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カーボンニュートラルはおかしい?矛盾や問題点を解消する取り組み

カーボンニュートラル

気候変動という世界共通の社会課題解決に向け、主要国の多くが2050年カーボンニュートラルを宣言し、様々な領域で温室効果ガス削減への取り組みを推進しています。その中で、カーボンニュートラルは気候変動対策の有効な考え方として認知されています。今回の記事では、このカーボンニュートラルという考え方を深掘りしつつ、現在の取り組みの中で「矛盾や問題点は生じていないか」といった視点を含め、温室効果ガス削減の現状を探ってみました。

カーボンニュートラルの全貌

カーボンニュートラルの基本概念

地球規模の気候変動が世界共通の課題となっているいま、早急に求められているのがカーボンニュートラルへの取り組みです。

カーボンニュートラルとは、二酸化炭素(CO₂)を中心とした温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること。しかし、温室効果ガスを完全にゼロにすることは現実的に困難です。そこで、温室効果ガスの排出量から吸収量と除去量を差し引いて実質ゼロにする、というのがカーボンニュートラルの考え方です。

そもそもなぜカーボンニュートラルが必要なのでしょうか。世界の平均気温は、工業化以前と比べて2020年時点で1.1℃上昇しています。この平均気温の上昇に影響を与えているのが、人為的に排出された温室効果ガスです。何も対策をしなければ平均気温はさらに上昇し続け、自然や生態系に大きな影響を与える恐れがあります。これを防ぐため、2015年のパリ協定で「世界的な平均気温の上昇を、工業化以前と比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃以内に抑える努力をする」という長期目標に世界各国が合意しました

パリ協定に合意した195の国と地域が温室効果ガスの削減目標を設定しており、日本をはじめとした世界各国では2050年カーボンニュートラルを宣言しています。

カーボンニュートラルとはについて、詳しくは「カーボンニュートラルとは?意味や目的、取り組みを分かりやすく解説」をご覧ください。

カーボンニュートラルの目指すこと

パリ協定に合意した国と地域は、温室効果ガス削減のための目標を設定し、「国が決定する貢献(NDC)」として5年ごとに提出し、更新する義務があります

日本や欧州連合(EU)、アメリカ、イギリス、カナダが2050年カーボンニュートラルの実現を、ドイツではさらに5年短い2045年の達成を目標に掲げています。日本は2050年のカーボンニュートラルを目指すにあたり、2030年度までに2013年度比で温室効果ガスを46%削減する中期目標を掲げています。

世界がカーボンニュートラルに対する取り組みを加速させる中、2019年12月からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)に伴い、各国がロックダウンを実施すると、CO₂の排出量が大幅に低下していることが明らかになりました。こうした事態を目の当たりにし、アフターコロナに向けて経済を立て直すにあたって新たな考え方が生まれました。それは「元に戻るのではなく、脱炭素化と経済回復を両立させた、持続可能な社会を構築しよう」というもので、グリーンリカバリーと呼ばれています。グリーリカバリーは、社会経済やインフラの転換に向けた投資を積極的に行いながら脱炭素化を図り、循環型社会の構築を目指すものです。

経済産業省が中心となって策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(グリーン成長戦略)」は、日本版グリーンリカバリーとも言えます。これは、企業のチャレンジを後押しする政策と大胆な投資により、エネルギーや産業のあり方を大きく転換させるのが狙いです。

こうした動きと並走して、脱炭素化に向けて二酸化炭素実質排出ゼロに取り組む2050年ゼロカーボンシティを表明した地方公共団体は2024年6月の時点で1,112自治体まで増えました。

脱炭素化に向けた取り組み

カーボンニュートラルにまつわる矛盾や問題点

先進国における温室効果ガス排出の現状

カーボンニュートラルが必要であることは多くの人が認識しているでしょう。しかし、例えば現在使用されている全ての資源を、一気に化石資源から再生可能資源に転換するのが難しいこともあり、今はまだ温室効果ガスの排出量が吸収量・除去量を上回っている状況にあります

では、世界ではどのくらいのCO₂が排出されているのでしょうか。これまでのCO₂排出量の推移と、今後の予測について見てみましょう。

1990年の時点での世界のCO₂排出量は205億トンで、各国の排出量の割合は1位がアメリカ(23.4%)、2位EU27カ国(17.0%)、3位ロシア(10.5%)、4位中国(10.2%)、5位日本(5.1%)でした

