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「知る」フェーズから、共に「削減する」フェーズへ。鹿島建設のサプライチェーン排出量(Scope3)削減に向けた挑戦。

世界のCO₂排出量の約4割を占める建設業。そのリーディングカンパニーである鹿島建設株式会社(以下、鹿島建設)は、自社の排出量削減にとどまらず、サプライチェーン排出量(Scope3)の削減に挑んでいます。
その突破口として同社が注力するのが、独自開発のAIツール「Carbon Foot ScopeTM」を活用したCO₂排出量算定の効率化と、排出量削減に向けたサプライヤーとの「対話」です。今回は、AI活用による排出量の可視化を起点に、サプライチェーン全体でカーボンニュートラルの実現を目指す鹿島建設の取り組みについて、環境本部の吉村さんと木原さんにお伺いしました。
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話し手 吉村 美毅(よしむら よしたけ) |
「自社だけでは完結しない」。CO₂排出量の97%を占める「Scope3」削減に注力
まず、鹿島建設のサステナビリティに関する全体方針について教えてください。
吉村さん 当社では2024年に「鹿島環境ビジョン2050plus」を策定し、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを推進しています。
その大きな柱は「脱炭素」「資源循環」「自然共生」の3つですが、これらは独立しているのではなく、相互に関連しあっており、相乗効果もあれば、トレードオフの関係になることもあります。
以前は「トリプルZero2050」という名称で「Zero Carbon」「Zero Waste」「Zero Impact」の3つのテーマを並列に掲げていましたが、持続可能な社会を実現するためには、それぞれ個別にゼロを目指すのではなく、相互連関まで考えて行動しなければならないという意識から、現在の形へと進化させました。
建設業界におけるCO₂排出の現状について、どのようにお考えでしょうか。
吉村さん 当社のCO₂排出量の観点で言うと、我々の工事現場での施工時や、オフィスなど自社設備運用時に直接/間接排出されるCO₂(Scope1,2)は、全体の約3%に過ぎません。残りの97%は、サプライチェーンの上流である「建材製造時」と、下流の「建物運用時」、いわゆる「Scope3」(サプライチェーンの上流や下流の排出量)が占めています。
また、Scope3の中でも、上流では鉄やコンクリートなどの建材の調達に関するCO₂排出量(Scope3 カテゴリ1:購入した製品・サービス)が、下流では竣工した建物を使用する際に排出されるCO₂排出量(Scope3 カテゴリ11:製品の使用)が主要な排出になっています。

一方で、自社の直接/間接排出(Scope1,2)については、電動化や省エネ施工など自分たちの努力で排出量削減策を進められますので、比較的早期に、2030年までに42%削減(2013年度比)という高い目標を掲げています。
ただ、世の中全体でカーボンニュートラルを実現するには、関係他社との協働が必要となるサプライチェーン排出量(Scope3)を減らしていかなければなりません。こちらは自社努力だけでは完結しないため、関係各所と連携しながら、中長期的な視点で削減を目指していく方針です。
「鶏が先か、卵が先か。」環境配慮型建材の普及に関するジレンマ解消のカギとは
サプライチェーン排出量(Scope3)の削減では、どこに重点を置かれているのでしょうか。
吉村さん 当社の場合、Scope3の15あるカテゴリのうち、「カテゴリ1(建材の製造に伴う排出)」と「カテゴリ11(建物運用時のエネルギー消費に伴う排出)」の2つで、Scope3全体の87%を占めています。まずはこのボリュームゾーンをScope3削減のベンチマークとして取り組む必要があります。
特に上流の「建材の製造」(Scope3 カテゴリ1)では、コンクリートと鉄が2大要素です。例えば鉄の場合、鉄鉱石から作る「高炉材」よりも、鉄スクラップを再利用する「電炉材」の方がCO₂排出量は少なくなります。かつては強度の問題でビルの柱には高炉材しか使えませんでしたが、現在は設計技術の工夫により、超高層などを除く多くの領域で電炉材への転換が可能になってきました。
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木原さん こうした技術の進歩が、環境配慮型素材の採用を後押ししてくれています。ただ、コンクリートや鉄といった躯体の低炭素化を進めるだけでは不十分だという認識を持っています。
