ベッドマットレス
ケミカルリサイクルプロジェクト
三井化学はベッドメーカーの
パラマウントベッド株式会社、
リサイクラーのリバー株式会社とチームを組み、使用済みのマットレスを回収し、
ケミカルリサイクルによって原料となる
ポリオールを再生、新しい
ポリウレタンフォームによりマットレスを再生産するプロジェクトを進めています。
サーキュラーエコノミー社会実現への
マイルストーンとなる
プロジェクトを
3社の担当者が紹介します。
■本プロジェクトは
環境省「令和6年度脱炭素型循環促進経済システム構築促進事業」です。
語り手(写真左から、敬称略、以下同)
日高豪人/リバー株式会社 事業本部事業統括部
サーキュラーエコノミー課
小野舞子/同社 事業本部事業統括部
サーキュラーエコノミー課兼事業本部付
上田智子/三井化学株式会社 ベーシック&グリーン
マテリアルズ事業本部ポリウレタン事業部
保田駿輔/同社 ベーシック&グリーン
マテリアルズ事業本部ポリウレタン事業部
三ツ木勇人/パラマウントベッド株式会社
生産本部新機種センターセンター長
塩原聡/同社 営業統括部営業統括チーム
上田(三):ポリウレタンのケミカルリサイクル自体が難しい上に、それを社会実装しようというとてもチャレンジングなプロジェクトです。1社で進められるプロジェクトではありませんので、まずリサイクラーであるリバーさんにお声掛けさせていただきました。さらにリサイクル材を使った製品を出したいという想いを共有していただける、ブランドオーナーさんと一緒にやっていくことが必須と考えていたところ、回収などの制度も整えていらっしゃるパラマウントベッドさんをリバーさんにご紹介いただき、3社ではじめることになりました。
本実証は令和5-6年度の環境省脱炭素型循環経済システム構築促進事業に採用され、支援を受けて進めています。
ベッドマットレスを対象にしたのは、ベッドマットレスが廃棄物として処理困難で、産業廃棄物の排出事業者や自治体にとって大きなコストとなっていることが大きな理由です。また、パラマウントベッドさんの主力である医療・介護の分野においては、高齢化社会が進む日本において需要が増し、廃棄されるマットレスの数量も増加することが見込まれており、社会課題を解決しつつ、新しいことができないかと考えてのことです。
日高(リ):弊社にとって非常に重要で有意義なプロジェクトです。弊社は高度循環型社会の実現を目指しておりますが、そこでは製品を作っているメーカーさんと我々のようなリサイクラーの連携が必須になってきます。このプロジェクトは、まさにその一歩であり、ひとつの製品に対して、メーカーさんと我々がじっくり話し合って進めることができる貴重な機会になっています。
三ツ木(パ):パラマウントでは、これまでも例えば鋼材などのリサイクルに取り組んできましたが、今回のプロジェクトはさらに進んだ難しいものになっています。当社の広域認定制度を使った回収の仕組みを利点として使っていただき、三井化学さん、リバーさんといっしょに取り組むことによって、ひとつのサイクルを作り出すという、自社だけではできない唯一無二のプロジェクトだと思っています。
塩原(パ):広域認定制度というのは、本来は各地方自治体ごとに廃棄物処理の許可をとらなければいけないところを適切なリサイクルや廃棄処理を前提に環境大臣から直接認可を受けて、全国で自社製品の回収、リサイクルができる仕組みです。取得はかなり難しく、当社も約3年間かけて2012年に認定を受けました。リバーさんにはその時からご協力いただいています。
上田(三):プロジェクトの中では、弊社はリサイクルポリオールをつくるというところが主な役割となっています。
これまでの検討・評価において、原材料調達・生産〜廃棄・リサイクルのライフサイクル二酸化炭素(CO2)排出量が、石油由来のバージンポリオールが1トンあたり18.4トンに対し、リサイクルポリオールは1トンあたり10.0トンとなっており、約46%のCO2排出量削減効果があることがわかりました。廃マットレス回収時のCO2排出が多くなっており、今後、最適な回収方法の検討をする予定です。
日高(リ):弊社は実証事業の共同実施者といたしまして、ウレタンマットレスにおけるケミカルリサイクルのいわゆる前処理といわれる部分を行っております。回収されたベッドマットレスを細かく破砕し、赤外線装置を使ってウレタンとポリエステルを選別し、圧縮などの技術を使ってさらに嵩を減らす減容化を行うといった工程です。
三ツ木(パ):弊社はまず市場で使っていただいたマットレスの回収を行います。回収したものから、プロジェクトでリサイクルをする製品を選別してリバーさんにお渡しします。リバーさんで前処理した廃ポリウレタン素材が三井化学さんにいって再生ポリオールをつくっていただき、再度ポリウレタンに発泡してもらいます。発泡されたポリウレタンからマットレスとして再度製品化することとその評価を弊社で担います。さらにこのプロジェクトがうまくいった際には、販売をしていくというところも弊社の役割となります。