それに対し、2020年のCO₂排出量は317億トンにまで増加し、各国の排出量の割合は1位が中国(31.8%)2位アメリカ(13.4%)、3位EU27カ国(7.6%)4位インド(6.6%)5位ロシア(4.9%)となっています。

また、環境省の報告書によると、世界のCO₂排出量は2030年には362億トンまで増えることが予想されており、排出量の割合は1位中国(32.7%)、2位アメリカ(9.9%)、3位インド(9.0%)、4位EU27カ国(5.6%)、5位ロシア(4.3%)と変化するだろうと見られています

日本をはじめ、アメリカやイギリス、EU、カナダは2050年のカーボンニュートラルを表明しており、ドイツはそれから5年前倒しした2045年の実現を目指しています。これらの国々ではカーボンニュートラルの対象ガスとしてCO₂だけでなく温室効果ガス全般をターゲットにしています一方、中国は2060年、インドは2070年でのカーボンニュートラル実現を目標に掲げており、その対象ガスはCO₂のみとなっています。

途上国でのCO₂CO2排出量増加にまつわる課題

1990年以降、中国やインドのCO₂排出量の増加が顕著になっていますが、東南アジアなど多くの途上国でも工業化の進展や経済成長に伴い、CO₂の排出量が増加しています。パリ協定の締約国は、先進国・途上国の区別なく削減目標を設定することになっており、こうした国々でもCO₂排出量削減は大きな課題になっています。

ただ、国別のCO₂排出量は〝CO₂排出が実際に起こった国〟でカウントする「生産ベースCO₂排出量」で推計されています。そのため、ある生産活動が他国の需要を満たすためのものであっても、この生産に伴って発生したCO₂排出量は、その生産場所に基づいて計上されます。

近年、グローバルバリューチェーン(国際分業)が急速に広がる中で、各企業はよりコストを削減できる途上国に製造拠点を移転したり、資材の調達先を変更したりしています。そのため、生産ベースCO₂排出量では、例えば工場が撤退した国(多くは先進国)の排出量が減少する一方で、移転先の国(多くは途上国)では排出量が増加するという現象が生じます。こうした側面を踏まえ、生産ベースCO₂排出量の推計方法は、各国の消費実態に伴う排出量を正確に捉えておらず、グローバルな排出量を管理していく上で適切ではないとの意見もあります。

また、国際分業による製造拠点の移転などは、途上国の経済成長につながっていますが、比例して生産ベースCO₂排出量も増加するため、その削減対策を講じる必要があります。京都大学、立命館大学、国立環境研究所が共同で2023年に発表した論文「気候変動対策が引き起こす新たな問題:貧困増加の可能性」では、パリ協定に基づく将来の気候変動緩和シナリオを分析し、それらが貧困にどのように影響するかを調査した結果、2030年と2050年で、気候緩和策をとらないベースラインケースと比べて気候変動緩和策を行ったケースではそれぞれ6,500万人、1,800万人の貧困人口(ここでは1日1.95$以下の消費水準で暮らす人の総数)を増加させる可能性があることが示されました。

この論文では、気候変動対策が貧困人口の増加につながる要因として、「所得効果」と「価格効果」の2つを挙げています。所得効果とは、気候変動対策によるマクロ経済的な損失が所得を減少させる効果を指し、マクロ経済的な損失は脱炭素化のために高効率の機器の導入や化石燃料以外のエネルギー源の生産のためにエネルギー投資が追加的に必要なことにより生じます。また、価格効果とは、炭素税などによる価格変化が家計に影響を及ぼす効果を指し、温室効果ガスの排出に直接関係するエネルギーや食料を中心に価格が上昇し、それが貧困層の負担増加につながるとしています。

生産ベースCO₂排出量でパリ協定の削減目標を設定した場合、途上国では自国の消費実態を超えるCO₂排出量の削減対策を講じる必要があります。そのため、気候変動と貧困問題といった2つの社会課題の解決策がトレードオフの関係にならないような仕組みを構築していくことが重要になります。

