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後編:「PPWR」包装の持続可能性要件やEU規制に関して日本企業に求められる対応

EU循環経済の関連規制(IGES 辰野様)_後半

欧州の循環経済関連法規制をテーマに、地球環境戦略研究機関(IGES)のプログラムコーディネーターである辰野美和さんにインタビューし、専門家の視点から解説いただいた内容を、前後編の2部構成でまとめています。
前編:EU循環経済政策の全体像と関連法規制を理解するためのポイント

カーボンニュートラルと経済成長の両立を目指す「欧州グリーンディール」。この成長戦略の具体的なアクションとして、EUではさまざまな産業分野で法規制の導入が進められています。前編では、これらEUの循環経済関連法規制について、その背景や全体像、理解するためのポイントを解説していただきました。

後編では、広範囲の業界に影響を及ぼすPPWRを取り上げ、包装に対する持続可能性要件や、PPWRの中で制限が定められたPFASに関する規制動向について解説していただきました。また、こうしたEUの規制に関して日本企業に求められる対応についてもお伺いしました。

プロフィール

辰野 美和(たつの みわ)
地球環境戦略研究機関(IGES)持続可能な消費と生産領域 プログラムコーディネーター
米国大学院にて修士号(国際環境政策)を取得後、外資系ビジネスコンサルティングファームや第三者認証試験機関において、欧州をはじめとした各国の環境規制の遵守や、製品中に含有される有害物質の管理、環境に配慮した製品製造を支援する業務等に従事。現在はIGESにおいて、国連機関等と共に、途上国のプラスチック廃棄物管理や環境教育の他、国内の循環経済推進に関する業務等に携わる。

 

PPWRが定める包装の持続可能性要件とは

前編では、EUの循環経済の実現を目指す「欧州グリーンディール」について解説しました。それを具体的なプランに落とし込んだ「新循環経済行動計画」では、エネルギー集約型で潜在的に循環性が高いと予想される「電気・電子・情報通信」、「バッテリー・自動車」、「容器包装」、「プラスチック」、「繊維」、「建設と建物」、「食品・水」などが重点産業と位置づけられています。

その重点分野の一つである「容器包装」について、2030年までにすべての包装材を経済的に実行可能な形で再利用またはリサイクル可能とする政策目標が掲げられ、これまで「包装・包装廃棄物“指令”」だったものが、さらに内容が強化されて「包装・包装廃棄物“規則”(PPWR)」に格上げされました。

内容は、大きく包装・包装廃棄物に関する要件、事業者の義務、加盟国の義務で構成されていますが、ここではどのような包装であればEUに上市できるのか、包装・包装廃棄物に関する「持続可能性要件」について紹介します。


 持続可能性要件
 ① 有害物質の制限(第5条)
 ② リサイクル可能性(第6条)
 ③ プラスチック包装の最低リサイクル材含有率(第7条)
 ④ バイオベース原料の使用(第8条)
 ⑤ 堆肥化可能性(第9条)
 ⑥ 包装の最小化(第10条)
 ⑦ 再利用可能な包装(第11条)


※PPWRの概要については、「PPWRとは?EUの新しい包装・包装廃棄物規則をわかりやすく解説にて解説しています。

PPWR包装の持続可能性要件のポイントと適用スケジュール

<持続可能性要件の規定・適用開始スケジュール>
持続可能性要件の規定・適用開始スケジュール

出典:農林水産省 みずほリサーチ&テクノロジーズ「PPWR(EU包装・包装廃棄物規則)調査報告書」p.11-12を参考に作成

包装の持続可能性要件は、第5条~第11条で定められており、これらを満たさない包装は、今後EUに上市できなくなります。各種要件の概要と適用時期を確認していきましょう。

① 有害物質の制限(第5条)

鉛、カドミウム、水銀、六価クロム、およびPFASに関する制限が設けられている他、包装に利用される化学物質に関して、環境や人体に悪影響を及ぼすリスクのあるものを欧州委員会が2026年12月31日までに評価し、リスト化する予定です。これにもとづき、適切な措置が検討されます。

② リサイクル可能性(第6条)

上市される包装は、すべてリサイクル可能でなければなりません。では、何をもってリサイクル可能とみなすのでしょうか。その要件は2つあります。

1つはマテリアルリサイクルに対応できる設計であることです。前編でお話したように、EUにおける資源や廃棄物の取り扱いの優先順位は、「廃棄物ヒエラルキー」に則っていますが、EUではリサイクルの中でも、ケミカルリサイクルなどよりもマテリアルリサイクルを上位に位置付けています。ケミカルリサイクルの有用性を認めつつ、そのプロセスにおけるエネルギー利用や環境影響などを踏まえると、マテリアルリサイクルのほうが好ましいとされています。

なお、Grade A, B, C、リサイクル不可という性能等級が設けられ、2030年以降はA, B, C、2038年以降はA, Bに該当する包装のみ上市が許されます。また、リサイクル設計基準や性能等級などの詳細を定める委任規則が2028年1月1日までに採択される予定です。

