- カーボンニュートラル
カーボンニュートラルとは?意味や目的、取り組みを分かりやすく解説
地球環境に大きな影響を与える気候変動。世界共通の課題として各国に早急な対応が求められる中、日本でも政府の取り組みと連動する形で、再生可能エネルギーやバイオマス素材の導入など、カーボンニュートラルに関する企業の取り組みが進んでいます。そこで、カーボンニュートラルとは何なのか、カーボンニュートラル実現の方法にはどんなものがあるのか、ご紹介します。
押さえておきたいカーボンニュートラルの基本
カーボンニュートラルとは?
よく耳にするカーボンニュートラルという言葉。これは、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを表しています。では、どうやって実質ゼロにするのか。そのためには、①省エネ、②電源の脱炭素化や非電力部門のCO₂排出原単位(一定量のエネルギーをつくる場合のCO₂排出量)の低減、③非電力部門の電化、④ネガティブエミッション※を組み合わせ、トータルでのカーボンニュートラルを目指すことが重要になります。また、温室効果ガスには二酸化炭素(CO₂)、メタン( CH4) 一酸化二窒素(N₂O)、代替フロン等4ガスなどがありますが、最も排出量が多いのは二酸化炭素(CO₂)となっています。
※ネガティブエミッション:
植林を進めて光合成に使われる大気中のCO2の吸収量を増やしたり、「BECCS」(バイオマス燃料の使用時に排出されたCO2を回収して地中に貯留する技術)や「DACCS」(大気中にすでに存在するCO2を直接回収して貯留する技術)などを活用したりすることにより、大気中のCO2を減少させること。
出典元:資源エネルギー庁「カーボンニュートラル」って何ですか?(後編)~なぜ日本は実現を目指しているの?」
カーボンニュートラルに向けた目標
日本では2020年10月、当時の菅義偉総理大臣が所信表明演説で2050年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言しました。
地球規模の気候変動が世界の共通課題となる一方、世界ではエネルギーの需要の高まりとともに安定供給が求められています。再生可能エネルギーやカーボンニュートラルに関連する業界は世界的に注目を集めており、今後の展開に期待が高まっています。こうした背景のもと、日本でも脱炭素社会の実現を成長戦略として位置付けたことで、環境意識の高まりとカーボンニュートラルの動きが加速しました。
2021年には地球温暖化対策推進法が一部改正され、2050年のカーボンニュートラルの実現が法律で明記されました。同年に改訂された地球温暖化対策計画では、2050年カーボンニュートラルに向けて、2030年度までに2013年度比で温室効果ガスの排出量を46%削減し、50%削減への挑戦を続けるという中期目標が掲げられました。基準年である2013年度に14.07億トンだった日本の温室効果ガスの排出量は2022年度に10.8億トンと順調に減少しています。
さらに、直近では、2024年6月に地球温暖化対策推進法を一部改正する法律が成立し、二国間クレジット制度(JCM)の実施体制を強化するための規定を整備するとともに、地域脱炭素化促進事業制度の拡充等の措置を講じ、国内外で地球温暖化対策を加速する内容が盛り込まれました。また、今回の改正では日常生活の温室効果ガス排出量削減を促進するため、原材料調達から廃棄までのライフサイクル全体で排出量が少ない製品等の選択やライフスタイル転換を国民に促す規定も設けられています。
なぜカーボンニュートラルが必要なのか
人間の活動がもたらした気温上昇
工業化以降、人間の活動によって世界の温室効果ガスが増加しており、20世紀半ばからの世界平均気温の上昇は、人間が排出した温室効果ガスの増加がもたらした可能性が高い──。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がそう報告したのは2007年のこと。この報告書ではさらに、気温上昇は海洋や河川、陸のあらゆる生物や植物、農業や人間の健康にも影響を与えることが述べられています。
人為的に排出し続けた温室効果ガスは、森林などに吸収されるものもありますが、その吸収量を上回った分は大気中の温室効果ガスが増加します。そこへさらに温室効果ガスが放出され、大気中の濃度が高まると気温は上昇し続けます。
温室効果ガスの排出に伴って世界の平均気温は上がり続けており、平均降水量の増加や海洋水温の上昇、雪・氷の減少などが確認されています。海面水位が上昇すれば、沿岸地域では居住地やインフラが侵食されます。また、温暖化は海と陸の生態系に影響を与え、食糧の生産性を低下させる恐れがあります。このように気候変動は自然や生態系はもとより、人間の暮らしや健康にも大きな影響を与えるものなのです。
カーボンニュートラルの重要性