建築物の構成分野別でのCO₂排出量割合は、躯体が55%以上と大半を占め、次いで外装8%、内装7%、電気(照明・ケーブル等)5%と続きます。躯体の占める割合が大きいため、Scope3 カテゴリ1の削減でもコンクリートと鉄の取り組みは最重要テーマですが、この分野のカーボンニュートラル対応は将来施策を含めてかなり進展しており、ある程度、先を見通せる状況にあります。
一方、内装や外装の分野では、現時点で着手できていないところもあり、まだ排出量削減の余地が多く残されています。建物全体でカーボンニュートラルを目指す上では、躯体に使用されるコンクリートや鉄だけでなく、内外装や設備機器などに使用される他素材でも環境配慮型素材に転換していかなければなりません。
ここで直面するのが、いわゆる「鶏が先か、卵が先か」という因果性のジレンマです。メーカー側では「売れないと作れない」と言い、我々ゼネコン側では「製品がないと使えない」と言う。このように互いに様子見をしていては、市場は変わりません。
この課題を解決するためには、発注者(施主)様に「環境配慮型の建材を使いたい」という意思表示をしていただくことが重要です。そのために、まずは我々ゼネコンが選択肢を提示し、発注者様に環境価値に対する理解を深めていただくことで、環境配慮型建材を活用しやすい状況にしていく。それが、「鶏が先か、卵が先か」のジレンマを打破する第一歩だと考え、当社では発注者様との対話を積極的に進めています。
AI活用で生まれた“未来への対話”。建物ライフサイクル全体のCO₂排出量算定システム導入
CO₂排出量削減に向けた合理的かつ経済的なプランを提案する上では、AIを活用して建物ライフサイクル全体のCO₂排出量を算定するシステム「Carbon Foot ScopeTM」(カーボンフットスコープ)の今後の展開も期待されています。このシステム開発にはどのような背景があったのでしょうか。
木原 勇信さん
木原さん 「Carbon Foot ScopeTM」(カーボンフットスコープ)を開発した背景には、2028年から制度化が検討されている「建築物の生涯CO₂(ライフサイクルカーボン)」の算定・開示に向けた動きです。この制度では、企業単位のScope3とは別に、建物という「製品」単体でのCO₂排出量を算定し、説明することが義務付けられる予定です。
しかし、建物は1万〜5万点もの非常に多くの部材で構成されています。これを1つひとつ手作業で部材や素材の種類を特定し、CO₂排出量を算定するには膨大な手間がかかります。実際に、これまでは1つの建物の算定に2〜3ヶ月もの時間を要していました。
そこで開発したのが「Carbon Foot ScopeTM」です。見積書データをAIに読み込ませ、部材の種別や強度といった細かな仕様の違いの判別を自動で行うシステムです。
人が作成する見積書にはどうしても表記ゆれが発生しますが、AIはそれを文脈から判断することができ、学習させることでその精度も向上していきます。
このシステムの導入により、建築物のCO₂排出量の計算自体は2週間程度、確認作業を含めても約1ヶ月で完了できるようになりました。そして、このAIによって生み出された時間を「いかに排出量を減らすか」という本来あるべき議論やエンジニアリングに費やすことが可能となりました。つまり、単に排出量を「知る」フェーズから、共に「削減する」フェーズへ向かっている手応えを感じています。
<「Carbon Foot ScopeTM」の概要>
Scope3 カテゴリ1削減の推進。定量的な効果の提示で、環境価値の理解向上へ
サプライチェーン排出量の削減に関し、現状での課題に感じておられることはありますか。
木原さん 当社のScope3において最も大きな割合を占めている「カテゴリ1:購入した製品・サービス」の削減をさらに加速させるには、躯体以外の領域での低炭素建材の活用が鍵になると考えています。建設時のCO₂排出量の半分以上は「躯体」が占めますが、構造体についてはすでに設計段階で極限まで材料を減らしており、これ以上の大幅な削減は物理的に難しい状況です。
そこで重要になるのが、内外装や設備機器です。建築物の竣工後、躯体を組み替えることはあまりありませんが、内外装や設備機器は頻繁に更新されるため、長期的な視点で見ると、そのCO₂排出量は無視できないボリュームになります。先ほどお話しした通り、サプライチェーン排出量をさらに削減していくためには、内外装や設備機器などで未着手になっている領域で、低炭素建材へのシフトを図っていくことが、今後の課題のひとつに挙げられます。
メンテナンスや更新時のことも考えると、躯体以外の領域でのサステナブルな素材選びも重要ですね。低炭素建材へのシフトを進める上では、コストの問題もありますでしょうか。
