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カーボンネガティブとは?意味やカーボンポジティブとの違いも解説
日本をはじめ、世界各国が目標に掲げる2050年までのカーボンニュートラルの実現。その目標達成に向けて国や企業がさまざまな取り組みを行う中で、「カーボンネガティブ」という言葉が注目されています。今回の記事では、「カーボンネガティブ」とは何を表しているのか、「カーボンニュートラル」や「カーボンポジティブ」と何が違うのか、またカーボンネガティブに関して企業はどのような取り組みを行っているのか、具体的な事例を含めて解説します。
カーボンネガティブとは?意味や定義をわかりやすく解説
カーボンネガティブの定義とは?
カーボンネガティブとは、産業活動などによって人為的に排出されるCO₂などの温室効果ガス(GHG)排出量が、人為的なGHGの回収・固定化や、森林・海洋によって吸収される量を下回っている状態のことです。例えば、GHG排出量を「x」、GHG吸収量を「y」とした場合、「x-y<0」になっている状態を指します。つまり、GHGの排出量から吸収量を差し引いた量が「マイナス(ネガティブ)」になっているため、カーボンネガティブと称されています。
なぜ今、カーボンネガティブが重要なのか?
カーボンネガティブが産業界でも注目されている背景には、進行する地球温暖化の問題があります。
産業革命を機に工業化が進み、化石資源を大量に使用するようになると、それに伴ってCO₂排出量も増加しました。その結果、大気中のCO₂濃度は上昇し続けており、2023年には420ppmに達し、工業化以前(1750年)の平均値である約278ppmとの比較では51%増加しています。排出されるCO₂の量が、森林や海洋で吸収される量を上回ると、大気中のCO₂濃度は高くなります。また、CO₂をはじめとした温室効果ガスの濃度が高くなると、地表から放射される熱を温室効果ガスが吸収し大気を暖め、平均気温が上昇します。これが地球温暖化のメカニズムです。
地球温暖化は、極端な暑さや豪雨といった異常気象、海面の上昇による洪水や浸水、感染症の拡大など、環境や人々の暮らしにさまざまな影響をもたらします。このようなリスクの要因となる地球温暖化を食い止めるためには、CO₂の排出量と吸収量のバランス改善に向け、カーボンネガティブを目指した取り組みが重要になります。
※地球温暖化については、「地球温暖化とは?原因や仕組み、現状をわかりやすく解説」にて詳しく解説しています。
カーボンネガティブ・カーボンニュートラル・カーボンポジティブの違いを比較
カーボンネガティブという言葉に触れて、「カーボンニュートラルとどう違うのか?」と思った方も多いのではないでしょうか。また、カーボンポジティブという言葉もあります。地球温暖化問題に関連した用語では、「カーボン」に他の言葉が組み合わされたものが多くあり、一見すると分かりにくいかもしれません。
混同しやすい用語を整理しておくためにも、ここでは、カーボンネガティブ、カーボンニュートラル、カーボンポジティブといった3つの言葉の意味と、それぞれの違いを解説します。
カーボンネガティブ
産業活動などによって人為的に排出されるCO₂などの温室効果ガス(GHG)排出量が、人為的なGHGの回収・固定化や、森林・海洋によって吸収される量を下回っている状態のことを指します。つまり、GHGの排出量から吸収量を差し引いた量が「マイナス(ネガティブ)」になっている状態のことです。
カーボンニュートラル
カーボンニュートラルは、温室効果ガス(GHG)の排出量を実質的にゼロにすることを意味します。「実質的にゼロ」というのは、地球温暖化の原因とされるCO₂などのGHGに関して、工業や生活など人為的な発生源による排出量と、主に植物の成長過程での吸収(除去)量が均衡(ニュートラル)した状態のことを指します。
カーボンポジティブ
カーボンポジティブとは、人為的なGHGの回収・固定化や、森林・海洋によって吸収されるCO₂などの温室効果ガス(GHG)の吸収量が、産業活動などによる人為的な排出量を上回った状態、つまりGHGの吸収量から排出量を差し引いた量が「プラス(ポジティブ)」になっていることを指します。
カーボンネガティブは「排出量がマイナスになっていること」に焦点を当て、カーボンポジティブは「吸収量がプラスになっていること」に焦点を当てていますが、この2つの言葉は同じ状態を表しているのです。
そして、カーボンネガティブとカーボンポジティブはともに、排出量と吸収量が均衡した状態であるカーボンニュートラルから、さらに一歩進んだ状態を目指す取り組みになります。
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出典:Spaceship Earth「カーボンネガティブとは?カーボンポジティブとの違いや取り組み事例も」をもとに作成
カーボンネガティブを実現する具体的な技術
再生可能エネルギーの利用拡大
カーボンネガティブを実現するための手段としては、いくつかのアプローチがあります。そのひとつが、再生可能エネルギーの利用拡大です。日本では1年間に10億1,700万トン(2023年度)の温室効果ガスが排出されていますが、その9割以上をCO₂が占めています。そして、排出されるCO₂の8割以上はエネルギー起源なのです。そのため、省エネの徹底と並行して、太陽光や地熱、洋上風力、バイオマス発電といった再生可能エネルギーを活用し、CO₂排出量を削減していくことが重要になります。
