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脱炭素とカーボンニュートラルの違いとは?意味や目標をわかりやすく比較

森と太陽光発電の写真

地球温暖化問題を考える上で重要なキーワードとして挙げられるのが「脱炭素」と「カーボンニュートラル」。これらのキーワードは、環境問題に関心のある人々だけでなく、ビジネスパーソンや生活者においても、その意味を正しく理解することが求められています。
今回の記事では、脱炭素とカーボンニュートラルの定義や、それらの違い、さらによく使われる関連用語について解説します。

脱炭素とは?

脱炭素の定義

脱炭素とは、温室効果ガスの排出量を削減し、最終的には実質的にゼロにすることを指し、気候変動問題への国際社会の対応と連動して現在は「カーボンニュートラル」と同義の言葉として使われることが一般的です。

「脱炭素」という文字を見ると、炭素を使用しない、もしくは炭素を無くすようなイメージがありますが、決してそうではありません。すべての生物は生きるため、成長するために炭素が必要です。ただ、産業革命以降の人間の炭素の使い方が地球温暖化を引き起こす要因になっているため、私たちは持続可能かつ再生的な炭素の使い方を学び、実践していく必要があります。そういった意味では、日本語として文字にする場合、「脱炭素」というよりも「〝改〟炭素」という表現の方が、本来の意味と合致していると言えます。

脱炭素(=改炭素)を実現するには、エネルギー部門、運輸部門、産業部門、家庭部門など、あらゆる領域での変革が必要になりますが、その有効な手段の一つが、再生可能エネルギーの導入です。太陽光発電、風力発電、水力発電などの再生可能エネルギーは、化石資源由来のエネルギーに比べて、地球環境に与える環境負荷が低く、持続可能なエネルギー源として注目されています。また、私たちが日々使用してさまざまな燃料や原料を、化石資源由来からバイオマス由来のものに転換していくことも脱炭素の実現につながります。

※バイオマスの活用については、「バイオマスとは?意味や注目理由、ビジネスメリットをわかりやすく解説」にて詳しく解説しています。

地球温暖化の現状と将来予測

世界平均気温の変化予測出典:全国地球温暖化防止活動推進センター「2-15 世界平均気温の変化予測(観測と予測)」

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によれば、20112020年の世界平均気温は、産業革命前(18501900年平均)と比べて、およそ1.09上昇しています。また、世界気象機関(WMO)によると、2024年の世界平均気温は観測史上で最高値を更新し、産業革命前と比べた上昇幅は1.55℃に達しました。

 

IPCCによる最悪のシナリオでは、2100年までに世界の平均気温が「最大5.7℃上昇」する可能性も示唆されています。地球温暖化の進行は環境面に様々な影響を与えますが、環境省が2020年12月に公表した「気候変動影響評価報告書」では、気温や水温の上昇、降水日数の減少による農作物の収量減少や品質低下、漁業への影響、動植物の分布変化、洪水の増加、熱中症による死亡者増加などが、すでに現れていると報告しています。また、今後、世界の平均気温がさらに上昇した場合、これらのリスクは一段と深刻化することが予測されています。

私たちが何も対策を取らず、最大5.7℃の気温上昇が現実になった場合、気温上昇によって地球全体の気候は大きく変動し、環境や生態系が崩壊する恐れがあります。また、食糧や水を巡る争いが勃発する可能性さえあると言われています。

※地球温暖化の影響については、「地球温暖化の影響とは?予測される未来をわかりやすく解説」にて詳しく解説しています。

なぜ脱炭素が求められるのか?

ここまで見てきたように、地球温暖化の進行に歯止めをかけなければ、地球環境は危機的な状況に直面することが想定されています。そのため、地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの排出量を削減し、実質ゼロを目指す脱炭素(=改炭素)社会実現の重要性は一段と高まっています。

従来、企業の気候変動対策は、あくまでCSR(企業の社会的責任)の一環として行われる傾向がありましたが、近年は気候変動対策を自社の経営上の重要課題と捉え、気候変動対策の視点を織り込んだ「脱炭素経営」を推進する企業が世界的に増加しています。こうした側面からも、企業が様々なステークホルダーの信頼を得ながら、持続的な成長を実現していく上で、「脱炭素(=改炭素)」の取り組みは今や必要不可欠になっていると言えるでしょう。

