- カーボンニュートラル
SAF(持続可能な航空燃料)とは?製造方法・原料・価格からメリットまでわかりやすく解説

航空業界のカーボンニュートラル実現に向けた切り札として、世界中で導入が加速している「SAF(持続可能な航空燃料)」。SAFとは、廃食油など植物由来のバイオマス資源を原料とした環境配慮型の次世代航空燃料で、従来の石油由来燃料と比較しCO₂排出量を抑制することができます。
今回の記事では、SAFの主要な製造方法や仕組みから、コストや供給に関する課題まで具体的に解説します。さらに、SAFを精製する過程で副生される「バイオマスナフサ」についても解説します。
SAF(持続可能な航空燃料)とは?カーボンニュートラルな空の旅を実現する次世代燃料
SAFの定義と読み方
SAFとは「Sustainable Aviation Fuel」の略称で、一般的に「サフ」と読まれます。日本語では「持続可能な航空燃料」と訳され、従来の化石資源(石油等)由来のジェット燃料と異なり、廃食油など植物由来の再生可能な有機資源(バイオマス)を原料とする次世代のジェット燃料のことを指します。
SAFの最大の特徴は、「ライフサイクル全体でのCO₂排出量を削減できる」点です。廃食油などのバイオマス原料は、成長過程で大気中のCO₂を吸収しています。SAFを燃料として使用する際に発生するCO₂は、植物(バイオマス原料)が吸収したCO₂と相殺され、実質的に大気中のCO₂を増やすことなく、カーボンニュートラルに近づけることができます。国土交通省の試算では、従来の化石資源由来の燃料と比較して、原料の収集から製造、燃焼までのライフサイクル全体で約60~80%のCO₂排出量削減効果が得られると見られています。
航空業界におけるSAFの重要性
地球規模での気候変動の抑制に向けて、2015年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)でパリ協定が採択されて以降、全世界的にカーボンニュートラル実現への動きが加速しています。
その中で、航空業界においても、日本国内ではNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)などが中心となり、次世代の電動航空機や水素燃料航空機の研究開発が進められています。しかし、現在のバッテリー技術ではエネルギー密度の課題があり、大型航空機が長距離を飛行する場合、重量の制約から完全な電動化の実用にはまだ時間を要するのが現実です。
そこで、「現時点で航空機にすぐに使える解決策 」として白羽の矢が立ったのがSAFです。SAFは、既存の航空機のエンジンや空港の給油設備をそのまま活用できる「ドロップイン燃料」として注目されています。 将来的な電動化技術の確立を待ちつつ、今まさに排出されているCO₂を削減するための現実的かつ効果的な手段として、SAFは航空業界の切り札とされているのです。
<航空機の脱炭素化に向けた新技術ロードマップ>
出典:経済産業省「航空機の脱炭素化に向けた新技術官民協議会 ロードマップ」p.1
SAFはなぜ必要?航空業界が抱えるCO₂排出の課題と削減目標
SAFの導入が急がれる背景には、航空業界が直面している構造的な課題と、国際的なCO₂排出量の削減目標があります。ここでは、航空業界におけるCO₂排出量の現状と、その削減に向けた世界的な合意事項について詳しく見ていきましょう。
航空業界におけるCO₂排出量の現状
国際民間航空機関(ICAO)によると、世界のCO₂総排出量のうち、航空による排出は約2%を占めていると言われています。また、世界経済の成長に伴い、航空需要は今後も右肩上がりで増加すると予測されており、このまま対策がなければ航空によるCO₂排出量は 2050年に向け2〜3倍規模に拡大するとの見方が示されています。特に国際線は国境を越えて移動するため、一国の努力だけでは解決が困難であり、国際的に抜本的な対策が求められています。
ICAO(国際民間航空機関)が掲げる削減目標
こうした危機感を背景に、国連の専門機関である国際民間航空機関(ICAO)は、「2050年までのカーボンニュートラル(実質排出量ゼロ)」という野心的な目標を掲げています。
この目標達成に向けた戦略として、各航空会社に対して「新技術の導入」、「運航方法の改善」、「代替燃料の活用に向けた取り組み」、「経済的手法の検討推進」の4つの対策を挙げています。
<航空業界のGHG削減目標と4つの対策>
出典:公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)「CORSIA(国際⺠間航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム)について」p.7
カーボンニュートラル実現に向け、さまざまな対策が挙げられていますが、国際航空運送協会(IATA)では排出削減効果の大部分はSAFが担うと推定しており、SAFの普及なしには航空業界のカーボンニュートラルは困難と考えられています。
SAFの代表的な4つの製造方法と原料
「SAF」と言っても、その原料や製造プロセスは多岐にわたります。ここでは、現在商用化されているものから開発中のものまで、代表的な4つの製造方法について解説します。
HEFA(ヒーファ)
現在、世界で生産されているSAFの大部分を占めるのが「HEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)」と呼ばれる技術です。主に家庭や飲食店から出る廃食油(使い終わった食用油)などを原料とし、それを水素化処理して、SAFを製造します。
最大のメリットは、技術的に成熟しており、他の方法に比べて製造コストを抑えられる点です。一方、急速な需要拡大に対応した供給体制の整備と、原料となる廃食油等の効率的な収集が、今後の課題として挙げられます。
ガス化・FT合成(フィッシャー・トロプシュ合成)
木質チップ、もみ殻などの植物資源(バイオマス)や、家庭から出る都市ごみなどをガス化し、そこから液体燃料を化学合成する方法です。
この技術のメリットは、原料となる廃棄物やバイオマスが豊富に存在するため、廃食油に比べて将来的な生産量の拡大余地が大きく、ごみ処理問題の解決にも寄与する点です。一方で、高温高圧のガス化炉など大規模な設備が必要となるため、初期投資が巨額となる点が課題となっています。
AtJ(アルコール・トゥ・ジェット)
「AtJ(Alcohol to Jet)」は、その名の通りアルコール(エタノール)を原料としてジェット燃料を製造する技術です。原料には、サトウキビやトウモロコシなどの植物由来の糖を発酵させて作ったバイオエタノールが使われます。
この技術のメリットは、既存のバイオエタノール製造インフラを活用できることで製造コストを抑えられる点です。しかし、サトウキビやトウモロコシは食料や飼料としても重要な資源のため、食料価格への影響や、農地拡大による森林破壊の可能性が課題となっています。
対応策として、非可食植物による製造の実証が進んでいますが、従来のバイオエタノール製造とは一部製造方法が異なり、その対応にかかるコストが課題となっています。
合成燃料(e-fuel)
次世代のSAFとして最も注目されているのが、「合成燃料(e-fuel)」です。工場などから回収したCO₂と、再生可能エネルギー由来の電力で作った「グリーン水素」を反応させて製造します。
この技術のメリットは、原料が水と空気(CO₂)であるため、理論上は無尽蔵に製造が可能であり、食料競合や資源枯渇の心配がない点です。しかし、グリーン水素の製造に大量の再生可能エネルギー電力が必要なため、現状では製造コストが非常に高く、実用化に向けたコストダウンが最大の課題となっています。
<SAFの代表的な4つの製造方法や特徴>
参考:NEDO 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「SAFを中心とした次世代燃料生産技術開発動向とNEDOの取組について」を元に作成
SAFとバイオマスナフサの関係
また、SAFを製造する際には、バイオマスナフサ(バイオマス由来の炭化水素)と呼ばれる副産物が発生します。このバイオマスナフサは、様々なプラスチックの原料として使用することができ、従来の石油由来ナフサを使ったときと比較して、プラスチックのライフサイクルにおけるCO2排出量を削減することができます。そのため、SAFの製造は航空業界だけでなく、化学素材のバイオマス化にもつながります。
※航空業界でSAFの副産物であるバイオマスナフサ由来のバイオマスプラスチックを採用した事例は「貨物も環境も守る。JALカーゴサービスが現場主体で挑んだ、バイオマスストレッチフィルムの導入 」でご紹介していますので、こちらもご覧ください。
<SAFとバイオマスナフサの関係図>
出典:Kitchen 2 Kitchen | 三井化学のバイオマス&リサイクルソリューション | 三井化学株式会社
SAFが抱える主要な課題・デメリット
SAFは環境面で大きなメリットがある一方で、本格的に普及拡大させるには、「コスト」や「供給力」などの側面で解決すべき課題が残されています。ここではSAFが抱えるこれらの課題について詳しく解説します。
課題①:製造コストが高い
SAF普及の最大の障壁は、従来のジェット燃料と比較して価格が高いことです。 従来のジェット燃料が1リットルあたり100円程度であるのに対し、SAFは製造方法によって200〜1,600円にもなると言われており、一般的にHEFA系では2〜5倍、e-SAFでは10倍以上の価格差があります。
燃料費は時期により変動するものの、概ね運航コストの3割前後を占めるため、価格高騰が普及のハードルとなっています。そのため、本格的な普及には、より効率的な製造技術の開発に加え、政府による設備投資支援や生産税額控除といった制度的な下支えが不可欠です。
課題②:原料の供給量不足と生産量の不足
