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Scope(スコープ)1・2・3とは?サプライチェーン排出量についても解説

企業を虫眼鏡で見ているイラスト

世界共通の社会課題である地球温暖化を防止するには、企業の温室効果ガス(GHG)排出量を数値的に把握し、優先的に取り組む削減対象を明確化していくことが重要になっています。そこで注目されるのが、GHGの排出量を算定・報告するために定められた国際的な基準である「GHGプロトコル」です。この国際基準では、モノがつくられ廃棄されるまでのサプライチェーンにおけるGHG排出量の捉え方として、Scope1・2・3という分類方法が示されています。本記事では、GHGプロトコルによるScope1・2・3の基本的な定義から算定方法、具体的な削減策までを解説し、サプライチェーンのGHG排出量を把握・管理しながら、適切な対策を講じていくことがいかに重要かを考えていきます。

Scope(スコープ)1・2・3とは何か?

サプライチェーン排出量算定の図

引用:環境省「サプライチェーン排出量 算定・活用セミナー」(2016年開催)の事務局(みずほ情報総研株式会社)p.5 資料:https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/dms_trends/seminar2016_06.pdf

Scope1・2・3は、原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など、⼀連の企業活動全体から発⽣する温室効果ガス(GHG)排出量を捉える際の分類方法で、GHGの排出量を算定・報告するために定められた国際的な基準「GHGプロトコル※」で示されています。この分類方法を活用しながら、企業は自社の直接的なGHG排出量だけでなく、サプライチェーン全体で発生する間接的なGHG排出量までも把握し、マネジメントしていくことが求められています。

※GHGプロトコル:持続可能な開発を目指す企業約200社のCEO連合である「世界経済人会議(World Business Council for Sustainable Development:WBCSD)」と米国のシンクタンク「世界資源研究所(World Resources Institute:WRI)」が主体となり1998年に発足し、同名の国際的イニシアチブを制定している。

Scope1とは――事業者自らによる「直接排出」

Scope1は、燃料の燃焼や工業プロセスにより、事業者自らが直接排出する温室効果ガス(GHG)を指します。その算定対象としては、自社のみではなく連結対象事業者や建設現場など、自社が所有又は支配する全ての事業活動を含める必要がありますが、この排出は事業者自らがマネジメントしているため、排出量削減の目標や計画が立てやすい領域になります。

該当する排出例:

  • 自社での化石燃料の燃焼
  • 社有車両のガソリン消費による排ガス

Scope2とは――他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う「間接排出」

Scope2は、他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴うエネルギー起源のGHGの間接排出を指し、国内および海外において自社が購入した熱・電力の使用に伴う排出が算定対象となります。そのため、例えば購入している電力を再生可能エネルギー由来のものに切り替えることは、Scope2の排出量削減に大きな効果をもたらします。

該当する排出例:
  • 購入した電力・熱・蒸気の使用

Scope3とは――Scope1、Scope2以外の間接排出事業者の活動に関連する他社の排出

Scope3は、Scope1、Scope2以外のGHGの間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)の全てを指します。GHGプロトコルのScope3基準では、15のカテゴリ(下図)に分類され、原材料の調達、輸送・配送、販売した製品の使用、廃棄などが該当するほか、従業員の出張や通勤、資本財やフランチャイズ、投資といった活動によるGHG排出も含まれます。ここではモノを利用する時のGHG排出も対象となるため、消費者が利用する際のGHG排出も自社分として算定する必要があり、Scope1・2に比べて範囲が非常に広くなっています。

スコープ3の15のカテゴリ分類

出典:環境省「サプライチェーン排出量 概要資料」p.2

該当する排出例:

  • プラスチックなどあらゆる原材料の調達サプライヤーによる製品の製造
  • 製品が顧客に利用・廃棄される際の排出  など・・・

※Scope3については「Scope3(スコープ3)とは?15のカテゴリや算出方法について解説」も併せてご覧ください。

Scope1・2・3とサプライチェーン排出量

サプライチェーン排出量とは、企業の事業活動に関連するすべての温室効果ガス(GHG)排出量を指し、原材料の調達から製造、物流、販売、廃棄に至るまでの各プロセスで発生する排出量を含むものです。この排出量は、Scope1・2・3の合計で構成されます。

