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【セミナー開催レポート】「欧州事例から学ぶ!カーボンニュートラル社会で求められる『脱プラ』に代わる選択肢とは?」

2023年11月開催セミナーサムネイル_キャプチャ版

2023年11月16日に「欧州事例から学ぶ!カーボンニュートラル社会で求められる『脱プラ』に代わる選択肢とは?」と題したセミナーを、三井化学株式会社・株式会社メンバーズ・ハーチ株式会社による3社で共催しました。

バイオマスプラスチックの特徴や欧米企業での最新採用事例などをご紹介しながら、その有用性や動向を紐解き、今後の企業の取り組みへのヒントとなる情報を提供しました。以下、開催したセミナーを概略レポートとして紹介します。

 

カーボンニュートラル社会に求められる
             バイオマスプラスチックの導入


最初のパートでは、三井化学のグリーンケミカル事業推進室でビジネス・デベロップメントグループリーダーを務める松永より、「バイオマスプラスチックとは?その特徴を紹介」と題して、自社の取り組みや、社会全体のバイオマス度を高める上で重要な「マスバランス方式」という新しい考え方などを紹介しました。

現在、地球温暖化につながるGHG排出量の削減は全世界共通の大きな課題とされています。この課題への有効なアプローチの一つが、GHGの排出量削減に貢献するバイオマス化の推進です。プラスチック関連では、2021年1月に環境省、経済産業省、農林水産省、文部科学省が合同で「バイオプラスチック導入ロードマップ」を策定。その中では、2022年で9~10万トンのバイオプラスチックの需要を2030年には200万トンにするという、高い目標が掲げられています。

また他方では、プラスチックごみの処理も課題の一つに挙げられています。この課題に対しては、廃プラスチックを〝資源〟としてリサイクルで再利用し、サーキュラーエコノミー社会を実現していくことが重要になります。最初の製品製造ではGHG削減効果の高いバイオマスプラスチックを採用し、使用後の廃プラスチックはリサイクルして資源を循環させる。そのようなバイオサーキュラーな世界にしていくことが、リジェネラティブな社会の実現につながると三井化学は考えています。

素材の素材まで考え、原子の由来から見直していく


そこで、三井化学が掲げたキーワードが「素材の素材まで考える」。つまり、原子の由来を見直していくことです。プラスチックの素(原料)である炭化水素そのものを、従来の石油由来からバイオマスやリサイクル由来の炭化水素に変えていくことで、そこから造られるプラスチックをバイオサーキュラーにしていくアプローチです。

現在、三井化学はバイオマスナフサを原料にバイオマスプラスチックの製造を開始しています。バイオマスナフサとは、廃植物油や残渣油などを原料に製造されたバイオマス由来の炭化水素で、バイオディーゼルやSAF(Sustainable aviation fuel:バイオジェット燃料)を製造する際の副産物として得られます。

さらに、三井化学ではリサイクル手法の一つであるケミカルリサイクルにより、廃プラスチックを熱分解油というリサイクル由来の炭化水素にまで戻し、バイオマスナフサと同様に様々な化学素材の原料として再利用する取り組みも進めています。

物性は同じなので意思さえあれば
        プラスチックのバイオマス化は可能


このように“素”から変える主なメリットは、①物性は従来の石油由来品と全く同等であること、②多様な製品のバイオマス化が可能になり、バイオマス素材のラインアップを拡充できること、③既存設備を活用できるため追加投資が不要なこと、そして④GHG排出量の削減につながることの4点です。

しかし、まだ世界のバイオマスナフサの供給量は少なく、現状ではバイオマスナフサと石油由来のナフサを混合して使用する取り組みからスタートさせています。

ただ、バイオマスナフサも石油由来のナフサも、由来は違っても物質としては同じ炭化水素(炭素と水素で構成されている化合物)なので、それを混ぜて原料として使用した場合、出来上がった化学製品(プラスチックなど)は石油由来なのか、バイオマス由来なの分からなくなってしまいます。

そこで重要になるのがマスバランス(物質収支)方式というアプローチです。これは製品を造る際の一つの手法で、「原料から製品への加工・流通工程において、ある特性を持った原料(例:バイオマス由来原料やリサイクル由来原料)がそうでない原料(例:石油由来原料)と混合される場合に、その特性を持った原料の投入量に応じて、製品の一部に対してその特性の割り当てを行う手法」(バイオプラスチック導入ロードマップより:環境省、経済産業省、農林水産省、文部科学省)のことを指します。

このアプローチにより、例えばバイオマスナフサと石油由来のナフサが製造工程で混ざって造られたプラスチックであっても、この収支バランス手法を活用すれば、インプットのバイオマス量に応じて任意の製品に任意の数量を割り当て「100%バイオマス由来」と見なすことができます(マスバランス方式の詳細解説はこちら)。

