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CSRD(企業サステナビリティ報告指令)とは?日本企業への影響を解説
EU(欧州連合)で事業を行う日本企業にとって、理解しておきたいCSRD(企業サステナビリティ報告指令)。これはサステナビリティ情報(ESG情報とも呼ばれる)の開示を求めるEU指令であり、2022年11月に欧州議会とEU理事会(閣僚理事会)にて正式に採択され、2023年1月に発効されました。今回の記事では、CSRDが日本企業にもたらす影響や対象企業、開示項目、NFRD(非財務情報開示指令)との違いなどを解説します。
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)とは?
2023年1月、EU(欧州連合:European Union)でCSRD(企業サステナビリティ報告指令:Corporate Sustainability Reporting Directive)が発効されました。CSRDとは、EU域内において企業にサステナビリティ情報の開示を義務付けるというもの。
その背景にあるのが、EUが成長戦略として掲げる欧州グリーン・ディールです。これは、2050年までにカーボンニュートラルを実現し、EUを近代的で資源効率が高く競争力のある経済に変革することを目指すもの。また、温室効果ガスの排出量を削減し、カーボンニュートラルを達成する技術革新を支えるのが、大規模な公共投資と民間投資です。
しかし、大規模な投資を行う際は、判断材料が欠かせません。その判断材料となるのが、企業のサステナビリティ項目の情報です。これは、企業が中長期的かつ持続的視点において環境問題や社会問題にどのように取り組んでいるかを明らかにするものです。
EUでは2018年からNFRD(非財務情報開示指令:Non-Financial Reporting Directive)が施行されていました。CSRDはNFRDをさらに強化したもので、NFRDよりもサステナビリティに関する情報開示義務の適用対象拡大(一部のEU域外企業も対象となる)や開示項目の詳細化が行われています。
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)とNFRDは何が違う?
2023年に発効されたCSRDに先立ち、EUでは2018年からNFRDが施行されていました。CSRDは、このNFRDを強化したもので、いくつか違いがありますが、ここでは、適用対象と開示項目の違いについて解説します。
適用対象出典:環境省「バリューチェーンにおける環境デュー・ディリジェンス入門」p.43
NFRDでは従業員500人以上の上場企業や金融機関が対象となっていました。一方、CSRDではEU域内の全ての大企業と上場企業に加え、EU域外企業であっても、EU域内での純売上高が一定規模以上あり、EU域内に一定規模以上の子会社や支店を有する企業も対象となっています。そのため、NFRDでは約1万社だった対象企業がCSRDでは約5万社に拡大していると推計されています。
開示項目出典:環境省「バリューチェーンにおける環境デュー・ディリジェンス入門」p.45
CSRDではNFRDより詳細な内容が求められます。NFRDでは企業同士の比較や時系列で比較することが難しかったのですが、CSRDではそれが可能になります。
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)の開示基準ESRS
サステナビリティ情報の開示を求めるCSRD。その情報開示はどのように行われるのでしょうか。
企業がサステナビリティ情報を開示する際、基準となるのがESRS(欧州サステナビリティ報告基準:European Sustainability Reporting Standards)です。
出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「CSRD適用対象日系企業のためのESRS適用実務ガイダンス」p.17
2023年12月に発効されたESRS第1弾では横断的基準(横断的ESRS)と、環境・社会・ガバナンスの3つのトピック別ESRSが示されました。横断的ESRSには全般的開示要求事項(ESRS1)と、全般的開示事項(ESRS2)の2つがあります。一方、トピック別ESRSは、環境(ESRS E1~E5)、社会(ESRS S1~S4)およびガバナンス(ESRS G1)の基準で構成されており、トピック別のより具体的な開示要件(Disclosure Requirements, DR)が含まれています。
出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「CSRD適用対象日系企業のためのESRS適用実務ガイダンス」p.17
なお、ESRSでは横断的ESRSとトピック別ESRSのほかに、「セクター別基準」「上場中小企業向け基準」「EU域外企業向け基準」を別途策定することが予定されています。そして、これら3つの基準については、当初、2024年6月に採択される予定だったが、採択期限を2026年6月まで延期することが公表されています。
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)の対象企業と適用される時期
2018年から施行されたNFRDでは、従業員500人以上の上場企業や金融機関が対象でした。
一方、CSRDではその対象範囲が拡大され、EU域内の全ての大企業や上場企業が対象となっています。さらに、EU域外の企業でも、EU域内における純売上高が、1億5,000万ユーロを超え、EU域内に特定の閾値(しきいち)を超える子会社や支店があれば対象となります。
また、CSRDは4つのステップで適用されることになっており、対象範囲によって適用される時期が異なります。
出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「CSRD適用対象日系企業のためのESRS適用実務ガイダンス」p.9
- NFRDの対象となっている従業員500人以上の上場企業及び金融機関は、2024年1月1日以降開始する会計年度から適用となり、その報告を2025年から行う。
- NFRDの対象ではなかった上場企業(中小企業を除く)や大企業は、2025年1月1日以降開始する会計年度から適用となり、その報告を2026年から行う。
- EU域内で上場している中小企業(零細企業を除く)などは、2026年1月1日以降開始する会計年度から適用となり、その報告を2027年から行う。
- 一定規模のEU域内子会社または支店等を通じ、EU域内で純売上高1億5,000万ユーロ超のビジネスを行っているEU域外企業は、2028年1月1日以降開始する会計年度から適用となり、その報告を2029年から行う。
日系企業にどのような影響があるのか
日本企業にとって、CSRDはどのような影響を与えるのでしょうか。NFRDよりも対象範囲が広いCSRDは、EU域内で事業活動を行う日系企業にも影響を与えると見られています。
日本企業もEUに大企業に該当する子会社があった場合は2025年の会計年度から、CSRDの対象になります(ここでの大企業は、総資産高2,500万ユーロ超、純売上5,000万ユーロ超、従業員250人超といった3つの基準のうち、2つ以上に該当する企業のことを指す)。
また、EU域内での純売上高が、1億5,000万ユーロ以上あり、EU域内に一定規模以上の子会社や支店を有する日系企業では、2028年以降の会計年度からCSRDの対象となります。
EUだけでなく、世界的にサステナビリティ情報の重要性は高まっているため、その開示や保証のあり方についても最新情報を的確に掴んでいくことが、ビジネスを展開する上でも必要不可欠になってきています。
三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、 <「BePLAYER®」「RePLAYER®」>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm |
- 参考資料
- *1:環境省「バリューチェーンにおける環境デュー・ディリジェンス入門」:
https://www.env.go.jp/content/000131067.pdf - *2:経済産業省 サステナビリティ開示と企業価値創造の好循環に向けて -「非財務情報の開示指針研究会」中間報告(案)-:
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/hizaimu_joho/pdf/005_04_00.pdf - *3:日本貿易振興機構(ジェトロ)「CSRD適用対象日系企業のためのESRS適用実務ガイダンス」:
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/80fd13a160c18b11/20240005_01.pdf