- カーボンニュートラル
カーボンニュートラルの今、そしてこれから
カーボンニュートラルとは、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス(Green House Has=GHG)に関して、工業や生活など人為的な発生源による排出量と、主に植物の成長過程での吸収(除去)量の均衡(ニュートラル)を目指す気候変動対策です。近年、私たちの日常生活でも、この言葉を見聞きするようになっていますが、カーボンニュートラルという考え方はいつ始まり、どのようなGOALが設定されているのでしょうか。今回はそういった視点からカーボンニュートラルを捉え、国際社会や日本の取り組み状況、関連技術の動向、さらに「グリーントランスフォーメーション」について解説します。
カーボンニュートラルを巡る国際状況
カーボンニュートラルとは、2015年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で合意された考え方(概念)です。日本語では「炭素中立」ともいいます。また、欧州ではカーボンニュートラルとほぼ同義で「クライメイト・ニュートラル(気候中立)」という言葉も使用されています。カーボンニュートラルは二酸化炭素などのカーボン(炭素)に焦点を当てているのに対し、クライメイト・ニュートラルは炭素の有無に関わらず温室効果ガス全体(一酸化窒素や六フッ化硫黄などを含む)に焦点を当てた言葉ですが、この2つは基本的に同じ意味で使われています。このカーボンニュートラルを巡り、国際社会はどのような取り組みを進めているのか、各国の状況を見ていきましょう。
パリ協定からスタートしたカーボンニュートラル
2015年にフランス・パリで開催されたCOP21では、気候変動対策の国際枠組みである「パリ協定」が採択され、世界共通の長期目標として「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること」、「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること」等に合意。このパリ協定は米国・中国・EUなど主要国の批准を経て2016年11月4日に発効し、日本も同年11月8日に批准しました。
パリ協定の重要なポイントは2つです。1つは「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く抑えるとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」いわゆる「2℃目標」が設定されたこと、もう1つはこの目標に向け「今世紀後半の温室効果ガスの人的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成する」ことです。これにより、カーボンニュートラルの原則がはじめて示され、各国はこの原則をもとに温室効果ガスの排出量削減や、気候変動の抑制に向けた取り組みを加速しています。
「欧州グリーンディール」を進めるEU
EU(欧州連合)及び英国は、カーボンニュートラルを共通目標に掲げ、その達成を目指しています*1。2018年11月、EUの執行機関である欧州委員会は、2050年のカーボンニュートラル実現を目指す長期戦略ビジョン「A Clean Planet for All」を発表。さらに、2019年12月、このビジョンを実現するための政策文書「欧州グリーンディール」を公表し、2020年1月には今後10年間(2020年~2030年)で総額1兆ユーロの投資を行う「欧州グリーンディール投資計画」を発表しました。
また、EUではいち早く温室効果ガス排出量削減に向けた取り組みを進めており、世界に先駆け2005年からEU域内排出量取引制度(EU-ETS)をスタート。これは対象となる企業や施設などに対し、一定期間中の排出量の上限を課し、その上限を段階的に引き下げることによって排出量削減を目指すもので、排出量の過不足分は市場で取引するキャップ・アンド・トレード型の制度です。2022年時点でEU加盟国27カ国及び、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーの計30か国がEU-ETSに参加。同制度では参加国の排出量の約40%をカバーしており、2021年の参加国全体のオークション収入は310億ユーロに達しています。
こうした実績も踏まえ、欧州委員会は2021年7月、「欧州グリーンディール」の実現に向けた気候変動対策の政策パッケージ「Fit for 55」の一環として、炭素国境調整メカニズム(CBAM)規則案を発表。CBAMとは、先述のEU-ETSに基づいて、EU域内で生産される対象製品に課される炭素価格に対応した価格を、域外から輸入される対象製品に課す制度です。このCBAM規則は2023年5月17日に施行され、2026年からの本格適用を前に2023年10月1日から対象事業者に報告義務を課す移行期間が開始されています。
