ARTICLE記事

  • HOME
  • 日本の炭素税の現状とは?2028年度導入の化石燃料賦課金やCBAMの影響

文字サイズ

  • 標準

日本の炭素税の現状とは?2028年度導入の化石燃料賦課金やCBAMの影響

炭素税

2028年度から始まる化石燃料賦課金で、自社のコストがどう変わるのか気になっている方も多いのではないでしょうか。日本の炭素税は、現行の地球温暖化対策税から新たな制度へと移行する転換点にあります。

今回の記事では、日本の炭素税の現状と課題、化石燃料賦課金の仕組み、EUのCBAM(炭素国境調整措置)との関係、そして企業に求められる備えを解説します。

監修

諸富 徹(もろとみ とおる)
京都大学公共政策大学院教授
環境経済学と財政学が専門。企業のGX(グリーン・トランスフォーメーション)投資を本格化させる鍵として、カーボンプライシングの導入と、その税収を成長分野へ再投資する政策パッケージを一貫して提言。カーボンニュートラル実現に向けた企業の挑戦を後押しし、日本経済が環境と成長を両立させながら発展する未来を目指している。

 

炭素税の現状と制度移行の背景

日本では2026年現在、「地球温暖化対策のための税(地球温暖化対策税)」が導入されています。さらに、政府はGX(グリーントランスフォーメーション)の実現に向けて、2028年度から「化石燃料賦課金」という新たな制度の導入を決定しています。
まずは、現行制度の課題を整理し、なぜ新しい制度設計が必要とされているのかを見ていきましょう。

現行「地球温暖化対策税」の課題と限界

地球温暖化対策税は、2012年に日本で導入された、いわゆる炭素税に相当する税です。

既存の石油石炭税の徴税スキームを活用した上乗せ課税で、税率はCO₂排出量1t当たり289円(289円/t-CO₂)に設定されています。

課題として指摘されているのは、その水準の低さです。欧州には1t当たり数千円から2万円近い炭素税を導入している国もあり、日本の289円との間には大きな開きがあります。
この低さは、国内の排出量削減インセンティブが弱いという話だけにとどまりません。後述するEUのCBAM(炭素国境調整措置)では、原産国で支払った炭素価格が低いほど、EU側で求められる負担が大きくなり得るためです。日本企業の不利益やリスクを避ける観点からも、国内の炭素価格制度の強化、すなわち先行して発行される「GX経済移行債」の将来的な償還財源となる、2028年度の化石燃料賦課金の導入へとつながっていきました。

2028年度開始の「化石燃料賦課金」とは?

化石燃料賦課金とは、GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)に基づき、2028年度から徴収が始まる新たなカーボンプライシングです。

化石燃料に由来するCO₂排出量に応じて負担を求める仕組みであり、「実質的な日本の新・炭素税」と位置づけられます。ただし、法律上は税ではなく賦課金であり、徴収はGX推進機構が担います。

徴収は燃料輸入などの上流で行われますが、負担は最終的に電気代や燃料費を通じて幅広い企業のコストへ波及します。本章では、導入時期、徴収対象、そして集めた資金の使いみちという3つの観点から、制度の全体像を解説します。

化石燃料賦課金の導入時期

化石燃料賦課金の徴収は、2028年度に開始されます。具体的な単価はまだ公表されておらず、法律で定められた上限・下限の範囲内で、年度ごとに政令で定められる仕組みです。

ポイントは、当初は低い負担で導入し、徐々に引き上げていく方針があらかじめ示されていることです。企業が将来の炭素コストを見通せる「予見可能性」に配慮した設計と言えます。政府の「GX実現に向けた基本方針」(2023年2月閣議決定)では、導入の前提として次の2点が明確にされています。

・エネルギーに係る負担の総額を中長期的に減少させていく中で導入する
・再エネ賦課金総額が買取価格の低下等によりピークを迎えた後に減少していくことを踏まえて導入する

つまり、石油石炭税収や再エネ賦課金の減少と入れ替わる形で導入することで、社会全体のエネルギー負担の総額を増やさずに炭素価格を高めていく考え方です。なお、2033年度からは発電事業者を対象とした排出枠の有償オークションも始まる予定で、日本のカーボンプライシングは段階的に本格化していきます。

