- カーボンニュートラル
CORSIA(コルシア)とは?ICAOのCO₂削減制度とSAFの役割
-1.jpg?width=2000&height=1420&name=pixta_130734680_M%20(1)-1.jpg)
国際航空分野における2050年カーボンニュートラルの実現に向け、ICAO(国際民間航空機関)が主導する制度「CORSIA(コルシア)」への対応が本格化しています。CORSIAは、各国の国際線運航事業者を対象に、CO₂排出量の計測・報告・検証(MRV)を義務付けるとともに、基準を超過した排出量に対してSAFの活用や適格カーボンクレジットによるオフセットを求める世界共通の枠組みです。今回の記事では、CORSIAの制度概要やフェーズ別の導入スケジュール、適格クレジットの要件、さらにはJ-クレジットの対応状況までをわかりやすく解説します。
CORSIA(コルシア)とは?制度の概要とICAOが推進する目的
飛行機が世界中の人やモノをつなぐ一方で、その運航には大量のCO₂排出が伴います。国際航空分野のCO₂排出量は、世界全体の約1.8%(約6.2億t)を占めるとされており、今後の航空需要の拡大が見込まれるなか、CO₂の排出量削減はカーボンニュートラルの実現に向けた重要なテーマとなっています。
-1.png?width=726&height=515&name=%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%83%E3%83%88%202026-09-07%2017.45.42%20(1)-1.png)
出典:国土交通省「SAFの導入促進に向けた取組(航空局カーボンニュートラル推進室の取組紹介)」p.3
こうした背景から、国際航空分野の排出量削減策として注目されているのが、CORSIA(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation:国際航空のための炭素オフセットおよび削減スキーム)です。
CORSIAの定義
CORSIAとは、各国の国際線運航事業者を対象に、基準を超過したCO₂排出量に対してSAFの活用や適格カーボンクレジットによるオフセットを求める世界共通の枠組みです。国際航空の安全確保や秩序ある発展を目的とする国連の専門機関、ICAO(国際民間航空機関)が策定・主導しています。
ICAOには現在193カ国が加盟しており、国際航空全体のルールや方針を決定しています。そのなかでCORSIAは、国際航空のCO₂排出量を抑制・削減するための環境プログラムとして位置付けられています。
こうした取り組みの先にあるのが、ICAOが掲げる「2050年までに国際航空分野のCO₂排出を実質ゼロ(ネット・ゼロ)にする」という長期炭素目標です。CORSIAは、2021年から2035年まで運用され、ネット・ゼロの実現に向けた短中期的な取り組みとして位置付けられています。
.png?width=2000&height=1419&name=%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%83%E3%83%88%202026-09-07%2016.21.28%20(1).png)
出典:国土交通省「SAFの導入促進に向けた取組(航空局カーボンニュートラル推進室の取組紹介)」p.4
CORSIAでは具体的に、①新技術の活用、②運航の改善、③SAF(持続可能な航空燃料)の利用、④炭素クレジットでのオフセット(相殺)という4つの手段を通じて、CO₂排出量の削減を進めます。まず①〜③によって排出量の削減を進め、それでも削減しきれない排出量については、カーボンクレジットによるオフセットが義務付けられています。
こうした取り組みの対象となるのは、国際線を運航し、最大離陸重量5,700kgを超える航空機を使用する事業者のうち、国際航空による年間CO₂排出量が1万tを超える事業者です。
CORSIA制定の背景
世界全体のCO₂削減に向け、世界では1997年の「京都議定書」や2015年に採択された「パリ協定」などの国際協定が結ばれ、各国がそれぞれ温室効果ガス(GHG)の削減目標を定め、対策を推進してきました。
しかし国際航空は、公海上を運航したり、複数の国をまたいで飛行したりする特性上、排出したCO₂を出発国・到着国・領空通過国のどこに帰属させるべきかという特殊な課題がありました。
そこで、京都議定書において、国際航空のGHG対策を各国の削減目標とは切り分け、国連の専門機関であるICAOを通じて一元的に取り組む方針が定められました。この方針に基づき創設されたのがCORSIAです。
CORSIAの導入スケジュールとフェーズ別の参加義務
