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なぜ「環境に良い」を前面に出すと、売れなくなるのか

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「環境に良い」と謳うだけでは、商品は売れない。その理由を「消費者の環境意識が低いせい」と捉える声もある。だが、本当にそうだろうか。 この問いのヒントを得るべく、三井化学はバイオマスプラスチックやリサイクル材料などの環境配慮素材を題材に、2度の消費者調査を実施した。 調査の設計と結果の読み解きに協力したのが、サステナブル・マーケティングの専門家で、早稲田大学ビジネススクール教授である川上智子氏だ。「マーケティング次第で、環境配慮商品はもっと売れるはず」と話す。 三井化学が実施した調査結果を川上氏とともにひもときながら、環境配慮製品を売るためのマーケティング戦略のヒントを探っていく。 |
売れないのは「当たり前」
この10年ほどで、「環境配慮商品」を目にする機会は増した一方で、まだ選ばれる定番には至っていない。
そのギャップの理由を、消費者行動の文脈から分析するのが、サステナブル・マーケティングを専門とする早稲田大学ビジネススクール教授・川上智子氏だ。
「消費者は一般的に、利便性を具体的に想像できる商品を選びます。
しかし、環境問題はスケールが大きく抽象的。『これを買えば地球環境に貢献できます』と言われても、なかなかその価値を実感できないですよね。
商品自体がいくら身近になっても『自分事にならなければ売れない』のは当たり前なのです」(川上氏)
そこで効力を発揮するのが、マーケティングだ。
「消費者の環境意識が低いから」と諦めるのではなく、「買いたくなる顧客コミュニケーションとは何か」を考え抜く姿勢が必要なのだ。

では、環境に良い商品を売るために有用な顧客コミュニケーションとはどんなものなのか。
そのヒントを得るべく、三井化学は2025年に2度の消費者調査を実施した。環境配慮素材を導入している/今後導入し得るメーカー企業のマーケティングに活用してもらうことが目的だ。
1度目の調査で明らかになったのは、「エコバリュー派=価格が高くてもバイオマスプラスチックやリサイクル素材のような環境に配慮した商品を購入したい層」が、市場全体の約25%を占めるという事実だ。
つまり、消費者の4人に1人が「価格ハードルを乗り越えて環境要素を重視する」のだ(2回目の調査では32%に増加)。

さらにこの層は、商品の付加価値が高まれば、価格の受容性も高まることが示唆された。この結果は、企業のコミュニケーション次第で市場を動かせる可能性を示している。
2回目の調査には、前出の川上氏も監修として参加。1回目の結果を受けて、「どのような伝え方が、エコバリュー派の購買意欲を高めるのか」を三井化学と共に検証した。
具体的には、1つの環境配慮商品に対して、「具体的」と「抽象的」という2種類の訴求メッセージを提示。
それにより、購買意欲と価格受容性(その値段で買ってもいいと思えるかどうか)がどう変わるかを調べた。
川上氏によれば「具体性」と「自分事化」は、密接につながっている。
実際、ごみの分別や節電など、「自分の行動がどう影響するかを想像しやすい領域」では、多くの人が環境を意識した行動をとるという。
そこで、「環境配慮商品でも訴求メッセージの具体性を高めれば、行動につながる余地があるのでは」という仮説を立てたのだ。

結果は調査で扱ったいずれのケースにおいても、具体性の高いメッセージのほうが、購入意向者の割合が7〜12ポイント上昇。
価格受容性も、すべてのカテゴリーで上昇した。仮説は正しかったのだ。
機能と情緒にアプローチせよ
この結果について、川上氏は「機能」と「情緒」、それぞれに訴えかけるメッセージの分析にも踏み込んでいる。
「調査で最もわかりやすい効果が見えたのは、数値化できる『環境貢献度合い』の具体化です」(川上氏)。
環境配慮素材を用いたシューズの比較事例では、「いかに環境改善に貢献できるか」といった客観的な数字を示したほうが、購買意欲が高まったという。

ただし、「具体化において重要なのは、消費者が“自分事として捉えられる文脈”をつくること」というのが、川上氏の結論だ。
そのためには、感情を動かす仕掛けも無視できない。
調査でも、商品の背景にあるストーリーを情緒的に表現したメッセージで訴求した場合は、購入意向が12ポイント高まった。

感情に寄り添ったコミュニケーションの実例として、川上氏はカルビーの「折りパケ運動」を挙げる。
これは、ポテトチップスなどのパッケージを食べ終わったあと小さく折り畳み、専用アプリでスキャンするとポイントが貯まる仕組みだ。貯めたポイントでさまざまなキャンペーンや体験プログラムに応募できる。
「この取り組みは『家庭ごみの減量化』が目的ですが、カルビーは必ずしも『エコだからやろう』と前面に打ち出しているわけではありません。
折り紙のように折る楽しさや、ポイントが貯まるワクワク感を前面に出すことで、いつのまにか行動が習慣になるよう工夫されています。
まさに、楽しさや遊び心が行動を動かす事例です」(川上氏)