地球規模の気候変動の抑制に向けて、2015年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)でパリ協定が採択されました。パリ協定では「世界的な平均気温上昇を工業化以前と比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力をする」ことが世界共通の長期目標として定められました。
1850年~1900年を基準とした世界の平均気温は2011年~2020年に1.1℃温暖化し、21世紀の間に1.5℃の上昇幅を超えるという予測もあります。人間の活動がもたらした気候変動により、大気、海洋、雪氷圏、生物圏で過去数百年から数千年にわたって前例のない広範かつ急速な変化が現れてきています。
こうした事態を防ぐには、温室効果ガスの排出を抑え、温暖化の進行に歯止めをかけなくてはなりません。その上で、カーボンニュートラルへの取り組みは必須ですが、温暖化を1.5℃または2℃に抑えるためには、早急かつ抜本的に取り組みを進める必要があります。
カーボンニュートラルの取り組み
世界各国のカーボンニュートラルの取り組み
国・地域別のCO2排出量(2020年)を見ると、中国をトップにアメリカ、欧州連合(EU27カ国)、インド、ロシア、日本、ブラジルと続いています。途上国でも工業化やエネルギー需要の高まりとともにCO2排出量が増加しており、世界全体での取り組みが欠かせません。
2015年にCOP21で採択されたパリ協定でも、先進国や途上国の区別なく、すべての締約国が温室効果ガスの削減目標を設定することになっており、その数は195の国と地域に及びます。日本、アメリカ、イギリス、欧州連合、カナダ、ブラジルといった主要国は、2050年までにカーボンニュートラルを実現すること宣言しています。
欧州連合はカーボンニュートラルと持続可能な経済成長を両立する欧州グリーン・ディールを2019年に発表し、成長戦略として巨額の先行投資を実施。2030年までに温室効果ガスを55%削減するため、気候変動政策パッケージFit for 55(FF55)を2021年に発表しました。EU域内では温室効果ガスの排出量に応じて経済的な負担を課すEU域内排出量取引制度( EU-ETS)を2005年から実施していますが、2026年からはEU域外からの輸入品に対してもEU ETSの市場取引価格と連動したカーボンプライシング(炭素価格)を課す「炭素国境調査メカニズム」(CBAM)制度の導入が予定されています。
このCBAM規則は2023年5月17日に施行され、2026年からの本格適用を前に2023年10月1日からは対象事業者に報告義務を課す移行期間が開始。CBAM規則ではカーボンリーケージ※のリスクが高い分野(鉄鋼、アルミニウム、肥料(アンモニアを含む)、セメント、水素、電力)を対象としているが、欧州員会ではさらなる製品の追加も検討しており、今後の動向が注目されています。
※カーボンリーケージ:
国・地域間で炭素価格が異なる場合、国際競争の観点から、炭素価格がより高い地域から企業が転出し、炭素価格がより低い地域の排出が増加すること。カーボンリーケージは、①炭素価格を課された企業が市場シェアを失う場合、②新規の投資が炭素価格が低い地域の方が有利な場合、③炭素価格によって化石燃料価格が低下する場合、の3つのケースで起こる。③については、炭素価格の違いに起因したカーボンリーケージではないが、カーボンプライシングの実施が間接的に域外の排出増加を引き起こす事例。(環境省:カーボンプライシングの効果・影響)
また、トランプ政権時代にパリ協定を離脱していたアメリカは、2021年にバイデン大統領が就任するとパリ協定に復帰。就任直後に気候サミットを主催したほか、2050年のカーボンニュートラル実現に向けたインフラやクリーンエネルギーへの巨額な投資を実施するなど、国際社会を牽引する姿勢を見せています。
2020年時点でCO2排出量が最も多い中国は、2030年までにカーボンピークアウト(CO2排出量を減少させること)、さらに2060年までにカーボンニュートラルを実現することを表明。二つの目標を合わせて「双炭」と呼び、その実現に向けた政策を実施。中国における事業活動では、経営コストの増加や、監督管理・処罰の厳格化などを考慮する必要があります。
日本のカーボンニュートラルの取り組み
2050年までにカーボンニュートラルを実現するためには、新たな技術の開発やエネルギー転換が必要です。そこで日本では経済産業省が中心となって「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(グリーン成長戦略)を2021年に策定しました。これは、産業政策とエネルギー政策の両面で成長が期待できる14分野の取り組みや目標を具体化したものです。
