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PFAS規制にどう備える?代替素材選定の課題とポイントを解説

世界的な規制強化を背景に、PFAS代替素材への転換を求める動きが加速しています。しかし、PFASが持つ複数の優れた機能を単一の代替素材で再現することは容易ではなく、対応に苦慮している企業も少なくありません。
今回の記事では、PFASフリー化を取り巻く世界の動向や規制の方向性、代替素材を選定する際の課題と着手のポイント、そして企業にとってのメリットについて、専門家の見解を交えながら解説します。
※PFASについては、以下の記事でも概要や動向を解説しています。
「PFAS(有機フッ素化合物)とは?PFOS・PFOAとの違いや、種類・用途一覧」
「PFAS規制についてEU・米国・日本ごとの規制基準や企業の対応を解説」
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話し手 三井化学 PFASワーキンググループ |
PFAS対策の現状と素材開発の動向
世界的に進むPFAS規制とサプライチェーンへの影響
Q.現在、さまざまな業界で世界的にPFASフリーに向けた取り組みが進められています。その背景について教えてください。
A.PFASフリー化の背景には、一部のPFASが環境や人体に与える悪影響への懸念から世界的に規制強化が進んでいることに加え、投資家・取引先・生活者からの要求の高まりがあります。
PFASは、炭素-フッ素結合が極めて安定で、自然界でほとんど分解されず、環境中や生体内に長期間残留しやすいことから、「Forever Chemicals(永遠の化学物質)」とも呼ばれています。こうした性質に加え、一部のPFASでは健康や環境への影響が指摘されていることから、世界各国で規制強化の動きが進んでいます。当初はPFOSやPFOAなど、有害性が懸念される特定物質を規制する方針でした。しかし、一部のPFASを規制しても他のPFASへの置き換えにとどまり、根本的な解決にならないという見方から、現在では数千種類に及ぶPFAS全体を包括的に規制する方向へとシフトしつつあります。また、PFASは食品包装、アパレル、化粧品、電子部品、自動車、半導体、医療機器など、現代の産業において広範な用途で使用されているため、こうした包括規制の動きが産業界に与える影響は大きいと考えられます。
※PFASの規制動向については、「PFAS規制についてEU・米国・日本ごとの規制基準や企業の対応を解説」にて詳しく解説しています。
そして、PFASの規制強化に対する企業側の対応は一様ではありません。PFASを製造・販売している企業では、PFASの排出量削減や製造プロセスの改善を進めながら事業継続を目指す動きも見られていますが、訴訟リスクや将来の規制リスクの高まりを背景に、事業からの撤退や縮小を決める企業も出てきています。
一方、PFASを製造・販売していない材料メーカーにとっては、置き換え需要の高まりは新たな市場機会でもあります。ブランド方針としてPFASフリーを掲げる顧客企業からの要求が高まるなか、代替材料の開発・提案を進める材料メーカーも増えています。さらに近年は、PFASへの対応状況が企業のESG評価やサステナビリティ経営の評価項目としても注目されるようになっています。投資家や金融機関がPFASリスクへの対応を注視するなか、PFASフリー化への取り組みは、将来の規制強化への対応遅れに伴うリスクやブランド毀損リスクの低減だけでなく、環境配慮型企業としての信頼性向上にもつながっています。
このように、規制対応、顧客ニーズ、ブランド価値、そしてESG投資における評価といった複数の要因が複雑に絡み合い、世界的なPFASフリーへの動きを加速させているのです。
規制の対象範囲とブランド価値向上に向けた対策
Q.PFASフリーへの動きは、今後、どのように推移すると見ておられますか。
A.欧州を中心にPFAS全体を対象とした包括規制の議論が進んでおり、規制の基本方針はほぼ固まりつつあると見ています。実際の規制開始時期は、今後の審議状況によりますが、早ければ2029年以降に本格的な規制が開始される可能性があります。
ただし、規制が始まってもすべての用途で直ちに使用が禁止されるわけではありません。半導体製造、医療機器、防衛、エネルギー分野など、現時点で代替が困難で、社会的に重要とされる用途については、「Essential Use(必要不可欠な用途)」として一定の猶予期間や例外措置が検討されています。
現在、「代替しづらい」、「社会的に重要である」、「経済的な影響が大きい」とされるこのEssential Useの範囲をどこまでとし、猶予をどこまで認めるかという点で議論が進んでいます。
Q.では、どのような業種や用途で、PFASフリーの要望が強まっているのでしょうか。
A.特に生活者に近い食品包装やアパレル、コーティング分野で代替の要望が強まっています。