CORSIAは、各国の経済状況や準備状況に配慮し、2021年から2035年までの15年間を3つのフェーズに分けて、段階的にオフセット義務を拡大する設計になっています。
<段階的導入のタイムライン>.png?width=2000&height=1070&name=%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%83%E3%83%88%202026-09-07%2016.23.09%20(1).png)
参考:経済産業省「第31回J-クレジット制度運営委員会資料」他をもとに作成
CORSIAでは、事業者の全排出量に対して一律でオフセットを義務付けるのではなく、ベースライン(基準年排出量)を超過した排出量に対してオフセット義務を課します。オフセット義務はフェーズごとに適用範囲が異なりますが、CO₂排出量の計測・報告・検証(MRV)自体は、CORSIAへの参加・不参加やフェーズを問わず、年間1万t以上のCO₂を排出するすべての国際線運航事業者に2019年から一律で義務付けられています。
このMRVの義務は、ICAOが定めた世界共通の条約ルール(条約附属書16第4巻)に基づき、各国の航空当局が国内法や省令などを通じて、自国の運航事業者に対して直接的な法的義務として課しています。
パイロットフェーズ(2021〜2023年)
CORSIAは、制度の実効性を検証するため、2021年1月から3年間の「パイロットフェーズ」を開始しました。この期間は、ICAO加盟国の参加は義務ではなく、自発的な任意参加制とされていました。
運用が始まった2021年当初は、日本を含む88カ国が参加を表明しました。その後、航空業界のCO₂削減を世界全体で推進する重要性が広く認識され、参加国は増加し、試行期間の最終年となる2023年末には、115カ国が参加しました。
また、パイロットフェーズでは、出発国と到着国の双方がCORSIAに参加している国際線のみがオフセット義務の対象となりました。どちらか一方でも未参加国である場合は、オフセット義務の対象外とされました。
このパイロットフェーズにおいて、転換点となったのが、オフセット義務の基準となるベースラインの変更です。当初の計画では、2019年と2020年の排出量の平均値をベースラインとする設計でした。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、2020年の国際航空需要は前年比約6割減(RTKベース)と大幅に落ち込みました。
この2020年の排出量をそのままベースラインの算定に用いると、需要回復後の航空会社に過大なオフセット負担が生じるという声が多くありました。そこでICAOは特例措置として、パイロットフェーズのベースラインを「2019年単年の排出量水準」に変更しました。
第1フェーズ(2024〜2026年)
3年間のパイロットフェーズを終え、CORSIAは2024年から「第1フェーズ」に移行しました。
第1フェーズでも、各国の参加はパイロットフェーズと同様に自主的な任意参加制が維持されました。一方で、世界のカーボンニュートラルへの機運がさらに高まるなか、参加国数は大幅に増加しました。フェーズが開始された2024年時点で126カ国が参加を表明し、フェーズが終了する2026年では1月1日時点で130カ国が参加を表明するまでに拡大しています。
第1フェーズで大きく変更されたのが、オフセット義務の基準となるベースラインです。
前述のようにパイロットフェーズでは、コロナ禍による国際航空需要の急減を考慮し、ベースラインを「2019年の排出量水準(100%)」としていました。しかし、2024年以降は国際航空需要の回復・成長が見込まれることから、ICAOは排出量削減の実効性を高めるため、ベースラインを「2019年排出量の85%」へと引き下げました。
第2フェーズ(2027〜2035年)
そしてCORSIAは、2027年から「第2フェーズ」へ移行し、制度の適用範囲がさらに拡大します。2027年以降の第2フェーズは後発開発途上国などの免除国を除き、原則としてすべてのICAO加盟国に対して参加が義務付けられます。
ICAOの試算では、第2フェーズにおける参加見込み国は134カ国に上るとされています。ただし、世界の航空需要に大きな影響を持つ中国、インド、ロシア、ブラジルなどの主要国(いわゆるBASIC諸国)は、2026年初時点で第2フェーズへの参加を確約しておらず、一部の国はICAO決議に対して正式な留保を表明しています。これらの国の参加動向は、制度の実効性を左右する重要な論点となっています。
また、第2フェーズにおいても、第1フェーズで導入された「2019年の排出量の85%」というベースラインが、2035年の制度終了まで継続して適用されます。
