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生分解性プラスチックとは?メリットや問題点、使用例を解説
ある一定の条件の下で、微生物の働きにより分子レベルまで分解(最終的には水と二酸化炭素にまで分解)される生分解性プラスチック。この素材は、従来のプラスチックとは異なる特性を持っています。
今回の記事では、生分解性プラスチックの定義や実際の使用例まで解説します。また、この素材が直面している問題点や今後の展望についても触れ、持続可能な社会の実現に向けた可能性を探ります。
生分解性プラスチックとは
生分解性プラスチックの定義
生分解性プラスチックとは、ある一定の条件の下で、微生物の働きにより分子レベルまで分解(最終的に二酸化炭素と水にまで分解)される性質を持つプラスチックのことです。
二酸化炭素と水にまで分解されると聞くと、ポイ捨てしても大丈夫と思われる方もいるかもしれませんが、そうではありません。完全に生分解させるには、最適な廃棄システムが必要になります。また、すべての生分解性プラスチックが完全に分解されるまでの時間軸は、その種類や分解される環境によって異なります。
生分解性プラスチックは、従来の石油由来の原料だけでなく、植物由来の原料からも製造が可能です。植物由来の原料を使用したものは、ライフサイクル全体の二酸化炭素排出量削減に寄与するため、その特性を正確に把握しながら適材適所で使用すれば、温室効果ガス排出量の削減と循環型社会の実現にも貢献します。
生分解性プラスチックとバイオマスプラスチックとの違い
生分解性プラスチックとバイオマスプラスチックは、どちらも環境に配慮したプラスチックとして注目されていますが、その定義は異なります。
生分解性プラスチックは、ある一定の条件の下で、微生物の働きにより分子レベルまで分解(最終的には水と二酸化炭素にまで分解)される性質を持つプラスチックのことで、化石資源由来(石油など)のものと、バイオマス由来のものがあります。
一方、バイオマスプラスチックは、原料として植物などの再生可能な有機資源(バイオマス)を使用するプラスチックのことで、生分解するものもあれば、生分解しないものもあります。
つまり、生分解性プラスチックは生分解性という機能に焦点を当てた分類であり、バイオマスプラスチックは使用する原料に焦点を当てた分類といえます。環境負荷の低減を図る際には、両者の違いを明確に理解した上で、用途に合わせて適切な素材を選択する必要があります。
※バイオマスプラスチックについては、「バイオマスプラスチックとは?生分解性プラスチックとの違いや問題点を解説」にて詳しく解説しています。
分解されるまでのプロセス
生分解性プラスチックの分解は、微生物の働きで進みます。そのプロセスは、微生物が分泌する酵素による加水分解が一般的です。プラスチックが微生物の分泌する加水分解酵素により水に可溶な有機酸にまで分解(酵素分解)された後、それが微生物の体内に取り込まれ二酸化炭素と水にまで完全に分解(微生物代謝)されます。
生分解性プラスチックの種類によって分解しやすい環境が異なることや、分解速度が微生物の活動や周囲環境に大きく依存する側面はあるものの、最終的には二酸化炭素と水にまで分解されます。
生分解性プラスチックのメリットと問題点
生分解性プラスチック導入のメリット
生分解性プラスチックの最大の魅力は、最終的に二酸化炭素と水にまで分解されることです。私たちが日常的に使うプラスチック製品は、大半が長期間分解されない特性を有しているため、適切に廃棄・回収されずに環境中に流出した場合、海洋ごみ問題などにつながります。
これに対し、生分解性プラスチックは微生物によって分解されるため、やむをえず自然環境中に流出する可能性の高い用途については、この生分解性を有することがメリットになります。
生分解性プラスチックの問題点
最終的に二酸化炭素と水にまで分解し、プラスチックごみ問題などの解決に寄与することが期待されている生分解性プラスチックですが、いくつかの問題点も抱えています。
<完全に生分解させるには特定環境が必要になる>
生分解性プラスチックにも様々な種類があり、その種類ごとに生分解性の能力(分解する温度、分解に要する時間も含む)が異なるため、生分解性を十分に発揮するためには、各種の生分解性プラスチックに適した環境(工業コンポスト、家庭コンポスト、土壌、海洋など)を用意し、そこに一定期間おかなければならないことです。特に、コンポストが必要になる生分解性プラスチックについては、日常的に使用できるコンポストなどの社会インフラの整備が必要になります。
生分解性プラスチックは、近年注目されているマイクロプラスチック問題の解決につながることも期待されていますが、目に見えないほど小さくなっても、完全に分解していなければ、マイクロプラスチックとして自然環境中に流失する可能性があるため、生分分解に適した環境で速やかに完全分解させることが重要になります。
<既存のリサイクルシステムに与える影響>
また、既存のプラスチックリサイクル工程を活用することが難しいという課題もあります。例えば、代表的な生分解性樹脂であるPLA(ポリ乳酸)では、PETやポリスチレンと同様に透明パックを作ることができるのですが、PETのリサイクル工程にわずかでもPLAが混入すると、リサイクルPETが白濁してしまうという問題が生じます。透明なプラスチックは、何も表記がなければ見分けがつきにくく、分別も難しいため、既存のリサイクルシステムにマイナス影響を与えるリスクもあります。
