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PPWRとは?EUの新しい包装・包装廃棄物規則をわかりやすく解説

包装のリサイクル

EU市場で流通する製品の包装とその廃棄物を規制するPPWR(包装・包装廃棄物規則)が2025年2月に発効されました。その背景には、環境意識の高まりに加え、EU市場においてもオンラインショッピング、宅配、テイクアウトなどの普及・拡大に伴い、リサイクル率の向上を上回るペースで包装廃棄物が増加している状況があります。
こうした包装廃棄物の発生を抑制し、サーキュラーエコノミーへの移行を促進するためのPPWRとは、具体的にいつ、どんな内容で適用されるのか、日本企業にはどのような影響があるのか解説します。

監修

鶴田 祥一郎(つるた しょういちろう)
一般社団法人サステナブル経営推進機構 本部長
2007年、社団法人産業環境管理協会に入社。エコリーフ(現:SuMPO EPD)およびカーボンフットプリント(CFP)制度の構築・運用に携わり、LCAコンサルティング業務に従事。2015年より2年間、環境省地球温暖化対策課へ出向し、技術開発実証業務に従事。2019年、一般社団法人サステナブル経営推進機構の設立に伴い転籍。
2023年、株式会社LCAエキスパートセンターを共同設立し、取締役を兼任。現職では、LCAをはじめとする各種コンサルティング業務やSuMPO EPDプログラムの運営に携わる。2025年4月より現職。

 

PPWR(包装・包装廃棄物規則)とは

PPWR(包装・包装廃棄物規則)の背景

COVID-19のパンデミック以降、EUでもオンラインショッピング、宅配、テイクアウトなどを活用する機会が増えており、こうした消費行動の変化に伴い、商品の包装とその廃棄物も増加しています。欧州理事会によると、EUでは2021年に8,400万トン(前年比24%)の包装廃棄物が排出され、何も対策を講じなければ2030年までにさらに19%増加する、との見方が示されています。こうした中で、包装廃棄物の増加率にリサイクル率が追いついていないのが現状です。

<EUの包装廃棄物の増加率とリサイクル率の推移>
EUの包装廃棄物の増加率とリサイクル率の推移
出典:欧州理事会「Packaging」

また、EUで排出される包装廃棄物(2022年)の資材構成を見ると、紙と段ボールが全体の40.8%を占め、次いでプラスチックが19.4%、ガラス18.8%、木材16%、金属4.9%となっています。これら包装廃棄物の排出量削減とリサイクル促進は、環境負荷低減とサーキュラーエコノミーを実現する上での重要テーマのひとつに挙げられています。

<EUにおける包装廃棄物の資材構成(2022年)>
EUにおける包装廃棄物の資材構成(2022年)出典:欧州理事会「Packaging waste statistics」

PPWR(包装・包装廃棄物規則)の目的

EUでは包装廃棄物に関して、1994年より「包装・包装廃棄物に関する指令」として規制が施行されていたものの、各国の国内法で詳細が整備される指令(Directive)であったために、加盟国の間で対応に差がありました。

そこで欧州委員会が2022年11月に、EU加盟国に一律に適用される規則(Regulation)へと格上げする形で提案したのがPPWR(Packaging and Packaging Waste Regulation:包装・包装廃棄物規則)です。PPWRは、廃棄物の削減・再利用・リサイクルの取り組み強化を目的としています。

PPWRは2024年11月に正式に採択され、2025年2月に発効となりました。2026年8月から適用が順次開始される予定です。

なお、EUでは2019年から成長戦略として欧州グリーン・ディールを推進し、循環型経済を実現するための取り組みの第1弾として2022年3月にエコデザイン規則が提案され(2024年7月発効)、第2弾として同年11月にPPWRが提案されました(2025年2月発効)。エコデザイン規則では、特定の製品カテゴリーとして包装を扱っていないため、この点ではPPWRがエコデザイン規則を補完する位置付けとなっています。

