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プラスチックを「一生もの」に。ナガオカケンメイが語る、経年変化の楽しみ方

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執筆:宇治田エリ 撮影:佐藤翔 編集:吉田真也(CINRA)

「モノ」を売る意識より、販売後の「コト」を考える。長く使ってもらう工夫

MOLp:D&DEPARTMENTでは、プラスチック製品も多く販売していますが、お客さまに届けるうえで、意識していることがあれば教えてください。

ナガオカ:やはり、ほかのものと同じくプラスチック製品も長く愛用してもらいたいという想いは一貫しています。ただ、プラスチック製品は、総じて安いですよね。ある程度の価格がついていない商品は、お客さまも大事に使おうとは思わない。

だから、プラスチック製品を気に入って長く使っていただくためには、「モノ」を売るための施策ではなく、お買い上げ後の「コト」を考えたアプローチが大切だと思っています。たとえば、SNSで友人に共有したくなるとか、シリアルナンバーが入っているとか。思わず人に伝えたくなるような特別感を演出する仕掛けが大事なのかなと。

今後はさらに「コト」を意識して、コミュニケーションが生まれる製品を届けたいです。そうしたものづくりや情報発信によって、「プラスチック愛」を浸透させていきたいですね。

D&DEPARTMENTにて。思わず目を引くプラスチック製品

MOLp:「プラスチック愛」って良いですね! そういう価値観が広まれば、プラスチック製品を大切する人も増えそうです。

ナガオカ:とはいえ、ひとつの商品だけでは、世間のプラスチックに対するいまの価値観を覆すのは難しいと思います。プラスチックの製品自体が「愛される」には、届ける側のぼくらが、プラスチックを愛し、良い製品を発信し続けることで共感者を増やしていくしかないですから。

たとえ、良い商品がひとつだけあったとしても、ほかの商品が微妙だったり、プラスチックへのこだわりが感じられないものだったりしたら、届ける側の「プラスチック愛」はお客さまに伝わりません。

ぼくらが「届けること」も「こだわること」もやめてしまった段階で、いくら良い製品だったとしても「衝動買いしたガラクタ」に成り下がり、結局は捨てられてしまうのかなと感じます。D&DEPARTMENTのコンセプト「ロングライフデザイン」に則って、流行に左右されることのない普遍的で優れたプラスチック製品をこれからも発信していきたいです。

ひび割れも「味」になる。長年、使用しているプラスチック製品への愛着

MOLp:ナガオカさんが思う、プラスチック製品とのお別れどきや買い替えどきは、どういったタイミングでしょうか。

ナガオカ:金属や木、ガラス、レザーなど他素材の製品と同じように「物理的に使えなくなったとき」ですね。個人的に長く使い続けているプラスチック製品のひとつに、大根おろし器があるんですけど、ところどころ割れていますが、まあそれも「味」かなと。ぼくら夫婦も「これ、いつ捨てるんだろう?」って思いながら、もう何年も使い続けています(笑)。

スライサーの部分がバキッと折れたら、さすがにお別れどきかなと思いますが、それでもまだ捨てるかどうかはわからないですね(笑)。多分、それこそ「愛着」なんでしょうけど。

書籍『LONG LIFE DESIGN 1』に掲載されている、ナガオカさんの大根おろし器

MOLp:壊れても捨てられないくらい、プラスチック製品に愛情をお持ちなんですね(笑)。

ナガオカ:お客さまにおすすめのプラスチック製品を販売する際も、長く使ってもらいたいんで、「売ってるんじゃないよ。貸しているんだよ!」って伝えたりしています(笑)。そのほうが大事にしていただけるかなと思って。

一方で、長く使い続ける「ロングライフデザイン」をモットーにしているD&DEPARTMENTとしては、プラスチック製品の捨てどきをどう提示するかも考えていきたいなと思っています。

プラスチックも修理しようと思えばできるかもしれませんし。そこまでして愛着を持ってもらえるものを提供できたり、長く使えたからまた新しいものもD&DEPARTMENTで買おうと思ってもらえたりしたら嬉しいですね。

「プラスチック愛」のある会社を集めて、連合会をつくりたい

MOLp:私たちMOLpは、三井化学内で有志のメンバーが集まり、素材の魅力を議論しています。われわれも、「もっと長く愛用されるような素材をつくれないか」と考えて、陶器と同じような質感を持たせたプラスチック「NAGORI」をつくったんです。それをぜひナガオカさんに見ていただきたくて。

2018年度グッドデザイン賞を受賞。「グッドデザイン・ベスト 100」にも選出された「NAGORI」

ナガオカ:あっ、これプラスチックなんだ。陶器みたいに重量感があるけど、たしかに突くと音がプラスチックですね。面白い。

MOLp:NAGORIは海水からつくっているんです。海水を淡水にする設備から出る濃縮水をそのまま廃棄すると、サンゴの死滅など環境に悪影響がある。それを有効活用して、新しいプラスチック素材を生み出そうと開発したんです。

ナガオカ:プラスチックは環境問題の原因として挙げられがちだけど、このプロダクトはむしろ環境を良くすると。商品化はしないんですか?

MOLp:発表後、いろんなお声がけをいただいていますので、早く世の中に出したいと思っています。ただ、通常のプラスチックより、どうしても価格が高くなるので、協業先にも価値をちゃんと理解していただく必要があります。

ナガオカ:面白い取り組みですし、これを加工・販売するところが現れたら良いですよね。さっきから思っていたことがあるんですけど、MOLpの皆さんも含めて、展覧会を機にぼくに話を聞きたいと声をかけてくれたプラスチックメーカーの方々で集まる会を開きたいです。

連合会をつくって、いままでにないプラスチックの製品づくりを模索したり、魅力を発信したりすれば、もっとプラスチックの新たな可能性が広がりそうですよね。

MOLp:じつは私たちも同じことを思っていて。今回の取材をナガオカさんにお願いしたのも、まずはお話をうかがって、プラスチック好き同士でつながりたかったという背景がありました。だから、そうおっしゃっていただけて嬉しいです。

ナガオカ:ぜひ何かやりましょうよ。プラスチックを研究する企業、つくる企業、生活者に販売する企業、発信する企業などが協力して、「プラスチックって、けっこう良いじゃん」っていう状態をつくりたいですね。それが実現すれば、「プラスチックも長く使うもの」という価値観を世の中に広めていけるかもしれないですね。

ナガオカさんと、今回お話をうかがったMOLpメンバーの記念写真。ナガオカさん、ありがとうございました!

PROFILE

ナガオカケンメイKENMEI NAGAOKA

デザイン活動家・D&DEPARTMENTディレクター。
すでに世の中に生まれたロングライフデザインから、これからのデザインの在り方を探る活動のベースとして、47の都道府県にデザインの道の駅「D&DEPARTMENT」をつくり、地域と対話し、「らしさ」の整理、提案、運用を行なっている。2009年より旅行文化誌『d design travel』を刊行。2012年より東京の渋谷ヒカリエ8/にて47都道府県の「らしさ」を常設展示する、日本初の地域デザインミュージアム「d47 MUSEUM」を発案、運営。2013年毎日デザイン賞受賞。
2019年よりロングライフデザインのマーケットをつくり手、売り手、使い手の垣根を越えて応援する会員誌『d LONG LIFE DESIGN』を刊行。2020年夏D&DEPARTMENT 初の宿泊機能を持つ拠点を韓国チェジュにオープン。
www.nagaokakenmei.com