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100年後の、循環する未来をデザインする。老舗食器メーカー・ニッコーが描くサーキュラービジネス

1908年創業の老舗食器メーカー・ニッコー。同社は長年培ってきたセラミック焼成技術のノウハウを生かしながら、日本国内の陶磁器(セラミック)市場の構造変化に迅速に対応し、機能性セラミック商品(電子回路用セラミック基板など)や住設環境機器(浄化槽・システムバスルームなど)に参入。絶えず新しいことに挑戦しながら事業の多角化を図り、進化し続けてきました。こうした企業DNAのもと、同社の創業事業(オリジン)である陶磁器事業でも、新たな挑戦で持続可能な成長への道を切り開こうとしています。それは、“100年後の、循環する未来をデザインする”ことへの挑戦。
国内市場の縮小や、海外製の安価製品などにより、陶磁器事業の存続が危ぶまれるなか、同社は原材料の調達から製造、物流、利用、回収にいたるまで、同事業に関わる一連のバリューチェーン全体において、サーキュラーエコノミー(循環経済)の原則に沿った取り組みを推進。100年先を見据え、サステナビリティを本質的に追求したビジネスモデルへの転換が、陶磁器事業の新たなビジネスチャンスの創出にもつながりはじめています。
今回のインタビューでは、「世界で一番クリエイティブなセラミックブランド」を目指す同社のサーキュラーエコノミーを軸に据えた新たなビジネスモデルについて、専務取締役の三谷直輝氏にお話を伺いました。
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話し手 三谷 直輝(みたに なおき) |
ニッコーが取り組むサーキュラーエコノミーの歴史
事業の歴史:「儲からない」陶磁器事業の危機
まず、貴社の歴史と現在の事業内容について教えてください。
ニッコーは1908年(明治41年)に石川県金沢市で「日本硬質陶器」として創業しました。当時の国策にも沿いながら、良質な硬質陶器の国産化によって輸入品に代わる製品を国内に広めるとともに、中国、インド、豪州、中南米、欧米の各国への輸出で外貨を得ることを目的としていました。
日本近代窯業の父・ドイツ人技師ゴットフリード・ワグネル氏から技術を学び、洋食器の量産体制を確立。1917年には韓国・釜山に工場を移し、さらに生産を拡大しました。
しかし、戦争の影響により工場の管理・統制が難しくなった側面もあり、戦後に国内へ製造拠点を戻しましたが、なかなか経営が軌道に乗らず、厳しい局面に立たされることになりました。そこでニッコーの要請を受け、1957年(昭和32年)、窯の燃料である石炭を供給していた三谷産業の創業者である三谷進三氏が社長に就任し、事業再建を図りました。
その施策が功を奏し、陶磁器事業が黒字転換した後、当社のコア技術である陶磁器の成形技術を樹脂に転用し新規事業を起こし、ビジネスを多角化。バスタブから住宅設備、浄化槽へと業容の拡大を図りました。
さらに、陶磁器の焼成技術は電子基板にも応用され、電子基板ブランドとしても発展しました。現在は「水創り・環境」「バスライフ」「機能性セラミック」「陶磁器・ライフスタイル」といった4つのブランドセグメントを展開しています。

陶磁器事業にサーキュラーエコノミーの原則を取り入れた背景を教えてください。
ニッコーがサーキュラーエコノミーを意識して事業に取り組むようになったのは、比較的最近のことです。当初は、陶磁器事業が抱える「儲からない」という根深い課題への対処法を検討していました。というのも、1980年代後半に陶磁器事業はピークを迎え、それ以降、陶磁器のコモディティ化が進み、市場は飽和状態となったのです。陶磁器は、一度購入すると長期間使用でき、頻繁に買い替えるものではないため、国内市場の成熟に伴う構造的な需要減に直面し、厳しい状況が長く続いていました。
そのため、経営陣にとって「創業事業である陶磁器事業をどうするか」は最大の課題であり、事業を存続させるか、撤退するかという究極の選択を迫られていました。加えて、資源を採掘して大量生産した製品が、使われなくなると捨てられてしまうという陶磁器事業の従来のあり方では、環境負荷が増す一方だという課題を以前から感じていました。そこで、陶磁器事業の存続と環境への配慮を両立させる道を模索し始めました。
