- サーキュラーエコノミー
【DPP最新動向】国際データ連携とサプライチェーンの課題とは?
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EUで導入が進むDPP(デジタルプロダクトパスポート)への対応では、企業間で安全にデータを共有できる「データスペース」の活用が重要になっています。
欧州のCatena-Xや日本のウラノス・エコシステムを中心に、国際的なデータ連携基盤の整備が進み、サプライチェーン全体での情報共有が現実のものとなりつつあります。本記事では、データスペースの基本的な仕組みから国内外の最新動向、企業が直面するシステム課題、DPP対応に向けた実務ステップまでわかりやすく解説します。
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監修 中村 晟一朗(なかむら せいいちろう) |
DPPのデータ連携に必要な「データスペース」最新動向
<コネクタ型のデータスペースの仕組み>
出典: デジタル庁「データ連携により実現するデータスペースエコノミー」p.10
データスペースとは、DPP(デジタルプロダクトパスポート)を社会で機能させるために不可欠な分散型のデータ流通基盤です。特定の組織にデータを集約せず、各企業が自社システム内にデータを置いたまま、必要なときだけ安全に連携できます。
このように企業ごとにデータを管理しながら、異なる組織・国間、異業種間で安全なデータ連携を実現するため、データスペースにはデータの信頼性を支えるさまざまな機能が備わっています。
例えば、認証・認可により、アクセスしてきた相手を認証し、契約条件を満たした場合にのみデータへのアクセスを許可します。また、来歴管理によって、誰がいつどのデータを取得・加工したかを記録し、データの信頼性や真正性を確保しています。
※DPPについては「DPP(デジタルプロダクトパスポート)とは?背景や仕組みを解説」にて詳しく解説しています。
欧州のデータスペース:Catena-X
<Catena-Xにおける分散型IDの利用イメージ>
出典:経済産業省「Open Dataspaces, Catena-X, GAIA-X Ouranos Study Group.Session #2.」P.13
Catena-Xとは、欧州の共通デジタルインフラ構想「Gaia-X」の技術を基礎として構築された、自動車産業向けの国際的なデータスペースです。Gaia-X構想における、「ライトハウスプロジェクト(先導的プロジェクト)」の1つとして始まり、2026年現在では自動車産業のデータ連携を支える中核的な基盤となっています。
自動車産業では、多くの企業がサプライチェーンに関わるため、製品情報の一元管理は容易ではありません。Catena-Xは、共通のデータ規格を採用することで、原材料の調達から製造、車両の利用、リサイクルまで、自動車のライフサイクル全体にわたる安全な情報共有を実現します。
なかでも、実務上の重要なポイントとなるのが、すでに多くの企業が利用している材料情報伝達基盤「IMDS(International Material Data System)」との相互運用性です。Catena-Xでは、既存のIMDSとCatena-Xをシームレスに接続し、データの二重ハンドリングを回避するための取り組みが進められています。このように既存インフラとの調和を図ることで、サプライチェーン全体におけるCFP(カーボンフットプリント)をはじめとする情報の追跡・管理や、DPPに求められる情報共有を、負担を抑えながら安全に実現することが可能になります。
Catena-Xは、2023年の本格稼働開始以降、技術的な実証から実運用に向けた取り組みが進められています。2026年現在では、自動車サプライチェーンにおけるデータ連携基盤として、企業による活用が広がっています。
日本のデータスペース:Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)
Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)とは、企業や業界、国境を越えてデータを安全に連携・共有するための、日本発のデータスペースです。
<ウラノス・エコシステムのデータ連携基盤>
出典:経済産業省「ウラノス・エコシステムの取組について」P.6
ウラノス・エコシステムが開発された背景には、EUで進むデータ主権を重視したデータスペースの存在や、米中の巨大IT企業など特定の事業者にデータが集中することへの危機感があります。
こうした国際的なデータ流通ルールの変化を受け、日本企業がデータ連携の潮流から取り残されることを防ぎ、自社のデータ主権を確保しながら安全に情報を共有できる環境を構築するため、ウラノス・エコシステムの整備が進められました。
従来のような個者による「部分最適」ではなく、産学官が連携し、業界横断で利用できる「国の全体最適」を目指している点が特徴です。
覚書締結から始まったバッテリーパスポートのデータ連携
一方で、グローバル市場で事業を展開するには、国内のデータ連携基盤のみならず、海外のデータスペースと安全に接続できる環境も必要です。
特に自動車産業では、バッテリー規則をはじめとした環境規制への対応が進む中、日本企業が欧州市場で製品を展開し続けるためには、ウラノス・エコシステムと欧州のデータスペースを安全につなぐ仕組みが不可欠です。
こうした国際的なデータ連携を実現するには、自社のデータ主権を守りながら、異なるデータスペース間で情報をやり取りできる「相互運用性」の確保が重要になります。
こうした課題を解決するため、2024年4月、ウラノス・エコシステムの実装を推進するIPA(情報処理推進機構)と、Catena-Xは、自動車分野におけるデータ連携の相互運用性検証に向けた覚書(MOU)を締結しました。この締結により、日欧のデータ連携基盤を接続するための技術検証が開始されました。
