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【セミナー開催レポート】「なぜいま『マスバランス方式』が求められるのか?〜コーヒーから再エネ業界まで、描く未来を実現するためのアプローチとは〜」
「なぜいま『マスバランス方式』が求められるのか?〜コーヒーから再エネ業界まで、描く未来を実現するためのアプローチとは〜」と題したセミナーを、三井化学株式会社・不二製油株式会社・株式会社メンバーズ・ハーチ株式会社の4社で共催しました。本セミナーは、紙パルプ産業で普及しているFSC認証(国際的な森林認証制度)、カカオ豆やコーヒー豆のフェアトレード認証など、私たちの身近なところでも活用されている「マスバランス方式」をテーマに、自社の取り組みや国内外の採用事例の紹介を交えながら、多様な業界・属性の登壇者と共に、より良い社会へ導くためのアプローチについて考えることを目的に開催いたしました。以下、開催したセミナーの内容を概略レポートとしてご紹介します。
スピーディーに社会全体のバイオマス度を高めるマスバランス方式
最初のパートでは、三井化学 グリーンケミカル事業推進室のバイオグループリーダーである河村氏より「化学業界におけるマスバランス方式の活用と背景」と題し、マスバランス方式のメリットや三井化学の取り組みが紹介されました。
日本国内に流通している化学商品数は2024年度で17,500を超えますが、このように非常に多品種で複雑な生産工程を有する化学産業において、サーキュラーエコノミー社会に対応させていくために再生可能原料への原料転換を推進する手段として、マスバランス方式は最適かつ効率的なアプローチであり、“根本”を変えずに“根本的に”変えられる画期的なツールだと説明します。
マスバランス方式とは、製品を造る際の一つの手法で、「原料から製品への加工・流通工程において、ある特性を持った原料(例:バイオマス由来原料やリサイクル由来原料)がそうでない原料(例:石油由来原料)と混合される場合に、その特性を持った原料の投入量に応じて、製品の一部に対してその特性の割り当てを行う手法」(バイオプラスチック導入ロードマップより:環境省、経済産業省、農林水産省、文部科学省)のことを指します。
このアプローチにより、例えばバイオマスナフサと石油由来のナフサが製造工程で混ざって造られたプラスチックであっても、この収支バランス手法を活用すれば、インプットのバイオマス量に応じて任意の製品に任意の数量を割り当て「100%バイオマス由来」と見なすことができます(マスバランス方式の詳細解説はこちら)。
三井化学ではカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミー社会の実現に向け、「世界を素(もと)から変える」をコンセプトに原子の由来を再生可能なものに転換する取り組みを推進しています。これはプラスチックの素(原料)である炭化水素そのものを、従来の石油由来からバイオマスやリサイクル由来の炭化水素に変えていくことで、そこから造られるプラスチックをバイオ&サーキュラーにしていくアプローチです。
具体的には、2021年12月からバイオマスナフサ※1を原料にしたバイオマスプラスチックの製造を開始し、2024年3月からは廃プラスチックを熱分解油というリサイクル由来の炭化水素にまで戻し、バイオマスナフサと同様に様々な化学素材の原料として再利用する取り組みも推進しており、その生産・供給はマスバランス方式で行っています。
マスバランス方式によるバイオマスプラスチック、リサイクルプラスチックのメリットとしては、主に以下の4点が挙げられます。
①物性は従来の石油品と全く同等
②様々なプラスチックのバイオマス化が可能
③専用ラインの投資や、切替評価が不要
④二酸化炭素排出量の削減
つまり、化学産業においてマスバランス方式は“根本”を変えずに“根本的に”変えられる画期的なツールであり、これにより再生可能原料への原料転換を加速させることが可能になり、スピーディーに社会全体のバイオマス度を高めることにもつながります。
三井化学では、現時点で40製品以上のマスバランス方式のバイオマス製品やリサイクル製品を提供できる体制を整えていますが、長期経営計画「VISION2030」においてもサーキュラーエコノミーへの対応強化を掲げており、今後もラインナップを拡充していく予定です。
また、日本国内に12基あるナフサクラッカーのうち11基は、「ISCC PLUS認証※2」を取得済みであり、マスバランス方式による再生可能原料の供給体制が着実に整ってきていることも紹介されました。
※1)バイオマスナフサ:再生可能なバイオマス(植物など生物由来の有機性資源)から生成された炭化水素混合物のことで、バイオディーゼルやSAF(バイオジェット燃料)を作るときの副産物として得られる。そこから作られるバイオマスプラスチックの物性は石油ナフサ由来のプラスチックと同等。
※2)ISCC PLUS認証:ISCC(International Sustainability and Carbon Certification)が展開するバイオマスやリサイクル原材料の持続可能性認証プログラム。グローバルなサプライチェーンを通して管理・担保する認証制度として広く認知されており、マスバランス方式(物質収支方式)の有効な認証制度。
サステナブルな原料調達のために~社会課題の解決にも挑む~
続いて、「素材調達におけるサステナビリティの実現に向けて」と題して、不二製油株式会社 営業部門 営業戦略室 サステナビリティ担当の後藤氏より、身近にあるマスバランス方式や社会課題に対する取り組みが説明されました。
植物性油脂、業務用チョコレート、乳化・発酵素材、大豆加工素材といった領域で事業を展開している不二製油グループでは、パームやカカオを原料として調達するため、「原料をいかにサステナブルに調達するか」を事業戦略において重視しており、サプライチェーン上にある社会課題の解決に向けても積極的に取り組んでいます。
(発表資料:2022年度実績)
