異業界での経験を経て向き合う、サステナビリティ
まずは牧さんのこれまでの歩みと、活動のベースにある想いについてお聞かせください。
コンサルティングファームからキャリアをスタートし、継続的にサステナビリティ領域に携わってきました。事業会社としては、日本マクドナルドが3社目となります。前職のMHD モエ ヘネシー ディアジオ(洋酒の輸入・販売およびマーケティングを展開)でもサステナビリティに関わるいくつものプロジェクトを立ち上げ、ワイン&スピリッツ事業に関わるCSR、サステナビリティの取り組みをリードしてきました。
ワインの世界は、原料のぶどうから商品に至るまでが非常にシンプルです。土壌を健やかに保つために、自然に近い状態でブドウを栽培するサステナブルな農法、再生農業を取り入れたり、リサイクルを優先してボトルの色を選別したり、パッケージを変更したりといったアクションが、ダイレクトに商品価値につながるため、自然の恩恵によって事業が成り立っていることを肌で感じやすい環境でした。
インタビューにご協力いただいた 牧陽子氏
前職での経験を経て、マクドナルドでサステナビリティを推進することに、どのような意義を感じていますか。
マクドナルドは、日本全国に約3,000店舗を展開し、年間延べ約14億人のお客様が訪れます。もちろん、インバウンドのお客様を含む多様なお客様がいらっしゃいますが、単純に日本の人口に照らせば、1人あたり年に十数回は利用している計算です。また、それを支えているのが全国22万人のクルー(※)です。これほどの人材が地域に根ざして働いていることは、非常に大きな影響力といえるでしょう。これらの規模感や影響力を考えると、マクドナルドはもはや「社会インフラ」に近い存在なのかもしれません。
※店舗で働くアルバイト・パートスタッフ
前職のワイン&スピリッツを販売するビジネスと比較すると、弊社のサプライチェーンはサプライヤーも多く、より複雑です。ポテトやバンズ、肉、魚といった素材の源流をたどるのも容易ではありませんし、パッケージひとつを変えるにしても、膨大な検証やパートナー企業との連携が必要です。こうした取り組みは決して簡単ではありませんが、全国約3,000店舗を展開し、年間約14億人のお客様にご利用いただくことを考えれば、より良い取り組みは、世の中により良いインパクトを与える可能性があります。この規模と影響力を活かして、持続可能な未来に向けた行動を起こすことが、この会社に転職した動機でした。
2050年ネットゼロへの取り組み
マクドナルドが掲げる「2050年ネットゼロ」に向けた具体的な取り組みを教えてください。
サステナビリティの取り組みとして、「Food」「Planet」「Community」「People」という4つの柱を掲げています。私たちのパーパスである「おいしさと笑顔を地域の皆さまに」を実現するため、社会や環境に関わる活動に取り組んでいます。

「Planet」においては、2050年までのネットゼロ・エミッション達成を目標とし、中間目標として2030年までに店舗、オフィス、サプライチェーン全体での温室効果ガス(GHG)排出量を2018年比で50.4%削減することを目指しています。牛肉や鶏肉関連など対応が難しい特定領域もありますが、パリ協定の1.5℃目標にコミットする形で目標を掲げ、取り組みを進めています。
また、マクドナルドがグローバル全体で掲げる「2025年末までにお客様提供用容器包装類やハッピーセット®︎のおもちゃをサステナブルな素材に切り替える」という目標についても、現状ほぼ達成しています。

お客様提供用容器包装類のこれまでの取り組み
当然これらはすぐに対応できたわけではなく、素材選びについても長い歴史のなかで少しずつ進化してきました。例えば、1990年代のビッグマック®は「クラムシェル」と呼ばれるパッケージに入っており、当時はポリスチレンフォーム製で環境負荷が高いものでした。その後、こうしたパッケージは廃止され、ラッピング形態に変わるなど、持続可能性を考慮した素材転換やパッケージの改良は段階的に行われてきました。
環境負荷を低減するには、科学的な指標を持ちながら、素材選びを進めることが重要です。素材転換で本当に環境負荷が下がるのかなど、LCA(ライフサイクルアセスメント)なども考慮して検討する必要があります。
また、技術革新も日々進んでおり、1年前に最適だと思った方法でも、今ではさらに良い方法が生まれていることもあります。ただ、「将来もっと良い方法ができるだろうから、それまで待とう」という姿勢では、世の中は決して変わりません。だからこそ、理想を待つのではなく、そのときに最善だと思ったことを、可能な範囲で一歩ずつ進めていくことが大切だと考えています。
素材を選定する際に、留意しているポイントはありますか。
お客様提供用容器包装類
素材選びにおいて、私たちが妥協できないポイントは実際のオペレーション上の負荷です。約3,000店舗という規模で導入するためには、単に環境に優しいだけでなく、安定して調達できるか、デリバリーに耐えられるか、お客様が使いやすいか、クルーが取り扱いやすいか、説明しやすいか、といった多くの要素を考慮する必要があります。
例えば、レジ袋の紙袋化を検討した際も、店舗での袋の保管スペースやサプライヤーの確保など、導入に至るにはさまざまな課題をクリアする必要があることがわかりました。そこで、まずはレジ袋を有料化することにより使用量自体の削減を目指しました。その後、店舗でのテストや社内での議論を踏まえ、バイオマス素材を95%配合したレジ袋を採用するという道を選びました。
つまり、環境に配慮しつつ、オペレーションやお客様の体験を考慮しながら進めていくことが、素材選びの姿勢です。
プラスチック対策として、さらに取り組まれたいことなどお聞かせください。
個人的には、使い捨てが少しでも減れば良いなと思っています。2023年1月からフランスでは、洗浄してリユース可能なマックフライポテト®の容器が導入されています。かわいいデザインですよね。
洗浄して再利用可能なフランスのマックフライポテト®の容器
単に素材を置き換えるだけでなく、「循環」を前提にした新しい仕組みやデザインにも挑戦したいですね。
100点を待たない。やってみて、直すという前進のかたち
環境対応を進めるなかで、大切にされている考え方があれば教えてください。
私が大切にしているのは「正解があるわけではない、その時にできることをやる」という価値観です。正解がわからないからやらないのではなく、その時点で最善だと思ったことを実行する。もし後で違うと感じたり、より良い技術が出てきたりしたら、その時に修正すればいいと思うんです。
例えば、ストローなどはその1つのわかりやすい事例かもしれません。2022年10月に紙ストローを導入しました。バージンプラスチック削減という目的に対し、当時の技術と状況を踏まえ、まずは現状を変えることを優先したスピーディーな決断だったかと思います。しかし、使い勝手の面でお客様から厳しいご意見をいただくこともありました。
大きな転換点となったのが、マーケティング本部からの「そもそもストロー自体をなくせないか」という提案です。これはお客様視点から生まれた発想でしたが、ストロー自体がなくなれば、環境面でもよい結果となります。そこで、ストロー自体をなくす方法を検討し、開発されたのが「ストローレスリッド(蓋)」でした。
リサイクルPET100%のストローレスリッド
紙ストローに切り替えていなければ、このストローレスリッドの誕生もなかったかもしれません。何もしなければ、前には進めません。100点の正解を待って足踏みするよりも、まずはやってみて、フィードバックを受けて改善する。このサイクルを回すことこそが、進化し続けるサステナビリティ領域において、大事なことだと考えています。
楽しい、うれしい。その先に環境があるという設計
環境の取り組みをお客様に伝えるうえで意識されていることはありますか?