その後、2025年3月には、両者による概念実証(PoC)の完了が発表されました。検証では、両システムの間に中間層を設けることで、それぞれのシステム構造を変更せずに、バッテリー製品のCFPデータを相互交換することに成功しました。
EUでは、2027年2月18日から電気自動車用バッテリーなどを対象に、完成品をEU市場に投入する事業者に対し、CFPを含むデータを記録する「バッテリーパスポート」の導入が義務化されます。今回の日欧連携による技術実証は、日本企業がウラノス・エコシステムを利用しながらEUのバッテリー規則へ対応するための具体的な道筋を示す成果となりました。
DPP対応においてサプライチェーンが直面する「3つのシステム課題」
DPP対応では、単にデータを収集して開示するだけではなく、サプライチェーン全体でデータを安全かつ継続的に連携できる仕組みが必要になります。その過程で企業は、「データ収集」「情報管理」「システム間連携」という3つの観点で課題に直面しています。
課題1:サプライチェーンを遡る環境データ収集の負荷
DPP対応では、完成品メーカーのみならず、部品メーカーや素材・原材料メーカーなど、サプライチェーンを遡り必要な環境データを収集することが求められます。さらに、製品によってはリサイクルなど使用済み段階に関する情報を扱う必要もあります。
しかし、企業間をまたぐデータ収集には大きな負荷が伴います。企業にサプライチェーンを通じたデータ収集が求められる背景には、主に「規制」「標準化」「取引先企業」という3つの要因があります。
『令和6年度重要技術総合管理事業(産業データ連携に関する調査)調査報告書』では、この構造を以下のように整理しています。
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「規制」からの圧力(政府・自治体)
EUのエコデザイン規則やDPP義務化など、法令対応を求める要請です。未対応の場合、市場参入制限や罰則のリスクが生じるため、企業には対応が求められています。
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「標準化」からの圧力(業界団体)
Catena-Xなどの国際的なデータ連携エコシステムへの対応です。業界標準に対応できなければ、グローバルなサプライチェーンでの競争力維持が困難になる可能性があります。
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「お客様」からの圧力(下流企業)
規制や標準化への対応を進める完成品メーカーが、上流サプライヤーにデータ提供を求める要請です。取引継続にも関わるため、企業規模を問わず対応が求められています。
このように、企業は規制対応、国際標準への対応、取引先からの要求という複数の要請に同時に対応する必要があります。その結果、これまで個社内で管理していた情報のみならず、サプライチェーン上流のデータまで収集・確認する必要が生じ、現場のデータ収集負荷が大きくなっています。
課題2:データ開示と「営業秘密」保護のトレードオフ
DPPの導入は、製品ライフサイクル全体の透明性を高める一方で、企業にとって競争力の源泉である営業秘密をどこまで開示し、どこまで保護するかという課題をもたらします。
特に、国際的なデータ連携を進める上では、データ開示を求められるサプライチェーン上の企業(特に部品・部素材メーカーなどのサプライヤー)にとって、以下のような情報開示上の懸念が生じます。
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ノウハウ流出リスク
部材構成や調達先、製造方法などの情報開示により、自社のコア技術や製造ノウハウが競合他社へ流出するリスクがあります。
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各国の規制との衝突リスク
国境をまたぐ共有では、各国のデータ規制の違いにより、必要な情報を適切に共有できない可能性があります。
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海外政府等への技術漏洩リスク
外国政府や公的機関から情報提供を求められ、材料や製造方法などの技術情報が意図せず流出する懸念があります。
課題3:国境や業界を越えるデータ規格(識別子)の標準化
DPPを通じて製品ライフサイクルを追跡するには、製品や部品ごとに識別子を付与し、関連データを紐付ける必要があります。しかし、企業や業界、国境を越えたデータ連携では、各システムでデータ形式や識別子(DPP規格)の仕様が異なることが大きな課題となっています。
異なるプラットフォーム間で連携する場合、企業は個別にデータ変換やシステム改修を行う必要があり、運用負荷やコストの増大につながります。
また、連携を急ぐあまり、欧州など海外のデータ連携仕様やシステムに過度に依存することにもリスクがあります。特定の海外ベンダーが提供するシステムや規格に合わせると、他のシステムへの移行が困難になる「ベンダーロックイン」に陥る可能性があります。
こうした課題を解決するためには、共通のデータ標準化アプローチが重要です。その一例として注目されているのが、ウラノス・エコシステムとCatena-Xの技術実証で導入された「中間層」の仕組みです。
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出典:独立行政法人情報処理推進機構「プレス発表 ウラノス・エコシステムとCatena-X、データスペースの相互運用性を実証」
この実証では、異なるデータスペース間に、プロトコルなどの違いを吸収する中間層を設けることで、既存システムの構造を変更せずにCFPデータを相互交換することに成功しました。
このように、標準化された中間層やコネクタを活用することで、企業は既存システムを維持しながら、特定のプラットフォームに依存せず、安全かつ柔軟なデータ連携を実現できます。
DPP対応を進めるための実務ステップ
DPP対応は、一度にすべてを整備しようとするのではなく、優先順位を付けながら段階的に進めることが重要です。
