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「バイオマスストロー」というシバセ工業がたどり着いた環境とユーザーのための商品
技術力・開発力を強みに、お客様の要望に合わせて多種多様なストローを製造するシバセ工業。2015年にはウミガメの鼻にプラスチックストローが刺さった動画が拡散し、脱プラの動きが活発化したが、同社はストローの消費者、提供する店舗、環境の全視点から総合的に考えた結果、「ストローはプラスチック素材が最適」と判断。紙ストローや生分解性プラスチックストローは生産せず、信念を持って非分解性のプラスチックストローの製造販売のみを行ってきた。そんな同社がストローの環境負荷低減に挑戦したどり着いたひとつの答えが、バイオマスプラスチック製ストロー「バイオマスストロー」だ。2024年4月からは標準規格品としてバイオマスストローの販売を開始している。今回は、同プロジェクトを立ち上げたシバセ工業株式会社の玉石一馬氏に、商品化の背景や未来への想いをお伺いした。
話し手 玉石 一馬(たまいし かずま) |
ストローのことを本気で考えて出した“プラスチック”という答え
シバセ工業株式会社の事業内容について教えてください。
一言でいうと「どんなストローでも作っているストローメーカー」です。ただ、ストローと言っても実は奥が深いので、背景も含めてお話します。
まず、飲料用ストローの市場は大きく「業務用」と「一般用」に分かれます。
業務用ストローは主に飲食店で使用されるもので、一般用ストローはコンビニやスーパーで販売される飲み物に付属するものなどが該当します。一般用では、商品とストローがセットになっているもの(パック飲料等)が多い一方で、飲食店で使用される業務用ストローの使用は飲み物の種類(あたたかい飲み物等)によることや、ストローを利用されない方もいらっしゃるので、市場としては一般用ストローの方が大きくなっています。
また、飲食店のストローは、おしぼりやナフキンなどと同じく「サービス品」として扱われています。つまり、飲食店側はできればあまりコストをかけたくない分野なのです。したがって、より安価で入手が可能な海外製品が多く流通することなり、年間の輸入量は約10億本に達しています。海外製品は、輸送コストを考慮しても国産品より約30%安価で提供されています。こうした側面から見ると、業務用ストローは国際競争と価格競争が激しい分野とも言えます。ただ、当社は多種多様なストローを製造できる技術力と開発力を強みに、200種類以上の標準品をラインナップし、多様化する食文化をより豊かに体験することにつながるようなストローの提供に注力し、業務用では国内トップシェアを有しています。
出典:東京商工リサーチ「tsr-van2企業情報」2023年度 国産業務用ストローのシェア
これまでの環境への取り組みについて教えていただけますか?
2018年以降、環境配慮のブームが広がり「自然に優しい素材」が注目されてきました。ストローのカテゴリでは、大手カフェチェーンが採用し始めたことで紙ストローが流行しました。
実は、2005年に愛知で開催された万博「愛・地球博」の後にも、近年と同様に環境配慮が注目されました。当時、ストロー業界にも、従来のプラスチックから生分解性プラスチックや紙への切り替えという流れがあり、当社でも「世の中の流れだからやるしかない」という動きがありました。しかし、実際に製造・開発を進める中で、「これは本当に環境に良いのか?」「ユーザーへの影響は?」「導入コストは?」といった疑問が次々と浮かび、環境や利用者への影響を総合的かつ科学的に判断した結果、弊社内では「ストローの素材としては分解しないプラスチックが一番良い」という結論に至りました。
このような背景があったため、近年の紙ストローブームが始まった際に「弊社では作りません」と明言しました。お客さまからも「紙ストローが流行っていますが、御社はやらないのですか?」と何度か質問されましたが、「やりません」ときっぱりとお断りしてきました。
シバセ工業 玉石部長
プラスチック一筋宣言をした後も、お客さまから環境に配慮した素材の提案を受けることもあり、さまざまな素材を試しましたが、どれも自信を持ってお店に提供できるものではありませんでした。たとえば、生分解性プラスチックは製造過程で水が濁ったり、紙ストローはふやけたり、湿気やカビのリスクがあります。その上、LCA(ライフサイクルアセスメント)全体で見た際、本当に環境に良いのかが不明瞭であったため、会社として自信を持って提供できるのは分解しないプラスチックストローという結論は変わりませんでした。
このような背景をお客さまに説明しても「でもみんなやっていますし、売れていますよ」と言われることが多く、実際に環境に良いかよりも、見た目のわかりやすさや流行りによって素材が選択されている印象を多少なり感じています。
紙や生分解性プラスチックではなく、なぜバイオマスプラスチックを採用したのですか?
分解しないプラスチック一筋宣言をした後も、お客さまから環境に配慮した素材の提案をいただくことが何度かありました。そんな中、ある素材メーカーの社長さまから教えていただいたのがバイオマスプラスチックです。
最初は生分解性プラスチックに似たものだと思っていましたが、実際にバイオマスプラスチックを原料としたストローを作ってみると、生分解性プラスチックとは似て非なるものでした。製造過程における伸び方・におい・つや・触感など、何もかもが、石油由来のプラスチックと同じだったのです。それにもかかわらず、バイオマス資源を原料としているため、燃焼・分解したと時の二酸化炭素排出量が石油由来のプラスチックよりも少ない。「我々が取るべき選択はこれだ!」と思いました。すぐにバイオマスプラスチックについてまとめた資料を作成し、当社の社長にプレゼンしたところ、その素材の良さが伝わり、採用されることになりました。それが2023年の頭ごろです。
バイオマスストローの総合的な利点を伝える
バイオマスストローを飲食店に取り入れてもらうために、どのような取り組みをしましたか?
