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LCAで評価する環境影響とは?ビジネスへの活かし方やCFPとの違い
製品やサービスのライフサイクルを通じた環境への影響を評価する手法であるLCA(ライフサイクルアセスメント)。このLCAは、ISO(国際標準化機構)の規格で定められた枠組みに基づき、「目的と調査範囲の設定」、「インベントリ分析」、「影響評価」、「解釈」といった4つのプロセスで構成されています。その中で、環境にどのような影響を及ぼすのかを定量的に評価するステップが「影響評価」。その評価対象は、気候変動だけでなく、水資源の消費、資源の枯渇、大気汚染や富栄養化など、多岐にわたります。
そこで本コンテンツでは、LCAエキスパートと同じ会社に勤める若手女性社員との対話を通じて、「LCAにおける“影響評価”とはなにか?」について、CFP(カーボンフットプリント)との違いにも触れながら、わかりやすく解説します。
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LCAにおける影響評価とは
前回の「LCAとは」の解説で全体の流れが少し掴めました!最後にでてきた「影響評価」についてですが、製品やサービスが環境に与える影響って具体的にどのように評価しているんですか?
LCAの「影響評価」は、製品やサービスが地球にどのような負荷をかけているかを、多角的に評価するプロセスなんだ。製品やサービスが、地球温暖化をはじめとしたさまざまな環境問題に対して、どのような影響を及ぼすのかを、数値として定量的に捉えるんだよ。
数値として定量的に評価するんですね!影響評価の対象は、どのようなものがあるんですか?
もっとも代表的なのは「気候変動」に関わる影響だね。製品やサービスのライフサイクル全体で排出される「温室効果ガス」の量を評価するんだ。ところで三井さん、温室効果ガスというとCO₂(二酸化炭素)が有名だけど、それ以外にも種類があるのは知っているかな?
たしか、メタンとか、フロンガスとか・・・、でしたっけ?
その通り。メタンもそうだし、他にも一酸化二窒素など、いろいろな種類のガスがあるんだ。国が1年間に排出・吸収する温室効果ガスの量を取りまとめたデータ「温室効果ガスインベントリ」では、二酸化炭素(CO₂)、メタン(CH₄)、一酸化二窒素(N₂O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六ふっ化硫黄(SF₆)、三ふっ化窒素(NF₃)の7種の温室効果ガスの排出量を算定しているんだ。そして大事なのは、これらのガスは種類によって地球を暖める力(温室効果)が違うということ。
暖める力が違うんですか?CO₂が一番強いわけじゃないんですね!
そうなんだ。CO₂の温室効果の強さを1とすると、メタンはその25倍の強さがある。だからLCAでは、それぞれの温室効果ガスの影響力(温室効果の強さ:地球温暖化係数)を考慮して、それを「CO₂の量に換算」して合計するんだ。これがよく聞く「CO₂換算値」や「CO₂eq.」と呼ばれる単位なんだね。
なるほど。色々なガスをCO₂の温室効果影響に換算して計算するんですね。たしかに、それだとわかりやすいですね。
ちなみに、CO₂換算値は「活動量×排出係数×地球温暖化係数(温室効果の強さ)」の計算式で算出しているよ。活動量とは、事業者の活動の規模に関する量のことで、例えば電気の使用量や貨物の輸送量などが該当するね。また、排出係数とは、活動量あたりの各温室効果ガス排出量のことで、具体的には電気1kWh使用あたりのCO₂排出量や貨物の輸送量1トンあたりのCO₂排出量などが該当するんだ。
温室効果ガスの排出量が、CO₂換算で表される仕組みが良く分かりました。
LCAで気候変動への影響を見るうえでも、この「CO₂換算値」が重要な指標になるんだ。他にもLCAで評価する影響としては、「水資源の使用量」があるよ。
なるほど!水の観点も大事なんですね。
日本は水資源に恵まれているけど、世界的に見れば水不足は深刻な問題だからね。製品を作る過程では、思っている以上に多くの水が使われている。だから、その製品がどれだけ水資源を消費しているか、特に水ストレスの高い地域での影響はどうか、という視点が大切になるんだ。
「水ストレス」という言葉は初めて聞きました。どういう意味なんでしょうか?