バイオマスナフサを原料としたマスバランス方式のバイオマスプラスチック・化学品は、従来の石油由来のものと物性が全く変わらず、これまで難しかった素材でもバイオマス化することができます。そのため、スピード感を持って社会全体のバイオマス度を高めていくことが可能になります。こうした観点からも、マスバランス方式は現在のようなカーボンニュートラル社会への移行過程では、もっとも効率的なアプローチだと言えます。すでに三井化学でも、積極的にバイオマス素材を求められているお客様に対し、マスバランス方式によるバイオマスプラスチックやバイオマス化学品の供給をスタートしています。

バイオマスプラスチックを積極導入する欧州企業


続いて、「欧州におけるバイオマスプラスチック先進事例のご紹介」と題して、ハーチ欧州のパリ在住 富山と、ロンドン在住 伊藤より、マスバランス方式の導入が進んでいる欧州の先進事例を紹介しました。

たとえば、ニベアなどのパーソナルケア用品を扱うドイツのバイヤスドルフ。同社はニベアブランドの容器にマスバランス方式のバイオマスPP(ポリプロピレン)を使用しており、今後はさらに多くのブランド・製品での採用を計画しています。現在、バイヤスドルフは、サステナビリティビジョンの柱に「Planet」「Products」「People」を据えています。つまり、CSRの観点からではなく、戦略的重点分野として、包装と原材料のサステナビリティを追求しているのです。

サステナビリティは重要な経営戦略の一つである


オーラルケア商品などを展開するオランダのフィリップスも、マスバランス方式によるバイオマスプラスチックを75%使用した歯ブラシヘッド、25%使用した美容商品、その他にもキッチン用品やキッチン家電など、さまざまな領域でバイオマスプラスチックを導入しています。こうしたエコデザイン製品を市場投入したことで収益率も増加しており、こちらも一過性のトレンドを取り入れるという意識ではなく、重要な経営戦略の一環としてサステナビリティに取り組んでいることが特徴です。

他にも、バイオマスプラスチックとリサイクルプラスチックをブレンドした原料で製造した飲料カップを使用しているアメリカ・マクドナルドの事例や、衛生面で高い基準が求められる赤ちゃんのおしゃぶりにバイオマスPPを使用したオーストリアのMAMの事例、BMWやメルセデスベンツ、アウディなど世界的自動車メーカーの事例などが次々と紹介されました。いずれもマスバランスの概念が導入されたことにより、さまざまな用途でバイオマスやリサイクル素材の採用が広がってきたと言えます。


文化や国民性によって、最適なアプローチは異なる


セミナーの終盤では、これまでの登壇者に加え、デンマークのAalborg大学で客員研究員を務める青木教授を交えたトークセッションを実施しました。

ハーチ欧州の2名からは、「市民からどのように受容されるかは、国によって異なる。ロンドンには、歴史と新しいものの混合に価値を感じる人が多いからこそ、包装なしの画期的な商品などが話題になっている。一方で、パリはごみを減らすための市民運動が巻き起こった歴史がある。こうした背景を知った上で、その土地ごとの文化や国民性に刺さるアプローチを探求していくことが必要では」といった意見が挙がりました。

また「サステナブル・ブランド国際会議」に参加している青木教授は、2011年の会議初開催時と現在を比較して、「当時は参加者の多くがCSR担当の方だったが、今は3割ほどがマーケティング担当者や経営陣である。サステナビリティを企業の戦略の真ん中に据えて、しっかり取り組んでいこうという機運の表れだ」との見解を示しました。他にもコストの捉え方や、消費者に対するアプローチについて意見が交わされました。また、身近なストローを例に挙げながら、現在は本質的な環境負荷低減に視点が移ってきていることも共有されました。

最後に(アーカイブ動画のご紹介)


今回のセミナーは、先着1,000名の申込み枠がすべて埋まり、多くの方々にご参加いただきました。また、質疑応答のパートでは、延べ70件以上の質問が寄せられました。リジェネラティブな社会を目指す上で、多くの企業がプラスチックに関心を持ち、海外の先進事例に興味を持たれていることを実感したセミナーとなりました。

セミナーの内容は、動画コンテンツとしても提供しています。
ぜひ、こちらからご視聴ください。

20231116セミナー告知
https://www.youtube.com/watch?v=h52lMritodc&t=1553s

また、セミナーでも一部内容を紹介したバイオマスプラスチック採用事例集はこちらからダウンロード可能です。併せてご覧ください。

img_wpdl_05
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/whitepaper/

これからもプラスチックをテーマにさまざまな情報を発信します。私たちの取り組みにご期待ください。

参考資料
*1:リジェネラティブな社会に向けて行動する「RePLAYER®」「BePLAYER®」:
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm
*2:IDEAS FOR GOOD:
https://ideasforgood.jp/
*3:メンバーズ:
https://www.members.co.jp/

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