化石燃料依存とその問題性

気候変動に大きな影響を与える温室効果ガス。日本では、その9割二酸化炭素(CO₂)が占めておりそのCO₂排出量の約4割が電力部門、残りの約6割が産業や運輸、家庭などの非電力部門からの排出となっていますこの電力部門において、CO₂排出量の大半を占めるのが火力発電所からのCO₂排出です。火力発電の燃料として使われる石炭や石油、LNG(天然ガス)といった化石燃料は、燃焼した際にCO₂く排出します日本では2022年の総発電電力量のうち火力発電が72.8%(石炭30.8%、LNG33.8%、石油等8.2%)を占めており、まだ化石燃料を使用する火力発電への依存度は高い状態にあります。

化石燃料に多く含まれている炭素(C)は燃焼時に酸素(O)と結びつき、二酸化炭素(CO₂)として放出されます。炭素自体は陸、海、大気など地球上のあらゆる場所に存在し、燃焼などにより形態を変えながら、これらの環境や生物、土壌の間を移動し、循環しています。陸や海洋から放出されるCO₂と陸や海洋が吸収するCO₂の量は、かつては均衡がとれていました。しかし、工業化で化石燃料を大量に使用するようになるとCO₂の排出量が増加し、大気中のCO₂が増加するようになっていきました。

化石燃料が排出するのはCO₂だけではありません。石炭の採掘時にはともに地中に埋蔵されていたメタンが排出されますし、石油やLNGガス(天然ガス)の採掘時にメタンが漏洩します。メタンも温室効果ガスの一つです。また、化石燃料を加工・輸送する段階でも温室効果ガスが発生します。

化石燃料を使った火力発電には天候に左右されずに安定して発電できることや、コストが抑えられるというメリットがあります。ただ、2050年までにカーボンニュートラルを実現するためには、火力発電所からのCO₂排出量を削減していく必要があります。その上で期待されているのが、再生可能エネルギーへの転換です太陽光発電や風力発電に加え、バイオマス・エネルギーも再生可能エネルギーの一つで、森林の間伐材や廃材、家畜の排泄物、食品の廃棄物などを燃料としています。バイオマス・エネルギーは燃焼時にCO₂を排出しますが、それぞれのバイオマスが成長する際に大気中のCO₂を吸収しているため、カーボンニュートラルなエネルギーだと言えます

カーボンニュートラル実現への解決策と挑戦

化石資源からの脱却の重要性

また、世界に目を向けてみると、2022年にはロシアがウクライナへの軍事侵攻を行い、エネルギー市場に価格高騰等の影響を与えました。

こうした世界情勢の中、日本では安全性(Safety)、安定供給(Energy Security)、経済性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を同時に実現する「S+3E」のエネルギー政策を目指し、2023年7月に「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(GX推進戦略)」を閣議決定しました。

GX推進戦略では、グリーントランスフォーメーション(GX)に向けた脱炭素の取り組みとして、再生可能エネルギーや原子力によるエネルギー自給率の向上と化石燃料への過度な依存状態からの脱却、水素・アンモニアの生産・供給網構築に向けた包括的な制度設計や、徹底した省エネ等が挙げられています。これと並行して、GX分野に積極的に投資を行って脱炭素分野で新たな需要と市場を創出し、経済成長に繋げることも目指しています。

2024年5月には、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律」(水素社会推進法)が施行され、低炭素水素等の確保や利用が促進される見込みです。

2050年カーボンニュートラルを実現するには、再生可能エネルギー(再エネ)の導入は大きな課題です。再エネは太陽光や風力、水力、地熱、バイオマスなど、非化石エネルギー源で永続的に利用できるエネルギー源を指します(資源エネルギー庁)。

日本の再エネ(水力を含む)電力供給は10年連続で増加しており、発電電力量のうち21.7%を占めています。事業活動に必要な電力を再エネで賄うことを目指す国際的な枠組みRE100の参加企業も多く、日本は2023年の時点で世界第2位、アジアでは1位となっています。こうした取り組みを今後も一段と加速させ、化石資源の依存度を下げながら、カーボンニュートラルの実現を目指していくことが重要になります。

新たな技術・革新とその取り組み

2050年のカーボンニュートラル達成を実現するには、二酸化炭素(CO₂)排出量の削減につながるさまざまな技術革新が必要です。そこで注目されているのがカーボンリサイクルです。カーボンリサイクルとは、CO₂を炭素資源と捉え、これを回収し新たな有価物(炭素化合物)として再利用するというもの。