CBAM規則については、欧州以外の地域に生産拠点を持ち、欧州向け輸出を行っている産業に与える影響への懸念も広がっています。
パリ協定に復帰した米国は総額約4,600億ドルの巨額投資で追随
米国はCOP21におけるパリ協定の採択に大きく貢献するなど、国際的な気候変動への対応を長年先導してきましたが、トランプ大統領時代に様々な環境規制を白紙撤回するなかで、パリ協定からも脱退するなど、気候変動問題における国際的なリーダーとしての地位を失いつつありました。
こうした中で、2020年の大統領選挙に勝利したバイデン大統領はトランプ氏の政策を大きく転換。翌2021年1月20日の大統領就任初日にパリ協定への復帰を表明し、1週間後の1月27日には「国内外における気候危機に対処するための大統領令」に署名し、気候変動を米国の外交政策と安全保障の中核に位置付けました。また、2035年までの電力部門の脱炭素化や化石燃料補助金の削減、2030年までに洋上風力発電で30ギガワット(1,000万世帯以上への年間電力供給に十分な量)の電力生成を目指すなどの考えを示しました。
さらに、2021年4月には米国主催で世界の首脳を招聘した気候変動リーダーズサミットを開催。これに合わせて2030年までに温室効果ガスを2005年比で50~52%削減し、2050年にカーボンニュートラルを実現することを表明しました。この2030年目標はオバマ政権時代に設定していた2005年比26~28%削減という中期目標を大幅に上回るものです。
また、2021年11月にグリーンテクノロジーへの880億ドルの投資を含む「インフラ投資雇用法」を、2022年8月には気候変動対策への3,690億ドルの投資を含む「インフレ削減法」をそれぞれ成立させています。巨額の投資によって、気候変動への対処において再び国際社会を先導していく姿勢を国内外にアピールしているバイデン政権のカーボンニュートラル政策ですが、2つの点で疑問符がつきます。バイデン大統領の選挙公約には議会での承認を伴う新規立法が必要なものがあり、民主党、共和党の勢力が拮抗する連邦議会の上下両院でスムーズに成立していくのか、また2024年秋の大統領選挙の帰趨によっては再びの方針転換が起こる可能性もあります。
中国も「双炭」関連政策をスタート
中国ではカーボンピークアウトとカーボンニュートラル*2(併せて双炭という)に向けた取り組みが推進されています。2020年9月国連総会において習近平国家主席は『2030年までにカーボンピークアウトさせ、2060年までにカーボンニュートラルの達成を目指す』と表明。翌2021年10月には「双炭」目標を実現するためのロードマップが示され、各省や市レベルでもそれに関連した政策が発表されています。中国で事業展開する日系企業には経営コスト上昇等の負担も予想されますが、目標達成のための助成・優遇措置も用意されており、それを上手く活用しながら、いかに「双炭」の実現に貢献していくかが、今後の重要テーマの一つになっています。
着実に進む日本のカーボンニュートラル
日本では2020年10月、当時の菅義偉内閣総理大臣が「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」ことを宣言。さらに、翌2021年4月の地球温暖化対策推進本部及び米国主催の気候サミットにおいて、「2050年目標と整合的で、野心的な目標として、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%削減の高みに向けて、挑戦を続けていく」ことを表明しました。
2013年度比46%減という2030年目標は、国内各産業界の合意を積み上げた数字で実現性は高いと考えられます。化学産業を例にとると大手化学企業は省エネなどを中心にすでに2020年の時点で約20%の削減を達成しており、今後、新たに加わる方策などにより2030年には目標に極めて近い数値の実現が視野に入ってきています。自動車業界、エネルギー産業などでも様々な取り組みがなされており、目標達成に向けて各産業とも着実に前進しています。
また、日本では2012年から石油・石炭・天然ガスなど化石燃料に対して「地球温暖化対策税*3」を課税し、排出抑制対策を推進・強化する財源に位置付けています。2024年4月時点では二酸化炭素の排出量1トン当たり289円の税率が設定されていますが、欧州などの税率*と比べると大幅に低くなっています。日本政府は炭素税に関して、「あらゆる主体の行動変容を促す」などメリットは認めつつ、「二酸化炭素の削減量を担保することが難しい。民間企業の投資・イノベーションの減資を奪う」などデメリットも踏まえ慎重な姿勢を維持しており、2023年度の税制改正では導入が見送られました。一方、2023年5月の国会にて、今後の日本におけるエネルギー政策の方向性を定めた法案「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」が成立し、同年5月19日に公布されました。このGX推進法では、10年間で官民あわせて150兆円を超える脱炭素投資を進めることで、国内企業の競争力強化や経済成長との両立を目指しています。なお、150兆円の脱炭素投資うち、20兆円を政府が支援する方針を掲げており、その財源調達のためGX経済移行債を発行する計画で、その動向が注目されています。