さらに今回の調査から得られた示唆として興味深いのは、同じ「エコバリュー派」の中でも、日常的に環境配慮行動をしている人としていない人とでは、メッセージへの反応が大きく異なった点だという。
つまり、環境意識が高いという同じ価値観を持つ人々でも、行動段階によって響くメッセージが異なるということだ。
この気づきは、企業がサステナブルマーケティングやCSR活動を設計するうえで大きなヒントになり得る。
「今回の三井化学の調査は、環境意識の高い層の内側まで踏み込んだ点が珍しく、貴重なデータです。
特に『エコバリュー派』というセグメントを定義し、環境意識が高い層もさらに細分化し、セグメントを可能にしたのは大きな成果だと考えています。
さらに、この調査をBtoBメーカーである三井化学が行った点も意義深い。
素材メーカーのようなBtoB企業は最終消費者と距離がある分、消費者理解が後回しになりがちです。
ですがそこに本気で向き合えば、サプライチェーン全体に影響を与え、環境配慮型の商品市場そのものをつくる力を持ちます。
今回の調査は、その意思の表れだと感じました」(川上氏)
なぜ環境分野は遅れているのか
認知へのアプローチも感情へのアプローチも重要であり、効果的。示唆に富んだ結果ではあるが、あえて辛口の表現をするなら、「マーケティングの定石」とも言える。
ターゲット顧客の深い理解と情緒に訴えるクリエイティブ制作は、マーケティングの基本プロセスだからだ。なぜ他の領域なら当たり前のことが、環境領域では行われてこなかったのか。
「これまで日本の企業では、環境対応をIRや広報などのコーポレート部門が行ってきました。商品ブランドごとに訴求するなら、マーケターも詳細なペルソナを設定しますが、企業ブランドの訴求はどうしても全方位的になりやすい。
だから『我が社はこんなに環境に配慮しています』という、抽象的なメッセージにとどまるケースが多いのではないでしょうか」

この問題を根本から解決するための川上氏の提案は、「企業の経営理念やパーパスやと、商品のマーケティングに一貫性を持たせること」だ。
一貫性の重要性を考えるうえで、川上氏が参考例として挙げるのが、化学メーカーの花王だ。
花王は「豊かな共生社会の実現」というパーパスを企業の軸に据え、環境への配慮を含めたその考え方を、ブランドや製品の設計、コミュニケーションへとつなげようとしている。
たとえば、洗剤、歯磨き粉の容器包装では、プラスチック使用量の削減と利便性向上を両立する容器開発の取り組みが進み始めているほか、ブランドごとにパーパスを定め、サステナビリティの観点から、便益の訴求方法を見直している。
また、こすらず洗い流すだけで良い住宅用クリーナーは、パーパス・ドリブンな発想に基づけば、高齢者や障がい者にとって使いやすい設計になっていると言える。
「重要なのは、消費者に機能的便益を訴えるだけではなく、商品を『社会や地球にとってどう価値があるか』という視点で再解釈し、発信すること。
企業パーパスとブランド、商品をいかにつなげるか、試行錯誤を続ける姿勢が求められています」(川上氏)

「企業としては『当社は環境に配慮しています』と発信しているのに、商品マーケティングが『とにかく売れればいい』という発想で環境を無視していたら、消費者との信頼関係は築けません。
ですが、全社の姿勢と商品ごとの方針がそろっていれば、『環境配慮を踏まえてどう売上を伸ばすか』をそれぞれが真剣に考えるようになる」と、川上氏。
その結果、より効果的な顧客コミュニケーションが生まれるというわけだ。

組織一体となった取り組みには、事業部門の担当者の努力も欠かせない。現場における変化も、十分に価値があるという。
「商品の訴求方法をコミュニケーションレベルで変えることなら、現場の担当者の裁量で十分できますよね。
変えた結果、商品の売上が伸びれば成功事例となり、本業で環境対応に取り組むことの意義を社内に示すことができます。
環境対応については、企業の経営層もまだ試行錯誤中。むしろ現場が実績を積み上げてくれれば、トップも環境対応に本気で取り組むための施策を進めやすくなります。
ぜひマーケティングの力で消費者に行動変容を促し、『環境にやさしい商品は売れない』という固定観念を切り崩してくれることを期待しています」(川上氏)
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三井化学のBePLAYER/RePLAYERの取り組み: |
公開資料:「環境価値で選ぶ時代へ ―エコバリュー派が拓くサステナブル市場―」
- 早稲田大学 大学院経営管理研究科 川上智子教授 監修
- 2025年実施 環境問題に関する消費者意識調査の追跡調査結果をご紹介
- 環境配慮製品の市場浸透の鍵を握る「エコバリュー派」への効果的なマーケティングやコミュニケーションの具体策に言及
執筆:塚田有香
撮影:吉田和生
デザイン:Seisakujo.inc
編集:金井明日香
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2025-12-22 NewsPicks Brand Design