気候変動対策の今までとこれから出典:環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム

カーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルの定義

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡にして、大気中への温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにするという概念です。「実質的にゼロにする」というのは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、その合計を実質的にゼロにすることを意味しています。

地球温暖化は、異常気象や海面上昇、生物多様性の損失など、私たちの地球環境に深刻な影響をもたらしています。こうした気候変動問題に対処するため、国際社会では地球温暖化対策の強化とカーボンニュートラルの実現が求められています。カーボンニュートラルを実現するためには、再生可能エネルギーの利用促進、省エネルギー技術の導入、森林の保全、二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)、製品やエネルギーでのバイオマスの活用など、様々な取り組みが不可欠です。

※カーボンニュートラルについては、「カーボンニュートラルとは?意味や目標をわかりやすく解説」にて詳しく解説しています。

カーボンニュートラル達成の重要性

カーボンニュートラル実現に向けた取り組みは、地球温暖化の抑制につながるだけでなく、新たな産業や技術革新を後押しし、持続可能な経済成長にも貢献します。日本でも2023年6月に「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」が成立し、同年7月には「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(GX推進戦略)」、同年12月にはGX実現に向けた投資促進策を具体化する「分野別投資戦略」が策定されました。

このように、2050年カーボンニュートラルの実現と経済成長の両立(GX)を実現するための施策が、日本だけでなく世界各国で強化されており、その重要性は日々高まっています。

国際社会の動向

世界の国・地域別のCO₂排出量(2020年)を見ると、中国をトップにアメリカ、欧州連合(EU27カ国)、インド、ロシア、日本、ブラジルと続いています。
途上国でも工業化やエネルギー需要の高まりとともにCO₂排出量が増加しており、全世界的にカーボンニュートラル実現に向けた取り組みが欠かせない状況にあります。

2015年に国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」でも、先進国や途上国の区別なく、すべての締約国が温室効果ガスの削減目標を設定することになっており、COP26が終了した2021年11月時点で、154カ国・1地域が2050年などの年限を区切ったカーボンニュートラルの実現を表明しています。

<年限付きのカーボンニュートラルを表明した国・地域>年限付きのカーボンニュートラルを表明した国・地域

出典:経済産業省 資源エネルギー庁「第1節 脱炭素を巡る世界の動向」

こうした国の動きに連動し、産業界でもカーボンニュートラル実現に向けた取り組みが進んでおり、サプライチェーン全体での温室効果ガス排出量の削減や、グリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けた投資が活発化しています。また、カーボンニュートラルの達成向け、その進捗を社会全体で共有すべく、今後、デジタル技術を活用してCO₂排出量を可視化する新たなサービスなども増えていくことが予想されます。

脱炭素とカーボンニュートラルの違いを解説

現在、脱炭素とカーボンニュートラルは一般的に同義で使用されていますが、元々は少し異なるニュアンスを持っていました。ここでは、それぞれの考え方が生まれた歴史を辿りながら、脱炭素とカーボンニュートラルの当初の考え方の違いを見ていきましょう。

1992年、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極の目標とする「国連気候変動枠組条約」が採択され、世界は地球温暖化対策に世界全体で取り組んでいくことに合意。同条約に基づき、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)が1995年から毎年開催されていますが、第3回目となるCOP3は1997年12月に京都で開催されました。

このCOP3では、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素(亜酸化窒素)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)、六フッ化硫黄(SF₆)の6種類の温室効果ガスに関し、先進国の排出量削減について法的拘束力のある数値目標などを定めた「京都議定書」が採択されました。

ただ、ここでの基本的な考え方は、化石燃料への依存を減らし、温室効果ガスの排出を減らしていこうというものです。つまり、当時はカーボンニュートラルのように「温室効果ガスの排出量を〝実質ゼロ〟にする」という考えには至っておらず、まずは温室効果ガスの排出量を従来よりも〝減らす〟ことに重点を置いている側面があります。

こうした動きを受け、1997年以降、日本でも「低炭素社会、脱炭素社会」という言葉を見聞きすることが増えていきます。

その後、2015年にフランス・パリで開催されたCOP21では、気候変動対策の国際枠組みである「パリ協定」が採択され、世界共通の長期目標として「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに(2℃目標)、1.5℃に抑える努力を追求すること(1.5℃目標)」、「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること(=カーボンニュートラルの実現)」等に合意。

