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CSRD(企業サステナビリティ報告指令)とは?EU規制の全体像と日本企業が取るべき対応

CSRD

EUで事業を行う日本企業にとって、理解しておきたいCSRD(企業サステナビリティ報告指令)。CSRDはサステナビリティ情報(ESG情報とも呼ばれる)の開示を求めるEU指令であり、2022年11月に欧州議会とEU理事会にて正式に採択され、2023年1月に発効されました。さらに2025年12月には、複数の法規制や指令を1つの包括的なパッケージにまとめて、簡素化や調整を行う「オムニバス法案」が合意され、報告義務の合理化や適用時期の調整が行われています。今回の記事では、CSRDが日本企業にもたらす影響や対象企業、開示項目、NFRD(非財務情報開示指令)との違いなどを解説します。

CSRDとは?定義と欧州グリーンディールとの関係

2023年1月、EUでCSRD(企業サステナビリティ報告指令:Corporate Sustainability Reporting Directive)が発効されました。CSRDとは、EU域内において企業にサステナビリティ情報の開示を義務付けるものです。

その背景にあるのが、EUが成長戦略として掲げる「欧州グリーンディール」です。欧州グリーンディールとは、2050年カーボンニュートラルの達成と経済競争力の強化を目指した、社会・経済を変革するための社会契約で、大規模な公共投資と民間投資により支えられています。

しかし、大規模な投資を行う際は、判断材料が欠かせません。その判断材料となるのが、企業のサステナビリティ情報です。これは、企業が中長期的かつ持続的な観点から環境問題や社会問題にどのように取り組んでいるかを明らかにするものです。

サステナビリティ関連指令の整合性:CSDDDとの関係

CSRDは企業の活動実態を報告するための枠組みですが、EUではこれと並行して「CSDDD(企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令:Corporate Sustainability Due Diligence Directive)」の運用が進められています。

CSDDDがバリューチェーンにおける負の影響を特定・是正するための「実務的なデュー・ディリジェンスの実施(行動義務)」を規定しているのに対し、CSRDはそれらの取り組みを外部へ開示するための「サステナビリティ報告(報告義務)」を担っています。CSDDDの指令第11条では、CSRDの報告枠組みであるESRS(欧州サステナビリティ報告基準、詳細は後述)を通じて情報の透明性を確保することが規定されており、両指令の実務上の整合性が図られています。

オムニバス法案(簡素化パッケージ)による合理化

欧州委員会は、企業の行政負担を25%削減する方針に基づき、2025年に「オムニバス法案(簡素化パッケージ:Omnibus Package)」を合意しました。本法案の主眼は、CSRDとCSDDDの間で重複していた「報告項目の排除」および「適用基準の合理化」にあります。
2025年12月現在の最新基準では、簡素化されたESRS(欧州サステナビリティ報告基準)に準拠した報告を行うことで、CSRDおよびCSDDD双方の報告義務を充足することが可能となっており、コンプライアンスコストの抑制が図られています。

NFRDからCSRDへの変更点:対象拡大と「信頼性」の強化

2023年に発効されたCSRDに先立ち、EUでは2018年から「NFRD(非財務情報開示指令:Non-Financial Reporting Directive)」が施行されていました。CSRDはNFRDをさらに強化したもので、NFRDと比べてサステナビリティに関する情報開示義務の適用対象拡大(一部のEU域外企業も対象となる)や開示項目の詳細化が行われています。

適用対象の拡大

NFRDでは、従業員500人以上の上場企業や金融機関が対象となっていました。CSRDでは当初、大幅な対象企業の拡大を企図しましたが、最終的にはCSDDDとの整合性を重視し、オムニバス法案において従業員数1,000人超かつ純売上高4.5億ユーロ超の基準を軸とした適用範囲の調整が図られています。

開示項目の詳細化

<開示項目>CSRDとNFRDの開示項目の違い

出典:環境省「バリューチェーンにおける環境デュー・ディリジェンス入門」p.45

CSRDではNFRDより詳細な内容が求められます。NFRDでは企業同士の比較や時系列での比較が難しかったのですが、CSRDではそれが可能になります。
ただし、2025年12月現在の最新動向(オムニバス法案)では、企業の報告負担を25%削減する方針に基づき、重要性が低いと判断された項目の開示を任意とするなど、実務的な合理化が進められています。