<GX関連制度のスケジュール>
GX関連制度のスケジュール

参考:内閣官房「GX実現に向けた基本方針」環境省「我が国におけるカーボンプライシングの導入に向けた検討状況」を元に作成

徴収対象と電力・エネルギーコストへの波及

化石燃料賦課金を納めるのは、化石燃料の輸入事業者等(原油等を採取し、または保税地域から引き取る事業者)です。現行の石油石炭税(およびその上乗せである地球温暖化対策税)と同様に、燃料がサプライチェーンに入る前の「上流」でまとめて徴収します。対象燃料は、原油や石油製品に加え、天然ガス(LNG)、LPG、石炭と、化石燃料全般に及びます。

注意したいのは、徴収が上流で行われても、負担が生活者である下流にも及ぶことです。賦課金のコストは電気料金や燃料価格に転嫁され、さらに原材料費や物流費を通じてサプライチェーン全体へ波及していきます。化石燃料を直接輸入しない企業にとっても、エネルギーコストや調達コストの上昇という形で影響が現れる可能性が高い制度です。なお、電気料金の明細に上乗せされて需要家から直接集める再エネ賦課金とは異なり、化石燃料賦課金は上流の事業者から徴収し、価格転嫁を通じて間接的に負担が及ぶ形です。対象の詳細や単価は、今後政令等で具体化される予定です。

<化石燃料賦課金の徴収と価格転嫁のイメージ>
化石燃料賦課金の徴収と価格転嫁のイメージ

参考:GX推進法(令和5年法律第32号)、GX推進機構「排出量取引制度・化石燃料賦課金」を元に作成

化石燃料賦課金が「前倒しのGX投資支援」を支える

化石燃料賦課金として集められる資金は、「GX経済移行債」の償還財源に充てられます。GX経済移行債とは、GX投資への支援を目的に国が発行する国債で、企業のカーボンニュートラルに向けた投資への補助金などの原資として、すでに先行して活用されています。つまり、先に国債でGX投資支援を行い、将来の賦課金収入等を返済の裏付けとして後から回収する、という順序です。

この設計により、炭素価格の負担が本格化する前の段階から、GX投資への支援を前倒しで実施できます。化石燃料賦課金は単なる負担増ではなく、企業のカーボンニュートラルに向けた投資を支える資金循環の一部という側面を持っています。

※GX経済移行債の発行規模やGX推進法の全体像は、「GX推進法とは?目的・概要から今後のスケジュールまでわかりやすく解説」にて解説しています。

「CBAM(炭素国境調整措置)」との相殺ロジック

CBAM(炭素国境調整措置)とは、EUが導入した「国境を越える炭素価格の調整」の仕組みです。

EU域内の企業は排出量取引(EU-ETS)を通じて炭素コストを負担しているため、炭素価格の低い国からの輸入品が価格面で有利になれば、生産と排出が域外へ流出しかねません。CBAMはこれを防ぐため、対象製品の輸入時に、製造時のCO₂排出量に応じた費用負担をEUの輸入者に求める制度で、2026年1月から本格適用の段階に入っています(ただし、CBAM証書の「販売=実質的な金銭負担」が始まるのは2027年2月、2026年の輸入分に係る初回の年次申告期限は2027年9月30日)。

実は、日本の化石燃料賦課金は、このCBAMと無関係ではありません。国内で支払う炭素価格とEUで求められる負担との間には「相殺」の関係があり、同じ排出量への二重の支払いを避ける仕組みが用意されているためです。

※CBAMの制度詳細は、「CBAM(炭素国境調整措置)とは?日本企業への影響と対策」にて解説しています。

炭素価格がCBAM負担額から控除される仕組み

CBAMの規定では、原産国で実効的に支払われた炭素価格は、EUの輸入者が購入すべきCBAM証書の必要量から控除されます。ここで言う相殺とは、CO₂排出量そのものが打ち消されるという意味ではありません。同じ排出量に対して炭素コストを二重に支払わずに済む、金銭面の調整を指します。

日本企業の視点では、次のような構図です。
日本の炭素価格が低いままであれば、EU向け製品にはEU側で相応のCBAM負担が発生し得ます。反対に、化石燃料賦課金によって国内で支払う炭素価格が高まれば、その分は控除によってEU側の負担から差し引かれ、支払い先が「EU」から「日本国内」へ置き換わっていきます。国内で支払われた資金はGX投資支援として国内に還流するため、資金の域外流出を抑える効果も期待されています。