<各温室効果ガスの排出量(2013年度及び2022年度との比較)>
出典:環境省「2023年度の温室効果ガス排出量及び吸収量(詳細)」p.3
※再生可能エネルギーについては、「再生可能エネルギーとCO₂排出量削減」にて詳しく解説しています。
NETs(ネガティブエミッション技術)
現状では産業活動におけるCO₂排出量を完全にゼロにすることは困難です。そこで求められているのがNETs(ネガティブエミッション技術)です。NETsとは、大気中のCO₂をはじめとする温室効果ガスを回収・吸収し、長期にわたって貯留・固定化する技術のことを指します。NETsには下図のように、さまざまな種類があります。
<NETsの種類>
出典:経済産業省「ネガティブエミッション技術について」p.6
また、経済産業省の「ネガティブエミッション市場創出に向けた検討会」がとりまとめた資料(2023年公表)によると、NETsの代表的な取り組みとしては、以下のものが挙げられています。
- DACCS(Direct Air Capture and Carbon dioxide Capture and Storage:大気中CO₂直接回収・貯留技術)
:工学的プロセス(Direct Air Capture:DAC)で回収した大気中CO₂を、貯留(Carbon dioxide Capture and Storage:CCS)することでネガティブエミッションを実現する技術。省エネ・次世代燃料への転換などでは削減できない温室効果ガスの除去を実現するネガティブエミッション技術のひとつとして、エネルギー分野などで注目されている。
- BECCS(Bio-Energy with Carbon Capture and Storage)
:一般にバイオマス発電とCCSを組み合わせた技術。大気中のCO₂をバイオマスとして固定し、それをエネルギーなどで活用するとともに、燃焼・分解した際に発生するCO₂の貯留を組み合わせ、ネガティブエミッションを実現する。
2024年9月には、中国電力、住友重機械工業、東芝エネルギーシステムズ、日揮グローバルの4社が、BECCSの国内初となる大規模な商用実装に向け、中国電力グループが運営する防府バイオマス発電所でのCO₂分離回収・液化・貯蔵・払出設備を含めたCCS設備の設計・検討に着手したことを発表している。
- 風化促進
:天然鉱石が長い時間をかけてCO₂と結合して炭酸塩になる現象を化学的風化と呼び、この風化現象を人為的に早めてCO₂を吸収させることで、ネガティブエミッションを実現する技術。具体的には、粉砕した岩石を農地などに散布することで、大気中のCO₂を吸収・固定化する。
また、日本は風化促進を行うために必要な地質、地球化学情報、かつ関連する技術分野の専門家が豊富であるため、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、ムーンショット型研究開発事業目標4の一環としても、2022年度から風化促進によるCO₂削減技術に取り組んでいる。
- バイオ炭
:植物などバイオマスを分解されにくい炭(バイオ炭)に加工し、炭素を固定した上で農地にまくなどして、植物が吸収したCO₂を地中に貯留する手法。
具体的な事例としては、山形県の農業法人である庄内こめ工房が2025年3月から従来廃棄していたバイオマス(もみ殻)を一定の条件下で焼成して炭化したバイオ炭を製造し、農地に施用して土壌の質を向上させながら、土壌に炭素を貯留して温室効果ガスの削減を目指すカーボンファーミングを開始。
また、これに先駆け、野村證券株式会社は2025年2月、庄内こめ工房と「バイオ炭を用いた脱炭素推進及び農業振興に向けた業務協力に関する覚書」を締結し、バイオ炭を用いた脱炭素推進と農業振興に向け庄内こめ工房と業務協力することを発表している。
- 海洋CDR(Carbon Dioxide Removal:CO₂除去)
:海洋でのCO₂吸収を促進する技術。その代表的なものとしては、鉄が不足している広大な外洋域に鉄を散布し、植物プランクトンの生産性を増大させることで、CO₂の吸収を加速させる「鉄散布による海洋肥沃化」や、栄養に富む深層海水をくみ上げて、海洋表層の生産性を増大させることでCO₂の吸収を加速させる「深層水人工湧昇による海洋肥沃化」などがある。
企業によるカーボンネガティブへの取り組み事例
カーボンネガティブを実現するには、まず温室効果ガス(GHG)の排出量を実質的にゼロにするカーボンニュートラルを達成する必要があります。こうした中で、全世界的に2050年までのカーボンニュートラル実現に向けた取り組みが推進されています。これに伴い、最終的にはカーボンネガティブにつながるようなネガティブエミッション技術の研究開発も産官学連携で一段と加速しています。
例えば、三井化学では、2021年11月に九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER:アイスナー)内に「三井化学カーボンニュートラル研究センター(MCI-CNRC)」を設立し、九州大学と連携して研究開発を進めています。
I2CNERが培ってきたグリーン水素、CO₂の回収、貯留、変換などカーボンニュートラル・カーボンネガティブを目指す世界最先端の知見と、三井化学が取り組んできた低環境負荷技術の社会実装を目指した開発・工業化に関する知見をベースに、主に以下の4領域での研究開発に重点を置いています。
