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環境と健康にアイデアを。食品容器包装における明治のサステナビリティ戦略
食品パッケージは、内容物の品質保持、生活者の利便性、効率的な輸送、商品に関する情報伝達などの機能を担う欠かせないものです。ただ、環境負荷低減という側面で、その在り方を再考する動きが広がっています。
食品業界のリーディングカンパニーである株式会社 明治(以下、明治)も、容器包装のサステナビリティを高めるための様々な施策を実行しながら、グループ全体で循環型社会の実現を目指しています。その一環として、「明治おいしい牛乳」のバイオマスプラスチック製キャップや、宅配専用PETボトルでのリサイクルPET樹脂ボトルの導入など、身近な商品で具体的な取り組みを進めています。
こうした中で、よりリサイクルしやすい容器包装設計の取り組みや、食品業界におけるサステナビリティ推進の考え方について、明治グループの二村さん、柳さん、渡邊さんにお話を伺いました。
話し手 二村 昌秀(にむら まさひで) |
明治が挑むサステナビリティ戦略とその背景
まず、明治グループの事業全体として、サステナビリティや環境配慮をどのように位置づけているか教えてください。
二村さん 明治グループは「サステナビリティ2026ビジョン」において、目指すべき企業グループ像を掲げ、その実現に向けサステナビリティ推進を最重要テーマの一つと位置付けています。社会課題解決への貢献は、「今やらなければならないこと」として全社で取り組みを進めています。
プラスチックの資源循環に本格的に取り組むようになったきっかけや背景を教えてください。
二村さん プラスチックごみ問題や気候変動への危機感、さらには欧州を中心に強化されている各種規制(PPWRなど)への対応が大きなきっかけです。こうした社会の変化を受け、当社としてもプラスチックの資源循環の重要性が高まっていることを認識するようになりました。
また、国内では2022年4月に施行された「プラスチック資源循環促進法」も大きな後押しとなりました。こうした中で、食品のリーディングカンパニーとして、私たちが使用するプラスチックが地球環境に負の影響を及ぼさないよう、「明治グループ プラスチック資源循環ポリシー」を策定し、全社一丸となって取り組みを進めています。
食品業界において、今までは利便性や食品保護といった機能を重視していましたが、食品パッケージに求められる機能性と環境配慮を両立させながら、これらがトレードオフにならないように価値を高めていくことがテーマになっています。
食品業界でのGHG排出量削減の取り組み
サプライチェーン全体でのGHG排出量削減に向け、どのように取り組まれていますか?
二村さん 「明治グループ長期環境ビジョン『Meiji Green Engagement for 2050』」を掲げ、サプライチェーンにおける温室効果ガス(GHG)排出量ゼロ、すなわちカーボンニュートラルの実現を目指しています。
その具体的な取り組みのひとつとして、商品輸送の積載効率を上げることでトラックの台数を減らし、Scope3「カテゴリ4 輸送・配送」の削減を図っています。具体的には、輸送用パレットに対して1段あたりにより密に(隙間なく)製品ケースを積載できるよう、入り数や外装設計に工夫を凝らしています。
また、2025年7月には、明治ホールディングス、メーカー、小売業者など、民間企業15社で構成される「CCNC(チャレンジ・カーボンニュートラル・コンソーシアム)」を結成しました。このコンソーシアムでは、消費者の脱炭素行動変容を促す取り組みとして「みんなで減CO₂(げんこつ)プロジェクト2025」も開始しています。
容器・包装における取り組みではどのような工夫を行なっていますか?
二村さん 当社が取り扱う容器包装は非常に種類が多いため、容器別のプラスチック使用量を順位付けし、使用量の多い容器から優先的に取り組むことで、より効率的にGHG排出量の削減を進めています。
例えば、ワンウェイプラスチック容器包装(一度使って廃棄される使い捨てのプラスチック容器包装)の中では、プロバイオティクスヨーグルトのペットボトルの優先順位が高いため、こちらのボトルに対して現在軽量化を着実に進めています。また、並行して素材転換も順次行っています。
「明治プロビオヨーグルトR-1ドリンクタイプ低糖・低カロリー」と裏面デザインのイメージ
https://www.meiji.co.jp/corporate/pressrelease/2023/1108_01/
環境配慮型素材への転換:バイオマスプラスチックとリサイクルPET樹脂活用
環境配慮型素材への転換では、具体的にどのような素材を選定されているのでしょうか?