なお、CBAMの対象品目は現在、セメント、肥料、電気、鉄鋼、アルミニウム、水素の6分野に限られており、対象拡大の検討も進んでいます。また、日本の化石燃料賦課金がどの程度控除として認められるかは、今後のEU側の運用により確定していく段階です。EU向けビジネスを持つ企業は、制度動向の継続的な確認が欠かせません。

<CBAMにおける炭素価格控除のイメージ>
CBAMにおける炭素価格控除のイメージ

参考:EU規則2023/956(CBAM規則)ジェトロ「EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)の解説(基礎編)」を元に作成

企業に求められる対応と将来コストへの備え

2028年度の化石燃料賦課金の開始に向けて、企業には何ができるでしょうか。ここまで見てきたとおり、賦課金の負担は電気代や調達コストを通じて幅広い企業に及び、EU向けビジネスではCBAMへの対応も重なります。制度開始を見据えた備えとして、一般的には次のような取り組みが挙げられます。

・自社のエネルギーコスト・排出量への影響の把握
・インターナルカーボンプライシング(ICP)を活用した投資判断への織り込み
・省エネルギー、燃料転換、調達素材の見直しの検討

いずれも一律に「こうすべき」というものではなく、事業構造やEU向け売上の有無によって優先順位は変わります。最後に、これらの出発点となる取り組みを紹介します。

自社の排出量可視化と「ICPの活用」

最初の一歩は、自社のエネルギーコスト構造とCO₂排出量の可視化です。化石燃料賦課金は電力・燃料価格への転嫁を通じて影響するため、どの拠点でどれだけのエネルギーを使い、どれだけのCO₂を排出しているかを把握できていなければ、負担額の見通しも、対策の優先順位づけもできません。

その上で有効になるのが、ICPの活用です。ICPとは、社内で独自に炭素価格を設定し、省エネ投資や設備更新などの意思決定に組み込む手法を指します。将来の炭素価格を先取りして投資判断に織り込むことで、賦課金の段階的な引き上げやCBAMのような制度変化への耐性を高められます。環境省も活用ガイドを公表しており、国内でも導入が広がっています。

2028年度はまだ先に見えますが、排出量の可視化やICPの検討には相応の時間がかかります。単価などの詳細が固まる前の今だからこそ、自社への影響の把握から始めてみてはいかがでしょうか。

※ICPの仕組みや導入ステップは、関連記事「インターナルカーボンプライシング(ICP)とは?導入目的、メリットを徹底解説」にて解説しています。

三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

参考資料
*1:環境省「地球温暖化対策のための税の導入」:
https://www.env.go.jp/policy/tax/about.html
*2:環境省「我が国におけるカーボンプライシングの導入に向けた検討状況」p.3-4:
https://www.env.go.jp/content/000209894.pdf
*3:環境省「諸外国におけるカーボンプライシングの導入状況等」p.4-5:
https://www.env.go.jp/content/000209895.pdf
*4:内閣官房「GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」(2023年2月10日閣議決定)p.17-18:
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/pdf/kihon.pdf
*5:e-Gov法令検索「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(令和5年法律第32号)第2条、第11条、第14条:
https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000032
*6:経済産業省・内閣官房GX実行推進室「成長志向型カーボンプライシング構想について」p.6-7:
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20231225/231225energy04.pdf
*7:GX推進機構「排出量取引制度・化石燃料賦課金」:
https://www.gxa.go.jp/carbon-trade-levy/
*8:日本貿易振興機構(ジェトロ)「EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)の解説(基礎編)」(2024年2月):
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/b56f3df1fcebeecd/20230036.pdf
*9:日本貿易振興機構(ジェトロ)「EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)の簡素化規則の解説」(2026年2月):
https://www.jetro.go.jp/world/reports/2026/01/84f13519647461c4.html
*10:環境省「インターナルカーボンプライシング活用ガイド」:
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/guide/ICP_katsuyou_guideline.pdf

関連記事

DOCUMENTS資料ダウンロード

~Scope3カテゴリ1削減を数字で見る~プラスチック製品の環境負荷低減に向けた手引書

~Scope3カテゴリ1削減を数字で見る~プラスチック製品の環境負荷低減に向けた手引書

NewsPicks Brand Design主催イベント『マーケターのためのサステナブル訴求実践論 - サステナは売れないをどう乗り越えるか』

NewsPicks Brand Design主催イベント『マーケターのためのサステナブル訴求実践論 - サステナは売れないをどう乗り越えるか』

ケミカルリサイクル採用事例集

ケミカルリサイクル採用事例集

CONTACT