木原さん 低炭素建材はどうしても価格が高くなってしまうため、確かにコストの問題もあります。その増額分を単なるコストアップとして捉えるのではなく、「これだけのCO₂排出量を削減できます」と低炭素建材の導入効果を定量的に提示し、設計者や施工者がその価値を発注者様に説明することで納得していただく。そのサイクルをいかに回していけるかが、低炭素建材の普及の鍵を握っていると考えています。
吉村さん 実際に、2020年10月に日本政府が「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」ことを宣言してから、建築主(発注者)の意識も変わってきていることを実感しています。また、2028年頃から始まるとされている「有価証券報告書へのCO₂排出量記載の義務化」は、建築主の意識をさらに大きく変えるきっかけになると見ています。今後、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)の基準に基づき、Scope3を含む自社の排出量を有価証券報告書に記載することが義務付けられていく見込みです。2027年3月期から時価総額3兆円以上の企業への適用が開始され、2028年3月期から同1兆円以上、2029年3月期から同5,000億円以上の企業と順次対象を拡大し、最終的にはプライム市場の全企業が対象となる予定です。
この制度が義務化されれば「悪い数字」も隠さずに公表しなければなりません。投資家の目がある以上、「CO₂排出量を減らさなければ評価が下がる」という危機感を抱き、その解消に向け必然的に具体的な行動につながっていくことが想定されます。現在は各社ともサステナビリティ情報の開示に向けた準備対応に追われていますが、その先には確実に「削減要請」の波が来ると見ています。
吉村 美毅さん
「特効薬」はない。1つひとつの現場と向き合い、積み重ねる正攻法
CO₂排出量削減の社会的要請が強まるということは、お客様に対して「排出量の増減要因」を的確に説明していくことも重要になります。この点について、鹿島建設ではどのような対応をされているのでしょうか。
吉村さん 当社の場合、2019年から導入した環境データ評価システム「edes:イーデス」を活用し、施工時のCO₂排出量等を見える化しています。鹿島建設では年間約600件の現場を抱えていますが、この評価システムにより、各現場でどれだけのCO₂が排出されたかを即座に把握できるようになりました。
そのため、お客様から「なぜ別案件の施工より今回はCO₂排出量が増えたのか」と問われた際も、「今回は地下構造が深く掘削土量が増えた分、これだけCO₂排出量が増えました」といったように、データに基づいて定量的かつ論理的な説明が可能になっています。
また、各現場から集まったデータは、我々の大きな財産です。ただ、データを見れば見るほど痛感させられるのは「どれとして同じ条件での施工はなく、その1つひとつが特別なんだ」ということです。同じような建築物でも、人間と同じように、1つとして同じものはなく、それぞれの環境に合わせて施工する必要があります。
環境データ評価システム「edes:イーデス」の活用を通じ、非常に多くの固有データが蓄積されており、そのデータを分析・解析することで様々な発見があります。今後も蓄積した環境データを活用し、お客様の理解を深めながら、「鹿島環境ビジョン2050plus」に掲げるCO₂排出量の削減に向けた取り組みを加速させていきます。
最後に、カーボンニュートラル社会の実現に向けたメッセージをお願いします。
木原さん 吉村が申し上げた通り、建物は1つひとつ条件が異なるため、残念ながらカーボンニュートラルの実現に向けた、万人に効く「特効薬」はありません。躯体だけでなく、内装・外装・設備など建築物に関する全ての領域において、総動員で少しずつでも削減策を積み重ねていく。これは非常に地道な作業ですが、決して諦めることなく、粘り強く取り組んでいくことが重要だと思っています。
吉村さん 世界のCO₂排出量の約4割は建設関連と言われており、我々が果たすべき役割は非常に大きいと認識しています。特効薬がないからこそ、AIを使って効率化し、サプライヤーの皆様と協力しながら、1つひとつの現場と真摯に向き合っていく。環境対策はやり続けないと芽が出ないので、業界全体で連携して、継続的に取り組んでいきたいと考えています。
取材時のダイジェスト版動画も提供しています。ぜひ、こちらからご視聴ください。
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三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。 <「BePLAYER®」「RePLAYER®」> |
