審査機関(SGSジャパン)の役割
SGSジャパンとは?ISCC PLUS認証における審査機関の役割
SGSジャパンは、スイスに本部を置く第三者認証機関の日本法人です。企業が環境マネジメントなどの国際ルール(ISOなど)に適合しているかを、独立した第三者の立場から厳格に審査・確認する役割を担っています。
バイオマス原料やリサイクル原料などが有する環境価値が、サプライチェーンを通じて正しく伝達されているかを担保するための国際的なトレーサビリティ認証制度が「ISCC(国際持続可能性カーボン認証:International Sustainability and Carbon Certification)PLUS」です。近年、社会のバイオマス化やサーキュラーエコノミーの実現に向け、日本企業の「ISCC PLUS認証」取得が進むなかで、SGSジャパンは国内における認証発行数トップの審査機関として、企業の適合性を審査しています。

審査機関の役割は「審判」
認証制度における審査機関の立場は、例えるならスポーツにおける審判です。プレイヤーである企業が認証制度の定める要求事項に従って適切な運用を行っているかどうかを、客観的なデータや現場の確認を通して審査します。
一方で、審査機関がコンサルティング(認証取得のためのアドバイスや具体的な指導)を行うことは、公平性を担保するため原則できません。審判がプレイヤーに対して「どうすれば勝てるか」を指導できないのと同様に、中立性を維持するため、取得方法に関する個別具体的な相談には応じられない立場となります。
また、SGSジャパンのような審査機関であっても、ISCC本部が公表している内容以上に把握できる情報は多くありません。そのため、公開されている要求事項に基づいて中立的に適合性を審査することが重要です。この一貫したスタンスを保つことこそが、ISCC PLUS認証の国際的な信頼性と客観性を支える基盤となっています。
ISCC PLUS認証の歴史と3つのスキーム
「ISCC EU」から始まり、「ISCC PLUS」、「ISCC CORSIA」へ拡大
ISCC(国際持続可能性カーボン認証:International Sustainability and Carbon Certification)には、主に3つのスキームがあります。まず、ISCCのルーツは、2010年にドイツで設立された「ISCC EU認証」にあります。この認証は、ヨーロッパ(EU)市場向けの燃料を対象に、欧州の再生可能エネルギーに関するEU指令(RED)(EU-RL 2009/28/EC)(※)といった法的な規制に適合していることを示す認証制度として誕生しました。RED適合を証明するために広く利用されている認証スキームとなっています。
※再生可能エネルギーに関するEU指令(RED)(EU-RL 2009/28/EC):
2008年に欧州委員会により提案された再生可能エネルギー開発のための法的枠組み。
ISCCは、EUの規制対応を目的として始まった仕組みですが、「ISCC EU認証」をベースに、燃料以外のさまざまな製品に対象を広げ、その持続可能性を証明する「ISCC PLUS認証」が2011年に設立されました。ISCC PLUS認証は、化学品やプラスチック、食品、飼料、あるいはEU向け以外の燃料などを広く対象とした認証制度です。ただ、現時点(2026年10月時点)で法的規制とリンクはしていないため、各企業が任意で取得を進めています。
さらに近年では、世界的なSAF(持続可能な航空燃料)への注目を背景に、国際民間航空機関(ICAO)の基準に適合していることを証明するための航空燃料向けスキームとして「ISCC CORSIA認証」も誕生しました。現在、日本国内で取得されている主なスキームはこの3種類に分類されます。
※CORSIAの概要については「CORSIA(コルシア)とは?ICAOのCO₂削減制度とSAFの役割」にて詳しく解説しています。
日本でも取得数が増加している「ISCC PLUS認証」
「ISCC PLUS認証」が日本に入り始めたのは、2017年〜2018年頃からです。日本国内におけるISCC関連の認証書発行実績(2026年時点)を見ると、合計約600件のうち、ISCC PLUS認証が約500件と全体の8割以上を占めています(ISCC EUは約72件、ISCC CORSIAは約30件)。
特に日本の化学業界においては、ナフサクラッカーを保有し、生産工程が複雑な大手化学メーカーなどでISCC PLUS認証の取得が進んでいます。そこから、プラスチック(樹脂)加工メーカー、容器・パッケージメーカーを含めたサプライチェーン全体でも認証取得の波が広がっており、「ISCC PLUS認証」の存在感は急速に高まっています。
ISCC PLUS認証において「マスバランス方式」が重要となる理由
ISCC PLUS認証では、たとえどのような複雑な製造工程を経たとしても、バイオマスやリサイクルなどの持続可能な原料がどれだけ使われ、その各原料の使用量に相当する製品がどれだけ製造されているのか、そのトレーサビリティを科学的かつ客観的に管理・証明する必要があります。そこで、特に生産工程が複雑かつ、さまざまな由来の原料を同時に混ぜて使用せざるを得ない場合に効果的な管理手法となるのが「マスバランス方式(物質収支方式)」です。
<マスバランス方式>