<リサイクル性能等級>リサイクル性能等級

出典:農林水産省「PPWR(EU包装・包装廃棄物規則)調査報告書(概要)」p.7

もう1つの要件は、廃棄物となった際に分別・収集され、大規模リサイクルできることです。技術的にリサイクル可能であるだけでなく、実際に一定の規模でリサイクルされる仕組みが整っていることが必要となります。この大規模リサイクルに関する評価方法を定める実施規則を、2030年1月1日までに欧州委員会が採択することになっています。

③ プラスチック包装中の最低リサイクル材含有率(第7条)

リサイクル材含有率は2030年と2040年の2段階で引き上げられる予定です。含有率の算出・検証方法なども、各リサイクル技術の経済性や環境影響を評価した上で、実施規則によって2026年12月31日までに定められる予定です。

④ バイオベース原料の使用(第8条)

バイオベース(Biobased)原料を用いたプラスチック包装に関する技術開発や環境性能などの状況が2028212日までに評価されます。評価する際には、再生可能エネルギー指令の第29条「持続可能性および温室効果ガス排出削減の基準」を参照するとしており、バイオベース原料を用いたプラスチック持続可能性を、生態系や土地への影響、温室効果ガスの排出量なども含めて評価します。この結果に基づき、欧州委員会が以下の内容について法案を提出することになっています。

a) プラスチック包装中のバイオベース原料に対する持続可能性要件
b) プラスチック包装中のバイオベース原料利用を増やすための目標設定
c) 食品接触包装に適したリサイクル技術が利用可能でない場合、リサイクル材の代わりにバイオベース原料を用いて、最低リサイクル材含有率(第7条)を満たせる仕組みを導入する
d) 必要に応じて、法令上の「バイオベースプラスチック」の定義を改定する

⑤ 堆肥化可能性(第9条)

ティーバッグや野菜・果物の包装材やラベルは、多くの場合生ごみと一緒に廃棄されます。従って、第6条で「すべての包装はリサイクル可能でなければならない」と定められていますが、このような包装材やラベルについては、産業用コンポストあるいは必要に応じて家庭用コンポストで処理できることが求められます。

なお、堆肥化可能な包装の技術的要件など2026212日までに定められ2028212からの適用開始が予定されています。

⑥ 包装の最小化(第10条)

包装の重量や容積を抑え、無駄な空間や素材を使わず、包装の機能を満たす必要最小限にすることを求めています。最小化に関する要件に関して、その算出・測定方法が2027年2月12日までに定められ、2030年1月1日からの適用開始が予定されています。

⑦ 再利用可能な包装(第11条)

上市される包装は再利用可能でなければならず、再利用可能であるとみなされるには、複数回の利用に耐えうる設計や再充填を想定した設計であることなどを定めています。複数回とは最低何回なのかなどを定める委任規則が2027年2月12日までに採択される予定です。

PFASに関する規制の動向

有害物質の使用規制(第5条)の中で、特に明示的に規制が設けられた物質、PFASについても触れておきたいと思います。PFAS(有機フッ素化合物)とはペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称で、その種類は1万以上あるとも言われています。代表的なものは、PFOA、PFOSなどで、フライパンのテフロン加工、衣類の防水加工など、調理器具・衣服・日用品から産業用途まで広く使用されてきました。炭素‐フッ素結合により非常に安定性が高い物質ですが、一方でその残留性や毒性が指摘されており、近年世界的に規制が強化されています。

EUでは化学物質全般を扱うREACH規則があります。加盟国が懸念のある物質をEU当局に提案し、専門機関で科学的および経済社会的面から評価した上で、当該物質がREACH規則の対象となります。

PFASの一部は既にREACH規則の対象となっていますが、2023年にドイツ・オランダ・スウェーデン・デンマーク・ノルウェーの5カ国が、PFASを一括して対象とする案を欧州科学品庁(EACH)に提出しました。

対象のボリュームや産業界に及ぼす影響度の大きさから、世界的に注目を集めていますが、ECHAは今年8月、2026年末までにPFAS規制案の科学的評価の完了を目指すと発表しています。

特に食品に接触する包装においては安全性の面から優先して規制をかける必要があり、今回PPWRの中で規制が強化された背景があります。

EUの規制対応で重要なのは「理論武装」

取材時に手を広げて説明する辰野さん

EUへ製品を上市する事業者は、必要に応じてこれら包装の持続可能性に関する要件を含め事業者に課された要件をすべて満たしていることを、定められたルールに則って評価・確認し、エビデンスをまとめ、自社の責任において適合宣言書を作成しなければなりません。ここで、自社が適合宣言書を作成する立場にあるのか、あるいは取引先に適合性を示す情報を提供する必要があるかなど、サプライチェーンの中で立場や対応が変わってくるため、条文を理解して自社が取るべき対応事項を把握しておく必要があります。

また、ビジネスにおいては予測困難な様々な状況が生じ、法律の条文を読んでも自社のケース・対応が実際法律に準拠しているのか、判断に迷う場合も多くあります。こうした状況下で製品をEU市場へ出す場合には、万が一EU当局から指摘を受けたり、訴訟に発展してしまったりした場合、自社がとった対応の妥当性・正当性を論理的に示せることが重要になります。