このように、CORSIAの適用範囲はさらに広がり、国際航空分野におけるCO₂排出量削減の取り組みが、より多くの国に広がっていくことが期待されています。
CORSIAにおける2つのCO₂削減アプローチ
来年から始まる第2フェーズでも「2019年の排出レベルの85%」という基準が継続されることで、航空会社には引き続き厳しい排出量削減が求められます。こうした削減目標を達成するためには、航空機そのものの技術や運航方法の改善に加えて、SAFの利用や炭素クレジットによるオフセットを組み合わせた対応が重要になります。
SAFの活用とCEF
排出量削減目標の達成に向けた重要な手段として、世界中で導入が進められているのが、SAF(持続可能な航空燃料:Sustainable Aviation Fuel)です。
SAFとは、廃食油など植物由来の再生可能な有機資源(バイオマス)を原料とする次世代のジェット燃料のことを指し、航空分野のカーボンニュートラル実現に向けた有力な手段として世界的に注目されています。
ただし、市場に流通するすべてのSAFがそのまま削減実績としてカウントされるわけではありません。CORSIAの制度上でCO₂の排出量削減効果を認められるには、ICAOが定める持続可能性基準を満たし、「CORSIA適格燃料(CEF:CORSIA Eligible Fuel)」として認められる必要があります。
CEFとして認められるSAFであることを証明するのが、ICAOから承認を受けた「持続可能性認証スキーム(SCS:Sustainability Certification Scheme)」と呼ばれる国際的な認証制度です。SAFの製造事業者などは、ICAOに承認されたSCSによるサプライチェーンの監査を受け、認証を取得する必要があります。
2026年9月現在、ICAOが承認しているSCSには、ドイツを拠点とするISCC(International Sustainability & Carbon Certification)、スイスを拠点とするRSB(Roundtable on Sustainable Biomaterials)、日本のClassNK SCS(一般財団法人日本海事協会 SCS)、そして新たに承認されたイギリスのBonsucroなどがあります。
※SAFの製造方法や普及に向けた欧州の動向は、「SAF(持続可能な航空燃料)とは?製造方法・原料・価格からメリットまでわかりやすく解説」にて詳しく解説しています。
CORSIA適格カーボンクレジットによるオフセット
CORSIAでは、機材更新や運航改善、SAFの利用といった直接的な削減努力を最優先で行うことが求められます。それでもなお削減しきれず、全航空会社のCO₂排出量が設定された基準値(2019年排出量の85%)を超えた超過分のみ、カーボンクレジットを活用してオフセットする仕組みが採用されています。
ただし、CORSIAで利用できるのは、ICAOが定める基準を満たし、正式に認められたCORSIA適格カーボンクレジット(EEU:CORSIA Eligible Emissions Unit)に限られます。
※カーボン・オフセットについては、「カーボン・オフセットとは?その仕組みやメリット、課題をわかりやすく解説」にて詳しく解説しています。
CORSIA適格クレジットの条件とJ-クレジットの扱い
CORSIA適格クレジット(EEU)に求められる基準
CORSIA適格クレジットとして承認されるには、プロジェクトと発行システムが、国際的に合意された以下の8つの品質原則を満たす必要があります。
①追加性の確保
②現実的かつ信頼できるベースライン
③定量化・MRVの実施
④責任範囲の明確性・透明性
⑤削減・吸収の恒久性
⑥他所での排出増加の防止・管理
⑦二重計上の防止
⑧正味の害を与えないこと
なかでも重要なのが、「⑦二重計上の防止」です。CORSIAでは、ある国で創出されたクレジットを海外の航空会社がオフセットに利用する場合、同じCO₂削減効果をクレジットを創出したホスト国と航空会社がそれぞれの削減実績としてダブルカウント(二重計上)してしまう可能性があります。
.png?width=2000&height=1499&name=%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%83%E3%83%88%202026-09-07%2016.23.45%20(1).png)
出典:環境省 地球環境局「COP27を踏まえたパリ協定6条(市場メカニズム)解説資料」p.14