※マスバランスの考え方については、「マスバランス方式とは? | 三井化学のバイオマス&リサイクルソリューション」にて詳しく解説しています。
マスバランス方式が実務上の有力な選択肢となっている背景には、複雑な製造工程を有する産業における「原料の物理的な分離の難しさ」があります。
その事例としては、化学産業の起点となる「ナフサクラッカー(ナフサ分解装置)」のような巨大プラントが挙げられます。こうした設備では、バイオマスナフサ(バイオマス由来の炭化水素)、熱分解油(廃プラ由来の炭化水素)、そして従来のナフサ(石油由来の炭化水素)といったように、異なる由来の原料を物理的に混ぜて一括で処理せざるを得ないのが実情です。
これらを物理的に混ざらないように完全に分けて管理(セグリゲーション)しようとすれば、専用の貯蔵タンクやパイプライン、さらに新たなナフサクラッカーなどを大型投資によって新設しなければなりません。しかし、持続可能な社会を目指すプロセスにおいて、莫大な資金を投じて重複する設備を建設することは、設備建設に伴うCO₂排出などの環境負荷を増やすだけでなく、経済合理性の面においても大きな負荷となってしまいます。
ISCC PLUS認証は、物理的に原料を完全に分別して管理する「セグリゲーション」にも対応しています。しかし、複雑な製造工程を有している産業や多くの企業では、異なる由来の原料を物理的に分けて使用できず、各原料に対応した専用設備で分けて生産することも現実的に困難です。そのため、異なる特性(由来)を有する各種原料のインプット(投入量)に応じて、それぞれの特性をアウトプット(製品)に割り当てる「マスバランス方式」が、ISCC PLUS認証において実務上不可欠なアプローチとなります。
なぜなら、ISCC PLUS認証は「国際持続可能性カーボン認証:International Sustainability and Carbon Certification」という名称の通り、燃料以外のさまざまな製品に含まれるCarbon(炭素)の持続可能性を担保するものだからです。どの原料由来の炭素分子が製品に入ったかを物理的に追跡することは難しいため、「マスバランス方式」のアプローチでトレーサビリティを担保していくことが重要になります。
※マスバランス方式の具体的な計算例(インプット量とアウトプット量のトレーサビリティを客観的に担保するしくみなど)については、「ISCC認証とは?原料の持続可能性とトレーサビリティを証明する国際認証」にて詳しく解説しています。
複雑なサプライチェーンにおける持続可能性と炭素の由来を第三者認証でつなぐことの重要性
企業単位での取得では成り立たない「拠点ごと」の認証ルール
ISCC PLUS認証を適用した製品を「認証製品」として社会に送り出すためには、企業単位での取得では不十分です。なぜなら、ISCC PLUS認証は「拠点単位」で個別に取得するルールになっているからです。
バイオマスなどの持続可能な原料が発生する場所(コレクティングポイント)から、それを回収・集積する事業者、加工を行うメーカー、さらにはその間に介在する商社や物理的保管を行う倉庫に至るまで、サプライチェーンに関わるそれぞれの拠点単位で個別に認証を取得しなければなりません。
ISCC PLUS認証の取得数は増加していますが、現状では複雑に枝分かれしたサプライチェーンの川上拠点では認証を取得できていても、川下では未取得というケースもあります。ISCCが英語原則である点に加え、日本で一般的な「製造の外注(外部委託)」を行う際にも委託先企業自体の認証取得が必要となるなど、日本のビジネス慣行に合わせるには認証取得とその後の管理が複雑になるため、こうした側面がサプライチェーン全体で認証をつなぐうえで、乗り越えるべき壁とも言えます。

途中で途絶えてはならない「バトンリレー」とCoC(管理連鎖)
ISCC PLUS認証によるトレーサビリティの担保は、原料から最終製品へと環境価値の証明を渡していく「バトンリレー」に例えられます。どれだけ自社が完璧に管理・製造を行っていても、サプライチェーンの途中で1箇所でも認証を取得していない企業が挟まってしまうと、その時点でバトンリレーは途絶えてしまいます。一度バトンが途切れてしまうと、最終製品を「ISCC PLUS認証製品」として主張することはできません。
このように、原料から最終製品までのサプライチェーン全体を認証でつなぎ、持続可能性の情報を伝達していく仕組みを、認証用語で「Chain of Custody(管理連鎖:CoC)」と呼びます。このCoC(管理連鎖)やマスバランスの基本的な定義は、国際規格である「ISO22095」に規定されており、ISCC PLUS認証もこの規格に準拠してルールが策定されています。
※Chain of Custody(CoC)の考え方については「ISOにおけるCoC(chain of custody)とは?5モデルと最新規格を解説」にて詳しく解説しています。
「ブランドオーナー」が関わるためのライセンス制度
では、最後までつながれたバトンを生活者に届ける最終段階において、自社で物理的な製造を行わない飲料メーカーや消費財メーカーなどのブランドオーナーはどのようにISCC PLUS認証に関わることになるのか、と疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。
このように実際に製造を行わないブランドオーナーのケースでは、ISCCに対して「ライセンシー(Licensee)」の登録(許可)を申請することで、上流で正しくつながれたバトン(認証)を活用し、自社ブランドの製品パッケージなどで認証取得をアピールできるようになります。
なお、自社で物理的な製造も行い、同時に自社ブランドとしても製品を販売するメーカー(タイヤメーカーなど)のケースは、ライセンシーとしての登録ではなく、通常の製造事業者と同様に、拠点ごとにISCC PLUS認証を取得してバトンをつなぐ形になります。
後編では、ISCC PLUS認証の最新動向と審査のポイントについて解説します。
※後編:ISCC PLUS認証の最新動向(スタンドアローン化)と審査のポイント