ELV規則案の進捗現状
<ELV規則案の進捗現状>

参考:農林水産省「概要レポート第15回:EUの立法手続とEU法」p.2を元に作成
※全体の立法プロセスについては「ELV規則案の審議状況と今後の展望」の見出しにて詳しく解説しています。
EUにおける立法プロセスは上図のようになっています。このプロセスに沿って、まずはELV規則案の公布に向けた動きを見てみましょう。
ELV規則(End-of-Life Vehicles Regulation)とは、使用済み自動車(ELV)の適切な廃棄とリサイクルを促進し、環境負荷を最小限に抑えることを目的としています。その前身であるELV指令を引き継ぎ、「型式認証の再使用、再利用、再生の可能性に関する指令(3R指令)」を統合する形で規則化すべく、欧州委員会が2023年7月に「ELV規則案」を発表。その後、欧州委員会で提案された原案は、欧州議会とEU理事会に提出され、それぞれの機関で審議されました。
【欧州議会】2025年1月に原案への修正案を提示。同年7月に欧州議会の関係委員会で修正案の合意を得る
欧州議会は2025年1月に修正規則案を公開し、同年7月に欧州議会の下に設置された専門委員会である「環境委員会(ENVI)」と「域内市場・消費者保護委員会(IMCO)」で同修正規則案が合意されました。
【EU理事会】2025年6月に交渉方針(一般アプローチ)を採択
2025年6月にEU理事会としての交渉方針(一般アプローチ)が採択されました。これにより、EU理事会としては、最終法案化に向けた三者協議(トリローグ)への準備が整いました。
【欧州議会】2025年9月の本会議で修正規則案を正式に採択
2025年7月にENVIとIMCOの両委員会の合意を得た修正規則案をベースに、同年9月に開催された欧州議会の本会議にて、欧州議会としても修正規則案を正式に採択しました。これにより、EU理事会と欧州議会の方針が出揃い、最終協議に進みます。
今後、欧州委員会を含めた三者協議(トリローグ)を経て、最終法案化される予定です。
欧州委員会、EU理事会、欧州議会の各案主要ポイント比較:設計要件とリサイクル目標
<ELV規則案 再生プラに関する主な修正内容>

参考:欧州委員会、欧州議会、EU理事会案を元に作成
EU理事会案(25年6月)と欧州議会案(同年9月)との主な相違点は、「新車に使用する再生材の割合(再生材含有率)」と「再生材の定義」の2点です。また、欧州議会案ではケミカルリサイクル(CR)に関する記述がありますが、EU理事会案ではCRに関しては記載されていません。
① 新車へ使用する再生材の割合目標
EU理事会案、欧州議会案ともに、欧州委員会案(原案)を緩和する方向にありますが、EU理事会案の方がより段階的な目標を設定しており、その含有量についても一時的な猶予措置を制定できる条文を加えています。ただ、ELV由来の再生プラの割合については、欧州議会案の方が原案を緩和させる内容になっています。
【EU理事会案(2025年6月)】
・施行後 6年以内:15%(3.75%は廃車由来)
・施行後 8年以内:20%(5%は廃車由来)
・施行後 10年以内:25%(6.25%は廃車由来)
【欧州議会案(2025年9月)】
・施行後 6年以内:20%(3%は廃車由来)
・施行後 10年以内:25%(3.75%は廃車由来)
②再生材の定義
ここは三者協議(トリローグ)でも争点になることが予想されます。欧州委員会案とEU理事会案では、家庭ごみなど一般廃棄物由来のリサイクル材である「PCR材(ポストコンシューマーリサイクル)」のみを再生材の定義としています。一方、欧州議会案では、PCR材だけでなく、市場に出る前の製造過程で発生した廃棄物由来のリサイクル材である「PIR材(ポストインダストリアルリサイクル)」も定義に含んでいます。
家庭ごみなど一般廃棄物は、汚れが付いたものや、様々な種類のプラスチックが混ざっており、また複合材で構成されているものが多いため、洗浄や仕分けの工程が複雑かつ困難になり、リサイクルするハードルも高まります。一方、市場に出る前の製造過程で発生した廃棄物は、種類別にプラスチックをきっちり分けて回収しやすく、比較的クリーンであるため、リサイクルしやすい側面があります。そのため、ELV規則における「再生材の定義」が、PCR材のみになるのか、PIR材も含めたものになるのか、三者協議(トリローグ)での議論が注目されます。
【欧州委員会案(2023年7月)】
PCR材のみを対象としており、再生材の定義はかなり限定されています。
【EU理事会案(2025年6月)】
欧州委員会案と同様に、基本的にはPCR材のみを対象とし、PIR材は除外しています。ただ、バイオプラスチックに関しては、将来的に欧州委員会がその持続可能性や貢献度を評価し、施行後95カ月以内に検討する、としています。
【欧州議会案(2025年1月~9月)】
2025年1月の欧州議会案(一次修正案)では、PCR材に加え、PIR材の一部を含めることを許容しており、持続可能性基準を満たすバイオプラスチックも定義の中に含んでいました。
また、同年7月の環境委員会(欧州議会の下に設置された専門委員会)の案では、マスバランスを含むChain of Costdyで管理した再生材の利用が追加されました。ただ、2月の欧州議会案(一次修正案)で含めていたバイオマスプラスチックに関する文言は削除されました。
