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プラスチックとカーボンニュートラル

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私たちの生活に欠かせないプラスチック。このプラスチックの分野でも、カーボンニュートラルに向けた取り組みが着実に進められています。その中で、今回はプラスチックの製造と製品化のプロセスにおける温室効果ガスの排出量削減に焦点を当て、プラスチックの分野でどのように環境負荷を低減しようとしているのかご紹介します。

 

プラスチック製造プロセスのカーボンニュートラル化

原料調達、製造、製品化までのプロセス全体のことを英語ではCradle to Gate(ゆりかごからゲートまで)という表現を使いますが、プラスチックはまさにCradle to Gateでのカーボンニュートラルが大きく進もうとしています。

 一般的にプラスチックは石油精製の過程で得られるナフサ(粗製ガソリン)を出発原料として作られます。このナフサを熱分解することで、プラスチックの原料となるオレフィンや芳香族などの基礎化学品を生産し、さらにこれら基礎化学品を原料にして各種プラスチックが作られます。

※ナフサについては プラスチックの原料「ナフサ」とは?プラスチックの種類や課題と、プラスチックのこれからも解説」でも詳しく解説しています。

この製造プロセスの中で、ナフサを分解する設備はナフサクラッカー(クラッカー)もしくはナフサ分解炉と呼ばれ、同設備でナフサを分解してオレフィンなどの基礎化学品を得るためには約850℃の高温が必要となります。この高温を得るために通常はメタンなどのオフガス(原油蒸留、ナフサ分解等によって副生するメタン、エタン、水素等またはこれらの混合ガス)を使用しますが、このオフガスの燃焼時に二酸化炭素が発生します。

世界では大手化学メーカーを中心に、このオフガス燃焼工程の燃料源の転換を、カーボンニュートラルの取り組みの主要な要素に入れています。

こうした中で、大手化学メーカーを中心に、このオフガス燃焼工程の燃料転換を、カーボンニュートラル実現に向けた主要な要素に入れています。

現在、技術開発が進んでいるのは、燃料を「電気に転換する」、「水素に転換する」、「アンモニアに転換する」といった3つのアプローチです。燃料を電気に転換する「電気加熱方式」を採用しようとしているのが世界最大の化学メーカーであるドイツのBASFです。同社はドイツ・ライン川沿いのルードビッヒスハーフェンに統合生産拠点という世界最大の化学工場を有しています*¹。BASFではドイツのLindeやサウジアラビアのSABIC(サウジアラビア基礎産業公社)の協力も得て、世界初となる6MW規模の電気加熱式スチームクラッカー「e-Furnace」の実証プラントの稼働を開始。これにより従来法と比較しクラッカーから排出される二酸化炭素を90%削減することが可能になるとされています。

ここで使用される電気は北海沿岸の風力発電によって生み出された再生可能エネルギーで、採算性も確保しならが計画を進めようとしています。

さらに、水素への燃料転換では、世界第2位の化学メーカーであるDowがカナダ・アルバータ州でゼロエミッション工場建設計画*²を進めています。その核となるクラッカー(エタンクラッカー)の燃料転換については、クリーン燃料である水素を活用した生産プロセスを採用するとともに、二酸化炭素を施設内で回収し、隣接する第三者の二酸化炭素インフラへ搬送、貯蔵します。同社は2030年までに段階的に設備改修を進め、最終的には同工場のScope1、Scope2におけるカーボンニュートラルを実現する計画です。

※海外の動向については「海外のカーボンニュートラルへの取り組み」を、Scope123については「CO2排出量を知る -Scope1・2・3- #01 GHGプロトコルとScopeの基礎知識」を併せてご覧ください。

最後に、アンモニアへの燃料転換を推進しようとしているのが日本の三井化学です。他の化学企業やエンジニアリング企業と連携し、同社大阪工場で、オフガスからアンモニアへの燃料転換を進めようとしています*³。なお、この計画はNEDOのグリーンイノベーション基金に採択されており、三井化学では2030年までに高効率なアンモニア燃料のクラッカーへの実装化を目指しています。

アンモニア(NH3)は水素(H)と窒素(N)の化合物で炭素を含んでいないため、燃焼させても水と窒素が発生するだけで、二酸化炭素(CO2)は出ません。さらに、アンモニアの合成時に発生する二酸化炭素を削減するため、新たな合成法の研究開発も推進。九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所内に設置した三井化学カーボンニュートラル研究センターでは、常温常圧でバイオ光触媒により空気と水からアンモニアと水素を同時合成すことに成功しており、これら先端技術の社会実装に向けた取り組みも加速させていく方針です。また、近隣の大阪ガスとの地域連携により、二酸化炭素のCCUSの取り組みの検討も進めています。

