也による『《 》(無題)』。日用品の表面を削ることで、既視感をもたらしながらも、まったく異なる表情が引き出されている

ものが変化し、その形になるまでに辿ってきた時間を想像する。そこに魅力を感じる

MOLp:『《 》(無題)』から少し離れた場所に展示されている、『よりそうかたち(西成)』『re: よりそうかたち(西成)』は、どのような作品なのでしょうか?

青田:展示室内に隣の作品を覗き込めるくらいの低い壁が今回設置されているのですが、2つの作品はこの壁を軸に対になって展示されています。そもそも『よりそうかたち』は、大阪市西成区を活動拠点に芸術と社会をつなぐアートプロジェクトを実践している「Breaker Project」から声をかけてもらって、西成にあるさまざまな町工場やものづくりの現場を2年間にわたるリサーチを経て展開したプロジェクトです。

壁の表側にある『よりそうかたち(西成)』は、実際にものづくりの場で商品や製品が作られる過程で使われ続けてきた道具や、商品や製品ではないけれど日々の作業によって生成される「なにか」で、それら自身がものとして固有の魅力があるのではないかと集めてきたものです。

そして壁の裏側に対になるかたちで展示されている『re: よりそうかたち(西成)』は、集めた道具や「なにか」を別のつくり手たちに異なる素材や表現で、新たに制作してもらったものです。

『よりそうかたち(西成)』の展示。右の棒はメッキ工場でメッキ液に器具を浸ける際に使われていたもの
『よりそうかたち(西成)』より、刷毛工場で刷毛の柄にかけるニスをかき混ぜる際に使われていた棒
『よりそうかたち(西成)』より、革靴工場でパーツを切り出すために使われていたカット台
『re: よりそうかたち(西成)』ではガラスやアルミ鋳造でその形を再現した
『re: よりそうかたち(西成)』より、メッキ加工の過程で生成された結晶状のものをガラスによって表現したもの

MOLp:こちらの作品も、大量生産の現場では見失われがちな視点に気づかされます。『よりそうかたち』では、時間をかけて変化したものの形が展示されていて、そこでどうしてそうなったのだろうと、その過程を想像できるのが面白いなと思いました。

青田:この作品は、いろいろなものづくりの現場を視察させてもらうところからスタートしたのですが、さまざまな場所を訪れるなかで、日々ものを生産する過程でできあがっていく形が気になり、自らが惹かれていることに気がつきました。

そしてそれらに惹かれているのは自分だけではなく、ある鉄工場のおじさんが、はんだづけの作業の際に床に落ちた金属のかたまりを、なぜか捨てられずに集めていると言って、嬉しそうに見せてくれたこともありました。

そういった日々の作業や時間のなかでうまれてくる、しかしきっと日の目を見ないであろうものや形と、その魅力、そしてそれは一体どういうことなのかということを、社会に共有したいと感じました。

ちなみに、今回の企画展『Material, or 』で展示されている作品や素材からも多様な背景を考察することができると思うのですが、たとえば三澤遥さんの作品である、海で漂流し形が変化したいろいろなものからも、同じような魅力や感覚を感じられました。

三澤遥+三澤デザイン研究室による『ものうちぎわ』(写真奥)。海で採集した貝や流木、石などを展示

青田:自分の場合、それは形やものとしてだけに惹かれているのではなく、ものが変化し、その形になるまでに辿ってきた時間を想像できるところにも魅力を感じているのだと思います。『よりそうかたち』に関しても、「同じ行為を繰り返し、時間を積み重ねていくこと、そしてそこでできあがってきたものは何か」ということを考える作品です。

プラスチックに親しみやすさや違和感を

MOLp:どの作品も着眼点が面白いですね。やはり青田さんの作風といえば『《 》(無題)』のように、身近な既製品や大量に生産されたものを削ぎ取った立体作品を思い浮かべる方も多いと思います。このアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?

青田:現在のスタイルは15年ほど前、大学院生のころに見出しました。学部では版画を専攻していたのですが、大学院に進学してからは版画の制作だけでなく、日常にある大量に生産されたものをモチーフに、表現メディアに垣根のない現代美術のフィールドで表現していきたいと考えていました。

より日常に近いところからスタートした作品を作りたいと考えて、これまで版画で扱っていた素材とは違う、リサイクルショップやホームセンター、100円ショップなどでガラスや木、プラスチックなどさまざまな素材のものを手あたり次第に集めました。

そしてこれまで学んできた技術ではないけれど、手っ取り早く形を変えてみようという想いから、とにかくそれらをヤスリで削ってみるところから始まりました。

MOLp:出発点には、大量に生産されたものへの違和感や疑問などがあったということでしょうか?

青田:そういうわけではありませんでした。僕にとって大量生産されたものは、違和感や疑問の対象というよりも、ずっと生活の中にあるものとして、見慣れていて馴染みのあるものなのです。

たとえばプラスチックボトルなんかは、単純に形状も面白いし、色味もポップでカラフルなものが多い。また多くの人にとっても、「プラスチックボトルはこうである」という共通の認識がある。

それらを自分の手で変えていくことで、そのものがもつ情報が削ぎ落とされ、イメージやアイデンティティが曖昧になる、そのことに面白さを感じました。そして「削る」という作業でも、モチーフが変わると、それぞれのものが持つ意味も異なるので、毎回いろんな発見があります。

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プラスチックボトルを削ると素材の見方はどう変わる?

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