*:欧州の炭素税(二酸化炭素排出量1トン当たり)は英国25ドル、フランス52ドル、スウェーデン52ドル
さらに国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に2兆円*(2021年3月時点)のグリーンイノベーション基金(GI基金)を設置し、企業の技術開発から実証・社会実装を支援する体制を構築。すでに数百億円規模のGI基金による新技術などの開発が始まっています。
*:令和4年度第2次補正予算により3000億円が積み増しされており、さらに令和5年度当初予算により4564億円が積み
増しされます(2023年7月時点)
各国の取り組みは始まったばかり
ここまで日本、EU、米国、中国のカーボンニュートラル政策を見てきましたが、各国・各地域によって目標達成に向けたアプローチに多少の違いや特色があります。日本はGI基金の狙いでもある技術開発、EUは制度設計、米国は財政支出、中国はトップダウンによる統制に重きが置かれています。これらの取り組みは、まだスタートして間もなく、どのアプローチも最適解を模索しながら進められている状況です。モノやヒトがグローバルに行き来する現在、ビジネスの視点では、こうした各国や各地域のカーボンニュートラルに向けた動向や法整備を日々ウォッチしていくことが重要になっています。
また、企業のカーボンニュートラルの取り組みについては「カーボンニュートラルと企業の取り組み最前線」も併せてご覧ください。
化学産業のカーボンニュートラルへの取り組み
産業界におけるカーボンニュートラルの取り組みを見ると、従来の社会貢献(CSR)という視点にとどまらず、ESG経営の中に組み込み、グリーントランスフォーメーション(GX)という新たな成長戦略として再定義されています。これは企業の社会的価値を高めるだけではなく、収益性の向上も目的とした事業活動として、本腰を入れた取り組みとして位置付けていることを意味します。
化学産業の取り組み
これまで石油を原料にプラスチックなど様々な製品を生み出してきた化学産業でも、製造プロセスにおける二酸化炭素排出量削減や、製品の原料転換を図りながら、GHG(温室効果ガス)プロトコルにおけるScope1・2・3の各区分における施策を講じています。
GHGプロトコルやScope1・2・3については、関連記事「CO2排出量を知る -Scope1・2・3-」も併せてご覧ください。
欧州化学メーカーの取り組み
環境意識の高い欧州にあって、世界最大の化学メーカーであるドイツのBASFでは、1990年代に二酸化炭素排出量削減への取り組みを開始しています。カーボンニュートラルにおける目標は同社が世界で展開する事業拠点を対象に、2030年までに二酸化炭素の排出量を2018年比で25%削減し、2050年にはネットゼロ(実質排出量ゼロ)にすることを目指しています*4。
同社では2025年までの二酸化炭素排出量削減の取り組みの重点分野として、再生可能エネルギーへの電力転換を進める方針を掲げています。その中で、2030年には使用エネルギー全体における再生可能エネルギーの比率を60%に引き上げることを目標にしています。この目標達成のため、BASFはスウェーデンのソルナに本社を置くヴァッテンフォール社と共同でオランダのカスト・ズィード風力発電所に参画しているほか、ドイツ・エッセンに本社を置くRWE社と共同でドイツの北海で風力発電所建設計画を推進しています。また、デンマーク・フレゼリシアに本社を置くオーステッド社と、欧州における洋上風力発電の供給に関する長期PPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)を結んでいます。
さらに、製造プロセスの電化も同社のカーボンニュートラル事業の重要な柱のひとつです。ドイツ・ルードビッヒスハーフェンの統合生産拠点に、ドイツのリンデ、サウジアラビアのSABICの協力を得て、2024年4月に世界初となる6MW規模の電気加熱式ナフサ分解炉の実証プラントを稼働。この実証プラントでは、電気を熱源としてオレフィンの連続生産が可能であることを示すことを目的としています。この新技術は、天然ガスの代わりに再生可能エネルギーを使用することで、化学産業で最もエネルギー集約的な生産プロセスのひとつであるナフサ分解炉から排出されるCO2を、現在使用されている技術に比べて、少なくとも90%削減できる可能性があるとされています。
