会津から世界へ。シグマのモノづくりとその哲学
グローバルに事業を展開されている中で、生産拠点については会津の一か所に定め、サプライチェーンを含めたすべての生産活動を日本国内で完結させることに重きを置いておられる。
松本さん シグマは1961年に創業した、主に交換レンズとデジタルカメラ、それに関連するアクセサリー類を製造販売している光学機器メーカーですが、当社の特徴は会津工場での「垂直統合型の生産体制」にあります。
世界中のユーザーに届けられている当社の全ての製品は、会津工場ただ1か所で作られています。開発や設計から、レンズの研磨、プラスチック部品の成形や金属加工、塗装、基板実装、組み立て、金型の製造に至るまで、ほぼ完全内製化しています。
これにより、製造プロセスのあらゆる段階での迅速な対応、部門・企業間の緊密な連携、厳格な品質管理を実現していることが、当社の強みです。
こうした「Made in Aizu」の製造哲学を貫かれておられることが、最高性能の実現とユーザーの信頼獲得につながっている。
松本さん そうですね。特に当社ではビルドクオリティにこだわっているため、持った感じ、触った感じ、操作した感じがすごくしっかりしており、ガタつきもない。こうした「Made in Aizu」による高い品質や性能について、お客さまからも評価をいただいています。
また、当社は世界で初めてすべての焦点距離で開放T1.3を実現したラージフォーマット対応シネレンズ(2025年6月時点、シグマ調べ)に「Aizu Prime」という名前をつけ、会津工場で最高の性能、品質、品位をそなえた製品を作っているというアピールも行っています。
御社におけるサステナビリティの基本方針や考え方を教えてください。

木村さん 当社は革新性、性能・品質、そして品位と美しさを兼ね備えた最高の製品を生み出し、社員や協力会社、地域の方々と共に、持続的に成長していくことを、基本的な経営方針として掲げています。
そのため、まずはモノづくりという点において、品質の高い製品を提供し、愛着を持って長く使っていただくことが、メーカーとして取り組めるサステナビリティの1つだと考えています。
また、会津という地域と一体になって持続的に成長していくという観点からは、「脱炭素社会への取り組み」、「環境負荷の低減、循環型社会の実現」、「人権・多様性の尊重と働きやすい社会の実現」、「社会・文化・地域への貢献」という、当社が掲げるサステナビリティにおける4つの取り組みを着実に進めていかなければなりません。
さらに、当社は世界中に製品を販売しているので、ヨーロッパを中心としたお客さまやジャーナリスト、販売店の方々から寄せられるサステナビリティへの期待感も日々感じており、やるべきことをしっかりとやっていきたいと考えています。
木村 将太郎さん
御社が掲げている「すべてのひとに “Happy moment” を。」という企業使命を果たしていくためにも、持続可能な社会を実現していくことが重要になる。
木村さん “Happy moment”というのは創業者の山木道広が、現社長の山木和人が幼少の頃に「写真は人が幸せな時に撮るものだ(ひとは幸せなとき、心から幸せを願うとき、その瞬間を残したくなる)」と話しており、それに現社長が深く共感したため、その探求と創造を当社のミッションとして掲げることになりました。
地球環境を守りながら、持続可能な社会を実現することは、“Happy moment”の大前提でもあります。そのため、サステナビリティに関する取り組みを着実に進めていくことは、当社が掲げるミッションの達成にもつながると考えています。
脱炭素社会の実現に向け、バイオマスポリカーボネート樹脂を採用
「脱炭素社会への取り組み」を進める中で、バイオマスポリカーボネート樹脂を採用するに至った背景をお話しいただけますか。
松本さん 当社は従来から、主にレンズ鏡筒に使用する素材として、優れた温度安定性と強度を兼ね備え、アルミニウムに近い熱収縮率を持つポリカーボネート樹脂を、帝人株式会社(以下、帝人)様からご提供いただいておりました。
この帝人様のポリカーボネート樹脂は、光学機器に適合した非常に優れた素材で、温度変化による収縮が少なく、金属部品との親和性が高いため、以前はアルミなどの金属でないと出せなかった高い精度を保ちながら、製品の軽量化や耐久性の向上にも大きく寄与しています。
ただ、これまでは石油由来のポリカーボネート樹脂だったため、温室効果ガス排出量の側面での環境負荷が気になっていました。そうした中で、帝人様からバイオマス由来のポリカーボネート樹脂を供給することが可能であることをご案内いただき、「それはいい!ぜひ検討したい」という流れになりました。
木村さん 当社は世界中の人々の “Happy moment”のために最高性能を追求したモノづくりにこだわっていますが、メーカーであるゆえ、原料調達を含めたモノづくりのプロセスや、製品の廃棄過程において環境負荷を与えているという自覚があります。