<MCI-CNRCの主な研究領域>
① グリーン水素製造・利用
② CO₂分離・回収技術の開発
③ CO₂変換・固定化技術の開発
④ 高度分析・評価技術の開発
カーボンニュートラル・カーボンネガティブの実現に必要な要素技術の研究を集中的かつ効率的に行うことで、これら技術の社会実装を加速させ、サステナブル(持続可能)を超えたリジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。
カーボンネガティブ実現に向けた展望
カーボンネガティブを取り巻く課題
カーボンニュートラル・カーボンネガティブの実現に向け、NETsの早期の社会実装・産業化が必要とされているものの、現状ではさまざまな課題があります。
環境エネルギーに関わる技術課題について議論する「グリーンイノベーション戦略推進会議WG(第5回・第6回)において、NETsに関しては以下のような課題が指摘されており、これら着実にクリアしていくことが重要になっています。
<NETsに関するグリーンイノベーション戦略推進会議WGでの指摘内容(概要)>
出典:経済産業省「ネガティブエミッション技術について」p.3
今後の展望
カーボンニュートラル、そしてカーボンネガティブを実現していくには、残余排出を相殺する手段としてネガティブエミッション技術のひとつであるCDR(Carbon Dioxide Removal:CO₂除去)が必須になります。
あらゆる領域で最大限にCO₂排出量を削減したとしても、最終的にCO₂の排出が避けられない分野からの排出(残余排出)があることも事実です。
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書」のシナリオによると、日本の将来的な残余排出量は年間約0.5~2.4億トンと推定されており、2050年にカーボンニュートラルを実現するには年間数億トンのCDRが必要になることが想定されます。
つまり、どうしてもCO₂の排出量削減が難しい分野や産業にとって、CDRをはじめとしたネガティブエミッション技術は、カーボンニュートラルを実現する上での切り札になります。
こうした中で、CO₂除去のマーケットを早期に立ち上げることは、日本の温室効果ガス排出量削減目標の達成のみならず、今後、確実に拡大していくCO₂除去の国際マーケットを獲得する上で必要な、日本が強みを有するネガティブエミッション技術の競争力強化にもつながります。
ただ、現状ではCO₂除去に相当なコストがかかるため、技術導入や市場拡大のハードルが高く、市場立ち上げの初期段階では、いかに国レベルでの支援策を効果的に講じられるかが、ひとつの焦点になります。
こうした中で、海外では税額控除や大規模実証支援が措置されているほか、値差補填や政府による調達などの政策モデルについても検討されており、日本でもCO₂除去マーケットの早期の立ち上げに向け、国をあげた取り組みが一段と加速することが期待されています。
三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、 <「BePLAYER®」「RePLAYER®」>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm |
- 参考資料
- *1:World Meteorological Organization「2024 is on track to be hottest year on record as warming temporarily hits 1.5℃」:
https://wmo.int/news/media-centre/2024-track-be-hottest-year-record-warming-temporarily-hits-15degc - *2:環境省「2023年度の温室効果ガス排出量及び吸収量(詳細)」:
https://www.env.go.jp/content/000310244.pdf - *3:経済産業省「ネガティブエミッション技術について」:
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/green_innovation/pdf/007_03_02.pdf - *4:一般財団法人 日本エネルギー経済研究所「重要性高まるネガティブエミッション技術」:
https://eneken.ieej.or.jp/data/11374.pdf - *5:経済産業省「今後のCCS政策の方向性について」:
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/carbon_management/pdf/005_04_00.pdf - *6:経済産業省 資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO₂を集めて埋めて役立てる「CCUS」:
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccus.html - *7:経済産業省「ネガティブエミッション市場創出に向けた検討会 とりまとめ案」:
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/negative_emission/pdf/006_02_00.pdf