2023年では、バイオマス素材はまだ広く浸透していない状況でしたが、環境への配慮を謳った製品は市場に多く出回っていました。そういった意味では、店舗側も自分たちが提供するサービスや商品が、環境に与える負荷を考慮しなければならないという意識がより強まりつつあったと思います。
当時も紙、生分解性プラスチック、石油由来の分解しないプラスチック、バイオマス由来の分解しないプラスチック、また繰り返し使用できるステンレスストローなど、さまざまな種類のストローがありました。その中で、より分かりやすく最適な素材を使用したストローを選択してもらえるよう、当社でこれらさまざまな素材のストローを集め、複数の項目を設けて再度、客観的に点数評価を行いました。
耐久性、味覚に与える影響、利便性、長期保管可能か否か、コスト、温室効果ガス排出量の低減効果、水資源の利用量、リサイクル性など、消費者・店舗・環境のすべての側面で相互的に評価し、合計点が最も高かったのはバイオマスストローだったのです。
そして、展示会や説明会、時にはお客さまの社内会議などさまざまな場で、他の素材と比較したバイオマスストローの総合的な良さを伝えました。すると、お客さまからは「そんな素材があったのか」と驚きと納得の声をいただくことができました。
バイオマスストローを標準規格品に加えるまでに至った過程を教えてください。
新商品には、お客さまの需要に応じて発売されるパターンと、メーカーが独自に打ち出すパターンがありますが、今回のバイオマスストローは後者に該当します。バイオマスストローが売れるだろうという確信はあったものの、どのような業態や規模の飲食店にニーズがあるのかは不明確でした。そのため、最初はさまざまな層のお客さまに広く紹介し、弊社の強みであるオーダーメイドでの製造を始めました。
当時は手探り状態でしたが、次第にターゲットが明確になり、好まれる色やサイズ、用途などに傾向があることが分かってきました。意外だったのは、石油由来の分解しないプラスチックストローと同じように赤色などを選択できることは、弊社としてはバイオマスストローの強みとして捉えていたため、カラー色でのバイオマスプラスチックストローをご提案したところ、お客さまからは「ピュアな白がいい」という声があったことです(笑)。
こうしたオーダーメイドでの別注対応を通じた市場調査を経て、2024年4月にバイオマスストローを当社の標準ラインナップに加えました。「標準規格品にしたのでいつでもお声かけください」とお知らせしたところ、お客さまからの反応も非常に良かったです。
標準化されたわらおSTRAW バイオマス25
目指すはバイオマスプラスチック100%のストロー
バイオマスストローに関する現在の課題と、今後の目標について教えてください。
現在の課題は、バイオマスプラスチックのバイオマス度を上げていくことです。我々が製造しているバイオマスストローのバイオマス度は25%ですが、現在は従来の石油由来のポリプロピレンに、セグリゲーション方式のバイオマスポリエチレンを混ぜて使用しているので、バイオマスポリエチレンの比率を上げるとストローが柔らかくなってしまいます。実際にバイオマスポリエチレン100%のストローも作ってみましたが、実際に利用できるものではありませんでした。私自身は現状に満足していません。バイオマスプラスチックを100%したストローこそが目指すべきゴールであり、真の環境配慮製品になると考えています。
バイオマスストローの展望について語る 玉石氏
カーボンニュートラル社会の実現に向けて、企業や消費者へのメッセージをお願いします。
我々としては、カーボンニュートラルを超えて「カーボンマイナス(カーボンネガティブ)」を実現したいという思いから、バイオマスストローを製造しています。25%のバイオマスストローを使用するだけでも、CO2排出量の削減に貢献できますが、もし100%バイオマスストローが実現できれば、カーボンニュートラルを達成することが可能となります。そして、100%バイオマスストローをリサイクルし再利用できれば、カーボンマイナスに近づくことが可能です。このように、ライフサイクルアセスメントやリサイクルの観点から、「カーボンマイナス」を目指せると考えています。
普段ストローを利用される皆様へのメッセージとしては、以下をお送りしたいと思います。
「バイオマスストローは“普段使いで”環境を守ることができます。紙ストローのように違和感を我慢しながら使う必要はありません。これまで使用していたプラスチックストローと同じ感覚で使えるため、無理なく自然に環境に貢献できます。それがバイオマスストローの特長です。また、使い終わったら、しっかり分別して廃棄し、自然界に流出させなければ、ごみ問題にもつながりません。是非、皆さんもイメージではなく科学的なデータや検証をたどりながら、どんなストローが地球にとって、人にとって最適か、今一度、考えてみていただけると嬉しいです。」
取材時のダイジェスト版動画も提供しています。ぜひ、こちらからご視聴ください
https://www.youtube.com/watch?v=SRjKKpTSyHU
三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、バイオマスでカーボンニュートラルと目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。 <「BePLAYER®」「RePLAYER®」> |