また、こうした製造プロセスでの二酸化炭素排出量の削減に加え、ユーザーへ供給する製品のカーボンニュートラル化も化学産業における重要なテーマです。ドイツ・レバークーゼンに本社を置く大手化学メーカーのコベストロは2022年3月、現在販売している全主要製品で、将来的に温室効果ガス排出実質ゼロ製品を提供することを発表しました。すでに、同社は世界最大の事業ポジションを有するウレタン原料のMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)を温室効果ガス排出実質ゼロのポートフォリオに追加。このMDIは、マスバランス方式*により、原料調達から製品出荷に至るまでの温室効果ガス排出量を実質ゼロにしています。
*マスバランス方式:原料から製品への加工・流通工程において、ある特性を持った原料(例:バイオマス由来原料やリ
サイクル原料)がそうでない原料(例:石油由来原料)と混合される場合に、その特性を持った原料の投入量に応じて、製品の一部に対してその特性の割り当てを行う手法(バイオプラスチック導入ロードマップ:環境省、経済産業省、農林水産省、文部科学省)
国内化学メーカーの取り組み
日本の化学メーカーも、製造プロセスにおけるカーボンニュートラルと、ユーザーに供給する製品のカーボンニュートラルの両側面における取り組みを一段と強化しています。
三菱ケミカルグループでは、2030年度までにグローバルでのGHG(温室効果ガス)排出量を2019年度比で29%削減し、2050年までにGHG排出量を実質ゼロとするカーボンニュートラルの達成を目指しています。具体的には自家発電の燃料転換や再生エネルギーの導入、電源構成の脱炭素化、製造プロセスの合理化など、エネルギー負荷低減に主眼をおいたエネルギー戦略を進める計画です。
さらに2050年までにGHG排出用の実質ゼロを達成するため、CO2フリーの電力供給、水素・アンモニア等のサプライチェーンの確立及び低価格化、カーボンニュートラルに向けた研究開発・設備投資への補助などを進める予定で、2030年までに約1000億円の設備投資を見込んでいます。
さらに、日本の化学産業では、前述したGI基金を使った研究開発も活発化しています。そのひとつが旭化成と日揮ホールディングスによる「大規模水素製造システムを活用したグリーンケミカルプラント」の実証プロジェクトです。このプロジェクトでは、大規模アルカリ水電解システムおよび、再生可能エネルギー由来の水素を原料としたグリーンケミカルプラントの実証に挑戦しています。同プロジェクトの一環として、マレーシア国営ガス会社であるペトロナスのグループ会社と共同で、マレーシアにおける年間8,000トンのグリーン水素製造のための60MW級アルカリ水電解システムの建設準備を進めており、2027年の実証運転開始を目指しています。この商業規模のプロジェクトは、マレーシアでのグリーン水素の製造を通じ、日本とマレーシア、そして東南アジアの市場開発を進め、カーボンニュートラルの達成に向けたグリーン水素の生産基盤の確立につながることが期待されます。
日本の化学業界で最初にカーボンニュートラル宣言を行った
三井化学
2020年10月、日本政府が2050年カーボンニュートラル宣言を行いましたが、その翌月に三井化学は「2050年カーボンニュートラル宣言」を表明。「2050年までにGHG排出量の実質ネットゼロに向けた取り組みを進め、化学企業として社会変革に大きく貢献していく」ことに加え、「GHG排出量削減に貢献する製品をお客様と共に社会実装することによる〝削減貢献量〟の最大化を目指す」といった方針を示しました。これに続き、翌2021年には長期経営計画「VISION2030」を発表。この長期経営計画では、2030年度までに2013年度比でGHG排出量を40%削減することを非財務目標のひとつに掲げ、2050年カーボンニュートラルへの道筋を具体化しました。
三井化学のカーボンニュートラルロードマップ
具体的には、低炭素原燃料への転換、高エネルギー効率機器の導入等による省エネ、再生可能エネルギーの導入を進めています。2050年カーボンニュートラルに向けては、市場や顧客等の外部環境の整備・変化が前提となりますが、前述の施策に加え、新技術の開発や事業ポートフォリオ転換等による80%以上の削減を、残り20%についてはCCUS等のカーボンネガティブ技術の開発・導入等の施策を推進していく考えです。
こうした自社の排出量削減施策では、NEDOのグリーンイノベーション(GI)基金の研究開発案件に採択されたテーマとして、ナフサ分解炉におけるアンモニア燃料実用化に向けた実証事業も開始。同プロジェクトでは、三井化学が幹事会社となり、丸善石油化学、東洋エンジニアリング、双日マシナリーとともに2021年度~2030年度までの10年間にかけて実証を行い、最終年度にはアンモニア専焼商業炉での実証を完了し、社会実装していくことを目指しています。このプロジェクトはナフサ分解炉において、従来メタンを主成分としていた燃料をアンモニアに転換することで、燃焼時に発生するCO2を限りなくゼロにすることを目標に掲げており、その実現はカーボンニュートラルに大きく寄与することが期待されています。