また、グリーン成長戦略を後押しするため、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に総額2兆円(2021年3月時点)のグリーンイノベーション基金が造成されました。これは、重点分野の野心的な目標にコミットする企業の研究開発プロジェクトに対し、研究開発・実証から社会実装までを最長10年にわたって継続支援するというもの。さらにグリーン成長戦略では、国際連携や大学における取り組み等の推進も示されています。
2022年にロシアによるウクライナへの軍事侵攻が行われ、エネルギーの安定供給の確保が世界的な課題となる中、日本では2023年にGX推進法に基づいた脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(GX推進戦略)が閣議決定されました。これは、今後10年にわたって官民合わせて150兆円のGX投資を行うことで、2050年のカーボンニュートラルの達成とともに産業競争力の強化と経済成長を目指すというもの。今後 10 年間で 150 兆円規模のGX 投資を官民協調で実現していくためには、国として長期・複数年度にわたり支援策を講じ、民間事業者の予見可能性を高めていく必要があるため、日本政府は民間事業者の予見可能性を高めていくため、GX経済移行債を創設。このGX経済移行債では、国として 20 兆円規模の大胆な先行投資支援を実行していく方針を掲げています。
GX推進戦略ではGX経済移行債の発行以外にも、成長志向型カーボンプライシングの導入やGX推進機構の設立、GX投資等の実施状況やCO2の排出に係る国内外の経済動向等を踏まえた進捗評価と必要な見直しを講じることが盛り込まれています。
これからはサプライチェーン全体でカーボンニュートラルに取り組む時代に
このように気候変動への対策は、各国とも国家戦略として進めており、カーボンニュートラルへの取り組みも、もはや一部の企業だけが行えばよいというものではありません。そういった意味では、サプライチェーン全体で温室効果ガスの排出量の削減を進め、その進捗を様々なステークホルダーに透明性を持って開示していくことが当たり前になる時代が、もう目の前まで来ているとも言えます。
こうした中で、サプライチェーンの川上で様々な製品の素材を供給している三井化学グループでは、「世界を素(もと)から変えていく」をコンセプトに、カーボンニュートラルの実現に向け、社会のバイオマス化に取り組んでいます。具体的には、プラスチックの素(原料)である炭化水素の原子の由来を見直し、従来の石油由来ではなく、カーボンニュートラルに貢献するバイオマス由来の炭化水素を原料とした、マスバランス方式によるバイオマスプラスチックの供給を開始しています。
この「世界を素(もと)から変えていく」アプローチにより、我々のお客さまだけでなく、さらにその先のお客さまを含めたサプライチェーン・バリューチェーン全体でのカーボンニュートラルの実現に貢献し、リジェネラティブ(再生的)な世界に向けた取り組みを一段と進めていきたいと考えています。
カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討されている企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。リジェネラティブな社会に向けて行動する「RePLAYER®」「BePLAYER®」はこちら。
カーボンニュートラルと企業の取り組みについては「カーボンニュートラルへの企業の取り組み!国内や海外の事例を紹介」で詳しく解説しています。
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- 参考資料
- *1:環境省 2022年度の我が国の温室効果ガス排出・吸収量について:
https://www.env.go.jp/content/000216325.pdf - *2:国立環境研究所 2℃目標、1,5℃目標の実現のために:
https://www.nies.go.jp/kanko/news/38/38-3/38-3-02.html - *3:環境省 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書の概要 -第2作業部会(影響、適応、及び脆弱性)-:
https://www.env.go.jp/content/000155003.pdf - *4:環境省 IPCC第6次評価報告書(A6) 統合報告書 2023年4月 環境省 地球環境局:
https://www.env.go.jp/content/000126429.pdf - *5:経済産業省 グリーン社会の実現に向けた競争政策研究会 カーボンニュートラルと国際的な政策の動向及び企業への影響:
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/green_shakai/pdf/004_06_02.pdf - *6:JERAゼロエミッション:
https://www.jera.co.jp/corporate/about/zeroemission