統一基準ESRSの義務化

CSRDでは、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS:European Sustainability Reporting Standards)に準拠した報告が義務付けられました。ESRSは、欧州委員会が採択するサステナビリティ開示の統一基準です。これにより、企業が恣意的に都合の良い基準を選ぶことができなくなり、投資家に比較可能なデータが提供されるようになります。また、企業規模や形態に応じた「簡素化版ESRS」の整備も完了しており、過度な事務負担を避けつつ透明性を確保する体制が整っています。

第三者保証の義務化

サステナビリティ情報は、これまで計測手法や内部統制が未整備なケースが多く、一足飛びに高いレベルの保証を得ることは困難でした。そのため、まずは「限定的保証」によって最低限の信頼性を確保し、数年かけて企業のデータ管理体制を高度化させることが意図されています。
しかし、ESG投資が普及する中、投資家からは「サステナビリティ情報も財務情報と同じ信頼性で判断したい」という強い要請があります。最終的に「合理的保証」を求めることで、グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)を排除し、非財務情報を財務情報と同等の「投資判断の基盤」へと昇華させることがCSRDの真の狙いです。

CSRDの核となる「ダブル・マテリアリティ」とは

ダブル・マテリアリティ(Double Materiality)とは、サステナビリティの課題が企業にどのような財務的リスクをもたらす可能性があるかを示す「財務的マテリアリティ(financial materiality)」だけでなく、企業自身が人々や環境に与える影響を示す「インパクトマテリアリティ(impact materiality)」についても報告しなければならないことを意味します。

マテリアリティ(materiality)とは、各企業において、個々の課題、事象などが自らの企業価値や業績などに与える重要性のことを意味します。従来の開示基準は、環境・社会問題が自社の財務に与える影響(財務的マテリアリティ)のみを重視する「シングル・マテリアリティ」が主流でした。一方、「ダブル・マテリアリティ」は、EUが目指すサステナブルな経済活動への転換を象徴する考え方で、ダブル・マテリアリティを理解するには、ベクトルが異なる2つの視点に着目する必要があります。

<開示における重要性(マテリアリティ)>開示における重要性(マテリアリティ)

出典:金融庁「事務局説明資料②(サステナビリティに関する開示(1)」p.10

ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)の構造と開示要件

企業がサステナビリティ情報を開示する際、基準となるのが「ESRS(欧州サステナビリティ報告基準:European Sustainability Reporting Standards)」です。2025年12月に合意されたオムニバス法案により、前身のNFRD(非財務情報報告指令)から大幅に拡大されていた適用範囲が「従業員1,000人以上」などの基準へ絞り込まれ、膨大な開示項目も約25%削減されるなど、実効性と負担軽減の観点から適用範囲や開示項目が抜本的に見直されました。

4つの報告領域

ESRSでは、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みとも整合性が取れるよう、以下の4つの柱で情報を整理することが求められています。

<4つの報告領域>
ESRS の全体像

出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「CSRD適用対象日系企業のためのESRS適用実務ガイダンス」p.17

  • ガバナンス(Governance):
    サステナビリティ課題に対する監視体制や経営陣の役割

  • 戦略(Strategy):
    ビジネスモデル、戦略、資金計画とサステナビリティの関連性

  • 影響・リスク・機会の管理(Impact, risk and opportunity management):
    重要な課題をどう特定し、管理しているかのプロセス

  • 指標と目標(Metrics and targets):
    進捗を測るためのKPIと達成目標

3つのトピックス

具体的な報告内容は、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の3分野に分かれ、合計12の基準書が存在します。

<3つのトピックス>
公表済みのESRSと開発中のESRS

出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「CSRD適用対象日系企業のためのESRS適用実務ガイダンス」p.17

