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ISO最新動向:14001:2026改訂から考えるGHG管理とカーボンニュートラルへの対応

ISO最新動向

2026年4月に発行されたISO14001:2026では、気候変動への対応に加え、生物多様性や資源利用などの環境課題に対して経営レベルで考慮されていることが、より重視されるようになりました。企業には、環境マネジメントシステムを経営戦略と連携させ、GHG排出量を正確かつ適切に把握・管理しながら環境パフォーマンスの継続的な改善を進めることが求められています。
今回の記事では、ISO14001:2026の主な改訂内容や移行スケジュールをはじめ、ISO14064シリーズによるGHG排出量の算定・第三者検証、ISO14068-1に基づくカーボンニュートラルへの取り組みまで、実務の流れに沿ってわかりやすく解説します。

監修

鶴田 祥一郎(つるた しょういちろう)
一般社団法人サステナブル経営推進機構 事業本部 本部長
株式会社SuMPO NEXT 取締役事業本部長
2007年、社団法人産業環境管理協会に入社。エコリーフ(現:SuMPO EPD)およびカーボンフットプリント(CFP)制度の構築・運用に携わり、LCAコンサルティング業務に従事。2015年より2年間、環境省地球温暖化対策課へ出向し、技術開発実証業務に従事。2019年、一般社団法人サステナブル経営推進機構の設立に伴い転籍。
2023年、株式会社LCAエキスパートセンターを共同設立し、取締役を兼任。同社はその後、2026年に株式会社SuMPO NEXTへ名称変更。現在は、LCAをはじめとする各種コンサルティング業務やSuMPO EPDプログラムの運営に携わる。2026年8月より現職。

 

2026年に改訂された「ISO14001:2026」とは

改訂内容のポイントと2029年までのスケジュール

環境マネジメントシステムの国際規格「ISO14001」が、2026年4月15日に「ISO14001:2026」として正式に発行されました。

今回の改訂は、規格の基本的な構造を大きく変更するものではありませんが、気候変動の影響の深刻化や、求められる環境対応の高度化を反映し、企業に対してより戦略的かつ統合的な環境マネジメントを求める内容へと進化しています。特に、気候変動への対応、生物多様性の保全、持続可能な資源利用といったテーマが、規格のなかでこれまで以上に明確に位置付けられました。そのため、ISO14001:2026では、環境マネジメントシステムを、単なる法令順守や環境負荷低減としてだけではなく、気候変動、生物多様性、資源制約などの環境課題を経営上のリスク及び機会として捉え、事業戦略と連携しながら、サプライチェーンや製品ライフサイクル全体を視野に入れて環境情報を管理・活用するためのマネジメント基盤とする考え方が、より明確になっています。

なお、ISO14001:2026の発行に伴い、認証取得組織には約3年間の移行期間が設けられています。この期間内に、現行規格からISO14001:2026への移行審査を完了する必要があります。(移行審査は、更新審査や維持審査のタイミングに合わせて実施することが可能です。)

期限までに移行を完了できない場合、既存のISO14001認証を継続できなくなる可能性があるため、早めの準備と計画的な対応が重要です。

※ISO14001の更新審査や維持審査のタイミングなどについては、ISO14000シリーズの仕組み・メリットをわかりやすく解説にて詳しく解説しています。

規格改訂に伴う環境マネジメントシステムへの「変更管理」

ISO14001:2026への移行にあたっては、既存の環境マネジメントシステムが新たな要求事項に対応できるよう、運用内容の見直しが必要です。特に、今回の改訂で新設された「箇条6.3(変更の計画策定)」に基づく変更管理への対応が重要なポイントとなります。

まず、箇条4.1「組織及びその状況の理解」では、気候変動に加え、生物多様性、汚染レベル、天然資源の利用可能性、生態系の健全性などを含む環境状態を、組織を取り巻く外部課題として考慮することが要求事項に明確に位置付けられました。また、箇条4.2「利害関係者のニーズ及び期待の理解」では、投資家や顧客、地域社会などの利害関係者が求める環境対応についても、自社の環境マネジメントシステムへの反映が求められています。

さらに、環境側面を扱う箇条6.1.2では、環境側面およびその影響について、「通常時」、「非通常時」、「緊急時」それぞれの状況ごとに個別に評価することが重視されています。

加えて、新設された箇条6.3により、組織や事業活動に新たな変更が生じる際には、それが環境にどう影響するかを事前に体系立てて計画・管理するアプローチが求められます。

特に、環境側面・環境影響の評価において、温室効果ガス(GHG)排出が著しい環境側面として特定された場合は、削減目標を設定するとともに、排出量を適切に把握・管理することが重要です。その際、組織のGHG排出量の定量化・報告に関するISO14064シリーズなどの活用が有効です。