転換のきっかけ:危機的状況と情報収集の過程で掴んだ新たな出会い
陶磁器事業にサーキュラーエコノミーの原則を取り入れるきっかけは、どのようなものだったのでしょうか。
事業存続の危機に直面したタイミングで経営に参画した私は、再建施策としてブランディング強化などのアプローチを試みましたが、いずれも期待したほどの成果は得られず苦戦しました。さらに、2020年初頭に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大。追い打ちをかけるように主力であるレストラン・ホテル向けの売上が激減し、陶磁器事業は一段と厳しい状況に追い込まれました。
しかし、この危機的な状況が転換点となりました。なぜなら、ここから陶磁器事業を再建するためには、従来の延長線上の施策ではなく、抜本的にビジネスモデルを転換しなければならないと、腹をくくることができたからです。「そもそも当社の存在意義は何か?」「未来を見据えてもっとやれることはないのか?」といった根本的な問いに真正面から向き合いながら、社内プロジェクトチームを立ち上げ、陶磁器事業の改革をスタートさせました。
また、事業改革に向けたさまざまな情報収集を行っている過程で、「IDEAS FOR GOOD」を運営するハーチ株式会社と出会いました。最初は「IDEAS FOR GOODのようにサステナビリティに関するさまざまな情報発信を行っている会社の方に話を聞いてみたいな」と思い、代表問い合わせフォームからコンタクトし、構想していたビジネスモデルのサステナビリティ・シフトをどのように進めるのが良いか、相談しました。ハーチさんには最初に相談した段階から、当社の取り組みに共感していただき、これ以降は両社で連携しながら、事業改革のプロジェクトを進めていくことになります。
サーキュラー型のビジネスモデルにシフトしていくにあたり、活動の土台となる概念やプロジェクトはどのように生まれましたか。
ハーチさんとの連携をスタートさせて最初に起こしたアクションは、サステナビリティに関する社内勉強会とワークショップの開催です。陶磁器に関連するさまざまな社会課題を把握した上で、すでに取り組んでいることや、これから取り組みたいことなどの洗い出しを行いました。こうした取り組みを通じ、社員からも「環境にいいことをしたい」「世の中に対していいインパクトを与えたい」という未来志向の意見やアイデアが数多く出ました。こうして誕生したのが、循環型の陶磁器づくりを推進する組織横断型の研究開発プロジェクト「NIKKO Circular Lab」です。
「NIKKO Circular Lab」では、原料調達から製品デザイン、物流、製品利用、回収にいたるまで、陶磁器を取り巻くバリューチェーン全体において、よりサステナブルで循環型の事業の実現に向けて社員が一丸となって取り組んでいます。また、当社のサーキュラーエコノミーの取り組みが、あらゆるステークホルダーの皆さんにわかりやすく伝わるよう、リニアエコノミーとの違いに加えて、生物サイクルと技術サイクル両輪のバタフライダイアグラムを図式化して公開しています。
<ニッコーの生物サイクルと技術サイクル両輪のバタフライダイアグラム>
サーキュラーエコノミーを軸としたビジネスモデルにおいて、現時点での具体的な取り組みを教えてください。
ニッコーの陶磁器事業におけるサーキュラーエコノミーの取り組みは、原料調達から製品デザイン、物流、製品利用、回収にいたるまで、バリューチェーン全体において展開していますが、その循環の輪をつなぐ象徴的なものとしては、捨てられるボーンチャイナ製食器(※)をリサイクルした肥料『BONEARTH(ボナース)®』が挙げられます。これは、サーキュラーエコノミーの概念図(バタフライダイアグラム)において、生物サイクルの取り組みに位置づけられます。
※ボーンチャイナ製食器:
ニッコーが提供するボーンチャイナ製食器(NIKKO FINE BONE CHINA)は、陶磁器の原料である石や粘土に加え、(食肉加工され残った牛の骨を溶解再合成した)リン酸三カルシウムを約50%含めており、その白さと透光性、食品衛生法に適合する安全性から、多くのシェフたちに愛用されている。