「水ストレス」というのは、簡単に言うと、ある地域で人々が使いたい水の量に対して、実際に使える水の量にどれくらい余裕があるか、という度合いを示す言葉なんだ。この余裕が少ない、つまり水の需給バランスがひっ迫している状態を「水ストレスが高い」と言うんだよ。
なるほど!水が足りない、あるいは足りなくなりそうな状況のことを、水ストレスが高いと言うんですね。
だからLCAの環境評価では、製品を作る際に使った水の「量」だけでなく、「どこで」その水を使ったのか、つまり水ストレスが高い地域で大量の水を使っていないか、といった視点も大切になるんだよ。
同じ量の水を使うにしても、調達先の水ストレスが高いか低いかで、環境への影響の深刻さが全然違ってくるんですね!
そしてもう1つ、主要な評価項目として「資源の枯渇」があるよ。これは、石油や天然ガスのような化石資源、鉄や銅、アルミニウムのような鉱物資源といった、地球から採掘される限りある資源をどれだけ使っているか、ということだね。
使ったらなくなってしまうかもしれない資源のことですね。製品を作るためのエネルギー(燃料)や原料として、たくさん使っていそうです・・・。
そうだね。特にスマートフォンや電気自動車のバッテリーなどに使われるレアメタル(希少金属)は、採れる場所が限られていたり、埋蔵量が少なかったりするから、「資源の枯渇」は持続可能なものづくりを考えるうえでは無視できない視点だよ。
気候変動に水資源、資源消費…本当に色々な角度から評価するんですね!
他にも、工場の煙や排気ガスなどの大気汚染物質による「大気汚染」、工場排水などが原因で湖や海のプランクトンが異常発生する「富栄養化」、森林伐採などによる「土地利用の変化」といった影響領域も評価対象になることがあるんだ。製品の特性や、LCAを実施する目的によって、注目する影響領域は変わってくるよ。
<影響領域の種類例>
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影響評価のビジネスへの活かし方
本当に多岐にわたるんですね。これらを評価することで、企業にとってどんなメリットがあるのでしょうか?
影響評価はビジネスに活かすうえでとても重要なポイントなんだ。さまざまな環境影響を数値で定量的に「見える化」することで、製品やサービスのライフサイクルの「どこで最も環境負荷をかけているか」、つまり環境負荷の「ホットスポット」が特定できるんだ。
なるほど!最も環境に負荷がかかっているところを見つけられるんですね。
その通り。ホットスポットがわかれば、「部品に使用されている原料や素材をもっと環境負荷の低いものに変えられないか、サプライヤーさんと相談してみよう」といったように、具体的な改善策を検討することができる。そして、企画・設計段階から環境負荷を考慮した製品やサービスを生み出したり、サプライチェーン全体で環境負荷を低減する取り組みに繋げたりすることができるんだ。
漠然と「環境に良いことをしよう」じゃなくて、LCAの定量的に見える化する環境評価を活用することで、環境負荷低減に向けた課題を明確に捉えることができるんですね!
その通り。それに、お客様や社会に対して「私たちはこの製品で、これだけ環境負荷を減らす努力をしています」と具体的なデータに基づいて説明できるようになる。これは、環境意識の高いお客様へのアピールになるし、これからますます厳しくなるであろう環境関連の規制や目標に対応していく上でも役立つんだよ。
確かに、定量的な数値で示されると説得力がありますね!LCAって守りだけじゃなくて、攻めの戦略にも使えるツールなんですね!
LCAとCFP(カーボンフットプリント)の違い
そうだね。ところで三井さん、「CFP(カーボンフットプリント)」という言葉もよく耳にしないかな?