サプライチェーン全体の排出量を把握することで、企業は自社の環境負荷をより深く理解し、効果的な削減策を導入しやすくなります。特に、原材料の調達や製品の輸送、使用、廃棄に至るまでを含むScope3排出量の削減は、企業や業種の垣根を越えた協力が求められる領域です。Scope1・2・3を総合的に管理し、サプライチェーン全体でGHG排出量の削減戦略を立てていくことが持続的な事業活動につながります。

Scope(スコープ)1・2・3の算定方法

企業が温室効果ガス(GHG)排出量を効果的に管理し削減するためには、Scope1・2・3の正確な算定が欠かせません。温室効果ガス排出量は、基本的には「活動量×排出原単位」の式で算定します。ここでの活動量は、事業者の活動の規模を示すもので、例えば電気の使用量や、ガソリンの使用量、重油の使用量などが該当します。一方、排出原単位は、活動量当たりの温室効果ガス排出量を示すもので、排出係数とも呼びます。

<温室効果ガス排出量の算定の基本式>

温室効果ガス排出量の算定の基本式

出典:広島県 「温室効果ガス排出量算定ガイドライン」p.10

Scope1・2・3においても、ベースは「活動量×排出原単位」で計算されます。ここでは各Scopeの算定方法について具体的に見ていきましょう。

Scope1:企業の直接排出の算定方法

Scope1の排出原単位は、環境省がホームページで公表している「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧」を活用できます。例えば、ガソリンを使用する企業であれば、ガソリンの年間使用量に、ガソリンの排出係数2.29 t- CO₂/kL(2024年11月時点)を乗じることでGHG排出量を算定します。
また、工業プロセスによるGHG排出の算定対象は、原油又は天然ガスの生産や、セメントの製造、工業廃水の処理など多岐に渡り、算定対象となるGHGはCO₂に限りません。メタン(CH₄)、一酸化二窒素(N₂O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六ふっ化硫⻩(SF₆)、三ふっ化窒素(NF₃)も算定対象となります。
一般的に、これらCO₂以外のGHG排出量は算定した後に、地球温暖化係数(CO₂を基準にして、他のGHGがどれだけ温暖化する能力があるか表した数字)を用いてCO₂換算で示すことが通例となっています。

Scope2:購入エネルギーによる間接排出の算定方法

Scope2における活動量としては、電気の使用量、産業用蒸気の使用量などが該当します。また、排出原単位は、電気1kWhあたりのCO₂排出量、産業用蒸気の熱使用量1GJあたりのCO₂排出量などが該当し、環境省がホームページで公表している「電気事業者別排出係数」や一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)のLCAデータベース「IDEA」が活用できます。例えば、電力会社から供給された電気の使用に伴うGHG排出量については、電気の年間使用量(=活動量)に、電力会社の排出係数(=排出原単位)を乗じることで算定されます。

Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出の算定方法

Scope3の算定対象は、15のカテゴリに分類されており、カテゴリ1〜8までの企業のサプライチェーンの上流側と、カテゴリ9〜15までの企業のサプライチェーンの下流側で大別されています。算定においては、環境省が公表している「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」や、「GHGプロトコル」などに従います。

15のカテゴリに分かれており、それぞれに異なるデータが必要になります。ここでは、カテゴリ1「購入した製品・サービス」(原材料の調達、パッケージングの外部委託、消耗品の調達など)の算定方法について、見ていきましょう。

Scope3では、複数の算定方法が認められているカテゴリが複数あり、カテゴリ1もそれに該当します。算定方法によって、算定難易度・精度が変わるため、算定目的に応じて、適切な算定方法・取得データを検討することも重要です。

 カテゴリ1の算定方法は、主に2つあります。1つ目は自社が購入・取得した製品またはサービスに係る資源採取段階から製造段階までの排出量をサプライヤーごとに把握し、積み上げて算定する方法。この算定方法の難易度は高いものの、精度も高くなるため、サプライヤーから購入した製品ごとに排出量削減活動の実態に即した算定が行えるメリットがあります。ただ、サプライヤーが排出量データを把握できない場合や、サプライヤーからデータを入手できない場合もあり、算定が困難になることも少なくありません。

 2つ目は、自社が購入・取得した製品またはサービスの物量・金額データに製品またはサービスごとの資源採取段階から製造段階までの排出原単位をかけて算定する方法です。この算定方法では、新たにサプライヤーからデータを取得する必要がないため、算定は比較的容易になります。自社で把握している物量・金額データの分類区分と、使用する排出原単位の区分とがどの程度適合しているかによって算定精度が変わるため、その点を把握した上で活用していく必要があります。