このような二重計上を防ぐため、CORSIAのルールやパリ協定第6条では、クレジットを創出したホスト国が、その削減量を他者へ移転(譲渡)した場合、その数量分を自国のNDC(削減実績)から差し引くとともに、同数量分を自国の排出実績に上乗せして調整する相当調整(Corresponding Adjustment)を行うことが義務付けられています。
この相当調整を行う意思を示す、ホスト国政府による公式な承認書がLoA(Letter of Authorization)です。LoAは、CORSIA適格クレジットとして認められるための重要な要件となっています。
J-クレジットの現状
CORSIAにおけるオフセット義務が本格化するなか、日本の環境技術や森林などが生み出す環境価値を、国際航空の排出量削減に活用する手段として期待されているのが、J-クレジット制度です。
ベースラインが「2019年比の85%」へと厳しく引き下げられたことで、本邦航空会社だけでも、第1フェーズ(2024~2026年)の3年間で約411万tものオフセットクレジットが必要になると推計されています。J-クレジットがCORSIA適格クレジットとして認められれば、国内で手続きを完結できる信頼性の高いオフセット手段を安定的に確保できるようになります。
日本政府は2022年、ICAOの技術助言機関であるTAB(Technical Advisory Body)に対し、J-クレジット制度で認められている複数のGHG削減方法について、CORSIA適格クレジットとしての承認を求める申請を行いました。
しかし、TABによる審査の結果、適格とは認められず「再申請を要す(Invited to re-apply)」と判定され、CORSIAの基本要件に関する複数の指摘を受けました。特に、環境価値が国外の国際航空分野へ移転された際の二重計上を防ぐ相当調整の手続きが明確でないことや、プロジェクトの妥当性確認・検証報告書など、第三者による監査プロセスの透明性が十分でないことなどが指摘されました。
こうした指摘を受け、日本政府およびJ-クレジット制度運営委員会は、制度の改定や運用の見直しを進めています。2026年現在も、CORSIAの適格基準を満たし、J-クレジットをCORSIAで利用できるようにするための対応が続けられています。
CORSIA理解がもたらす企業のカーボンニュートラル戦略の未来
CORSIAは単に航空会社へカーボンクレジットの利用を求める制度ではありません。排出量の計測・報告・検証から、SAFの活用、カーボンクレジットによるオフセットまでを、国際的なルールのもとで進めるための仕組みです。
特に、追加性や透明性、二重計上の防止、相当調整など、クレジットに厳格な基準が求められている点は重要です。これは、企業のカーボンニュートラル戦略においても、単にクレジットを購入するのではなく、どのような削減効果を持つクレジットなのかを見極めることが重要になることを示しています。
CORSIAは航空業界を対象とした制度ですが、まず自ら排出量を減らし、削減が難しい部分を信頼性の高いクレジットで補うという考え方は、今後の企業のカーボンニュートラル経営にも通じます。国際的な環境規制が強化されるなか、CORSIAの動向を理解することは、企業が将来の規制や市場変化に備えるうえでも重要になっていくでしょう。
三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。
- 参考資料
- *1:国土交通省「SAFの導入促進に向けた取組(航空局カーボンニュートラル推進室の取組紹介)」:
https://www.mlit.go.jp/koku/pdf/saf.pdf - *2:ICAO「ICAO document CORSIA States for Chapter 3 State Pairs(published 2019–2026).」:
https://www.icao.int/CORSIA - *3:国土交通省 航空局 カーボンニュートラル推進室「CORSIA 適格燃料登録・認証取得ガイド」:
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001881290.pdf - *4:国土交通省 航空局「航空脱炭素化の取組の進捗について」:
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001571738.pdf - *5:環境省 地球環境局「COP27を踏まえたパリ協定6条(市場メカニズム)解説資料」:
https://www.env.go.jp/content/000060573.pdf - *6:J-クレジット制度運営委員会「J-クレジット制度運営委員会資料」:
https://japancredit.go.jp/steering_committee/01/