  • 環境Environment):
    E1
    気候変動、E2 汚染、E3 水・海洋資源、E4 生物多様性と生態系、E5 資源利用と循環経済

  • 社会Social):
    S1
    自社の労働力、S2 バリューチェーンの労働者、S3 影響を受けるコミュニティ、S4 消費者・エンドユーザー

  • ガバナンスGovernance):
    G1 事業慣行

ESRSはこれらの報告領域とトピックスを、横断的ESRSとトピック別ESRSの2種類の文書に整理して提示しています。
横断的ESRSには「全般的開示要求事項(ESRS 1)」と「全般的開示事項(ESRS 2)」の2つがあります。また、トピック別ESRSは、環境(ESRS E1~E5)、社会(ESRS S1~S4)およびガバナンス(ESRS G1)の基準で構成されており、トピック別のより具体的なDR(開示要件:Disclosure Requirements)が含まれています。

2025年12月の合意では、各トピック別の記述を減らし、ガバナンスや戦略に関する情報を「横断的基準(ESRS 2)」に集約。記述の重複が排除され、より簡潔な報告が認められるようになりました。また、企業負担軽減のため、データポイント(具体的に開示すべき情報)が約6割削減されました。

開発中のESRS

なお、ESRSでは横断的ESRSとトピック別ESRSのほかに、「セクター別基準」「上場中小企業向け基準」「EU域外企業向け基準」を別途、2026年6月までに採択することが公表されていました。しかし、2025年12月の簡素化法案により、以下のように更新されました。

セクター別基準

当初、石油・ガス、自動車、農業など特定の業種ごとに詳細な開示を求める「義務的基準」の採択が予定されていましたが、義務的な基準としての採択は中止、または無期限の延期となりました。
今後は、企業が任意で参照できる「非義務的なガイドライン」として提供されることになります。これにより、業種特有の細かいデータ開示を強制されるリスクが当面なくなりました。

上場中小企業向け基準

EUの証券市場に上場している中小企業(SME)を対象とした簡素版の基準です。適用開始時期がさらに2年間後ろ倒しされ、2028年度会計(2029年報告)から適用が開始されます。また、適用開始後もさらに2年間、報告を免除できる「オプトアウト(適用除外)」規定は維持されるため、実質的な本格稼働は2030年代に入ってからとなる見通しです。

EU域外企業向け基準

EU域外(日本企業など)に親会社があり、EU域内で一定の売上高を持つ企業グループに適用される基準です。EU域内での連結売上高の閾値が、当初の1.5億ユーロから、4.5億ユーロ超へと大幅に引き上げられました。また、定性的な記述が削減され、「中核的な定量的データ」のみに集中する簡素な基準として策定されます。上場中小企業向け基準と同様、適用が2年間延期され、2028年度会計(2029年報告)からの適用となります。

化学産業にとって特に重要な「資源利用と循環経済」(ESRS E5)

ESRSの中でも、製造業、特に化学産業にとって対応負荷が高いのが「E5 資源利用と循環経済」です。ここでは、原材料の流入量、廃棄物の流出量、リサイクル率など、サーキュラーエコノミーに関する詳細なデータ開示が求められます。製品ライフサイクル全体での資源効率を可視化する必要があるため、サプライチェーンからのデータ収集体制の構築が急務となります。

CSRDの対象企業と適用スケジュール(最新動向含む)

最新の適用対象企業
当初の基準から大幅に閾値(しきいち)が引き上げられ、報告義務を負う企業が限定されました。
・EU域内の大企業:従業員数1,000人超かつ純売上高4.5億ユーロ超の両方を満たす企業が対象となります。これは、当初の「従業員250人超」などの基準から大幅に緩和されたものです

「オムニバス法案」による2年の猶予
オムニバス法案の合意により、以下の基準の採択期限が「2024年6月」から「2026年6月」へと2年間延期されました。
・セクター別ESRS: 特定の業種(石油、ガス、鉱業、自動車など)に特化した開示基準
・第3国企業向けESRS: 日本の親会社が報告に用いるための専用基準

この延期は「報告義務自体の延期」ではありません。2028年度から日本親会社に報告義務が生じるスケジュールは維持されています。あくまで「報告に使う細かいルール(基準)が決まるのが2年遅くなる」ということであり、企業にとっては、準備のための「検討期間」が少し増えたことになります。