「SAFを使いたくても、モノがない」という供給不足も課題のひとつです。現在世界で製造されているSAFの量は、ジェット燃料総消費量の1%未満に過ぎません。
今後は、より安定調達可能な原料へのシフトや、需要拡大に対応したサプライチェーンの構築が急務です。日本国内でもSAF製造工場の建設計画が進んでいますが、本格的な量産体制の整備は2030年以降になる可能性が高く、まだ時間がかかると見られています。
<SAFの導入促進計画>
出典:国土交通省航空局「航空の脱炭素化推進に係る工程表」p.2
SAF普及に向けた欧州の動向と日本の目標
課題はあるものの、気候変動対策は待ったなしの状況です。そのため、世界各国は法規制や数値目標を設け、半ば強制的にSAFの市場を作ろうとしています。ここでは、先行する欧州の動向と、それを追う日本の具体的な目標について紹介します。
EUの規制動向:「ReFuelEU Aviation」規則で2050年には70%をSAFに
環境先進地域である欧州(EU)は、「ReFuelEU Aviation」という規則により、EU域内の空港を出発する航空機に対して、給油する燃料に一定割合のSAFを混合することを義務付けました。
具体的には、2025年から2%、2030年に6%、2035年20%、2040年34%、2045年42%、そして2050年には70%という段階的な引き上げ目標が設定されています。 この「義務化」により、航空会社は必然的にSAFを使うことになり、結果として安定した需要が生まれ、SAF製造への投資が促進されることが期待されています。
日本の目標:2030年に航空燃料の10%をSAFに
こうした世界の潮流に乗り遅れないよう、日本でも国土交通省が「2030年までに国内の航空会社が使用する燃料の10%をSAFに置き換える」という目標を設定しました。
この目標達成に向け、政府や航空会社、エネルギー企業などが連携し、「官民協議会」を設置して国産SAFの製造・供給体制の構築を急いでいます。また、日本政府は、GX経済移行債を活用した設備投資支援として、5年間で約3,400億円をSAF製造設備への投資に充当する方針を掲げています。さらに、戦略分野国内生産促進税制においても、SAFの生産量に応じて1Lあたり30円の法人税減免を打ち出し、SAFの製造・供給体制支援を強化しています。
SAFはカーボンニュートラルの実現に不可欠な次世代燃料
SAFは、航空業界が2050年カーボンニュートラルを達成するために欠かせない次世代燃料です。そして、エネルギー産業の構造転換や、バイオマス・廃棄物利用といった新たなサプライチェーンの構築にもつながるため、持続可能な産業構造への変革のチャンスでもあります。
今後、SAFの普及には、技術革新だけでなく、政府による制度設計、企業の投資、そして社会全体の理解という「総力戦」が求められます。 SAFを巡る国内外の動向は、航空業界の持続可能性を測る上での重要な指標として、今後ますます注目されることになりそうです。
三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。
- 参考資料
- *1:経済産業省「持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進に向けた官民協議会」:
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/saf/index.html - *2:経済産業省 第16回 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会「2030年における持続可能な航空燃料(SAF)の供給目標量の在り方」:
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/nenryo_seisaku/016.html - *3:IEA「Aviation」:
https://www.iea.org/energy-system/transport/aviation - *4:日本貿易振興機構「国際的枠組み整備と技術革新に期待」:
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2025/1103/54a58b8fccf3ce9c.html - *5:エネルギー・金属鉱物資源機構「バイオ・低炭素合成燃料という選択肢 ―バイオ・低炭素合成燃料がエネルギートランジションに果たす役割」:
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009992/1010151.html - *6:IATA「SAF Production Growth Rate is Slowing Down, Essential to Correct Course Ahead of e-SAF Mandates」:
https://www.iata.org/en/pressroom/2025-releases/2025-12-09-04/