はい、よく聞きます!LCAとどう違うんだろうって、ちょうど疑問に思っていたところです。
LCAとCFPはよく混同されるんだけど、実は明確な違いがあるんだ。どちらも製品やサービスのライフサイクル全体を見るという点では共通しているんだけど、評価する「環境影響の範囲」が違うんだよ。
環境影響の範囲、ですか?
そう。カーボンフットプリントは、さっき話したさまざまな環境影響の中でも、「温室効果ガス排出量(気候変動への影響)」だけに焦点を当てて評価するものなんだ。
そうなんですね!LCAがたくさんの項目を見る総合的な健康診断だとしたら、CFPは血糖値だけを専門的に見る、みたいなイメージでしょうか?
そんな感じだね。だから、CFPは地球温暖化対策に特化して、温室効果ガスの削減目標を設定したり、その成果をわかりやすく伝えたりするのに有効な指標なんだ。
![]() 出典:HELLO!GREEN「【図で分かる】カーボンフットプリントとは?商品の計算例やガイドライン」を参考に三井化学で制作 |
なるほど!じゃあ、LCAで他の影響も見るのはどうしてなんですか?CFPだけじゃダメなんでしょうか・・・?
LCAは「多角的かつ総合的に環境負荷を定量化する評価手法」として重要なアプローチなんだ。例えば、ある製品の温室効果ガス排出量を減らすために、新しい素材Aを使うことにしたとしよう。その素材Aは確かに製造時の温室効果ガス排出量は少ないかもしれない。
それは良いことですよね?
もちろんだ。でも、もしその素材Aを作るために、以前使っていた素材Bよりも大量の水を消費したり、希少資源をたくさん使ったり、あるいは有害な廃棄物がたくさん出てしまうとしたら、どうだろう?
温室効果ガスの排出量は減ったけど、別のところで環境に大きな負荷をかけてしまう可能性があるってことですか・・・?
その通り。私たちが解決すべき環境問題は多岐にわたり、その原因や因果関係が複雑に絡み合っているため、例えば温室効果ガス排出量の削減だけに焦点を当てた取り組みを行った場合、水資源や廃棄物など他の環境問題を引き起こしているかもしれない。このように、ある選択でひとつの課題が改善しても、ほかの課題が悪化し、両立ができないことを「トレードオフ」と呼ぶんだ。
1つの問題を解決しようとしたら、別の問題が起こり得るんですね。なんだか難しいですね。
でも、LCAなら大丈夫。気候変動だけでなく、水資源、資源消費など、複数の環境影響を総合的に評価するから、「この改善策だと温室効果ガスは減るけど、水の使用量がかなり増えちゃうな。これはちょっと問題だから、別の方法を考えよう」というように、全体のバランスを見ながら、総合的に環境負荷の少ない、本質的な改善策を選ぶ手助けになるんだ。
なるほど!CFPは気候変動に特化した指標で、LCAはもっと広い視野で、製品やサービスの環境への影響をバランス良く評価するためのツールなんですね。すっきりしました!
理解が深まったようで良かった!持続可能な製品開発やサプライチェーンの構築を目指すなら、ひとつだけでなく、複数の影響を総合的に評価できるLCAの考え方が重要になってくる。そしてLCAで見ると、どこに改善の余地があって、何を優先すべきか、といった意思決定もしやすくなるはずだよ。
なるほど!LCAを使えば、環境に配慮しながら、競争力のある製品やサービスを生み出せるかもしれないんですね。
そうだね。LCAは専門的な知識も必要だけど、最初から完璧を目指さなくてもいいんだ。まずは自社の主力製品や、特に社会的な関心が高い環境影響領域に絞って、「どんな感じなのかな?」と試算してみるところから始めてみるのも良いと思うよ。
はい!まずは身の回りの製品が、どんな資源からできていて、どんな旅をして自分の手元に来て、使い終わった後どうなるんだろうって、想像力を働かせることから始めてみます!今回もありがとうございました。
三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、 <「BePLAYER®」「RePLAYER®」>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm |