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SBTiとは?ネットゼロ基準や参加企業、申請手順をわかりやすく解説
SBTiとは、企業に対し、科学的知見と整合した温室効果ガス排出削減目標「SBT(Science-based targe)」の設定支援や認定を行う国際的なイニシアティブです。ネットゼロの実現に向けた取り組みとして、近年は、SBTiに参加する日系企業が増加しており、SBT認定企業の数も世界トップクラスとなっています。今回の記事では、SBTiのメリットや参加企業、申請手順を紹介します。
SBTiとは?企業の未来を形作る気候目標のグローバル基準
引用:環境省「SBT(Science Based Targets)について」P.9
SBTi(Science Based Targets initiative)とは、企業が科学的根拠に基づいた温室効果ガス(GHG)削減目標を設定し、その妥当性を審査・認定する国際的なイニシアチブです。CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、UNGC(国連グローバル・コンパクト)、WRI(世界資源研究所)、WWF(世界自然保護基金)の4つの国際機関によって共同運営され、企業の脱炭素化を促進する役割を担っています。
このSBTiが推進するのが、「SBT(Science Based Targets)」という温室効果ガス削減目標の設定です。SBTは、パリ協定の1.5℃目標と整合した削減計画を設定するもので、企業が持続可能な成長を目指す上での重要な指標となります。
SBTiは、企業が「短期目標(Near-Term Targets)」と「ネットゼロ目標(Net-Zero Targets)」を組み合わせ、Scope1・2・3にわたる包括的な削減計画を策定できるよう支援しています。このガイドラインに基づき、世界中の企業がSBTiによる認定(SBT認定)を受け、ネットゼロ(人間の活動によって排出される温室効果ガスの量と、人間によって除去される温室効果ガスの量が正味ゼロにすること)の実現に向けた取り組みを進めています。
また、SBTiは企業や投資家などの温暖化対策を推進している国際機関やシンクタンク、NGOなどが構成機関となって運営しているプラットフォーム「We Mean Business(WMB)」の一環としても機能しており、世界的な気候変動対策の中核を担っています。
SBTiの認定を受けることで、企業はESG投資家やステークホルダーからの信頼を獲得し、国際的な競争力を強化できます。SBTiの公式サイトでは、日本企業を含む世界のSBT認定企業の一覧も公開されており、他社の取り組みを参照することができます。
このほか、SBTiでは、2050年までのカーボンニュートラル実現を目指して、ネットゼロ基準の策定や、発電、輸送、林業、土地利用、農業といった多くの排出を行う特定のセクターに向けた目標設定ガイダンスの作成を進めています。
SBT認定については、「SBTとは?認定を受けるメリットや基準、取得方法を解説」にて詳しく解説しています。
SBTiのネットゼロ基準とは
SBTiは、企業が科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標を設定するための国際的な枠組みを提供しています。その中でも「SBTi企業ネットゼロ基準(Net-Zero Standard)」は、企業が2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする(=ネットゼロ)目標を設定する際のガイダンス、要件、推奨事項を提供しています。
<SBTiのネットゼロ基準の4要素>
出典:Science Based Targets initiative (SBTi) 「SBTi企業ネットゼロ基準 バージョン1.0 (2021年10月)」p.10
SBTiのネットゼロ基準は、以下の4つの要素で構成されています。
- 短期SBT(Near-term SBT)
企業は、5~10年以内に温室効果ガス排出量を削減する「短期目標(Near-term SBT)」を設定する必要があります。この目標は、パリ協定の1.5℃目標と整合し、Scope1・2の排出量を削減することが求められます。また、Scope3についても、総排出量の40%以上を占める場合は、適切な削減目標を設定する必要があります。
- 長期SBT(Long-term SBT)
2050年(電力セクターは2040年)までに、Scope1・2・3の排出量を少なくとも90%削減し、実質的にネットゼロを達成することが求められます。これにより、企業の事業全体での持続可能な温室効果ガス排出量の削減が促進されます。
- バリューチェーンを超えた緩和(Beyond value chain mitigation)
SBTiでは、企業のバリューチェーン外でも温室効果ガス排出量の削減に貢献することを推奨しています。具体的には、再生可能エネルギーの普及支援や、森林保全プロジェクトへの投資などが挙げられます。
- 残余排出量の中和(Neutralization of residual emissions)
企業は、長期目標を達成した後も完全に排出をゼロにすることは難しいため、削減しきれない「残余排出量」に対して、炭素除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)を実施する必要があります。例えば、植林や炭素回収貯留(CCS)技術を活用し、残った排出を吸収・中和する取り組みが求められます。
SBTiのネットゼロ基準は、企業の気候変動対策を科学的に支える枠組みであり、持続可能な社会の実現に向けた重要な指針となっています。
SBTiの基準に準拠することで、企業はESG投資家や消費者からの信頼を得やすくなります。また、科学的根拠に基づいた脱炭素戦略を策定することで、規制対応や市場競争力の向上にもつながります。
SBTiに参加するメリット
SBTiに参加することで、企業は気候変動対策を強化し、持続可能な成長に向けた確かな道筋を築くことができます。ここでは、SBTiがもたらす3つのメリットを紹介します。
- ステークホルダーからの信頼獲得
SBTiの認定を受けることで、企業は投資家、顧客、サプライヤー、社員などのステークホルダーに対し、持続可能な経営を実践していることをアピールできます。これにより、パリ協定の1.5℃目標に沿った、科学的根拠に基づく排出削減目標を掲げている企業であることが明確に示せるのです。 - 事業リスクとレピュテーションリスクの低減
気候変動への対応が企業評価に直結する中で、SBTiに参加し、科学的根拠に基づいた目標を設定・実行することで、環境対策への姿勢を明確に示すことができます。これにより、規制強化や市場の変化に伴う事業リスクを抑えるとともに、ステークホルダーからの信頼を確保し、企業のブランド価値を守ることができるのです。
- 中長期的な企業価値の向上
SBTiの枠組みに沿って削減計画を進めることで、企業は将来的な規制対応や市場の変化に備えることができます。持続可能なビジネスモデルの構築につながり、企業価値の向上にも寄与します。
SBTiへの参加は、温室効果ガス削減の枠を超え、企業の持続可能性を高め、長期的な成長を支える重要なステップとなります。
SBTiの参加方法と申請手順
SBTiへの参加は、企業の規模を問わず可能ですが、大企業と中小企業では申請のプロセスが異なります。ここでは、日本企業がSBTiに参加し、認定を受けるまでの手順を解説します。
SBTiの参加方法とは?
SBTiに参加するためには、まず以下のステップを進めます。
- 【任意】コミットメントレターの提出
SBTiでは、企業が正式に目標を設定する前に、「SBT Commitment Letter(コミットメントレター)」を提出し、2年以内にSBTを設定する意思を表明することができます(※提出は任意)。コミットメントを行った企業は、SBTiのウェブサイトやCDP、We Mean Business(WMB)のプラットフォームで公表されます。 - 目標設定と申請書の提出
企業は、自社の温室効果ガス排出量(Scope1・2・3)を算定し、SBTiの基準に沿った短期目標(Near-Term Targets)および長期目標(Long-Term Targets)を設定します。その後、「Target Submission Form(目標提出フォーム)」に記入し、SBTiの事務局に送付します。
中小企業向けの簡易プロセス
SBTiでは中小企業向けの申請プロセスが通常の申請と異なり、より簡易な方法で進めることができます。
<SBTiにおける中小企業の定義(2024年更新版)>
SBTiでは、中小企業を以下の条件で定義しています。
- Scope1およびロケーション基準のScope2の排出量合計が10,000 tCO₂e未満
- 海運船舶を所有または支配していない
- 再生可能エネルギー以外の発電資産を所有または支配していない
- 金融機関セクターまたは石油・ガスセクターに分類されていない
- 親会社が通常版SBTに該当しない
追加要件(以下4項目のうち2つ以上を満たす必要あり)
- 従業員数が250人未満
- 売上高が5,000万ユーロ未満(約80億円)
- 総資産が2,500万ユーロ未満(約40億円)
- 森林、土地、農業(FLAG)セクターに分類されない
簡易プロセスの特徴
- 中小企業は、「SME Target Submission Form(中小企業用提出フォーム)」を使用し、短期的な排出削減目標を設定すれば、個別の審査を受けることなく自動承認される。
- 通常のSBT認定プロセスよりも申請手続きが簡略化され、迅速に承認を受けることが可能。
- SBTi事務局による審査
企業が提出した目標は、SBTiの専門チームによって審査され、基準に適合しているかが評価されます。審査結果はメールで通知され、基準を満たさない場合は修正点がフィードバックされます。※審査には費用が発生します。 - 認定と公表
審査を通過すると、企業の目標(SBT)が正式に認定され、SBTiの公式ウェブサイトなどで公表されます。
企業は、自社のサステナビリティレポートやIR資料などにSBT認定を記載し、ステークホルダーへ発信することが可能になります。
SBTiの参加とSBT申請の違いとは?
SBTiへの参加は、単に目標を申請するだけではなく、科学的根拠に基づいた排出削減を進める意志を示し、実行することを意味します。これは、まだSBT(Science Based Targets)に合致する目標設定に至っていないものの、そのような目標を設定することにコミットしたいケースになります。そのため、まずSBTiコーポレートマニュアルを確認し、自社の温室効果ガス排出量削減計画との整合性を検討することが求められます。
一方、SBT申請は、SBTiに正式な目標(SBT)を提出し、審査を受けて認定を取得するプロセスを指します。SBTiへの参加(SBTを設定することへのコミット)とSBT申請の違いを理解し、適切なステップを踏むことが重要です。
SBTiの参加企業は?
世界中の多くの企業がSBTiに参加し、温室効果ガス排出量の削減に取り組んでいます。2024年10月29日時点で、日本からは1,378社がSBTiに参加しており、そのうち1,297社が認定を取得しています。特に中小企業の参加が顕著で、1,048社が認定を受けています。
具体的な参加企業としては電気機器、建設業が多く、キヤノン、コニカミノルタ、シャープ、セイコーエプソン、ソニーグループ、安藤・間、大林組、奥村組、熊谷組、清水建設、住友林業、積水ハウス、LIXILグループなどが挙げられます。また、電気機器、建設業に限らず、医薬品、食料品、通信業界など幅広い分野の企業もSBT認定の取得を進めています。
SBTiの公式ウェブサイトでは、参加企業の一覧や詳細情報が公開されており、業種や地域ごとに検索することができます。また、環境省のウェブサイトでも、日本企業のSBT認定状況が確認できます。SBTiへの参加を検討する企業は、これらの情報を参考に、自社の温室効果ガス排出量削減目標の設定や、SBTi認定取得のプロセスを理解することが重要です。
三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、 <「BePLAYER®」「RePLAYER®」>https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm |
- 参考資料
- *1:Science Based Targets initiative (SBTi) 「SBTi企業ネットゼロ基準 バージョン1.0 (2021年10月)」:
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/Net-Zero-Standard_v1.0_jp.pdf - *2:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム:
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/decarbonization_05.html - *3:SBTi コーポレートマニュアル TVT-INF-002|バージョン 2.0 2021 年 12 月:
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/SBTi-Corporate-Manual_jp.pdf