また、当社は2021年に飲食店やホテル向けにサステナビリティ関連の情報を提供するオウンドメディア『table source』を立ち上げ、よりサステナブルな飲食店づくりを実現するための情報収集からプロダクト、ソリューションまでを一貫して提供しています。
2021年当時、レストランやホテルの方にお話を聞くと、上層部からサステナビリティに関する漠然とした指示が出され、対応を検討する上でも公開されている関連情報が乏しく困っている、という声が多くありました。そこで、こうした方々の手助けができないかと考え、『table source』をローンチしました。このオウンドメディアを通じ、世界中の飲食店やホテルが取り組むサステナブルでユニークなアイデア、ノウハウを学んでいただき、サステナビリティの本質的な取り組みに変換していただくことで、サーキュラーエコノミーの輪をしっかりつないでいくことに貢献できればと考えています。
陶磁器の資源循環の輪をつなぐ『BONEARTH®(ボナース)』とは
陶磁器(食器)のリサイクルから生まれた世界初の肥料『BONEARTH®』について詳しく教えてください。
安価な海外品の流通量が増加し、陶磁器のコモディティ化が進む中で、従来のようなデザインや見た目だけでの差別化には限界があると感じていたため、当社の主力製品であるボーンチャイナ製食器については、ボーンチャイナ(石や粘土といった素地に加え、食肉加工され残った牛の骨を溶解再合成したリン酸三カルシウムを含んだ磁器)という素材そのものの「優位性」を問い直していました。
こうした中、社内会議で一人の技術者から「ボーンチャイナは肥料になるのではないかと思っている」という発言が飛び出し、この発想が陶磁器を肥料にリサイクルする独自技術の開発につながりました。当社のボーンチャイナ製食器には、リン酸三カルシウムが約50%含まれており、このリン酸三カルシウムが肥料として重要な成分であることに、素材そのものの「優位性」を見出したのです。
一般的に陶磁器は栄養分を含まない土から作られるため、肥料になるといった発想がそもそもなかったのではないかと思います。そのため、18世紀にボーンチャイナがイギリスで誕生して以降も、世界的に肥料としての可能性は見過ごされてきており、陶磁器を肥料にする技術は、ニッコーが世界で初めて確立しました。
<NIKKOの目指す陶磁器の循環社会>

しかし、肥料化のプロジェクトはすぐにローンチできたわけではありません。まず「肥料取締法」という法律の壁に阻まれました。そこで、肥料としての効果を科学的に証明するため、農業に強みを持つ石川県立大学と共同研究を行い、その効果を実証しました。また、日本ではリン鉱石が産出されないため、主に肥料原料として消費されるリンのほぼ全量を中国など海外から輸入しています。日本における肥料の供給リスクの観点から、法改正の流れがあったことなども追い風となり、2022年4月、『BONEARTH®』を肥料として商品化することができました。
『BONEARTH®』を通してサーキュラーエコノミーを実現するためには、農家やレストランなどと協力し、新たな循環スキームを確立することが不可欠です。将来的には、使用済みボーンチャイナの回収拠点をさまざまな場所に設置し、販売店との連携も視野に入れた広範なネットワークづくりも行いたいと思っています。
サーキュラー戦略がもたらした成果と周囲の反応
お客様とのコミュニケーションとビジネス活用
周囲の反応はいかがでしたか。
メディアでの注目度は、我々が期待したほどではありませんでしたが、既存顧客からは「面白い」「新しいことを始めたね」という好意的な反響が寄せられました。その背景には、『BONEARTH®』のローンチに先行し、当社の陶磁器アイテム約700点が並ぶ直営店『NIKKO SHOWROOM / STORE』(東京都渋谷区富ヶ谷)をオープンしたインパクトも大きく、同じタイミングで2つのプロジェクトをローンチできたことは、結果的によい相乗効果を生み出しました。
NIKKO SHOWROOMでの『BONEARTH』の展示
ビジネス面での変化はありましたか?