三井化学の取り組みについては「 カーボンニュートラルに向けた三井化学の道筋」で詳しく紹介しています。併せてご覧ください。
また、「製品提供を通じたGHG削減貢献量の最大化」では、三井化学が有する従来の環境貢献価値を有する各種製品に加え、「素材の素材まで考える」をキーワードに掲げた取り組みを進めています。これは、原子の由来を見直し、プラスチックなど化学素材の素(原料)である炭化水素そのものを、従来の石油由来からバイオマスやリサイクル由来の炭化水素に転換し、カーボンニュートラルに貢献する製品をより幅広く提供してく取り組みです。その中で、現在、バイオマスナフサ※を原料にバイオマスプラスチックの製造を開始し、マスバランス方式によるお客様がより使いやすいバイオマスプラスチックの提案・普及に取り組んでいます。また、リサイクル手法の一つであるケミカルリサイクルにより、廃プラスチックを熱分解油というリサイクル由来の炭化水素にまで戻し、バイオマスナフサと同様に様々な化学素材の原料として再利用する取り組みも進めています。
*バイオマスナフサ:再生可能なバイオマス(植物など生物由来の有機性資源)から生成された炭化水素混合物のことで、バイオディーゼルやSAF(バイオジェット燃料)を作るときの副産物として得られる。そこから作られるバイオマスプラスチックの物性は石油ナフサ由来のプラスチックと同等。
三井化学が描くバイオ&サーキュラーな世界
現在、地球温暖化につながるGHG排出量の削減は全世界共通の大きな課題とされています。各産業における製造プロセスにおけるGHG排出量の削減では、再生可能エネルギーの普及拡大に加え、グリーン水素やグリーンアンモニアなど燃焼してもCO2を排出しないものを燃料として活用するなど、エネルギー戦略が重要になります。一方、私たちが日常的に使用する各種製品のエンドライフで発生するGHG排出量削減では、カーボンニュートラルに貢献する製品のバイオマス化が有効なアプローチのひとつになります。
こうした中で、プラスチック関連では、2021年1月に環境省、経済産業省、農林水産省、文部科学省が合同で「バイオプラスチック導入ロードマップ」を策定し、バイオマスプラスチックの導入量を2030年には約200万トンにするという、高い目標が掲げられています。しかし、2023年時点での導入量は10万トンに達しておらず、2030年の政府目標を達成するには、お客様がより使いやすいバイオマスプラスチックの普及が必要不可欠です。
こうした側面からも、三井化学では先述の「素材の素材まで考える」をキーワードに、マスバランス方式のバイオマスプラスチックを展開し、社会のバイオマス度をスピーディーに幅広く高めていきたいと考えています。
また、プラスチックについては、プラごみの処理も課題の一つに挙げられています。この課題に対しては、廃プラスチックを〝資源〟としてリサイクルで再利用し、サーキュラーエコノミー社会を実現していくことが重要になります。最初の製品製造ではGHG削減効果の高いバイオマスプラスチックを採用し、使用後の廃プラスチックはリサイクルして資源を循環させる。そのようなバイオ&サーキュラーな世界にしていくことが、サステナブル(持続可能性)を超えたリジェネラティブ(再生的)な社会の実現につながると三井化学は考えています。
カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。持続可能な社会に向けて行動する「RePLAYER®」「BePLAYER®」はこちら。
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- 参考資料
- *1:自然エネルギー財団「脱炭素で先頭を走る欧州」:
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_EuropeDecarbonization_JP.pdf - *2:中国 「カーボンピークアウト・カーボンニュートラル」 政策概要及び中部地区の実行現状について|JETRO:
https://www.jetro.go.jp/world/reports/2022/02/05d428c7c4ec6e5d.html - *3:地球温暖化対策のための税の導入|環境庁:
https://www.env.go.jp/policy/tax/about.html - *4:BASF、再生可能エネルギー事業活動を 新子会社BASF リ二ューアブル・エナジーに集約:
https://www.basf.com/jp/ja/media/news-releases/global/2021/12/p-21-383.html