また、カーボンリサイクルの実現に必要なのがカーボンキャプチャー、つまり工場や発電所などから排出されたCO₂を回収・貯蔵することです。そして、回収したCO₂を利用するCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)や、地下に貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)、この二つを合わせたCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)といった技術革新が進められています。

コンクリートセメントにおけるカーボンリサイクル

引用元:NEDO グリーンイノベーション基金
コンクリート・セメント分野におけるカーボンリサイクルの特徴

実際、カーボンリサイクルが期待されている分野にセメント・コンクリート製造があります。コンクリートの原材料となるセメントの製造過程では大量のCO₂が排出されます。このCO₂を廃コンクリートなどの廃材から取り出したカルシウムに吸着させて炭酸塩(CaCO₃)にすることで、セメントの主原料である石灰石の代替(人工石灰石)を生成しようとしています。このカーボンリサイクルは、CO₂削減の有効な手段の一つになることが期待されています。

また、CO₂に水素(H2)を合成してつくる合成燃料「e-fuel」も、カーボンリサイクルの試みの一つです。この合成燃料も燃焼時にはCO₂が排出されますが、回収したCO₂を使用していることから排出量と回収量が相殺され、CO₂の排出量は実質ゼロとみなされます。また、製法によって液体燃料と気体燃料をそれぞれ製造することができ、液体の合成燃料はガソリンの代わりに、気体の合成燃料は都市ガスや天然ガスの代わりに利用できる見込みです。                

カーボンニュートラル 三井化学の取り組み

2020年11月、三井化学は業界に先駆け2050年カーボンニュートラル宣言」を行いましたこれは2020年10月に日本政府が2050年カーボンニュートラルを宣言した翌月のことです三井化学グループでは、温室効果ガス排出量(Scope1+2)と、製品のライフサイクル全体を通じた温室効果ガス削減貢献量の最大化をカーボンニュートラルの両輪とし、社会変革に寄与すべく始動しています。詳しくはこちらのページもご参照ください。

また、製品のライフサイクル全体を通じた温室効果ガス削減貢献量の最大化では、社会のバイオマス化を進めるため、たとえば使用済みの食用油などから生成されたバイオマスナフサを原料に、プラスチック素材を生み出していきます。

これまでは難しかった素材のバイオマス化、マスバランス方式・セグリゲーション方式によるバイオマス製品、その他カーボンニュートラルに貢献する製品・技術の展開を進め、社会の温室効果ガス排出量削減に大きく貢献していきます。

カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。リジェネラティブ(再生的)な社会に向けて行動する「RePLAYER®」「BePLAYER®」はこちらをご覧ください。

カーボンニュートラルの現在とこれからについては「カーボンニュートラルの今、そしてこれから」で詳しく紹介しています。併せてご覧ください。

 


<公開資料:カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー関連>
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/whitepaper/ 

 

参考資料
*1:環境省 脱炭素ポータル カーボンニュートラルとは:
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/
*2:環境省 国内外の最近の動向について:
https://www.env.go.jp/content/000198600.pdf
*3:2020年度 低炭素水素の利活用拡大に向けた自治体連絡会議 公演資料「アフターコロナのグリーンリカバリー」 :
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/events/PDF/shiryou00.pdf
*4:環境省 地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況:
https://www.env.go.jp/content/000235154.pdf
*5:国際環境NGO FoE Japan:
https://foejapan.org/issue/20211018/4992/
*6:資源エネルギー庁:
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/html/2-2-1.html
*7:資源エネルギー庁:
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/1-2-3.html
*8:環境省 「Co2排出量」を考える上でおさえておきたい2つの視点:
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/lifecycle_co2.html
*9:埼玉工業大学 工学部 生命環境科学科 炭素循環〜地球温暖化をより深く理解するための基礎知識〜:
https://dep.sit.ac.jp/lsgc/column13/
*10:資源エネルギー庁:
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2024/html/3-0-0.html
*11:資源エネルギー庁:
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/concrete_cement.html
*12:資源エネルギー庁:
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/what_is_gosei_nenryo.html

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