そざいんたびゅー

ビニール傘を丈夫なバッグに。
使い捨てを問うPLASTICITY・Akiのアップサイクル

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取材・執筆:宇治田エリ 写真:小坂奎介 編集:川谷恭平(CINRA)

バッグとしての機能性も十分なビニール傘

MOLp:PLASTICITYのバッグの特徴を教えてください。

Aki:実際に傘として使われていたので、骨組みの近くについたサビなど、一つひとつに味わい深い表情があります。ヴィンテージデニムのように「汚れ」ではなく「風合い」として、お客さまからポジティブに受け入れられていますね。機能面では、もともと傘として使われていた素材だけあって、軽くて防水性が高く、耐久性もあるというのも魅力です。

ビニール傘由来の生地をPLASTICITYでは「Glass Rain(グラスレイン)」と名づけている

MOLp:1つのバッグに何本のビニール傘が使われているのでしょうか?

Aki:ビニール傘2本分ですね。まず傘から取り出したポリエチレンの部分を半分に折りたたみ2層にします。それを2本分、つまり4層に重ね、熱で圧着したものを1枚の生地にしているんです。大きいバッグの場合、生地を2.5枚使うので、全部で5本分の傘が使われています。

皆さんもビニール傘を使って感じたことがあるかもしれませんが、ものによって生地の厚みが異なり、しなやかさも変わってきます。

また、使えるところ、使えないところも生地によって変わってくることもある。質の高いバッグをつくるために、素材を見極め、丁寧に縫製をしてくださる職人さんたちの技があってこそだと感じています。

傘の分解のプロセス。回収した傘はメーカーにより、構造がさまざまなため、生地と骨部分は一つひとつ手作業で、分解と洗浄を行なう。生地はプレス作業に回し、骨部分はリサイクル(詳しくはこちら
職人のプレス作業で雨のしずくのような独特な質感が生まれる(写真提供:PLASTICITY)

MOLp:Akiさんが専門学校を卒業した2020年、PLASTICITYはブランドとしてローンチされました。どのような経緯でブランド化に至ったのでしょうか?

Aki:PLASTICITYのブランド運営はモンドデザインが担当しているのですが、以前私がアルバイトをしていたバッグのブランド「SEAL」の運営を行なっている会社なんです。代表の堀池さんに声をかけていただいて、ブランド化の話が進んでいきました。

MOLp:今日はその堀池さんにも来ていただいているので、当時のエピソードを聞いてみたいです。

堀池洋平(以下、堀池):よろしくお願いします。Akiさんから「学園祭でバッグの展示をします」という連絡をもらい、面白そうだと思って見に行ったのがきっかけですね。PLASTICITYを初めて見て思ったのは、世の中にない新しさがあるということ。素材には独特なテクスチャがあり、軽くて水に強いという耐久面でも魅力を感じました。

堀池洋平(ほりいけ ようへい)
モンドデザイン代表。PLASTICITYのほかに、廃タイヤのチューブを使った製品ブランド「SEAL」の運営を行なう。

堀池:さらにサステナブルなコンセプトにも共感しましたね。以前ニュースで、ビニール傘は金属とプラスチックという異素材の組み合わせであることから、リサイクルに手間がかかり、結果的に埋立処分されてしまうという話を聞いたことがありました。

そこでPLASTICITYの「バッグをつくるためにビニール傘を分解する」というプロセスを世の中に示すことができれば、ビニール傘の正しいリサイクルの普及にもつながると思ったんです。

ビニール傘を使うのは罪深い?

MOLp:生地に使うビニール傘はどのように集めているのでしょうか?

堀池:いまは大きく分けて2つの方法があります。1つは駅や商業施設に忘れられた傘からです。保管期間を過ぎて廃棄処分される前に回収させてもらい、工場で分解していますね。

もう1つは、一般の家庭や小学校、企業から分解したポリエチレンのみを寄付していただくという方法です。ブランドを立ち上げた当初は、回収がほとんどでしたが、2023年は7割ほどが寄付していただいたもので、約3,000枚に達しました。

MOLp:ビニール傘を使う人たちがアップサイクルに参加するというPLASTICITYが目指す姿が見え始めているのですね。

堀池:そう感じます。丸3年間運営して気づいたのは、ビニール傘の処分に困っているところがかなり多いということでした。家庭はもちろん、学校や会社もそう。気づいたら不要なビニール傘が増えていってしまう。だからこそ、定期的に分解作業をして、骨の部分をリサイクルに回し、ポリエチレンのほうをPLASTICITYに送っていただくという流れが受け入れられているのだと思います。

また、最近は授業の一環として、分解してアップサイクルにつながることを教える小学校も出てきています。私たちもただ寄付していただくだけでなく、お礼にオンラインで使えるポイントを付与するなど、PLASTICITYの製品を使っていただく機会を増やそうとしています。

PLASTICITYの「Umbrella Recycling Program」。ポイント交換のほかに、NPOへの寄付という選択も可能

MOLp:リサイクルに協力してくれる方々からどのような気づきがありましたか?

堀池:ビニール傘を持っていることに対して、罪悪感を覚える方が多いと感じています。それは個人だけでなく、企業も同じです。

「いままでビニール傘はたまったらまとめて捨てていたけれど、そういう姿勢を続けることは企業としてどうなんだろうと思って」と相談に来てくださる方が非常に多い。SDGsの意識が浸透してきているからこそ、捨て方を見つめ直す人が増えていると感じます。

PLASTICITYのInstagramより

「バッグを買うよりも、大量廃棄の問題を知ってほしい」

MOLp:PLASTICITYは「10年後になくなるべきブランド」として立ち上がりましたが、アップサイクルを実践し続けてきたいま、あらためてどのような影響を社会に与えたいと考えていますか?