同年9月に正式採択された欧州議会案(最終修正案)での「再生材の定義」は、7月の環境委員会案をベースに、PCR材とPIR材の両方を含み、Chain of Costdyで管理された再生材の利用としており、三者の中で最も広範な定義になっています。
EU理事会案と欧州議会案の主要ポイント:拡大生産者責任とELV管理
拡大生産者責任(EPR)
【EU理事会案(2025年6月)】
欧州議会の方向性を支持し、さらに所有者不明のまま放置された車の処理費用も、生産者責任の枠組みでカバーすることを明記。これにより、生産者が負うべき経済的責任の範囲をより厳密化。
【欧州議会案(2025年9月)】
現行のEPR制度を強化し、メーカーが廃車の収集から処理までの費用を負担する責任を明確化。
適用範囲の拡大(対象車両の増加)
【EU理事会案(2025年6月)】
2025年1月の欧州議会案(一次修正案)に同調し、トラック、バス、二輪車・三輪車、トレーラーに加え、特殊車両(消防車など)も対象に含めています。これにより、ほぼすべての車種を循環性要件(Circularity Requirements)の対象にしています。
【欧州議会案(2025年9月)】
従来の乗用車やバンに加え、トラック、バス、二輪車・三輪車(Lカテゴリー)などへ規則の適用を拡大することを提案。特殊車両(消防車など)は適用除外にしています。
特殊車両は、特定の機能を果たすために設計されており、多くは自動車メーカーの完全な管理下になっていません。そのため、再利用率等の正確な把握や設定等が困難になることなどが挙げられ、最低限の回収や汚染除去、部品回収等の適用とし、再利用やリサイクル率等の義務は外すべきとしています。
中古車・ELV管理
【EU理事会案(2025年6月)】
2025年1月の欧州議会案(一次修正案)の方針に加え、歴史的価値のあるヴィンテージカーなどを規則の適用から除外する規定を追加。車両がELVではないことを証明する責任は、主に販売者や輸出者が負うことを明確化し、違法な廃棄物輸出を防ぐ仕組みを具体化しました。
【欧州議会案(2025年9月)】
「中古車」と「ELV(使用済み自動車)」を区別するための基準を明確化することを要求。
事務手続きの簡素化
【EU理事会案(2025年6月)】
・循環性戦略の提出:メーカーの負担を軽減するため、車両の型式ごとではなく、車両カテゴリー(乗用車、バンなど)ごとの提出を許可しています。ただし、処理技術の進化に関する特定の情報や、リサイクル材の割合に関する情報は型式ごとの提出にすることを記載。
・デジタルパスポート:製品のリサイクル情報などを記録した「車両循環パスポート(The Digital Circularity Vehicle Passport)」をEUのエコデザイン規制(ESPR)などの他のデジタル文書システムと連携させ、報告義務の重複を避けることを提案しました。
中古車両の輸出管理
【EU理事会案(2025年6月)】
走行不可能な中古車のEU域外への輸出を原則禁止。これにより、「行方不明車両」問題を解決するとともに、輸出先である第三国での環境汚染や交通事故のリスクを低減することを目指す。
【欧州議会案(2025年9月)】
走行不可能な車両が「中古車」を装って不法に輸出されるのを防ぐため、国の当局による検査と輸出禁止を強化する方針。
ELV規則が企業に与える具体的な影響と課題
自動車メーカーへの影響:設計・リサイクル目標、情報開示義務
設計とリサイクル目標
新しい車両の設計には、循環性要件を深く組み込む必要があります。これには、再利用(リユース)可能性、リサイクル可能性、回収可能性の計算方法の見直しや、循環型車両パスポートの開発も含まれます。特に、再生プラの最低含有率目標は、自動車メーカーにとって重要な課題となります。
情報開示義務
メーカーは、分解およびリサイクル情報、Critical raw materials(経済活動に不可欠でありながら供給リスクが高い原材料)の使用とその場所、新車における再生材の含有率に関する情報を開示する義務を負います。さらに、包括的な「循環性向上の戦略」を策定し、定期的に更新することも義務付けられます。
部品・素材メーカーへの影響:使用制限物質、リサイクル材利用義務
使用制限物質
鉛、水銀、カドミウム、六価クロムといった有害物質の使用は引き続き制限されます。
リサイクル材利用義務
プラスチックだけでなく、将来的に鋼鉄、アルミニウム、重要な原材料などの再生材利用目標が設定される可能性があり、部品・素材メーカーはサプライチェーン全体で再生材の調達と利用を強化する必要があります。
ELV規則の対象素材:プラスチックと複合材料
ELV規則では、特にプラスチックのリサイクルと、その継続的な改善が求められています。しかし、繊維強化プラスチックなどの複合材料はリサイクルが困難であり、ELV規則が掲げるリサイクル目標を達成するうえで課題となる可能性があります。
自動車用プラスチックのリサイクル義務と高機能化の課題
再生材の最低含有率目標は、特に使用済み自動車から排出される廃プラスチックのリサイクル率を改善するために設定されています。しかし、現状ではさまざまな種類のプラスチックや他素材を組み合わせ、自動車に求められる機能や安全性を実現しているため、「循環性」と「機能性、安全性」がトレードオフにならないよう、最適な車両設計やリサイクル技術の向上を図っていく必要があります。
今後始まる三者協議(トリローグ)では、それぞれ考え方が異なる「新車に使用する再生材の割合(再生材含有率)」や「再生プラの定義」などが争点になる可能性が高く、その議論の動向が注目されます。