耐油紙やファストフード包装などの「食品包装分野」、レインウェアやアウトドア用品などの「アパレル分野」、防汚・撥水・撥油を目的としたコーティング分野は、生活者に近く、代替技術も存在するため、PFASの使用を継続する合理性を説明することが、今後さらに難しくなると考えられます。そのため、これらの分野では今後、PFASフリー材料への切り替え要望がより強まりやすいと考えられます。
加えて、これらの分野では「環境配慮型製品として価値を高めたい」、「ブランドイメージを落としたくない」といった動機から、規制開始を待たずしてPFASフリー化を進める動きも見られます。
このように、今後のPFASフリー化は、規制対応をきっかけとしつつも、生活者に近い分野を中心に、ブランド価値の維持や市場ニーズへの対応という観点からも進んでいくと考えられます。
PFAS代替素材の課題と選び方
代替素材の検討ポイント
Q.PFASの代替素材を検討する際、どのような点が課題になるのでしょうか。
A.最大の課題は、PFASが有する複数の機能を代替材料で同時に再現することの難しさです。
PFASは、耐熱性、耐薬品性、撥水・撥油性、離型性、低摩擦性など、複数の優れた機能を1つの材料で同時に実現できる素材です。そのため、単純に別の材料へ置き換えるだけで、PFASと同等の性能を再現できる場合は多くありません。
Q.代替素材を選定する際、何から着手すれば良いでしょうか。
A.まずは、PFASの使用目的を明らかにし、優先順位をつけながら「本当に必要な機能」を整理することから着手しましょう。
最初に、PFASが担っている機能を洗い出し、その優先順位を整理することが重要です。例えば、ある用途では撥油性が重要と思われていても、実際には耐熱性や耐久性の方が求められていた、という場合もあります。PFASが担う機能を細分化し、必要性の高い機能から代替可能性を検討することが円滑な切り替えの鍵となります。さらに、性能面だけでなく、加工性やコスト、供給安定性、安全性、環境負荷なども総合的に検証する必要があります。
そのため、まずはPFASの使用目的を明らかにし、用途、要求性能、適用される法規制、環境目標を整理することから始めます。そのうえで、材料メーカーや加工メーカーと連携しながら製品コンセプトを作り上げていくことが、代替成功への近道になるのではないかと考えています。
<代替素材選定のステップ>
性能担保への対応
Q.さまざまな優れた機能を有し、代替は容易ではないと言われている「PFAS」。代替の取り組みをスムーズに実施するためのポイントはありますか。
A.「PFASと全く同じ性能を目指さない」という考え方がポイントです。必要な機能を見直し、製品設計や加工方法を工夫することで、PFASを使用しなくても用途に必要な性能を十分に実現できる場合もあります。
PFASは非常に高機能であり、そのすべての機能を1つの代替材料で再現することは容易ではありません。そのため、従来の設計思想のまま材料だけを置き換えようとすると、開発が行き詰まってしまうことがあります。
一方で、多くの実用用途では、必要な性能を見直したり、製品設計や加工方法を工夫したりすることで、PFASを使用しなくても十分な機能を実現できる場合があります。複数の材料を組み合わせる、表面処理技術を活用する、製品構造を最適化するといったアプローチが代表例です。
<PFAS代替の相談事例①:食品包装向け耐油コート材>
食品包装用途において、PFAS系耐油剤を使用した紙材料の代替に関するご相談をいただきました。検討を進めるなかで、従来は過剰な耐油性能が要求されていることを確認し、実際の使用環境に基づいて必要性能を再定義しました。そのうえでPFASフリー耐油コーティング技術を適用し、特に課題となる折り曲げ部を含めた実使用条件下で必要な耐油性能を確保しました。さらに、塗工条件や紙基材との組み合わせを最適化することで、実用性能を維持しながらPFASフリー化を実現した事例です。
<PFAS代替の相談事例②:塗料向け摺動改質剤>
塗料用途において、PFAS由来の摺動改質剤代替に関するご相談をいただきました。単純な材料置換では摺動性や耐摩耗性が不足する場合もありましたが、ポリオレフィン系微粒子の活用に加え、添加量や塗料との親和性を改良することで必要とされる性能を満たすことができました。さらに製品設計(微粒化)や表面状態を最適化することで、工程安定性を維持しながらPFAS使用量の削減、あるいはPFASフリー化に向けた検討を進めることができました。
また、PFAS代替は単なる材料置換ではなく、製品ライフサイクル全体を見据えた取り組みとして捉えることも重要です。環境負荷低減や将来的な規制リスクへの対応、サプライチェーンからの要請なども含めて総合的に判断することで、より持続可能なソリューションにつながると考えられます。
「100点の代替材料」を探すのではなく、「用途に最適な解決策」を見つけるという発想が、PFASフリー化を前に進める鍵となるでしょう。
PFASフリー化がもたらすビジネスメリット
事業継続リスクの回避とESG評価の向上
Q.PFASフリーの取り組みを進めることは、関連規制への対応以外に、企業にとってどのようなメリットがありますか。