コミュニケーションにおいて、私たちはマーケティング本部を中心に、お客様へ「ワクワク感」を提供することを大切にしています。しかし、正直なところ「環境への配慮」からワクワク感を創出することは容易ではありません。
そこで納得した落とし所は、「どういう認知のされ方であれ、結果としてサステナビリティが社会に実装される」こと。例えば、ストローレスリッドの導入時には、マーケティング本部の発案で「ゴクゴク飲めるフタ」という切り口で訴求を行いました。お客様にとっては「飲みやすい」というポジティブな体験が入り口になりつつも、ストローなしで、かつ、リサイクルPET100%使用による新規の蓋を採用することにより、既存の蓋のバージンプラスチック削減という社会価値が創出されています。入り口はともあれ、「結果的にサステナビリティが進む」という状態をデザインすることが、大切だと実感しました。
「ハッピーセット®︎」のおもちゃリサイクルも、ワクワクと環境への取り組みが組み合わされ、長く愛されている取り組みですね。
そうですね。2018年から続く「ハッピーセット®︎」のおもちゃリサイクルは、累計で約2,610万個の回収にのぼります。これも単なる廃棄物削減ではなく、親御さんにとっては「お片付けの習慣化」や「捨てる罪悪感の解消」になり、お子さんにとっては「自分のおもちゃがお店のトレイに生まれ変わる」という体験になっています。おもちゃを持参し、お店に再訪することで、またお食事を楽しむことができることも、ご家族にとっても私たちにとっても嬉しい体験となっております。
ただ、こうした活動も、企業が「取り組んでいます」と一方的に伝えるだけでは、生活者の心にはなかなか届きません。だからこそ、実際に体験していただき、共感の視点で語ってもらうことが重要だと考えています。そこで始めたのが、講談社『with』とご一緒した「with class mama」のプロジェクト(※)です。現役ママのインフルエンサーの方々と共に、マクドナルドのサステナビリティ活動をリアルママたちの目線で発信するこの試みは、外部からも高い評価をいただき、講談社メディアアワード2025のファイナリストにも選ばれました。
※「with class mama」のプロジェクト:
講談社withと現役ママのインフルエンサー集団が共同運営する、「子育て・教育」に特化したInstagramアカウント(@withclass_mama)を中心としたプロジェクト。SNSでの相互コミュニケーションを通じて「現場の生の声」を吸い上げながら、本当に必要とされている情報を発信している。
これまで、おもちゃリサイクルや環境配慮型パッケージ、再生エネルギー調達、ドナルド・マクドナルド・ハウス支援など多岐にわたるサステナビリティの取り組みを実行し、情報発信してきました。その根底にあるのは、マクドナルドが変われば世の中が変わるという想いです。マクドナルドのサステナビリティ/ソーシャル インパクトの活動を通じて、世の中がより良い方向に変わっていくことを願っています。
サステナビリティ担当者へのメッセージ
最後に、日々サステナビリティ関連に取り組んでいる各企業の担当者の方々へ、エールをお願いします。

サステナビリティ担当者の皆さんはきっと、周囲の理解が得られなかったり、短期的な利益と衝突したりなど、壁にぶつかることがあるでしょう。私も同じように常に葛藤しています。
それでも忘れてはいけないのは、できることを一歩ずつ進めることこそ、未来につながるということです。企業の規模や立場によって、取り組める内容やスピードは違います。しかし、それぞれが自分の立場で「できること」をひとつずつ進めることが、確実に社会を前進させる力になります。たとえ小さな一歩でも、実行しなければ何も変わりません。
そして、同じように悩む仲間は、国内外に必ずいます。企業の枠を越えて学び合い、支え合いながら、自分にできることを着実に進めていく。その積み重ねが、持続可能な未来への確かな「種まき」になるのではないでしょうか。理想と現実の相違に落胆しすぎないように、できることを着実に実行する。これが私から皆さんへのエールです。
取材時のダイジェスト版動画も提供しています。ぜひ、こちらからご視聴ください。
https://youtu.be/6oMX2YkxunE