Aki:「10年後になくなるべき」と掲げていますが、きっと10年後も、ビニール傘の廃棄問題は存在し続けると思っていて。だからこそ、明確なゴールはあえて設定せずPLASTICITYという名のとおり、そのときに必要なことは何か考えて、柔軟にアクションを起こしていきたいです。それを連続させていくことが意識や行動の変容につながるはずと考えています。

いま必要なのは、PLASTICITYというブランドとの出会いを通して、日本で年間およそ8,000万本の傘が廃棄されているという社会課題に関心を持っていただくこと。バッグを買っていただくというよりも、問題を知っていただくことが普段の消費行動を変えるきっかけになると思います。

そうして消費者がそもそも「ビニール傘を買う必要があるのか」と疑ったり、処分するときの分解作業の手間を理解したりすることで、製造する企業もビニール傘によって起きている問題を改善しようとするかもしれない。皆がこの問題に対して、違う方向から努力することで、結果的にわたしたちは存在し続けられないブランドになるはずです。

堀池:実際にレジ袋が生まれたばかりのときも、紙に比べて何度も使えるからエコだと思われていたそうですが、現在では「レジ袋削減」という取り組みも行われています。「何が正しいか」は、時代によって変わるからこそ、私たちも知識をアップデートしていくことが大切ですし、柔軟に行動を変えていく必要があるんですよね。

MOLp:現在、課題に感じていることはありますか?

Aki:堀池さんが言うように、ビニール傘のプラスチック部分を使ってバッグをつくることがいまは正解かもしれないけれど、それは変わっていくことかもしれない。アップサイクルというのは、本来はリサイクルするまでのソリューションを生み出すもの。ですから最終的なバッグのエンドライフまで考える必要がある。

理想はPLASTICITYのバッグもビニール傘と同じように回収して、分別して、リサイクルに回していくことだけれど、現状は多くのアップサイクルを謳うプロダクトが、延命にとどまってしまっています。そういった点が、ものづくりやアップサイクルにおける難しいところだと思っています。

PLASTICITYのアイコンである傘マーク

PLASTICITYと親和性のあるMOLpのプロダクトは?

MOLp:じつはMOLpでもアップサイクルに力を入れ、素材やプロダクトを開発しているのですが、興味がある素材やプロダクトはなにかありましたか?

堀池:素材として近しいと思うのが「RePLAYER™」のPass Caseでしょうか。カラフルなレジ袋を圧着させることで、それがものの個性となっているのが面白いですね。

MOLp:レジ袋は一軸延伸フィルムでつくられているので、横方向には破れないんです。その特徴を活かし、レジ袋を縦横で交互に重ねて圧着することで、非常に強い素材にすることができるんです。

Aki:私は「GoTouch®︎(ゴトウチ)」に興味を持ちました。地産地消というか、グローバルな時代だからこそ、ローカルでソリューションを探す。それぞれのCITYらしいものを見つけていくことで、個性が引き出されるという点に魅力を感じます。

MOLp:ありがとうございます。おっしゃるとおり、地域への愛着から素材への愛着を促し、製品を長く使っていただこうという思いを込めています。

「RePLAYER™」のPass Case。大阪・岸和田市の精神障がいのあるひとが通う地域活動支援センターから生まれた「poRiff」とコレボレーション(詳しくはこちら
地域特有の未利用資源から生まれた「GoTouch®︎」(詳しくはこちら

MOLp:最後に、今後の目標やチャレンジしたいことを教えてください。

堀池:最近はほかの企業とコラボして製品を展開していくことが増えていて、それにより認知も広がっていくと思うので、引き続き積極的に続けていきたいと思っています。また、海外展開やほかの廃材の活用も視野に入れて活動の幅を広げていきたいですね。

Aki:私自身は、すでにある素材を使ってプロダクトを生み出すというよりも、素材の可能性を引き出すほうが向いていると思っていて。最近は、色つきのビニール傘を使って、インデックスシリーズをつくってみたり、圧着の際に模様をつけてみたり、サビの部分だけを集めて大理石のような魅力がある一点もののバッグなどを試作してみています。

このように、プロダクトにつながるアイデアを発見するためにも、引き続き、ビニール傘のプラスチック部分を使いながら、この素材で生み出せる新しい表情や表現はないか模索していきたいです。

PROFILE

Aki

英国の大学卒業後、 日本の企業への就職を経て、次第に幼いころから好きだったものづくりの仕事に興味を抱くようになる。鞄職人との偶然の出会いをきっかけに、バッグ制作の専門学校に入学する。環境、動物、人に優しいファッションへの関心を形にするべく、2019年、在学中にPLASTICITYを立ち上げて以降その活動を続ける。

PROFILE

堀池洋平Yohei Horiike

モンドデザイン代表。2006年に廃材を使った製品を作ろうと、26歳で起業。破棄されたタイヤチューブに着目し、バッグや財布の材料としてリサイクルするブランド「SEAL」を立ち上げる。エコでありながら耐久性に優れ、使う素材によって表情を変える唯一無二のプロダクトが魅力。