A.PFASフリー化は、規制対応にとどまらず、安定供給の維持やブランド価値の向上、環境負荷の低減など、ビジネス・環境の両面で企業に大きなメリットをもたらします。
まず、ビジネス面では、将来的にPFASの使用や販売が制限された場合でも、製品の販売停止や急な設計変更を避けやすくなります。規制強化や社会的懸念の高まりを背景に、PFASを含む原材料・部材の供給が縮小・停止するリスクも意識されるようになっています。そのため、早い段階から切り替えを進めておくことは、安定した製品供給を続けるうえでも重要です。
また、食品包装やアパレル、化粧品、日用品など生活者に近い業界では、「PFASを使っていないこと」が企業や商品のブランドイメージに直結するようになっています。法規制の対象でなくても、生活者や小売企業、ブランドオーナーがPFASフリーを求める場合が増えており、先行して対応することで、ブランドイメージの維持・向上や競合優位性につながります。反対に、PFASの使用が後から明らかになった場合、ブランドイメージの低下や批判、場合によっては訴訟リスクにつながるおそれもあります。
環境面では、環境負荷の低減に寄与します。PFASは分解されにくく残留性の高い物質です。そのため、使用・排出を減らすことで、製造段階だけでなく、使用後の廃棄やリサイクルまで含めたライフサイクル全体で、環境中に残留しやすい物質の排出を抑えることができます。
これは、企業のサステナビリティへの取り組みとしても説明しやすく、生活者や投資家、取引先からの評価にもつながります。
さらに、PFASフリーであること自体が、環境配慮型製品としての差別化要因になります。従来と同等の性能を維持しながらPFASを使わない材料に切り替えることができれば「安心して使える」「将来の規制リスクが少ない」といった新たな価値を製品に付加できます。
<PFASフリー化のビジネス面・環境面のメリット>
つまりPFASフリー化は、単なる規制対応にとどまらず、事業継続リスクを下げ、ブランド価値を守り、環境負荷を減らしながら、製品の競争力を高める前向きな取り組みだといえます。
三井化学のPFASフリーソリューション
そこで、三井化学では、PFAS規制の強化や環境負荷低減への社会的要請を背景に、さまざまなPFASフリーソリューションの開発・提案を進めています。例えば、従来PFASが担ってきた離型性、防汚性、耐摩耗性、摺動性、耐薬品性などの機能に対し、ポリオレフィン系微粒子「ミペロン®」、耐熱熱可塑性樹脂「TPX®」や各種高機能ポリマー、耐油コーティング材料「ボンロン®」などを活用した代替提案を行っています。求められる性能は用途ごとに異なるため、お客様ごとの課題に応じて最適な材料や技術を組み合わせながら支援しています。
なお、実際にお客様からは、主に次のようなご相談が多く寄せられています。
<PFAS代替・対応に関するよくあるご質問とその回答>
Q.PFAS不使用の代替材料はありますか?
A.用途に応じたPFASフリー製品を幅広くラインナップしています。
・高機能ポリマー製品群(ハイゼックスミリオン®、ミペロン®、TPX®)
・食品包装向け耐油コート材(ボンロン®)
・オレフィン向け改質剤(イクスフォーラ®)
・高耐熱離型フィルム(Paltref™)
Q.現在使っているPFAS材料と「同等の性能」は得られますか?
A.PFASが有するすべての性能を一つの材料で再現することは困難ですが、使用環境や必要性能を整理し、設計・加工条件も含めた最適なソリューションをご提案します。
Q.国内外の最新のPFAS規制動向に対応できますか?
A.国内外のPFAS規制動向を踏まえ、将来的な制度変更リスクも考慮した材料選定や開発方針の検討をご支援します。
Q.製造工程を大きく変えずに代替品へ置き換えられますか?
A.現行工程との適合性を確認しながら評価を進め、設備改造や工程変更の負荷を抑えた代替案をご提案します。
Q.環境負荷や安全性に関する情報提供や、社内説明のサポートは受けられますか?
A.安全性・法規制・環境対応に関する各種情報をご提供し、お客様のサステナビリティ対応や社内説明をサポートいたします。
<PFAS代替材料・技術に関するお問い合わせ>
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/special/pfas/contact/
三井化学では、「世界を素(もと)から変えていく」というスローガンのもと、バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®」、リサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®」という取り組みを推進し、リジェネラティブ(再生的)な社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルや循環型社会への対応を検討している企業の担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。