ISO14064に基づくGHG算定・報告の実務

「ISO14064シリーズ」は、GHG排出量を定量的に算定・報告・検証するための国際規格であり、信頼性の高い排出量管理を支える基盤となります。

ISO14064シリーズは、主に次の3つで構成されています。
・ISO14064-1:組織全体のGHG排出量を算定・報告するための規格
・ISO14064-2:GHG削減・吸収プロジェクトの効果を定量化するための規格
・ISO14064-3:GHG排出量や削減量の算定結果を第三者が検証・妥当性確認するための規格

ISO14064-1に基づく組織のGHG排出量(Scope1, 2, 3)の算定ステップ

ISO14064-1に基づくGHG排出量の算定は、組織や活動の範囲を明確にし、排出量を適切に算定・報告するために、以下の5つのステップに沿って進められます。

ステップ1:組織境界(バウンダリ)の決定
算定対象となる組織の範囲を決定します。「支配力基準(自社が財務・経営を支配している範囲)」または「出資比率基準(出資割合に応じた範囲)」のいずれかのアプローチを用いて算定の境界を決定します。

ステップ2:活動境界の決定と排出源の特定
次に、組織境界内のGHG排出源を洗い出し、Scope1(直接排出)、Scope2(エネルギー使用に伴う間接排出)、Scope3(サプライチェーン全体のその他の間接排出)に分類します。特にScope3では、自社の事業活動に関連する15カテゴリを対象に排出源を特定します。

ISO14064-1では、GHG排出量を直接排出と複数の間接排出カテゴリに整理しています。一方、企業の情報開示やScope3算定の実務では、GHGプロトコルに基づくScope1、Scope2、Scope3の区分も広く活用されています。本解説では、皆様になじみのあるScope区分を用いて説明します。

ステップ3:データ収集と排出係数の決定
特定した排出源について、排出量の計算に必要な「活動量」と「排出係数」を準備します。

活動量には、燃料使用量、購入電力量、原材料の調達量、輸送量などのデータを使用します。排出係数は、サプライヤーなどから提供される実測データ(一次データ)を用いるか、環境省などが提供する公開データベース(二次データ)を活用します。

ステップ4:排出量の計算
収集したデータをもとに、基本的に「活動量×排出係数(または排出原単位)」という計算式を用いて、各排出源のGHG排出量(t-CO₂e)を算定します。算定対象にはCO₂以外のメタン(CH4)や代替フロン類などのガスが含まれるため、これらについて地球温暖化係数(GWP)を用いてCO₂
換算の数値に統一して合算します。

ステップ5:GHG報告書の作成
データの収集や測定に伴う不確実性を評価し、必要な修正や報告を行います。最後に、すべての算定結果をGHG報告書として文書化します。ISO14064-1では透明性が重視されるため、単に最終的な数値を提示するだけでなく、「どのような組織境界を設定したか」、「算定から除外した活動とその理由は何か」、「どの排出係数を使用したか」といった算定の根拠を文書化する必要があります。

※Scope3の算定方法については、「Scope3(スコープ3)とは?15のカテゴリや算出方法について解説」にて詳しく解説しています。

ISO14064-3を活用した「第三者検証」によるデータの信頼性担保

ISO14064-1に基づいて算定したGHG排出量について、対外的な開示や主張の信頼性を高めるためには、第三者による検証が有効です。その際の妥当性確認・検証に関する国際規格が「ISO14064-3」です。

これまで以上に、実態を伴わない環境配慮である「グリーンウォッシュ」への関心が高まり、企業には環境情報を正確かつ透明性を持って開示することが求められています。ISO14064-3に基づき、利害関係のない独立した第三者機関(検証機関)による検証を受けることで、GHG排出量の算定プロセスやデータが国際的なルールに沿って適切に管理されていることを客観的に示すことができます。これにより、算定結果や報告の信頼性が高まり、グリーンウォッシュと受け取られるリスクの低減にもつながります。

第三者検証を受けた信頼性の高いGHGデータは、ステークホルダーからの評価向上にも寄与します。機関投資家や金融機関に対するESG情報開示の透明性を高め、サステナブルファイナンスへの活用につながるほか、顧客や取引先からの信頼獲得にも重要な要素となります。

このように算定(ISO14064-1)と検証(ISO14064-3)を組み合わせて運用することは、適切なGHG排出量管理と環境情報開示を実現し、カーボンニュートラルに向けた取り組みを支える重要な基盤となります。

ISO14068-1に基づくカーボンニュートラル宣言

GHG排出量を適切に定量化し、削減、除去の強化、残余排出への対応を順序立てて進めることは、カーボンニュートラルの達成と実証に向けた基盤となります。そのための原則、要求事項及び指針を定めた国際規格として、2023年11月に「ISO14068-1」が発行されました。

これまで「カーボンニュートラル」の定義や達成基準は国や団体によって異なり、不透明さが課題となっていました。ISO14068-1は、企業や組織がカーボンニュートラルを達成し、それを正当に宣言するための明確なプロセスを定めた世界共通の国際規格です。

カーボンニュートラルを目指すための「ヒエラルキーアプローチ」

ISO14068-1が、従来の自主的なカーボンニュートラル宣言と異なる大きな特徴は、「ヒエラルキーアプローチ」と呼ばれる優先順位に基づいた取り組みを求めている点です。