二村さん 機能面からプラスチックを削減できる量には限界があるため、より環境負荷の低いプラスチックへの置き換えも並行して進めていく方針です。その中で、当社としてはバイオマスプラスチックやリサイクルPET樹脂への切り替えを行っています。
具体的には、「明治おいしい牛乳」(900ml/450ml)の紙パックのキャップと注ぎ口には、バイオマスプラスチック(サトウキビ由来ポリエチレン)を採用しています。また、プロバイオティクスヨーグルトの小型ペットボトルには、リサイクルPET樹脂を順次導入し、2030年度までにペットボトルのリサイクルPET樹脂比率100%を目指しています。
「明治おいしい牛乳」のバイオマスプラスチックキャップ
https://www.meiji.co.jp/corporate/pressrelease/2022/0419_01/index.html
また、当社では、プラスチック使用量削減や素材転換など、容器開発の側面から施策を進めてきましたが、さらに使用後の容器包装に対する取り組みも進めていきたいと考えておりました。そうした中で、以前からサステナビリティ分野で連携していたサントリー様と情報交換を重ねるうちに、回収を含めた資源循環の仕組みづくりに向けて足並みが揃い、同じくゼロカーボンシティ実現を目指す思いが一致した埼玉県戸田市、愛知県稲沢市の両市において、サントリー様との共同でペットボトルの「ボトルtoボトル」水平リサイクルに関する協定の締結に至りました。これは一例ではありますが、今後もプラスチック資源循環に向けた取り組みをさらに強化しながら、循環型社会の実現に貢献していきたいと考えています。
資源循環の促進:リサイクルしやすい商品設計と消費者の声
リサイクルしやすさや、分別・回収まで考慮した設計などで工夫されていることを教えてください。
柳さん 例えば「十勝ヨーグルト」は、昔は壺型容器で販売していましたが、 食べ終わった後に積み重ねられず潰せない設計でした。それをシート成形の4連容器に変更したことで、積み重ねることもできるし、潰せるようにも設計し、プラスチック使用量も約50%削減することができました。さらに、お客様からも利便性の面で、「食べやすくなった」「潰して捨てやすい」「ラベルが剥がしやすく分別もしやすい」など、多くのご好評をいただいております。
「明治北海道十勝ミルクきわだつヨーグルト」のシート成形4連容器
https://www.meiji.co.jp/corporate/pressrelease/2023/1013_02/
食品パッケージの環境負荷低減に向け、消費者や取引先からはどのような声があがっているのでしょうか?
二村さん お客様(消費者)からの問い合わせや要望では、以前よりも容器の分別に関する質問や、「ラベルを剥がしやすくしてほしい」「これとこれを分離できるようにしてほしい」といった改善要望が増加しており、分別廃棄や環境配慮への意識の高まりを感じています。こうしたお客様の声にしっかりと耳を傾けながら今後も容器包装の改良を進めていきます。
また、取引先であるパッケージコンバーター(包装資材を製造する加工業者)からも、「CO₂排出量削減に協力してほしい」といった提案や、環境負荷の低い印刷方式への変更の相談など、前向きな協業の提案を受けることが増えてきました。そういった意味では、当社がサステナビリティを重視し、実践している企業イメージが定着しつつあり、それがパッケージコンバーターなど取引先との連携強化にもつながっています。
消費者へ向けた発信と環境配慮商品の新たな可能性
消費者への啓発や情報発信など、コミュニケーション面ではどのような工夫をされていますか?