2015年の「パリ協定」を契機に、カーボンニュートラルという概念が世界中に広まり、それ以降は日本でもカーボンニュートラルと同義の言葉として脱炭素社会が頻繁に使用されるようになり、低炭素社会という言葉はあまり使われなくなりました。

つまり、温室効果ガスを減らすだけではなく、実質ゼロにすることが世界共通の目標になったことで、「脱炭素=カーボンニュートラル」と認識されるようになったという歴史的背景があります。

脱炭素、カーボンニュートラルの類似用語にまつわるエトセトラ

最後に、脱炭素、カーボンニュートラルの類似用語について解説します。気候変動をはじめとした環境問題への対策を講じていく際、こうした一つひとつの用語の意味を正確に把握していくことも重要です。

ネットゼロ

気候変動に関する政府間パネル(IPCC : Intergovernmental Panel on Climate Change)の第6次報告書において、「ネットゼロ」は「人為起源CO₂排出量と人為起源CO₂除去量が一定期間均衡している状態」と定義されており、一般的にカーボンニュートラルと同じ意味を持つ用語として使用されています。

ただ、IPCC第6次報告書において、「カーボンニュートラル」は上記のCO₂排出量とCO₂除去量が均衡している状態に加え、その達成に向けて補完的にカーボンクレジット(ある主体が温室効果ガス排出量を削減・除去した分を、第三者が取引可能なクレジットとして認証したもの)による埋め合わせを利用する場合があることも記述されている点が、「ネットゼロ」とは異なっています。

IPCC報告書や気候変動マネジメントのための基準である「ISO14068-1」では、このようにカーボンニュートラルとネットゼロを、厳密には区別して使用している場合もあるため、政府による報告書や国際基準においては、それぞれが記載している用語の定義を確認することも重要です。

カーボン・オフセット

カーボン・オフセットとは、「温室効果ガスの排出量が減るよう削減努力を行った上で、どうしても排出が避けられない温室効果ガスについて、その排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資することなどにより、排出される温室効果ガスを埋め合わせる取り組み」のことで、①知って(排出量の算定)、②減らして(削減努力の実施)、③オフセット(埋め合わせ)する、といった3ステップで実施されるものです。つまり、カーボン・オフセットは、カーボンニュートラルを実現するための1つの手段になります。

<カーボン・オフセットの3ステップ>カーボン・オフセットの3ステップ

出典:環境省「カーボン・オフセットガイドラインVer.3.0」p.7

日本では、カーボン・オフセットに用いる温室効果ガスの排出削減量・吸収量を、信頼性のあるものとするため、国内の排出削減活動や森林整備によって生じた排出削減・吸収量を認証する「オフセット・クレジット(J-VER)制度」を2008年11月に創設。2013年度からはJ-VER制度及び国内クレジット制度が発展的に統合したJ-クレジット制度を開始しています。

カーボン・クレジット

一般的にカーボン・クレジットは、温室効果ガスの排出量見通し(ベースライン)に対し、実際の排出量が下回った場合、その差分のMRV(モニタリング・レポート・検証)を経てクレジット(排出権)として認証するものです(ベースライン&クレジット方式のカーボン・クレジット)。前述の「カーボン・オフセット」は、主にこの「カーボン・クレジット」の取引によって成立するため、両者には深い関連性があると言えます。

なお、カーボン・オフセットでは、上記のベースライン&クレジット方式のカーボン・クレジットを使用することが一般的ですが、その他に企業に排出量の上限(キャップ)を設け、余剰排出量や不足排出量を売買するキャップ&トレード方式で取引される排出枠(余剰排出枠、超過排出枠などとも呼ばれる)もあります。

このように環境関連の用語は横文字のものが多く、一見、同じような意味を持っていそうな用語でも、実際は異なる意味のものも少なくないため、その1つひとつを正確に把握していくことが、気候変動対策を講じていく上でも重要になります。

三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、
バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

「BePLAYER®」「RePLAYER®」https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm

<公開資料:カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー関連>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/whitepaper/

 
参考資料
*1:全国地球温暖化防止活動推進センター「温暖化とは?地球温暖化の原因と予測」:
https://www.jccca.org/global-warming/knowleadge01
*2:経済産業省「気候変動分野に関するファイナンスの取組について」:
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/green_innovation/pdf/gi_002_04_02.pdf
*3:経済産業省 資源エネルギー庁「第1節 脱炭素を巡る世界の動向」:
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/1-2-1.html

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