こうした最高性能と環境配慮の両立に対し課題を感じている中、帝人様にご提案いただいたマスバランス方式のバイオマスポリカーボネート樹脂は、従来の石油由来のものと物性が全く変わらず、温室効果ガス排出量を削減することができるため、この素材転換は「最高性能と環境配慮の両立を可能にする非常に有効な手段」になりました。
バイオマスポリカーボネート樹脂に切り替えることに課題はありましたか。
松本さん 当初はバイオマス由来になると素材の物性が変わり、製品設計や金型も全部作り直す必要があるのではないかと心配していました。
その点も含め、詳しくご説明をいただいたところ、帝人様のバイオマスポリカーボネート樹脂は、持続可能な製品の国際認証のひとつである ISCC PLUS認証に基づいたマスバランス方式を適用したもので、その原料であるバイオマスナフサ(※)由来来のビスフェノール A(BPA)が、石油由来の BPA と同等の物性であることから、石油由来のポリカーボネート樹脂と物性が全く変わらないことが分かりました。
そのため、物性面でも課題は全くなく、安心して採用を進めることができました。また、既存の金型や製造設備もそのまま使用できるため、素材転換に伴う新たな投資を行う必要がない点も、バイオマスポリカーボネート樹脂の採用を後押しする要因となりました。
※バイオマスナフサ:再生可能なバイオマス(植物など生物由来の有機性資源)から生成された炭化水素混合物のことで、バイオディーゼルやSAF(バイオジェット燃料)を作るときの副産物として得られる。そこから作られるバイオマスプラスチックの物性は石油ナフサ由来のプラスチックと同等で、従来品と品質を変えることなく、様々な製品をバイオマス化することができる。
環境対応を進める上で、コスト面のハードルはありましたか。
松本さん コストが上がることに対し、多少、葛藤があったことは確かです。当社の関連部署からも「本当にそのコストアップに問題はないか」といった問い合わせが何度もありました。ただ、最終的には、私から社長に直接、バイオマスポリカーボネート樹脂を採用する経緯と効果を説明し、その必要性を社長にも理解していただけたので、工場としても非常に進めやすくなりました。
その結果、今回の素材転換により、当社で製造するプラスチック部品の約4割が、石油由来ではなくバイオマス由来となります。当社が温室効果ガスの排出量削減を進める上で、この取り組みは大きな意義があると考えています。
松本 伝寿さん
持続可能な未来へ。―環境負荷の低い素材の活用と、愛着を持って長く使用される製品づくりへの挑戦
今後、環境負荷の低い素材の活用領域を広げていくご計画はありますか。
松本さん 今回はポリカーボネート樹脂をバイオマス由来に切り替えましたが、当社の製品にはそれ以外のプラスチックを使用している部品もあります。それらについてもバイオマス由来などの環境負荷の低い素材への転換を、積極的に検討していきたいと思っています。
シグマBFを手に持つ松本さん
木村さん 当社が素材そのものを開発することはできないため、今回のように新たなご提案をいただけるのはとてもありがたいです。開発や製造を含めてサステナビリティに関する意識は高いので、新しいご提案があれば、すぐに検討できる体制が整っています。そうした当社の「垂直統合型の生産体制」の強みを活かし、社会の変化をチャンスと捉えて、サステナビリティの取り組みを広げていきたいと考えています。
また他方で、当社はカスタマーサポート、特にアフターサービスにも力を入れています。例えば、レンズのマウント部分を交換し、レンズの主要な部分はそのまま活かして異なるメーカーのカメラでも使用し続けることができる、「マウント交換サービス」を提供しています。
こういったサービスを提供することで、お客さまに当社製品に愛着を持っていただきながら、できるだけ長く使っていただきたいと考えています。バイオマス由来など環境負荷の低い素材を使用した製品を、長期にわたり使用することは、温室効果ガス排出量削減などの面でよりポジティブな効果を生むため、アフターサービスにも引き続き注力していきます。
最後に読者の皆様へのメッセージをお願いします。
(左)松本さん、(右)木村さん
木村さん 先ほどもお話しした通り、私たちはこれからも「世界中の人々に愛着を持って、長く使っていただける製品をつくっていきたい」と思っています。お客様にも、こうした想いや取り組みに共感していただけるよう、当社も「最高性能の追求」と「環境負荷低減」を両立させるサステナブルなモノづくりにより一層注力していきます。
松本さん サステナビリティの観点では、工場で大量に水や電気を消費している点でまだ課題は残っており、こうした領域でもさらに環境負荷を下げる取り組みを進めていく必要があると思っております。また、今回採用したバイオマスポリカーボネート樹脂のように、素材転換による環境負荷低減も積極的に推進し、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと思っています。
取材時のダイジェスト版動画も提供しています。ぜひ、こちらからご視聴ください。
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https://youtu.be/UZlPFOUNSXE