つまり、「当該条文はこのように解釈できるため、このエビデンスによって適合していると考えられる」と当局を納得させられる証拠を文書で用意しておくことが、防衛手段のひとつとなります。

ルールメーカーとしてのEU、その影響と日本企業の対応

これまでみてきたように、EUは循環経済、サステナビリティの分野で先行していますが、前半でも述べたように、その戦略の背景にはEUの国際市場での競争力強化という狙いもあります。ここでは、EUが推進するルールづくりの国際市場への影響および日本企業への影響を考えてみたいと思います。

製造業を例にとると、現在バージン材プラスチックを使った製品は主にアジア諸国が強く、安価な製品を世界中に流通させています。しかし、「EUではリサイクル材を一定割合使用していないと販売できない」といったような、高度なサステナビリティ要件を義務付けることで、それに対応できない国々の製品の優位性を減じ、逆にリサイクル技術などが進んだEU企業の製品の競争力を高める効果が期待できます。

こうした点は、WTO(世界貿易機関)でも内外無差別原則(自国内製品と輸入品の取り扱いを同等とし、全加盟国に対し同等の貿易条件を適用する)の面で議論になることもあります。しかし、EUは「サステナビリティの実現を目的とした規制であり、輸入品も域内製品も同じ条件であるため貿易差別には当たらない」と主張するのが常です。

1993年にEUが発足して以来、約30年を費やして巨大な単一市場を形成し、そのスケールを武器に、ルールづくりを通じて国際市場に影響を波及させる戦略を効果的に展開しています。世界のGDPをみると、EUは19兆4,233億ドルに上り、アメリカに次ぐ規模となっています。そのため、各国企業はEU市場を無視できず、EUの規制に従わざるを得ない状況が生じます。いわゆるブリュッセル効果です。

<世界に占める各国のGDPの割合>世界に占める各国のGDPの割合

出典:外務省 経済局国際経済課「主要経済指標2025年7月」p.2を参考に制作

このようなEUの規制戦略は、現在進行中の“国際プラスチック条約”の交渉にも反映されています。EUは、域内で整備してきた政策の方向性を踏まえ、この国際的なルール形成の場においても、単なる廃棄物管理にとどまらず、一次プラスチックポリマーの生産抑制を含め、プラスチック製造の上流に関する包括的な対策を主張しています。

EUが仕掛けるような循環経済・サステナビリティの方針が進むと、今後ビジネスはどのように変わっていくことが予想されるでしょうか。ひとつの可能性として、例えば製造業では、「安い人件費と安い資材が調達できる地域で製品を作り、マージンをつけてよそで高く売る」というのが定石でしたが、こうしたモデルは通用しにくくなることが予想されます。循環経済・サステナビリティを軸に価値を提供できる企業のみが、市場参入を許される状況に変化していき、必要最低限の規制対応のみでは、株価や企業価値の下落につながるリスクが生じます。

日本企業は非常にコンプライアンス意識も高く、分野によってはEUの企業以上にEUの規制を遵守する傾向も見受けられます。EUでは数多くの法律が次々と制定されており、それらを把握するだけでも相当の労力を要しますが、中央集権的な国と比較すると、目指す方向性や議論の内容を世界に向けて公開しているという透明性や予見性という面では、ある意味親切とも言えます。法律によりルールを設けるということは、企業の活動にある種の“制限”をかける一方で、技術の発展や投資資金の流れの方向性を定める作用もあります。

したがって、EUの規制は“コンプライアンス”の観点から読むだけでなく、今後の市場動向を見極め、自社がどこに収益機会を見出し、そこでどう戦うかなど、サステナビリティ経営戦略の策定に資する材料として活用することが求められます。

EU規制に関する情報収集をコンプライアンス対応部門などが情報収集を行っている企業も多いかもしれません。しかし、こうした視点を持つことで、これらの部門はコストセンターにとどまらず、企業の戦略立案を担うインテリジェンス部門へと位置づけを高めることも期待できるのではないでしょうか。

※記事の内容はインタビュー対象者の見解に基づくものであり、IGESの見解を述べたものではありません。

三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、
バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

「BePLAYER®」「RePLAYER®」>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm

<公開資料:カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー関連>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/whitepaper/

 
参考資料
*1:農林水産省 みずほリサーチ&テクノロジーズ「PPWR(EU包装・包装廃棄物規則)調査報告書」:
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_process/attach/pdf/k_packaging-38.pdf
*2:外務省 経済局国際経済課「主要経済指標2025年7月」:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100405131.pdf
*3:European Chemical Agency “Per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS)”:
https://echa.europa.eu/hot-topics/perfluoroalkyl-chemicals-pfas
*4:European Chemical Agency “ECHA announces timeline for PFAS restriction evaluation”:
https://echa.europa.eu/-/echa-announces-timeline-for-pfas-restriction-evaluation
*5:Packaging and Packaging Waste Regulation 2025/40 (PPWR):
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=OJ:L_202500040&pk_campaign=todays_OJ&pk_source=EUR-Lex&pk_medium=X&pk_content=Environment&pk_keyword=Regulation#cpt_V

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