日本企業が取るべき対応と実務的なロードマップ

EUのサステナビリティ報告基準(ESRS)への対応は、広範囲かつ専門的です。効率的に準備を進めるため、実務では以下の5つのフェーズでアプローチするのが一般的です。

<対応に向けた5つのフェーズ>対応に向けた5つのフェーズ

出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「CSRD 適用対象日系企業のためのESRS 適用実務ガイダンス」p.22

フェーズ1:制度概要の理解

自社やグループ会社が「いつから」「どの範囲で」適用対象になるかを正確に把握し、プロジェクトチームを組成します。

フェーズ2:ハイレベルな(大局的な)ギャップ分析

次に、全82項目の開示要件(DR)の全体像を俯瞰します。次工程の「ダブル・マテリアリティ評価」によって開示不要になる項目も出てくるため、まずは全体として何を求められているかを効率的に把握します。

フェーズ3:ダブル・マテリアリティ評価

ESRS対応の核となるプロセスです。「自社が社会に与える影響」と「環境・社会が自社に与える財務的影響」の両面から評価を行います。評価にあたっては、自社内だけでなくサプライチェーン全体に潜むリスクを具体的に特定・調査する、実態把握の手順(デュー・ディリジェンス)が不可欠です。上流から下流までを含めたリスクと影響を特定することが、実効性のある戦略の前提となります。

フェーズ4:詳細なギャップ分析

重要と判断したトピックについて、現状の開示レベルとの乖離を特定します。CSRDでは開示情報への第三者保証が義務付けられます。そのため、単なる集計に留まらず、保証に耐えうるデータガバナンスの構築や内部統制プロセスの整備、および効率的な「CSRD対応システム」の導入が必要となります。

フェーズ5:ロードマップの策定

ここでのゴールは、単に基準を満たす報告書を作ることではありません。詳細な分析結果を経営戦略にフィードバックし、持続可能なビジネスモデルへの「移行戦略」を策定・実行することがゴールとなります。Scope3の算定や欧州子会社との連携を含め、優先順位をつけた現実的なスケジュールで推進することが重要です。


三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、
バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

「BePLAYER®」「RePLAYER®」https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm

<公開資料:カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー関連>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/whitepaper/

 
参考資料
*1:EUR-Lex「CSRD Directive」:
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32022L2464
*2:European Parliament「Simplified sustainability reporting and due diligence rules for businesses」:
https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20251211IPR32164/simplified-sustainability-reporting-and-due-diligence-rules-for-businesses
*3:European Commission「Sustainable finance」:
https://ec.europa.eu/newsroom/fisma/items/754701/en
*4:European Commission 「Proposal for a DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL amending Directives 2006/43/EC, 2013/34/EU, (EU) 2022/2464 and (EU) 2024/1760 as regards certain corporate sustainability reporting and due diligence requirements」:
https://data.consilium.europa.eu/doc/document/ST-16702-2025-INIT/en/pdf
*5:Council of the European Union「Council and Parliament strike a deal to simplify sustainability reporting and due diligence requirements and boost EU competitiveness」:
https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2025/12/09/council-and-parliament-strike-a-deal-to-simplify-sustainability-reporting-and-due-diligence-requirements-and-boost-eu-competitiveness/
*6:EFRAG「ESRS LSME (ESRS for Listed SMEs)」:
https://www.efrag.org/en/news-and-calendar/news/efrag-provides-its-technical-advice-on-draft-simplified-esrs-to-the-european-commission
*7:一般社団法人環境金融研究機構(RIEF)「EU欧州議会。サステナブルファイナンス・オムニバス法案を賛成多数で可決。対象企業基準を大幅緩和。競争力向上に配慮。EU理事会の採択後に発効」:
https://rief-jp.org/ct4/163121
*8:日本貿易振興機構(ジェトロ)「EU、CSRDにおけるセクター別・域外企業向け欧州持続可能性報告基準(ESRS)の採択を2年延期」:
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/02/ca41b5d82dceeda9.html
*9:日本貿易振興機構(ジェトロ)「CSRD 適用対象日系企業のためのESRS 適用実務ガイダンス」:
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/80fd13a160c18b11/20240005_01.pdf

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