 その他、カテゴリ1ではリサイクルされた原材料調達においても留意が必要になります。この場合、リサイクルされる前のフローの全てを算定範囲とするのは現実的に不可能なため、一定の範囲で区切らなければなりません。その区切り方については様々な考え方があり、特定の方法に限定することは困難ですが、例えば、当該原材料のリサイクル処理プロセスをカテゴリ1の算定対象範囲とする場合、リサイクル処理プロセスは受入側のカテゴリ1と排出側のカテゴリ5(事業活動から出る廃棄物) もしくは カテゴリ12(販売した製品の廃棄)でそれぞれ計上します。
 このようにScope3の算定に関しては、データ収集、排出源の特定、排出量の変動性などの側面から、その排出量を正確に把握することは企業にとっても大きな挑戦になっています。

Scope3の算定方法の詳細については「Scope3(スコープ3)の排出源の特定とデータ収集、算定方法」の見出し内にて詳しく解説しています。

Scope(スコープ)1・2・3とサプライチェーン排出量削減への取り組み

サプライチェーン排出量を算定するメリット

多様なビジネス指標のAI画像

企業が温室効果ガス(GHG)排出量を削減していくためには、Scope1・2・3の排出量を削減するための具体的な取り組みを行うことが重要です。Scope1・2・3の各領域に応じた削減方法を実施し、その進捗や効果を継続的に追跡することは、環境負荷を総合的に低減する動きを後押しします。Scope1・2だけでなく、Scope3を含めたサプライチェーン排出量を算定することは、環境負荷低減に加え、企業活動においても主に以下の6点のようなメリットが期待されます。

①削減対象の特定
自社のサプライチェーン排出量の全体像(排出総量、排出源ごとの排出割合)を把握し、サプライチェーン上で優先的に削減すべき対象を特定することが可能になる。

②環境経営指標への活用
自社のサプライチェーン排出量の経年変化を把握して、削減対策の進捗状況を確認できるため、環境経営指標として活用できる。

③他事業者との連携による削減
排出量算定のための情報交換がきっかけとなり、サプライチェーン上の他事業者と連携した削減策を共同で考案し取り組むことにつながる。

④削減貢献量の評価
サプライチェーン排出量と削減貢献量を一緒に公表することで、削減貢献量の参考指標として活用することができる。

⑤機関投資家等の質問対応
機関投資家や環境格付機関による質問票にサプライチェーン排出量に関する質問が増えてきている中で、それに適切に回答し、自社の環境経営の取り組みを発信することで、自社の評価を高めることができる。

⑥CSR情報の開示
企業の社会的責任情報開示の一環として、サプライチェーン排出量をCSR報告書、WEB
サイトなどに掲載し、自社の環境活動への理解を深めることができる。

<サプライチェーン排出量を算定するメリット>

サプライチェーン排出量を算定するメリット

出典:環境省「サプライチェーン排出量算定の考え方」p.1

持続可能な未来のために:サプライチェーン全体で取り組む排出量削減

サプライチェーン排出量を削減していくためには、企業や業種など様々な垣根を越えた協調が欠かせません。定期的なモニタリングの仕組みを構築し、データ精度を向上させながらサプライチェーン全体で進捗を管理していく――そうした連携とコミュニケーションの積み重ねによって、削減目標の達成が見えてくるはずです。「未来を見据えた持続可能な取り組み」がステークホルダーからの評価向上をもたらし、サステナブルな経営基盤の構築につなげていくことは、世界中の企業にとって重要テーマのひとつになっています。

三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、
バイオマスでカーボンニュートラルと目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

「BePLAYER®」「RePLAYER®」https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm

<公開資料:カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー関連>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/whitepaper/

 
参考資料
*1:Scope(スコープ)123をまず知ろう。サプライチェーン排出量の算定を始める方へ - CARBONIX MEDIA:
https://sustech-inc.co.jp/carbonix/media/knowscopes123/
*2:知っておきたいサステナビリティの基礎用語~サプライチェーンの排出量のものさし「スコープ1・2・3」とは|エネこれ|資源エネルギー庁:
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/scope123.html
*3:Scope 1、Scope 2、Scope 3の違いとは?|株式会社ゼロボード:
https://zeroboard.jp/faq/scope/
*4:サプライチェーン排出量全般 | グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省:
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html

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