ヒエラルキーアプローチにおいて、もっとも優先されるのは、自社の事業活動やバリューチェーン全体におけるGHG排出量を把握し、可能な限り排出量削減に取り組むことです。次の段階として、削減が困難な排出についてはGHG除去を進め、それでも残る避けられない排出(残余排出)に対してのみ、追加性や永続性など一定の基準を満たした質の高いカーボンクレジットを活用することが求められています。

これは、「まず自らの努力による排出量削減を優先する」というSBTi(Science Based Targets initiative)などの国際的な気候変動対応の考え方とも共通しています。削減・除去・相殺という優先順位に沿ってカーボンニュートラルへの道筋を明確にすることで、企業の環境情報の透明性が高まり、ステークホルダーからの信頼向上につながります。

※カーボンクレジットによるオフセットについては、「カーボン・オフセットとは?その仕組みやメリット、課題をわかりやすく解説」にて詳しく解説しています。

「カーボンニュートラリティマネジメント計画」の策定

自社のGHG排出量の基準データを把握した後、ISO14068-1に基づくカーボンニュートラルの実証に向けて、企業が策定すべきものが「カーボンニュートラリティマネジメント計画(CMP:Carbon Neutrality Management Plan)」です。

カーボンニュートラリティマネジメント計画では、ヒエラルキーアプローチに基づき、「いつまでに」、「どの程度GHGを削減するのか」という短期・長期の目標と、その達成に向けた具体的な取り組みを明確化します。

具体的な削減方法や達成までの期間は、企業の事業内容や規模によって異なりますが、計画には主に以下の要素を含めることが求められます。

・短期および長期の目標(Short- and long-term targets)
カーボンニュートラル達成に向けた、時間軸ごとの具体的な目標値

・予定している削減・吸収活動(Activities foreseen to make GHG reductions or GHG removal enhancements)
GHGの排出を実際に減らす、あるいはバリューチェーン内での吸収・除去を強化するための具体的なアクション

・カーボンクレジットの選定(Selection of carbon credits)
どうしても削減しきれなかった排出量(残余排出量)をオフセットするために使用する、高品質なカーボンクレジットの選定方針や基準

・利用可能な資源の評価(Assessment of available resources)
計画を確実に進めるために必要となる人材・推進体制、予算などの財務的資源の評価

カーボンニュートラリティマネジメント計画を策定・運用し、その成果や算定データ、計画の運用状況について第三者機関による検証を受けます。規格の要求事項に沿って排出量削減や相殺が正しく行われたことが第三者によって客観的に確認されることで企業は対外的にISO14068-1に基づくカーボンニュートラルの宣言を行うことができます。

カーボンニュートラルは、一度達成すれば完了するものではなく、継続的な改善が必要な取り組みです。そのため、計画は事業環境の変化や気候科学の進展、新たな技術の導入などを踏まえて定期的に評価・更新し、実効性を維持していくことが重要です。

ISO14001:2026を起点に、カーボンニュートラル社会へ

ISO14001:2026では、気候変動をはじめとする環境課題への対応が重要な要素として位置付けられ、企業には環境マネジメントシステムを事業戦略と結び付け、継続的な改善につなげることが求められています。

その実現には、GHG排出量を正確に把握し、削減効果を検証できる仕組みが不可欠です。ISO14064-1による算定とISO14064-3による第三者検証を活用することで、信頼性の高い環境情報に基づくGHG排出量管理を推進できます。

さらに、ISO14068-1に基づき、排出量削減を優先したうえで残余排出への対応を進めることで、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを推進できます。

今後はISO14001への対応に加え、LCA、Scope3、サステナビリティ情報開示への対応など、サプライチェーン全体で環境情報を整備し、意思決定に活用していくことが重要です。こうした取り組みは、企業の競争力や事業の持続可能性を支えるとともに、カーボンニュートラルの実現にもつながります。

三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

参考資料
*1:環境省「温室効果ガス排出量の算定と検証について(ISO 14064, 14065関連)」:
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-verification/brief_info/mat_2010.pdf
*2:BSI(英国規格協会)「ISO 14001:2026 – 主な変更点とガイダンス」:
https://www.bsigroup.com/ja-JP/products-and-services/standards-services/iso-14001-key-changes-and-guidance/
*3:BSI(英国規格協会)「ISO 14068-1:2023Climate change management — Transition to Net Zero — Part 1: Carbon neutrality」:
https://www.bsigroup.com/siteassets/pdf/en/insights-and-media/insights/brochures/gl-as-scert-lg-nss-sus-iso14068-mp-carbonneutrality-0524-report-1.pdf
*4:日本規格協会(JSA)日本エネルギー経済研究所 「国際標準化は気候変動対策にどの様に貢献するのか - ISO/TC 207/SC 7での取り組みを事例として -」:
https://webdesk.jsa.or.jp/pdf/dev/md_6459.pdf

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