渡邊さん 明治X(旧Twitter)では毎月2本、必ずサステナビリティに関する投稿をしています。特に、6月の環境月間には、当社のサステナビリティの取り組みを紹介しつつ、チョコレートなど自社商品をプレゼントするサステナビリティキャンペーンを実施しました。10万件以上の応募があるなど、消費者からも高い関心をいただきました。
株式会社 明治 X(旧 Twitter)
また、消費者が環境配慮型商品を選択しやすくするため、各種認証マークを積極的に取得しています。例えば、生物由来の資源(バイオマス)を利用したパッケージには「バイオマスマーク」、有機栽培のカカオ豆などを使用した商品には「有機JASマーク」、適切に管理された森林の木材から作られた紙パッケージには「FSC認証マーク」などを表示しています。さらに、当社独自の取り組みとして、カカオ農家を支援する「MCS(メイジ・カカオ・サポート)」の認証ラベルも展開しています。
先ほどお話ししたSNSキャンペーンでお渡しするプレゼントにも、必ずこれらの認証マークがついた商品を選んでいます。
さらに、保存に便利なチャック付きでシンプル包装にした「アポロシンプル包装大容量パウチ」や、ラベルレスボトルの「明治プロビオヨーグルトR-1」なども展開し、環境配慮型商品のラインアップを拡充しています。もちろん、パッケージを変えることのハードルもありますが、デザインにもこだわりながら展開しているため、こうした取り組みは「おしゃれで高級感がある」といった消費者のポジティブな反響にもつながっています。
「アポロシンプル包装大容量パウチ」の写真
https://www.meiji.co.jp/products/kids_character/20664.html
サステナビリティ推進における課題と今後の展望
プラスチック資源循環の推進にあたり、現在感じている課題や乗り越えるべきハードルはありますか。
二村さん 社内における一番の課題は、環境負荷低減の取り組みを進めるうえでのコストアップの対応です。コストアップを抑制するための代替案や、他のコストダウン施策と抱き合わせた複合案、あるいは商品のマーケティング部門や開発部門と協力して商品の魅力向上に上手く繋げるなど、粘り強い対応が必要になることも多い状況です。サステナビリティとコストの両立は、乗り越えなければならないハードルのひとつです。
とはいえ、eラーニングなどを通じて全社のサステナビリティ意識が向上し、「コストが上がるから絶対だめだ」から「どうすれば実現できるか一緒に考えよう」といった社内風潮に変わってきていることも感じています。
一方、社会全体としては、PCR(ポスト・コンシューマ・リサイクル)を確立するために、消費者が使い終わった後の容器包装を、いかに効率的に回収し、資源として再利用していくか、そして、その資源循環を上手く回すための仕組みをいかに構築できるかが、非常に重要な課題だと考えています。この一連の流れを社会全体で確立することが、今後の大きな課題です。
その具体的な一歩として、今年2月に当社も「R PLUS JAPAN」に参画いたしました。使用済みプラスチックの再資源化に関する課題解決に向けて、自社だけでなく他の参画企業とも連携しながら取り組んでいきます。
使用済みプラスチックの再資源化技術
https://www.meiji.co.jp/corporate/pressrelease/2025/02_02/index.html
今後さらに注力していきたいテーマや、新たに検討している施策をついて教えてください。
二村さん リサイクルしやすさに重点を置いた新容器の開発や既存容器の改良を推し進めていきたいと考えています。容器包装としての利便性や品質を低下させることなく、リサイクルしやすい容器包装を展開していけるよう、チーム一丸となって取り組んでいきたいです。
また、マテリアルリサイクルの観点では、素材メーカーさんやパッケージコンバーターさんとやり取りしながら、できるものは単一素材(モノマテリアル)に置き換えることも視野に入れながら検討を進めています。
最後に、同じ課題に取り組む他の企業や、日々商品を手に取る消費者に向けて、メッセージをお願いいたします。
二村さん 自社だけでは取り組んでいける範囲やボリュームにはどうしても限界があります。そのため、他企業や小売・流通、地方自治体といった皆様と連携した取り組みを今後さらに増やしていく必要があると感じています。同じ思いを持つ方々と協力しながら、共に未来を築いていきたいです。
柳さん PETボトル以外のプラスチック素材や紙カップなど、まだリサイクルシステムが十分に構築されていない分野も多くあります。そうした領域でも、他社様と手を組みながら、しっかりとリサイクルシステムを構築し、持続的に推進していける仕組みを作っていけたらと思います。
取材時のダイジェスト版動画も提供しています。ぜひ、こちらからご視聴ください。
https://youtu.be/2lVmrcj2CoA
三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、 <「BePLAYER®」「RePLAYER®」>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm |