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後編:ISCC PLUS認証の最新動向(スタンドアローン化)と審査のポイント

ISCC PLUS認証_後編
バイオマスやリサイクル由来原料などの持続可能性をサプライチェーン全体で保証する国際認証(ISCC)の認証スキームである「ISCC PLUS」をテーマに、第三者認証機関であるSGSジャパン株式会社の山中さんにインタビューし、専門家の視点から解説いただいた内容を、前後編の2部構成でまとめています。
※前編:複雑なサプライチェーンをつなぐ持続可能性カーボン認証「ISCC PLUS認証」の全体像

前編ではISCC PLUS認証の全体像について伺いました。後編では、ISCC PLUS認証の核となる「マスバランス方式」の運用や、2025年から本格移行が進む「スタンドアローン化(独立規格化)」、そして企業が認証とどう向き合うべきかについて深掘りします。

プロフィール

山中 一(やまなか はじめ)
SGSジャパン株式会社
サステナビリティ ビジネスイノベーション マネージャー

大学卒業後、フィルターメーカー、総合化学メーカーにて生産管理、品質管理等の業務に従事、アフリカ・モザンビーク国での国際ボランティア活動を経て、SGSジャパン株式会社に入社、FSC-CoC認証、ISCC認証の主任審査員として、Chain of Custody型の第三者認証審査業務に従事。現在はサステナビリティ領域の認証審査、検証サービスの新規開発業務などに携わる。

 

ISCC PLUS認証におけるマスバランス方式の運用ポイント

複雑なサプライチェーンだからこそ求められるマスバランス方式の「厳密な帳簿管理」

マスバランス方式の大きな特徴の1つは、投入した持続可能原料(マテリアルソース)の環境価値(クレジット)を、要求事項で定められている範囲内で、柔軟に製品へ割り当てられる点にあります。これを「フリーアトリビューション」と呼びます。

しかし、この自由度は決してどんぶり勘定で運用してよいという意味ではありません。マスバランス方式を適用する製造現場では、厳密な帳簿(管理表)による管理が求められます。具体的には、持続可能原料(※)がどれだけ工場に入ってきて(インプット)、それが生産プロセスにおいてどのように換算されて貯まり、出荷時にどれだけの特性を製品に割り当てて減らしたのかという、一連の増減プロセスを「管理表(帳簿)」上で完全に整合させ続けなければなりません。

持続可能原料のインプットに伴い、その量に応じた環境価値が帳簿上に一時的に貯められます。そして製品出荷時には、その製品にふさわしい量の環境価値を割り当てて出荷しますが、それと同時に、割り当てた分に相当する環境価値を帳簿上の残高から厳密に差し引きしていかなければなりません。

例えば、インプットされた原料から得た特性が100kg分(残高100kg)であれば、アウトプットの段階で100kgを超えるサステナビリティ特性を製品に上乗せして出荷することは、規格上、明確に禁止されています。第三者認証機関による審査では、その帳簿やサステナビリティ宣言書(Sustainability Declaration)を照合し、インプット以上のクレジットを過剰に割り当てていないか、要求事項通りに運用されているかを厳しく確認します。

この帳簿管理については、製品の製造プロセスやサプライチェーンが複雑になればなるほど難易度が高まります。例えば、化学製品のサプライチェーンにおいて最も川上にある「ナフサクラッカー」などでは、異なる由来の原料のインプットと、そこから生産される各種化学品のアウトプットの量を明確に把握できますが、川下の「パッケージメーカー」などの製造現場では、そこに至るまで複数の拠点をリレーしてさまざまな原料が届くため、その管理が複雑になります。

具体的には、工場内にポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、PETなど複数の原料がインプットされ、多種多様な製品へと加工されていく現場では、「PP由来の環境価値を、互換性のないPEの製品へ誤って割り当ててしまう」といった管理ルール違反やミスが起こりやすくなります。このように、複雑な工程であるほど、インプットとアウトプットの量を誤りなく整理する厳密な管理体制の構築が求められます。

第三者による監査がもたらす「国際的な信頼性」

こうした各企業の厳密な帳簿管理が正しく機能しているかを客観的に確認するのが、私たちのような第三者認証機関による年1回の「更新審査」です。審査の現場では、企業が作成した帳簿と実際の取引実績やサステナビリティ宣言書などを突き合わせ、要求事項に基づいた適切な割り当てが行われているかを判定します。

もし、この第三者による客観的な検証プロセスが存在しなければ、マスバランス方式は「企業が自社に都合よくルールを決めて割り当てているだけ」と受け取られかねず、環境価値の信頼性は崩壊してしまいます。「企業による厳密な帳簿管理」と「独立した第三者による厳格な監査制度」、この双方が揃うことで初めて、ISCC PLUS認証は持続可能性と炭素の由来を証明する国際認証としての信頼性を担保しているのです。