『BONEARTH®』のローンチで新たな需要が生まれたことや、『NIKKO SHOWROOM / STORE』1F併設のジェネラルストア『LOST AND FOUND TOKYO STORE』(※)が集客装置として機能したことが複合的に作用し、今まで当社があまり接点のなかった層との接点ができ、結果的にお客さまの数が増加しました。
※LOST AND FOUND TOKYO STORE:
「忘れられてしまった大切なものが見つかる場所」をコンセプトとした、長く愛用できる日用品の数々に出会えるジェネラルストア。NIKKO SHOWROOM / STOREと併設されており、陶磁器を焼く窯を模したレンガ作りのアーチで店内は区切られている。
また、『BONEARTH®』をはじめとしたサーキュラーな取り組みは、陶磁器事業部の営業の武器となり、全社的な営業でも活用されるようになりました。実際に、各事業の特定製品を説明する際、会社のミッションやサーキュラーエコノミーに関する取り組みを伝えることで、顧客からの信頼を得ていると聞いています。
「LOST AND FOUND」店内の様子
循環型の食体験を提供する新プロジェクトも始動
さらに、ニッコーは、食器を肥料として再利用する『BONEARTH®』を通じた循環型の食体験を提供する新プロジェクト『BONEARTH FOOD MARKET』を立ち上げ、その第1弾として“地球を味わうベジタブルアイスクリーム”の先行販売をはじめとする、フード事業を開始しました。
このベジタブルアイスクリームに使用されている野菜は、BONEARTH®で育ったものを使用しています。また、BONEARTH®は、食肉加工され残った牛の骨を溶解再合成したリン酸三カルシウムを含んだボーンチャイナ製食器をリサイクルした肥料で、アイスクリームも牛乳を原料としており、共に「牛」から得たものを活用しています。
今回の“地球を味わうベジタブルアイスクリーム”では、この「土に還す」というストーリーも活かし、BONEARTH®を通じた循環を実感できる商品により新しい食の体験を提供しています。
新プロジェクト『BONEARTH FOOD MARKET』では、今後もBONEARTH®の理念に共感した全国の農家がこの肥料を使用し、丁寧に育てた野菜を食品商品に活用していきます。「美味しい」という体験を入り口に、プロジェクトの背景にある技術や理念にも興味を持っていただき、最終的にブランドの認知度を高めることができればいいなと考えています。
ニッコーが目指す「世界で一番クリエイティブなセラミックブランド」
これからの展望を教えてください。
ニッコーが目指すのは、「世界で一番クリエイティブなセラミックブランド」になることです。ここでいう「クリエイティブ」とは、単なるデザインのおしゃれさや目新しさに留まらず、事業の取り組み自体が人々に「おっ」と驚かれるような、独創性のあるクリエイティブを指します。これは、かつてパソコン業界において、堅苦しかったイメージをAppleがクリエイティブに変革したような感覚に近いものです。
最後に、サステナビリティ分野で奮闘する企業担当者や生活者に向けて、メッセージをお願いします。
経営者の立場からお話しすると、まず強調したいのはトップの強い意志の重要性です。舵を取る立場であれば、1つの決断で企業全体の未来が変わることを自覚し、ぜひより良い方向へリードしていきたいです。
また、担当者ベースでは、自分たちの取り組みに経営者を巻き込むことを考えながら戦略を立て、行動することが、ビジネスモデルをサステナビリティ・シフトしていく上で重要になると思います。
次に大切なのは「コマーシャルに走らない」という姿勢です。サステナビリティの取り組みが単なる宣伝や見せかけの「グリーンウォッシュ」とならないよう、常に「この取り組みは何につながるのか」と本質的な問いを持ち続けることが重要です。宣伝色が強くなると、ユーザーの心を動かせず、結果的に選ばれない企業になるリスクがあります。
最後は「心から面白いと思えるか」という情熱です。他社の二番煎じではなく、担当者自身が「面白い」と思えるかどうかが、プロジェクトの成否を分けると感じています。やらされ感で取り組んでも、良い結果は生まれません。ニッコーの事例は、事業存続の危機という状況を「ジョブクラフティング」として楽しみ、打破しようとした強い意志が成功の原動力となりました。
ニッコーは、ミッションに掲げている“未来を素敵にする”ための取り組みをさらに推進し、「クリエイティブなセラミックブランド」として、未来に向けて新たな価値を創造していきたいと考えています。
取材時のダイジェスト版動画も提供しています。ぜひ、こちらからご視聴ください。
https://www.youtube.com/watch?v=bwcSKhbfAYQ
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三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。 <「BePLAYER®」「RePLAYER®」> |