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プラスチック製品のカーボンニュートラル化

プラスチックの製品化のプロセスにおけるカーボンニュートラルの鍵を握るのがバイオマス化です。なかでもナフサなどの出発原料をバイオマス化することで、そこから製造される各種誘導品(基礎化学品やプラスチック等)も幅広くバイオマス化していく取り組みが推進されています。

このアプローチにおける主な出発原料としては、廃食油や食用油製造時の廃棄物から得られるバイオマスナフサ、サトウキビやトウモロコシといった植物資源を発酵・蒸留して得られるバイオエタノールなどがあります。このようにバイオマス原料から生産したバイオマスプラスチックは、従来の石油由来原料を使用したプラスチックと比較し、大気中の二酸化炭素を増やさない(=カーボンニュートラル)という特長があります。

なぜなら、バイオマスプラスチックの原料であるバイオマス資源は再生可能な植物由来のものであり、植物の成長過程で吸収した大気中の二酸化炭素の炭素分(C)を固定化・保持しています(動物を構成する炭素も、食物連鎖の中でそもそも植物が固定化した炭素に由来します)。つまり、バイオマスプラスチックに含まれる炭素分(C)も、元は植物の光合成により大気中から吸収・固定化されたものであり、最終的にバイオマスプラスチックを焼却したり、分解したりしても、そこから発生する二酸化炭素はもともと大気中にあったものなので、大気中の二酸化炭素の総量を増やすわけではないとみなすことができるカーボンニュートラルな素材になります。

※カーボンニュートラルにつきましては、カーボンニュートラルの今、そしてこれからで詳しく解説しています。併せてご覧ください。


バイオマスナフサを活用したプラスチックのバイオマス化

先述の化学製品の出発原料(素材の素材)からバイオマス化していくアプローチとして、三井化学ではバイオマスナフサを活用し、プラスチックをはじめとした化学製品のバイオマス化を推進し、カーボンニュートラル社会の実現につなげていこうとしています。

バイオマスナフサとは、再生可能なバイオマス(植物など生物由来の有機性資源)から生成された炭化水素混合物のことで、バイオディーゼルやSAF(バイオジェット燃料)を作るときの副産物として得られます。また、そこから作られるバイオマスプラスチックの物性は石油ナフサ由来のプラスチックと同等で、従来品と品質を変えることなく、様々な製品をバイオマス化することができます。なお、バイオマスナフサから作られるバイオマスプラスチックは、マスバランス方式で供給されています。

三井化学では、202112月からバイオマスナフサを原料としたバイオマスプラスチックの製造販売を開始。 グループ会社のプライムポリマーが「Prasus®」の商品名で上市されているバイオマスポリプロピレンの採用事例も増えており、食品パッケージや日用品などでの使用が始まっています。

※「Prasus®」の採用背景等については、「生協の身近な食品パッケージが生活者の気づきに。マスバランス方式のバイオマスプラ『Prasus®」、「人だけでなく、地球も健康に。グローバルコンシューマーヘルスケア企業が『ハミガキチューブ』の素材転換を語る」も併せてご覧ください。

バイオマスナフサを出発原料に作られるプラスチックは、プラスチック製品を加工製造するメーカーが、既存の製造設備を改修する必要がなく、生産されるプラスチック製品の品質は従来品と同等であることも大きな特徴の一つです。

地球温暖化や気候変動が世界的な社会課題になっている現在、あらゆる手段を組み合わせながら、カーボンニュートラル社会を実現していくことが重要になっています。その中で、バイオマスプラスチックについては積極的に導入を進め、社会全体のバイオマス度をスピーディーに高めていくことが、未来に向けて今、私たちができることでもあります。

三井化学グループは、現時点において、バイオマスナフサの活用がカーボンニュートラル社会の実現に向けた有効な手段の一つとして捉え、プラスチックをはじめとした各種化学製品のマスバランス方式によるバイオマス化を推進しています。

カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

リジェネラティブ(再生的)な社会に向けて行動する三井化学の「RePLAYER®」「BePLAYER®」はこちら

参考資料
*1:BASFの世界初の大型電気加熱式クラッカー:
https://www.basf.com/jp/ja/media/news-releases/global/2022/09/P-22-326.html
*2:DOWのゼロエミッション工場建設計画:
https://jp.dow.com/ja-jp/news/dow-announces-plans-to-build-the-worlds-first-zero-carbon-ethylene-and-derivative-plant.html
*3:2030年までにオフガスからアンモニアへの燃料化を目指す|三井化学経営概況説明会(2023):
https://jp.mitsuichemicals.com/content/dam/mitsuichemicals/sites/mci/documents/release/2023/event_230601.pdf

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