世界最大の油脂原料であるパームにおいては環境問題や人権問題が叫ばれていますが、パーム産業では「森林破壊ゼロ、泥炭地ゼロ、搾取ゼロ」を掲げる「NDPE」という方針が敷かれており、不二製油グループもこのゼロ方針達成のためにKPIを設定して対応しています。また、積極的に認証油を調達しており、現時点では調達量の6割がRSPO認証油となっています。この認証油において、日本では認証油と非認証油の混合を許可するマスバランス方式が主に採用されています。
また、チョコレートの製造では、複数の生産地のカカオ豆を混ぜて消費者の好む味に仕上げていく工程もあり、産地支援のプログラム適用に際してマスバランス方式が主に採用されていると説明がありました。このカカオの生産地においても児童労働や環境破壊などの社会課題が懸念されるため、不二製油グループは現地での農業指導や児童労働のモニタリングなど、独自のプログラムを展開して対応しており、こうした活動は支援金が付いた商品を消費者に購入してもらうことで成り立っているといいます。
企業はサステナブルな原料調達に対して使命感を持って取り組むべきであること、かつステークホルダーや消費者を巻き込むことが重要であり、マスバランス方式はそのための一つのステップになるのではという見解も示されました。
各業界で加速する、マスバランス方式によるアプローチ
続いて、「世界で活用されているマスバランス方式の採用事例」と題して、ハーチ欧州のロンドン在住 伊藤氏とパリ在住 富山氏より、欧州在住の消費者視点から見た市場の変化について紹介がありました。
例えばイギリスのスーパー「Tesco」の紅茶コーナーでは、見た限りだと商品の約6~7割にフェアトレード認証のマークが付いており 、フェアトレードマークと並んでマスバランス方式の採用を明示しているマークが付いている商品もあります。さらに、Tescoのプライベート商品も含めて、チョコレートコーナーに並ぶほとんどの商品にレインフォレスト・アライアンス認証やフェアトレード認証が付いています。決して高価格帯のスーパーではないTescoでこれほど認証商品が多いことからも、大手企業が積極的にマスバランス方式を採用したからこそ認証商品が広がっていると実感できます。
また、マスバランス方式普及の成功事例ともいえるのが、持続可能な綿花栽培の推進を目指すNGO団体「BCIコットン」です。流通量が膨大かつサプライチェーンが複雑なアパレル業界のなかでマスバランス方式を採用して、今ではBCIコットンが全綿花流通量の20%を占めるまでに普及しており、ナイキやアディダス、H&Mといった有名ブランドもBCIコットンを積極的に使用しています。
柔軟性とスケーラビリティを併せ持つマスバランス方式によるアプローチは、社会の過剰な経済的負担を減らしつつ、持続可能性を拡大させるために有効なファーストステップだといえます。一方で、欧州では普及に伴って議論も活発化しているため、消費者への適切な情報提供が必要という見解も示されました。
購買活動を通じて、企業や商品に対する応援の意志を示せる未来へ
セミナーの終盤では、登壇者に加え、三井化学 グリーンケミカル事業推進室のビジネスディベロップメントグループリーダーである松永氏を交えてトークセッションを実施しました。トークセッションは「消費者の巻き込み方」という観点での議論が盛り上がりを見せました。
その中で、後藤氏は「当社のゴールは、ビジネスを通して森林破壊や人権問題といった社会課題の解決に貢献すること。そのための手段としてサステナブルな原料調達に取り組んでいることを消費者の方に理解してもらい、共感して商品を買ってもらえたら理想」と語りました。また、河村氏は「まずは消費者の皆さまにとって『選択肢がある』ということが重要だと思いました。欧州のスーパーのように、マスバランス方式で特性を割り当てられた商品が当たり前に市場に並び、消費者の皆さまが自分で選択できるような社会になればいい」と語り、伊藤氏は「イギリスは『消費者が企業活動を監視する姿勢』が強いからこそ、社会や環境への貢献製品の選択肢が増えてきた」と見解を示しました。
また、松永氏は「生活者の購買・消費活動はいわば〝選挙〟のようなものだと思うので、そこでサステナブルな製品が選ばれていくような世の中にしていかなければならない。そのためには、消費の場を変えていくことが重要であり、企業側もサプライチェーンやバリューチェーン全体で連携して、生活者にいかに選択肢を提供していけるかが重要になる」と話し、富山氏も「『どうせお金を遣うのなら、いいものを選びたい』という思いを消費者は持っているはず。マスバランス方式が広がり、商品の選択肢が増えれば消費者も環境貢献製品を手に取りやすくなる」と話しました。
最後に(アーカイブ動画のご紹介)
今回のセミナーは、800名を超える多くの方々にお申込みをいただき、当日の質疑応答のでは、70件近くの質問が寄せられました。多くの企業がマスバランス方式に興味を持ち、各業界の取り組みに興味を持たれていることを実感したセミナーとなりました。
今回のセミナーの内容は、動画コンテンツとしても提供しています。
ぜひ、こちらからご視聴ください。
https://youtu.be/DJxjPv961jw
また、セミナーでも一部内容を紹介した「マスバランス方式の採用事例集」はこちらからダウンロード可能です。併せてご覧ください。
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/whitepaper/
これからも未来のカーボンニュートラル社会、サーキュラーエコノミーの社会実装を目的に、さまざまな情報を発信してまいります。私たちの取り組みにご期待ください。
- 参考資料
- *1:リジェネラティブな社会に向けて行動する「RePLAYER®」「BePLAYER®」:
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/index.htm - *2:IDEAS FOR GOOD:
https://ideasforgood.jp/ - *3:メンバーズ:
https://www.members.co.jp/