まずは自社が保有するデータを整理し、必要な情報を可視化したうえで、小規模なデータ連携から運用を検証します。その後、営業秘密を保護しながら将来の制度変更や国際的なデータ連携にも対応できる基盤を整備していくことが求められます。
ここでは、DPP対応を進めるための実務ステップを2つの観点から解説します。
ステップ1:自社データの棚卸しとCFPの可視化
DPP対応に向けた第一歩は、製品ライフサイクル全体を俯瞰し、自社が保有しているデータと、サプライチェーンから取得する必要があるデータを整理することです。
まずは、対象製品についてDPPや関連規制で求められる要件を確認します。そのうえで、CFPをはじめ、リサイクル材の使用割合、耐久性、修理関連情報など、収集・管理すべきデータ項目を洗い出します。
ただし、最初からサプライチェーン全体のデータを網羅的に収集しようとすると、多くの時間や労力が必要になります。そのため、まずは対象製品や重要部品に範囲を絞り、関係するサプライヤーとのデータ連携を試行することが現実的です。
こうした小規模な検証を通じて、データ収集の方法や、サプライヤー側が抱える機密情報保護への懸念やシステム対応の負荷などの課題を把握できます。その結果を踏まえて運用方法を改善しながら、本格的なデータ連携に向けた基盤を整備していきます。
ステップ2:データ主権を守るプラットフォームとIT技術の選定
企業が自社の営業秘密を守りながら、環境規制で開示が要求される環境価値データだけをサプライチェーン上で安全に流通させるためには、IT技術の選定基準を確立しておくことが重要です。
その際の考え方として広く用いられているのが、国際的な参照モデルである「IDS-RAM(International Dataspaces Reference Architecture Model)」です。日本のウラノス・エコシステムは、このIDS-RAMなどの考え方も踏まえつつ、独自に策定されたもので、安全なデータ連携を実現するための指針として用いられます。
参照モデル(参照アーキテクチャ)は、システムの構成要素や役割、それらの関係性を抽象化して示した参照文書です。実際のシステムを設計する際にこれを参照するため、設計上の指針として用いられる、という意味です。
具体的には、自社の機密データと、開示可能なデータを適切に区別し、相手の役割に応じて閲覧・利用できる範囲を細かく設定できる「アクセス制御」機能が必要です。
また、データの真正性と完全性を担保するため、通信の暗号化やセキュア通信に加え、データの転送・保存時に改ざんが発生していないことを証明できる技術が求められます。
そのため、自社システムを維持したまま、日欧間の相互運用性が確認されている中間層によるデータ連携に対応したプラットフォームを選ぶことが重要です。
つまり、これからのプラットフォーム選定では、データを守るセキュリティと将来の制度や海外システムにも柔軟に対応できる相互運用性の両方を備えていることが重要な判断基準になります。
DPPは単なる規制対応ではなく次世代のデータインフラへ
これまで、EU主導で進むCatena-Xなどのデータスペースや、日本のウラノス・エコシステムの動向、サプライチェーンが直面する「3つのシステム課題(データ収集の負荷、営業秘密の保護、規格の標準化)」、さらに対応に向けた実務ステップについて解説してきました。
DPPへの対応は、単なるコスト増加や規制への義務的な対応ではありません。サプライチェーン全体のデータ連携を通じて、自社のデータ主権を保護しながら、製品の環境価値を正しく証明するための「次世代データインフラ構築」と捉えることが重要です。
これからのグローバル市場ではCFPなどの環境情報を客観的なデータで示せることが、企業の競争力や取引機会を左右する要素になります。DPP対応を早期に進めることは、日本企業が培ってきた高品質な製品づくりや環境配慮といった強みを可視化し、新たな価値として発信する機会にもなるでしょう。
三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。
- 参考資料
- *1:独立行政法人 情報処理推進機構「データスペース入門」:
https://www.ipa.go.jp/digital/data/jod03a000000a82y-att/dataspaces-gb.pdf - *2:デジタル庁「データ連携により実現可能なサービス」:
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/541c6d41-59b2-4017-8b06-833f7483fdc8/faf967cc/20221221_meeting_data_strategy_outline_02.pdf - *3:Catena-x:
https://catena-x.net/ - *4:独立行政法人情報処理推進機構「プレス発表 ウラノス・エコシステムとCatena-X、データスペースの相互運用性を実証」:
https://www.ipa.go.jp/pressrelease/2024/press20250331.html - *5:独立行政法人 情報処理推進機構 「産業データ連携推進のためのエコシステム事例調査報告書」:
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/82a1ea56-128f-4cf6-bbd5-9ef6d4b7bafc/afb72da5/20260428_policies_budget_report_data_coordination_ecosystem.pdf - *6:経済産業省「Whitepaper: ウラノス・エコシステム・データスペーシズ リファレンスアーキテクチャモデル (ODS-RAM V1)」:
https://www.ipa.go.jp/digital/architecture/Individual-link/h5f8pg0000003h0k-att/ouranos-ecosystem-dataspaces-ram-white-paper.pdf