上田(三):ふたつありまして、まず廃棄済みのマットレスを回収し、集めて、それをまた製品にして戻していくというそのスキーム自体がまだ日本にはありません。マットレス自体が大きなものでもあるので、その仕組みづくりが課題です。
もうひとつ、熱硬化性の樹脂であるポリウレタンは耐熱性、耐薬品性に優れているという特長がある故に従来はリサイクルできないとされていたのを化学の力でリサイクルできるようにして世に出していくというところに技術的な課題があります。ポリウレタンのケミカルリサイクルが社会実装できたら日本初になると認識しています。
小野(リ):前処理工程での難しさとして、マットレスは処理困難物でありサイズが大きく、しかも重さとしては軽いので、一度に大量に運べないことが挙げられます。サイズを小さくした破砕後のポリウレタンでもまだかさばりますので、弊社で元々は違う素材を固形燃料にするための技術を転用し、ポリウレタンを圧縮して固めるような技法でサイズダウンする工夫を重ねました。これにより輸送費の削減や再生ポリオールの生産設備の効率化などに貢献できるかと思います。
三ツ木(パ):リサイクルについての難しさという点では、技術的な問題はある程度クリアできていますが、需給のバランスとコスト構造、弊社でどれだけ販売することができるか、どれだけ回収することができるのかなどが課題として残っています。
回収については、現在は主に在宅介護の市場で、介護保険でレンタルされるマットレスを大量に持っている業者さんが廃棄をするときに購入いただいた弊社に戻していただくというかたちで集めております。年間50トンくらい、販売量の大体10%ほどです。これから回収量はもっと増やせると思います。
今後は製品化した時を見すえ、リサイクル製品の価値を理解していただけるようなPRや販売のしかたの検討もはじめなければいけないと考えています。
塩原(パ):需要については、今回の事業の中で主要なお客様にアンケートを行いました。その結果として取り組みによってできた再生材を使ったマットレスを使用してみたいかという質問に対して、ほぼ全事業者約50社の方々からぜひ使用したいとの回答をいただいています。
市場にはまだこうしたリサイクル製品が存在していませんので、まずは製品化すること、さらに適切な価格でかつ安定的に製品を提供していくことが、我々モノづくりのメーカーの役割だと思っていますし、期待もされています。
保田(三):今回のポリウレタンリサイクルは、我々の技術だけでは成り立たず、リバーさんにリサイクルの前処理をしてもらって、リサイクルポリオールをパラマウントさんに使ってもらうというループを作り上げることが一番大切だと思っています。このプロジェクトでループができあがることで、他の市場に対しても、各社が連携することでリサイクルが実現できるんだと勇気づけができ、さまざまな製品でこのリサイクルのループができればと思っています。
小野(リ):動脈企業である三井化学さん、パラマウントベッドさんと使い終わったものをリサイクルする静脈企業である弊社の3社での取り組みをきっかけに、動静脈連携によるリサイクルが当たり前になる社会に繋げていけたらなと思っています。
三ツ木(パ):弊社のブランドメッセージ「WELL-BEING for all beings」は将来の社会のための活動でもありまして、その大切さをこのプロジェクトを機に社会に広げていける一助になればと考えております。
上田(三): 1社でできることは限られていますが、同じ志を持ち、同じ目標に向かって3社が集まったら、やはり1+1+1よりも大きなことができているように感じています。組織の壁やいろいろなしがらみがあっても、3社で協力していける、その行動にとても価値があると思っています。
日高(リ):今回のように静脈企業と動脈企業が一緒にやることによって、我々としては製品を作ることの難しさといった視点を得ることができました。一方でメーカーさんにはリサイクル工程における選別の難しさや解体の大変さなどをご理解いただけたと思っています。こうした中から、リサイクルを前提とした製品ができてきて、サーキュラーエコノミーの推進につながっていくことが最大のメリットだと感じています。
塩原(パ):初めての取り組みですので正直難しいことが多いのですが、皆さんが非常に前向きに議論を進めているので、必ず実を結ぶと思っています。3社がいろいろな知恵や経験を出し合ってうまくいった後には、同じような形でまた新しい、いいものが生まれるのではないかと思っています。
記載内容は2024年11月30日現在のものです。
RECYCLE &
CIRCULAR ECONOMY
SOLUTIONS
ベッドマットレス
ケミカルリサイクルプロジェクト
ポリウレタン事業部上田 智子