一方、エコデザイン規則は、必要に応じて、特定の製品の包装に焦点を当てた製品ベースの要件を設定することで、PPWRを補完する可能性があります。このような補完的な要件は、使用される包装の量を最小限に抑えるためのもので、これによってEU内での廃棄物発生の防止に貢献する狙いがあります。

※エコデザイン規則については、「EUのエコデザイン規則(ESPR)とは?エコデザイン指令との違いを解説」にて詳しく解説しています。

PPWR(包装・包装廃棄物規則)の主な内容

再利用・リサイクル目標の強化

包装廃棄物の削減と再利用、リサイクルの取り組みの強化、EU域内における包装規制の統一を目指すPPWR。パッケージングのサステナビリティ向上を図るべく、各加盟国に以下のような目標の達成義務を課しています。

① 包装廃棄物の削減
1人あたりの包装廃棄物の重量を2030年までに5%削減、2035年までに10%削減、2040年までに15%削減(いずれも2018年度比)。

② 100%リサイクル
EU域内で流通するすべての包装を2030年までに100%リサイクル可能にする。

③ リサイクル目標
包装廃棄物全体に対するリサイクル割合を包装資材ごとに義務付ける。

<PPWRが掲げる包装資材ごとのリサイクル目標>
PPWRが掲げる包装資材ごとのリサイクル目標出典:欧州連合日本政府代表部「EUのPPWR(包装・包装廃棄物規則)の概要」p.4

そして、2030年以降はPPWRで定められた7つの持続可能性要件を満たさない包装の商品はEU市場で販売できなくなります。7つの持続可能性要件は以下のとおりです。

<包装・包装廃棄物の持続可能性要件:5-11条>
① 有害物質の使用規制(第5条)
② リサイクル可能な包装(第6条)
③ プラスチック包装の最低リサイクル含有割合(第7条)
④ プラスチック包装におけるバイオベース原料(第8条)
⑤ 堆肥化可能な包装(第9条)
⑥ 包装の最小化(第10条)
⑦ 再利用可能な包装(第11条)

また、バイオベース・プラスチック包装に関しては、PPWRが施行された3年以内(2028年2月まで)にバイオベース・プラスチックの使用状況や技術開発の状況などを評価した上で、包装で使用する際の要件が検討される予定です(2025年2月時点)。

日本企業への影響と対策

包装業界だけでなく、EU域内に製品を輸出している企業やEU域内で製品を販売する企業に影響を与えるPPWR。該当する企業は適用時期までに定められた要件を満たす必要があります。

リサイクル性能等級

EU市場で販売されるすべての包装は、2030年1月1日までにマテリアルリサイクルが可能な設計になっていることが求められます。また、2035年1月1日までに大規模なリサイクルが可能になっていなければなりません。

<リサイクル性能等級の考え方>
リサイクル性能等級の考え方出典:農林水産省「PPWR(EU包装・包装廃棄物規則)調査報告書(概要)」p.7

その包装が基準を満たしているかどうかを表すのがリサイクル性能等級です。重量ベースでのリサイクル割合が95%だとA、80%以上であればB、70%以上はCと3段階で表されます。2030年1月1日(または委任規則施行の2年後のどちらか遅い時期)以降はA、B、Cの評価を満たした包装ならEU市場で販売できます。

しかし、2038年1月以降はAかBを満たした包装のみとなります。使用している包装がリサイクル性能等級の評価基準を満たしていない場合は、包装設計の見直しや代替包装の開発が必要となります。なお、リサイクル性能等級の評価方法は、2028年1月1日までに欧州委員会によって委任規則が採択される見通しです。

プラスチック包装のリサイクル含有割合

さらに、PPWRでは2030年1月1日以降はプラスチック包装には一定のリサイクル材を使用することを求めています。なお、このリサイクル材は、EU域内で収集されたものを基本として使用する必要がありますが、同等の基準により認められた第三国からのリサイクル材についても認められています。