<モラルハザードの問題>
最も大きな課題は、モラルハザード(ポイ捨ての助長)です。最終的に二酸化炭素と水にまで分解されるため、多少、自然環境下に流出しても問題ないという認識が広がると、気軽にポイ捨てするようなモラルハザードが生じかねません。実際に、生分解性プラスチックが普及し始めた2000年前後では、捨てても分解するから問題ないという誤った認識もありました。先述したように、完全に生分解させるには特定の環境下に一定期間おく必要があり、完全に分解していなければ、マイクロプラスチックとして自然環境中に流失するリスクがあります。生分解性プラスチックであっても、しっかり分別して回収し、適切な特定環境下で完全に生分解させ、自然環境に流出させないことが重要であることに変わりはありません。
生分解性プラスチックの特徴を最大限に生かしていくためには、これら問題点の解決が求められています。
生分解性プラスチックの使用例と効果
農業分野での使用例
生分解性プラスチックは、農業分野において、マルチフィルムや育苗ポットなどの用途で利用されています。従来のプラスチック製マルチフィルムは、使用後に回収・処理が必要でしたが、生分解性マルチフィルムは、最終的に土に分解されるため、回収作業の手間を省くことができます。また、従来のプラスチックと比べて土壌汚染のリスクも低減できます。
さらに、生分解性プラスチック製の育苗ポットは、苗を植える際にポットごと植えられるため、植え替えの手間を省き、苗の根を損傷するリスクを抑えることができます。
食品廃棄での使用例
生分解性プラスチックは、食品廃棄物用の収納袋にも活用されています。家庭や飲食店から排出される食品廃棄物は、その多くが焼却処分されています。
しかし、生分解性プラスチック製の袋を使用すれば、食品廃棄物と一緒にコンポスト化が可能となり、焼却量を減らし、資源の有効活用にもつながります。
このように、生分解性プラスチックは、農業などの作業効率向上と環境負荷低減の両立や、循環型社会の実現につながるポテンシャルを有しています。なお、実際に使用されている用途については、日本バイオマスプラスチック協会のホームページでまとめて公表されています。
素材の特性を把握して適材適所で使い分けることの重要性
ファクトベースでの素材選定
生分解性プラスチックの効果を最大限に引き出すためには、素材の特性を正しく理解し、適材適所で使い分けることが重要です。つまり、使用する場所や用途、分解条件などを考慮し、適切な素材の選択が求められます。
また、ライフサイクルアセスメント(以下、LCA)の視点から、環境への負荷を総合的に判断することが重要です。原材料の調達から製造から廃棄・リサイクルまでの全過程における環境負荷を定量的に比較検討し、その環境負荷が低い素材の選択が求められます。
例えば、生分解性プラスチックの製造過程で、多くのエネルギーを必要としていれば、必ずしも環境負荷が低いとはいえません。LCAの視点を取り入れた、ファクトベースでの素材選定が重要になるのです。
生活者の理解と意識啓発
生分解性プラスチックの普及には、生活者の理解と協力が不可欠です。生分解性プラスチックの特性やメリット、問題点を正しく理解し、適切な使用と廃棄を行うことが重要です。
例えば、生分解性プラスチックは、一般のプラスチックごみとは分別して処理する必要がある場合もあります。企業や自治体は、生活者に対しての情報発信や意識啓蒙を行う必要があります。
また、生分解性プラスチック製品を購入する際には、製品の説明や廃棄方法を確定することが求められます。生活者一人ひとりの意識を高めることは、生分解性プラスチックの普及を後押しし、持続可能な社会の実現に貢献できるのです。
循環型社会の実現に向けて
生分解性プラスチックは、循環型社会の実現に貢献するポイテンシャルを有しています。特に、バイオマス由来の原料を使用した生分解性プラスチックは、製造過程で排出される二酸化炭素量を抑制できるため、地球温暖化対策への貢献も期待されます。生分解性プラスチックやバイオマスプラスチックなどの再生可能な各種素材を適材適所で活用していくことは、持続可能な社会の実現に向けた重要な選択肢のひとつであると言えます。
三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、 <「BePLAYER®」「RePLAYER®」>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm |
- 参考資料
- *1:生分解性プラスチック入門 – 日本バイオプラスチック協会:
http://www.jbpaweb.net/gp/ - *2:一般社団法人プラスチック循環利用協会「環境(かんきょう)にやさしい『生分解性(ぶんかいせい)プラスチック』とは?やさしく解説(かいせつ)!」:
https://www.pwmi.jp/library/library-1556/ - *3:国立環境研究所 環境展望台 環境技術解説 生分解性プラスチック:
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php - *4:国立環境研究所 環境展望台 国連環境計画、農業用プラスチックによる土壌汚染の問題を指摘:
https://tenbou.nies.go.jp/news/fnews/detail.php?i=32927