これからのメガネ店のあり方①
株式会社フレネルライン
代表取締役 ビジネスプロデューサー
竹本 圭太 氏
profile
全国の大手チェーン店をはじめ地域専門店並びに、ボランタリーチェーン、メーカー商品開発にまで多岐に渡るコンサルタント活動を実践。国際メガネ展(IOFT)ではセミナー講師を引き受ける。現場に密着した即実践活性化手法は、全国の業界関係者から高い評価を得ている。
株式会社フレネルライン http://furesnelline.co.jp/plofile/
メガネ店がほかの物販店と違うことはなんですか。
メガネ店は商品を並べればお客さまが好きな商品を勝手に買ってくれるという商売ではなく、そこに必ず人が介在します。つまり本来の小売店の意味を指すリテール(retail)*が発生するのがメガネ店の本質です。商品とお客さまの間に人が入るという物販は、他にはあまりありません。メガネをお客さまに合わせてつくる、仕立て直すということが重要になってくるからです。
お客さまがメガネに求める価値は、「ちゃんと見えること」、「快適な視界が得られること」です。フレームのデザインがカッコいいとか、ブランドが好きだからという価値もありますが、その人にとって、ちゃんと見えないメガネは基本として役に立てていません。一人ひとりのお客さまの見え方をしっかり検査して、お客さまから満足していただけるメガネを提案していかないと、メガネ店としての価値は一般的な物販店と同じになってしまいます。
最近はメガネをドライブスルーで販売したり、度数を入力すればインターネットでメガネが注文できるといった極端な売り方などが進行しています。確かにお客さまにとって利便性が高く、購入金額を抑えられるというメリットはありますが、それがお客さまに合った、ちゃんと見えるメガネを目指す専門店としての価値を提供できているのかというと少し違うかもしれません。
メガネ店の売り方はこれからどう変わっていきますか。
世の中のどんな商品でも大衆化していきます。最初は目新しさがあったものが、浸透するにしたがってコモディティ化、つまり日用品化していきます。最低限のものがあればいい。冷蔵庫にしても洗濯機にしても機能がそんなに変わらないなら安いほうがいい、という消費者意識になってくるわけです。コモディティ化は価格競争を引き起こします。安くして大量に売る小売店が売り上げを伸ばしています。ファッションでいえばユニクロやH&Mです。安いうえに、品質がそこそこでデザインが良いことでヒットしました。
その対極にあるのがこだわりのあるコンセプトショップや高級ブランド店です。たとえばレディスブランドの「スナイデル」は、新宿・ルミネ店で1日に1,875万円を売り上げました。商品に付加されたマインドが消費者の心をつかんだからです。「価格」で売るのか、それとも「ココロ」で売るのか。この2つがこれからの売り方の軸になってきます。あなたのお店はどちらを目指しますか。
もし近くに5,000円でメガネのセットがつくれますというお店があったとして、そこに対抗してやっていこうとしたら、より多くの場所でより多くの本数を売らないと利益を確保できません。資本力のある量販店チェーンには到底かなわないのです。それならば、安く大量に売っていくやり方ではなく、一つ一つきっちりと値決めをして、お客さまにそれ以上の価値を提供することを考えたほうがいいはずです。
自分たちがメガネ店としてなにが価値で、その価値を提案できているかという原点に立ち戻らないと、メガネ店の経営は成り立たなくなっていくのだろうと思います。お客さまのココロをどう動かしていくか。そこを追求することがお店の差別化につながるのです。
お客さまのココロを動かして成功したメガネ店はありますか。
某大手チェーン店では、視力をしっかり測って、お客さまに合ったレンズを提案する、というメガネ店として基本的なところを、もう一段階レベルアップして、それを積極的にアピールすることで成功されています。最新の検査機器を導入して、お客さま一人ひとりの段階に合わせて何種類もの検査をして、それをもとにメガネを提案するということをしたのです。そのためには販売スタッフの教育が必要になります。検査結果を読み解いて最終的にお客さまに提案するのは販売スタッフだからです。当時は年配の販売スタッフが多かったので検査方法を再度勉強するハードルは高かったと思いますが、みんな一生懸命取り組んで、会社の体質まで高められたのは凄いことだと思います。その結果、あの店はここまで親身になって検査してくれたということが評判となり、テレビでも紹介されていました。当たり前のことかも知れませんが、メガネをつくるための検査ではなく、お客さまにとって快適な視界をつくるための検査をするんだという想いが伝わり、そこから、安心して自分にとって見やすいメガネが買えるという差別化が生まれたのだと思います。価格ではなく、別の要素でお客さまのココロを動かしたのです。
そこで意外だったのはスリープライスショップなど、これまで価格を訴求する量販店でメガネを買っていたお客さまが多く来店されていたことです。このチェーン店のメガネの単価は決して安くないので、スリープライスや均一ショップで購買されていたお客さまは見向きもされないと思っていましたが、そんなことはなく、これまで専門店で買っていたお客さまより高価なメガネを買っていかれたのです。これはどういうことかというと、今まで量販店でメガネを買っていたのは、お金に余裕がなかったわけではなく、メガネの本当の価値に気がついていなかったからです。量販店は単価が低いため土日ともなれば1日70人も80人も対応しなければならないので、一人のお客さまに時間はかけられません。スタッフに能力があっても、視機能検査からフィッティングまでの時間は限られます。老眼が入ってきたり、夜の車の運転に疲れを感じたり、年配で何らかの不安を持っていたり、以前に他店で失敗したと感じているお客さまが来店されても、その要望や本音を十分に引き出せず、視力補正という道具としてのメガネを優先させます。これではいけないんだ。自分にとって本当に価値があるメガネ店は、親身になって、見え方を提案してくれるメガネ店なのだということがわかったのだと思います。
検査に力を入れてお客さまにとって最適なメガネがつくれます、ということをこの店はチラシやホームページで積極的にアピールしました。検査をしないメガネ店なんてありませんから、どこでも打ち出せるはずです。しかし、その当たり前なことを徹底的にレベルを上げる。上げているとお客さまに伝わる。そうしたことで需要を掘り起こし顕在化し、多くのお客さまに来ていただくことができたのだと思います。我々も、もう一度、メガネ店に来店されるお客さまが何を望んでいるのかという原点に立ち返り、検査の質から見直しましょうというシフトチェンジに成功された例です。