                      <第7条 プラスチック包装の最低リサイクル含有割合>
第7条 プラスチック包装の最低リサイクル含有割合                   ※上記の数値は、消費後のプラスチック廃棄物からリサイクルされた割合で、包材形態別に製造工場別の年間平均で計算
         出典:欧州連合日本政府代表部「EUのPPWR(包装・包装廃棄物規則)の概要」p.12 

自社製品をEU域内に輸出または販売する日本企業は、適用時期までにこれらの要件を満たせるよう準備する必要があります。その中で、特にさまざまな課題をクリアしなくてはならないのが食品用途などで使用される多層フィルムです。複数のプラスチック素材の特性を組み合わせることにより、食品の安全性や品質の長期保持などに寄与する多層フィルムは、現時点でリサイクルが難しいため、モノマテリアル化などの開発を進め、リサイクルしやすい包装設計を検討していく必要があります。

拡大生産者責任(EPR)

また、PPWRの第40条~第42条において、「生産者は加盟国の市場で初めて入手可能となる包装又は包装製品について、拡大生産者責任(EPR:Extended Producer Responsibility)を有する」ことが規定されています。

拡大生産者責任(EPR:Extended Producer Responsibility)とは、生産者が、その生産した製品が使用され、廃棄された後においても、当該製品の適切なリユース・リサイクルや処分に一定の責任(物理的又は財政的責任)を負うという考え方です。そのため、日本企業であってもPPWRに則り、環境への影響に対する以下の費用を負担する必要があります。

<生産者の負担金における費用対象>
① 廃棄物の分別回収・輸送・措置費用
② 情報提供費用
③ データ収集費用
④ 廃棄物表示添付費用
⑤ 回収された混合都市廃棄物の組成分析調査費用

持続可能な社会の実現に向けて

消費行動の変化によって、増加傾向にある包装廃棄物。その削減とリサイクル率のさらなる向上を図り、限りある資源の循環を促進させることは、サーキュラーエコノミーと持続可能な社会を実現するための重要テーマのひとつです。

「環境」と「経済」を両立させる成長戦略「欧州グリーン・ディール」を掲げるEUは、増加傾向にある包装廃棄物が環境に与える影響を最小限に抑え、サーキュラーエコノミーを促進させるべく、PPWRによりEUの包装規制の統一化を図ろうとしています。

こうした動きを受け、多くの日本企業も包装設計の見直しやリサイクルの推進など、包装廃棄物削減に向けたさまざまな取り組みをスピードアップさせることが求められています。

リサイクルソリューション
https://www.youtube.com/watch?v=iLKmKUbMMvU

三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、
バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

「BePLAYER®」「RePLAYER®」https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm

<公開資料:カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー関連>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/whitepaper/

  
参考資料
*1:欧州理事会「Packaging」:
https://www.consilium.europa.eu/en/policies/packaging/
*2:EUR-Lex「Regulation(EU)2025/40」:
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2025/40
*3:欧州連合日本政府代表部「EUのPPWR(包装・包装廃棄物規則)の概要」:
https://www.eu.emb-japan.go.jp/files/100788022.pdf
*4:農林水産省 PPWR(EU包装・包装廃棄物規則) 調査報告書(概要):
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_process/attach/pdf/k_packaging-36.pdf
*5:JETRO「2024年版 概要スライド EU循環型経済関連法の最新概要 日本貿易機構(ジェトロ)調査部 2024年11月」:
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/e2a3dada17af22e3/20240023_02.pdf
*6:農林水産省「包装および包装廃棄物規制(PPWR)について」:
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/soumu/attach/pdf/bunkakai-224.pdf
*7:JETRO「EU 循環型経済関連法の最新概要 エコデザイン規則、修理する権利指令、包装・包装廃棄物規則案 2024年11月」:
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/e2a3dada17af22e3/20240023_01.pdf

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