ISCC PLUS認証スタンドアローン化の最新情報

これまでISCC PLUS認証は、ヨーロッパ市場向けの法的規制に対応する「ISCC EU」のルールをベースに、追加の規定や読み替えを適用する形で運用されてきました。しかし、ISCC PLUS認証が対象とする製品は、化学品やプラスチック、食品、飼料など「燃料以外の有機物」であり、その種類は多岐にわたります。

こうした多様なニーズに対応するため、ISCC EUから完全に独立した専用の規格として運用することが決定されました。すでに2025年11月から「スタンドアローン化(独立規格化:Standalone)」への移行が始まっており、2027年1月からは完全に新規格へと移行することになっています。

取材の様子_山中さん

2025年からのスタンドアローン化移行による変更点

スタンドアローン化によって、サプライチェーンをつなぐトレーサビリティ(管理連鎖:CoC)の基本的な枠組み自体が大きく変わるわけではありません。しかし、これまでは明文化されていなかった詳細な運用ルールが規定されたことで、全体として管理の厳密性が一段と引き上げられています。
具体的な変更点としては、以下のようなポイントが挙げられます。

①サステナビリティ宣言書(SD)の記載情報の増加
製品を出荷する際に次の拠点へと受け渡すサステナビリティ宣言書において、記載・開示しなければならない必須情報が細かく指定され、その量が増加しています。

②フリーアトリビューションにおける根拠の厳格化
マスバランス方式のメリットである「フリーアトリビューション」を適用する際にも、「インプットの特性を完全に反映する」という前提がより重視されるようになっています。例えば、インプット原料由来の特性を含まない成分に対して割り当てを行う場合などでも、その割り当ての妥当性や根拠をサステナビリティ宣言書上で明確に開示する制約が加わりました。

「不適合」を防ぎ、新規格への正確な理解と運用体制の構築を

ISCC PLUS認証の取得企業が日本国内でも急速に増加し、制度が広く普及するにつれて、ルールを正しく理解・運用できておらず、監査を行った際に不適合と判定されるケースも増えています。今回のスタンドアローン化は、実務における日々の帳簿管理やサステナビリティ宣言書の作成方法に直接関わる大きな変化です。そのため、企業側でも新規格によって何が変わるのかを正確に把握し、それに対応した運用体制にアップデートしていく必要があります。

第三者認証機関であるSGSジャパンでは、こうした企業の皆様の新規格への理解を深めていただくため、「ISCC PLUS 規格解釈研修」や「ISCC PLUS V1.1 規格解説コース - その他 - マネジメントシステム | Deliveruセレクト」などの専門セミナーを展開しています。形式的な認証取得にとどまらず、ルールを正しく、かつ実務に即して安定的に運用できるよう、こうした学びの機会も積極的に活用しながら、新規格への理解を深めていただきたいと考えています。

認証を取れば解決するわけではない。サステナビリティ実現の「ツール」としての認証

化学・有機物分野のグローバルスタンダードであり続けるISCC PLUS認証

世界的にカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーへの取り組みが進み、関連法規制が強化されるなかで、化学品をはじめとする有機物の持続可能性認証としては、今後も「ISCC PLUS認証」がグローバルスタンダードであり続けると考えられます。実際に、有機物を取り扱う企業では、持続可能な原料を活用していることをステークホルダーに証明するための第一候補として、ISCC PLUS認証を検討されるケースが増えています。

また、認証の普及が進むにつれて、市場におけるその立ち位置も変化していきます。現在日本国内で広く普及している、木材や紙製品が対象の「FSC-CoC認証」が辿った歴史のように、最初は取得数が少なく、他社との差別化や優位性を示す意味合い(先進性)が強かったフェーズから、取得数が増えるにつれ「認証を取得しているのが当たり前(前提条件)」となり、取得していないことがリスクになりかねません。つまり、認証を持っていない企業は、そもそもサプライチェーンのリングにすら入れない、という時代が訪れる可能性があるのです。

取材の様子_山中さん

認証の取得は目的ではなく客観的に証明するためのツール

ただ、これからISCC PLUS認証の取得を目指す企業の担当者の方々にお伝えしたいのは、「認証を取得したからといって、すべてが解決するわけではない」ということです。

サステナビリティの取り組みで最も重要なことは、認証を取得することではなく、企業として「ありたい姿」を描き、それを実現するための「技術革新」を起こすことです。確かな技術や科学的知見による裏付けや、企業としての明確なビジョンがないまま「認証を取得すること」自体が目的になってしまっては、せっかくの制度も形骸化し、何の意味もなさなくなってしまいます。

認証とは、企業が生み出したサステナブルな技術や価値を、社外のステークホルダーに対して客観的に証明するための「ツールの1つ」に過ぎないのです。

しかし、特に転換期において、こうした国際認証を企業がうまく活用することは、業界全体の意識を変え、ひいては社会全体の変革を加速させる要因になり得ます。そうした意味では、ISCC PLUS認証のような国際認証が、企業だけでなく、社会全体が「ありたい姿」へと近づくためのツールとして機能することを期待しています。

三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

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